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18.聖人の務め①
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体を休めろというジレーザの声に耳を傾けることなく、次々と舞い込む戦況報告に、いよいよ依斗は確信を持って、仮説現実になったことを実感している。
夜が明けて時刻は十時を過ぎた頃、暴徒化していた民衆の一部が、正気を失って倒れ始めた報告が入ってきた。
「やっぱり魔物を生み出す糧でしかなかったか」
「目的は魔力の吸い上げか」
「おそらくそうじゃないか? 暴走状態で極限まで高めた魔力を吸い出してる可能性は高いと思うぞ」
ジレーザの部屋でテーブルを挟んで地図を確認すると、魔物の最終目的地がバチェリア大聖堂を有する、このピアリスであるのは間違いないだろうと、依斗はそう結論付ける。
そして合流と融合を繰り返す侵攻の様子から見て、陽が落ちた頃には、最終形態に変貌した魔物がこちらに現れるのは明らかだ。
「リュミナスだ。入るぞ」
緊張感が漂う中、一日の真ん中である十五時を過ぎた頃、扉を開けて部屋にリュミナスが入ってくると、騎士団からの情報を共有して対策を練るために、前線での話を聞く。
「魔獣の融合は一瞬のことだ。ぶつかり合ってドロっと溶けたかと思うと、次の瞬間には一際デカい魔物がそこに姿を現す」
「やはり物理攻撃や魔法は効かないのですね」
「そうだな。少しの足止め程度しか効果はないな」
リュミナスの話によれば不幸中の幸いか、魔物と応戦を強いられている騎士団から暴徒化する者は現れず、今のところは正気を保って前線に立っていると言う。
部屋に運ばせた軽食をつまみながら、ジレーザとリュミナスが細かいやり取りをする中、依斗は迫り来る魔物をどこで迎え撃ち、どう仕留めるかイメージを出来るだけ細かく頭の中に描いていく。
これまでと違い、抜刀からの一太刀でそこまで強力な力を秘めた魔物を倒せるとは考えにくいが、出来ないからといって投げ出す訳にはいかない。
「まずは足から動きを止めるか?」
依斗はまた緊張から体が強張ってくるのを感じると、両手を組んでぐるぐると手首を回して、ブツブツと魔物と闘うシミュレーションを口にしながら体をほぐす。
出没した魔物が全て融合を果たした時、どんな形状でどれくらいの大きさになるのかは想像も出来ないが、リュミナスが持ち込んだ話を聞く限り、侮っていて対処出来る相手じゃない。
「ヨリト、お前顔が強張ってるぞ。そんな顔してたら魔物に逃げられるぞ」
緊張をほぐすためか、まさか不戦勝を狙ってるのかと、リュミナスは可笑しそうに肩を揺らしながら依斗の眉間を親指で押す。
今更だが、やはりリュミナスはこんなところまで秋成に似ている。
それを意識した途端、ふと郷愁に駆られて様々なことを思い出してしまい、依斗はそれを誤魔化すように苦笑すると、緊張しない方が変だとおどけて見せる。
「そりゃ緊張もしますよ。浄化を祓うために聖剣は使ってきましたけど、実践となると心許ないですからね。これまでみたいに、一太刀で薙ぎ払って勝てる相手じゃないでしょ」
「お前ならいけるだろ。余計な力を抜け」
リュミナスのその言葉は、依斗が初めて店に立つ日に秋成に掛けられた言葉と同じで、奇妙なほど安心感が募る。
「ヨリト?」
「あ、いえ。大丈夫です」
場の空気を取り繕うように、依斗は曖昧な笑みを浮かべてその後もリュミナスと会話を続けるが、ジレーザはその僅かな異変に気付いて探るような目を依斗に向けていた。
その後も騎士団から入れ替わり立ち替わり、魔獣が侵攻しながら姿を変えてピアリスに近付いてきているという情報が入ってくると、いよいよ日没した二十一時ごろになってジレーザが動いた。
「ヨリト様。禊を済ませてしまいましょう」
「こんな時にかよ」
「こんな時だからこそ、魔力を最大まで高めるのです。その後には祈りを捧げるお時間を頂戴いたします」
ジレーザの魔力を受け取らなければ、確かに聖剣に魔力を喰い尽くされてしまう。
リュミナスとその場で別れると、神殿に移動してから禊を済ませ、サーチェスに来た日のようにその足で応接用の部屋に移動して、ジレーザと横並びにソファーに座る。
