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4 拒絶

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 まるで取調室のような簡易な部屋に連れて行かれ、古い革のソファに座らされた。重みで埃が舞い、息を止める。

 目の前に白ウサギが座り、その背後に強そうな獣人がひとりと紘伊の背後にひとりが立っている。強そうな二人の獣人は黒いパーカーを着ていて目深にフードをかぶっているから、種族はわからない。まぁ観察するほどの余裕もないのだけど。

 白ウサギがタバコを吸っている。窓のない薄暗い部屋に紫炎が昇る。ふうっと吐き出される煙が紘伊の方へ向かって来て息を止める。

「うちの子を性の対象にしているってほんとうですか?」

 白ウサギの冷たい視線が紘伊を見ている。タバコを挟む白い指先の爪が綺麗な赤に染められている。

「いやぁ、それは」

 腕組みして見下ろして来る黒づくめの獣人の視線が怖い。強い光を帯びて見えるのは紘伊の後ろめたさのせいだろう。

「この店はお客様に安らぎを持ってもらう為と、店員が人慣れする為に開いています。あの子達が人に怯えるようになったら困ります。あなた、熱くなった股間を擦り付けたとか。身請けを申し出たのもほんとうですか?」

 背中に冷えた汗が流れる。
 この店のイメージはふわふわ暖かだったのに、一瞬で怖い印象に変わった。安いですよ~数千円ポッキリ遊び放題の店に行って、帰りに高額の請求を受けたぼったくり店と同じ感覚。だがこの場合は紘伊の落ち度だ。

「申し訳ない、つい気が緩んでしまい……」

「あなたの身元調査をさせて頂きました。ご家族や親類がいないのは本当ですか? 親しい友人も少ないとか」

 この数日の猶予は身元調査の為かと理解する。本来なら前回にこうなっていてもおかしくなかった。

「まぁそうですね、多額の賠償金を請求されても、肩代わりしてくれるような身内も友人もいませんよ」

 ふうっと吐き出された煙に笑いが混じる。

「白石さん、大丈夫ですよ? その身一つで許されますから」

 赤いリップがフィルターについている。化粧は嫌いだなぁと思いながら、意識が遠のいて行く。タバコの煙に何か仕込まれていたのだろうか。

 身包み剥がされて海に沈められる光景が浮かんでいる。映画かドラマのワンシーン。だが主人公の結末ではなく、紘伊はただのエキストラだ。海に沈められた紘伊の遺体を発見した誰かの新たなドラマが始まるのかも。紘伊は途切れて行く意識の中で嘲笑う。とことんついていない人生だったと思う。

 両親は紘伊が小さい頃にいなくなった。

 母は良家のお嬢様だったが、父と駆け落ちして勘当されている。父は遊び人で母の金が尽きると浮気をして蒸発した。紘伊は母の実家の援助を僅かながらに恵んでもらい、自力で勉強して大学講師の座を掴んだが、身分も財産も人脈もない紘伊が解雇を告げられたのは、別の誰かに負けたからだ。それと紘伊にそれほどの執着がないからともいえる。

 紘伊の現実逃避は獣人だ。
 別の世界を想像すれば紘伊はしがらみから解き放たれる。身を包む人社会のレッテルから逃れられる。

 獣人だけが紘伊を救う存在だったはず。なのにその夢からも拒絶されるのか。
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