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5 保護施設
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気づけば安いビジネスホテルの一室のような部屋に寝かされていた。
6畳くらいの部屋に壁に沿った机と椅子一脚と鏡張り。入口のドアへ続く道の横にドアがあり、たぶん風呂とトイレだと想像出来る。
シングルベッドの飾り気のないパキパキの上掛けを剥いで起き上がり、すりガラスの窓を見る。ほんのり明るく見えるから、日中なのかと思う。枕元のデジタル時計は10時を指していて、ぼんやりする頭をガシガシと掻いて考えるが、経緯が分からない。
着ている服はホテルのガウンで、足元にダンボールが置いてあり、口の開いたダンボールの中身が見慣れた物だと把握した瞬間、計画的に拉致されたのかという想像がついた。
足でダンボールの蓋を大きく開ければ、着古した部屋着や仕事用のスーツ数着と日用品がある。食べかけの食パンまで入っていてウンザリした。
紘伊はベッドに倒れ込み、白一色に蛍光灯一本の天井を見て思う。あの古いマンションにあった私物がダンボール1箱に収まる程度で、自分の今までの生き方の軽さのように思えて情けない。
ドアが外側からノックされる。
「白石さん、お仕事の時間ですよ」
聞き慣れない声だが白石と呼ばれ、自分の事かと思う程度だ。仕事? 塾講か? とりあえずダンボールから服を引きずり出す。身につけようとしてガウンの下に下着すら履いていない事を知り、恥ずかしさを覚えた。気を取り直し服を着て洗面所に行く。トイレとシャワーがあって湯船はない。その横に乾燥機付きの洗濯機がある。日常生活には困らない造りだがキッチンはなく、部屋の足元に冷蔵庫と机の上に瞬間湯沸かし器はあったと思い出し、カップラーメン的な物があればなんとかなるかと思いながら顔を洗う。アメニティも充実してしている。シェイバーもあったからとりあえずの身支度は完了した。部屋を出る時にスプレー式の消臭剤を見つけたから体にふった。というかシャワーした方が良かったのか? いったいどれくらい気を失っていたのだろうか。
ドアを警戒しながら開ける。外は普通のビジネスホテルの廊下と同じで、等間隔にドアが並んでいて、左の角にエレベーターらしき物が見えた。
「カードキー持って出るんだよ」
斜め向かいの部屋から男の子が出てきてそう言った。日本語だ。
「ああ、ありがとう」
ドアの左横にある差し込み口からキーを抜くと部屋の電気が消えた。カードキーをポケットに入れてドアを閉める。
「新人でしょ? 一緒に行く?」
「ああ」
そう答えながら、塾生と変わらない容貌の彼の後ろに着いて歩いた。
地下2階から10階の表示のあるエレベーターを待ち、下から上がって来る表示を見上げている。チンと響きのある音が聞こえて表示が5階で止まりドアが開く。
彼と一緒に乗り込んで、彼の指先が地下2階を押してドアを閉めるのを見ていた。
「どこから来たの?」
一緒に上部の表示を見上げながら、エレベーターの浮遊感にひゅっとなる。どこと聞かれてもどう答えれば? お互い日本語を話しているからきっと国は同じだろう。
「俺はさぁ、施設から逃げ出して捕まってここ」
ウンザリした表情で見上げられる。
「中学生くらい?」
「うん、中2」
やっぱり塾生と同じくらいだった。
「おじさんは?」
おじさんに少々傷つき、せんせーと呼ばれていたから気づかなかったが、彼らにもおじさんと見えていたのか。
「獣人カフェで拉致られまして」
情けない。だが彼も捕まったというのなら、ここはそういった人が保護される施設なのだろうか。刑務所のように仕事が与えられる? よく分からないが、彼が普通に生きているように見えるから、とりあえず身の危険はないのかもと安堵の息を吐いた。
6畳くらいの部屋に壁に沿った机と椅子一脚と鏡張り。入口のドアへ続く道の横にドアがあり、たぶん風呂とトイレだと想像出来る。
シングルベッドの飾り気のないパキパキの上掛けを剥いで起き上がり、すりガラスの窓を見る。ほんのり明るく見えるから、日中なのかと思う。枕元のデジタル時計は10時を指していて、ぼんやりする頭をガシガシと掻いて考えるが、経緯が分からない。
着ている服はホテルのガウンで、足元にダンボールが置いてあり、口の開いたダンボールの中身が見慣れた物だと把握した瞬間、計画的に拉致されたのかという想像がついた。
足でダンボールの蓋を大きく開ければ、着古した部屋着や仕事用のスーツ数着と日用品がある。食べかけの食パンまで入っていてウンザリした。
紘伊はベッドに倒れ込み、白一色に蛍光灯一本の天井を見て思う。あの古いマンションにあった私物がダンボール1箱に収まる程度で、自分の今までの生き方の軽さのように思えて情けない。
ドアが外側からノックされる。
「白石さん、お仕事の時間ですよ」
聞き慣れない声だが白石と呼ばれ、自分の事かと思う程度だ。仕事? 塾講か? とりあえずダンボールから服を引きずり出す。身につけようとしてガウンの下に下着すら履いていない事を知り、恥ずかしさを覚えた。気を取り直し服を着て洗面所に行く。トイレとシャワーがあって湯船はない。その横に乾燥機付きの洗濯機がある。日常生活には困らない造りだがキッチンはなく、部屋の足元に冷蔵庫と机の上に瞬間湯沸かし器はあったと思い出し、カップラーメン的な物があればなんとかなるかと思いながら顔を洗う。アメニティも充実してしている。シェイバーもあったからとりあえずの身支度は完了した。部屋を出る時にスプレー式の消臭剤を見つけたから体にふった。というかシャワーした方が良かったのか? いったいどれくらい気を失っていたのだろうか。
ドアを警戒しながら開ける。外は普通のビジネスホテルの廊下と同じで、等間隔にドアが並んでいて、左の角にエレベーターらしき物が見えた。
「カードキー持って出るんだよ」
斜め向かいの部屋から男の子が出てきてそう言った。日本語だ。
「ああ、ありがとう」
ドアの左横にある差し込み口からキーを抜くと部屋の電気が消えた。カードキーをポケットに入れてドアを閉める。
「新人でしょ? 一緒に行く?」
「ああ」
そう答えながら、塾生と変わらない容貌の彼の後ろに着いて歩いた。
地下2階から10階の表示のあるエレベーターを待ち、下から上がって来る表示を見上げている。チンと響きのある音が聞こえて表示が5階で止まりドアが開く。
彼と一緒に乗り込んで、彼の指先が地下2階を押してドアを閉めるのを見ていた。
「どこから来たの?」
一緒に上部の表示を見上げながら、エレベーターの浮遊感にひゅっとなる。どこと聞かれてもどう答えれば? お互い日本語を話しているからきっと国は同じだろう。
「俺はさぁ、施設から逃げ出して捕まってここ」
ウンザリした表情で見上げられる。
「中学生くらい?」
「うん、中2」
やっぱり塾生と同じくらいだった。
「おじさんは?」
おじさんに少々傷つき、せんせーと呼ばれていたから気づかなかったが、彼らにもおじさんと見えていたのか。
「獣人カフェで拉致られまして」
情けない。だが彼も捕まったというのなら、ここはそういった人が保護される施設なのだろうか。刑務所のように仕事が与えられる? よく分からないが、彼が普通に生きているように見えるから、とりあえず身の危険はないのかもと安堵の息を吐いた。
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