「手から流しても問題ないんだが」
「でもチューの方が効率いいんだろ」
「釈然とせんが仕方ない」
夜が明けて時刻は十時を過ぎた頃、暴徒化していた民衆の一部が、正気を失って倒れ始めた報告が入ってきた。
「やっぱり魔物を生み出す糧でしかなかったか」
「目的は魔力の吸い上げか」
「おそらくそうじゃないか? 暴走状態で極限まで高めた魔力を吸い出してる可能性は高いと思うぞ」
ジレーザの部屋でテーブルを挟んで地図を確認すると、魔物の最終目的地がバチェリア大聖堂を有する、このピアリスであるのは間違いないだろうと、依斗はそう結論付ける。
そして合流と融合を繰り返す侵攻の様子から見て、陽が落ちた頃には、最終形態に変貌した魔物がこちらに現れるのは明らかだ。
「リュミナスだ。入るぞ」
緊張感が漂う中、一日の真ん中である十五時を過ぎた頃、扉を開けて部屋にリュミナスが入ってくると、騎士団からの情報を共有して対策を練るために、前線での話を聞く。
「魔獣の融合は一瞬のことだ。ぶつかり合ってドロっと溶けたかと思うと、次の瞬間には一際デカい魔物がそこに姿を現す」
「やはり物理攻撃や魔法は効かないのですね」
「そうだな。少しの足止め程度しか効果はないな」
リュミナスの話によれば不幸中の幸いか、魔物と応戦を強いられている騎士団から暴徒化する者は現れず、今のところは正気を保って前線に立っていると言う。
部屋に運ばせた軽食をつまみながら、ジレーザとリュミナスが細かいやり取りをする中、依斗は迫り来る魔物をどこで迎え撃ち、どう仕留めるかイメージを出来るだけ細かく頭の中に描いていく。
これまでと違い、抜刀からの一太刀でそこまで強力な力を秘めた魔物を倒せるとは考えにくいが、出来ないからといって投げ出す訳にはいかない。
「まずは足から動きを止めるか?」
依斗はまた緊張から体が強張ってくるのを感じると、両手を組んでぐるぐると手首を回して、ブツブツと魔物と闘うシミュレーションを口にしながら体をほぐす。
出没した魔物が全て融合を果たした時、どんな形状でどれくらいの大きさになるのかは想像も出来ないが、リュミナスが持ち込んだ話を聞く限り、侮っていて対処出来る相手じゃない。
「ヨリト、お前顔が強張ってるぞ。そんな顔してたら魔物に逃げられるぞ」
緊張をほぐすためか、まさか不戦勝を狙ってるのかと、リュミナスは可笑しそうに肩を揺らしながら依斗の眉間を親指で押す。
今更だが、やはりリュミナスはこんなところまで秋成に似ている。
それを意識した途端、ふと郷愁に駆られて様々なことを思い出してしまい、依斗はそれを誤魔化すように苦笑すると、緊張しない方が変だとおどけて見せる。
「そりゃ緊張もしますよ。浄化を祓うために聖剣は使ってきましたけど、実践となると心許ないですからね。これまでみたいに、一太刀で薙ぎ払って勝てる相手じゃないでしょ」
「お前ならいけるだろ。余計な力を抜け」
リュミナスのその言葉は、依斗が初めて店に立つ日に秋成に掛けられた言葉と同じで、奇妙なほど安心感が募る。
「ヨリト?」
「あ、いえ。大丈夫です」
場の空気を取り繕うように、依斗は曖昧な笑みを浮かべてその後もリュミナスと会話を続けるが、ジレーザはその僅かな異変に気付いて探るような目を依斗に向けていた。
その後も騎士団から入れ替わり立ち替わり、魔獣が侵攻しながら姿を変えてピアリスに近付いてきているという情報が入ってくると、いよいよ日没した二十一時ごろになってジレーザが動いた。
「ヨリト様。禊を済ませてしまいましょう」
「こんな時にかよ」
「こんな時だからこそ、魔力を最大まで高めるのです。その後には祈りを捧げるお時間を頂戴いたします」
ジレーザの魔力を受け取らなければ、確かに聖剣に魔力を喰い尽くされてしまう。
リュミナスとその場で別れると、神殿に移動してから禊を済ませ、サーチェスに来た日のようにその足で応接用の部屋に移動して、ジレーザと横並びにソファーに座る。
「手から流しても問題ないんだが」
「でもチューの方が効率いいんだろ」
「釈然とせんが仕方ない」
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