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17.魔物の侵攻②

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「俺の魔力回復を待ったとして、点在する魔物を順当に相手してても埒が明かないな。それじゃ無駄に魔力を失うだけで何日掛かるか分からない」
「そうだな」
「となると、聖人の力じゃなくて聖女の力が必要なんじゃないか」
「ああ。だからこそ魔力が回復次第、ヨリトには広範囲に及ぶ浄化を行なってもらう。そして結界の起点になっている種の根絶もだ」
「ちょっと待て、そもそも俺は聖女じゃないんだ。力を使おうにも、聖剣を媒介にしないと浄化の力が発動出来ないんだぞ」
「難しい話を持ち掛けているのは把握している。だがこれはヨリトにしか出来ないことだ」
 ジレーザはそう言うと、用意してあったイーリスの雫を差し出して、魔力の回復を急ぐようにと瓶の蓋を開けて目の前に差し出す。
 依斗はそれを飲みながら、サーチェス全土に及ぶ広域結界の破壊と、一斉浄化の方法について頭を悩ませる。
 例えば話に聞き及んでいる聖女であれば、その祈りひとつで浄化の作用が発動するが、依斗の場合は媒介となる〈ネグロシス〉を使わない限り浄化作用を生み出せない。
 そもそもこの劣悪な状況で、なぜ聖女ではなく聖人である依斗が救世主として召喚されたのか、神の悪戯としか思えない事態に怒りが込み上げる。
「なあ、ジレちゃんよ」
「なんだ」
「魔物が集約して一体になる可能性はないか」
「どう言うことだ」
「いや、聖女じゃなくて聖人の俺が召喚された意味を考えたんだけど、やっぱり聖剣を使ってしか浄化が出来ないのに、この状況は無理があるだろ」
「それはそうだが」
「聞き流してくれても良いんだけどさ、今の状態が一体の巨大な魔物を生み出す前段階だとは考えられないか」
「随分と事前の考察と掛け離れた話だな」
「でも現実的に、湧き出た魔物を順当に相手したところで、根源が分からないんだからまた湧いてくる可能性は否定出来ないよな」
「まあ確かにそれはそうだが」
「被害を大きくしろって話じゃないんだが、要は魔物が最終形態になってから、聖剣でぶっ叩くって言うなら聖人が召喚されたことにも納得がいかないか?」
「それはつまり、民衆の暴徒化も魔物のための糧ということか」
「まあ仮定だけどな」
 そうでなければ、依斗が聖人として召喚された辻褄が合わないと思いたいだけかも知れない。
 だが、現状を鑑みて情報を整理すると、当初予測していた暴徒化に加えて各所に現れた複数の魔獣は、依斗が対応できるとしても一箇所がせいぜいで、その上浄化の力をする度に魔力は枯渇する。
 その非効率な動きで、果たして一体どれほどの規模まで依斗一人が対処出来るだろうか。
「この考え、間違ってると思うか? ジレーザ」
「色々と想定が覆るからな、少し混乱している」
「そりゃまあそうだよな」
 禁書から読み解いた文面から民衆の暴徒化を予見してはいたが、それを糧として一体の巨大な魔物が生み出されるという認識は確かになかった。
 しかしやはり現実的に考えると、聖剣の力でしか浄化を行えない聖人には、この規模の一斉浄化を行う術がない。
「前線にいる騎士団には負担を掛けるけど、判断材料が欲しい。せめて朝まで猶予をくれないか」
「言い分は分かるが、人の命が掛かってることだからな」
 そう言ったきり、難しい顔をして黙り込んだジレーザを見つめていると、そんな二人の元に急報が持ち込まれた。
 依斗の立てた仮説が現実のものになったと。
 伝令の話によれば、各地に散らばっていた魔獣は騎士団と交戦しながら移動し、別地点の魔獣と合流するや否やその体が融合して、更に一回り大きな魔獣へと姿を変えたという。
「ヨリト」
「ああ。これで仮説が現実の可能性が高くなった」
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