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4.聖人始めます①
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聖人に関する禁書を紐解くべく、皇宮内にある禁書庫での閲覧許可が下りるまでの間、依斗はジレーザの部下であるハリスの元で魔力の講習を受けている。
聞けばハリスはまだ二十歳そこらの若者だが、神官としては評判が良く、魔術に長けた優秀な存在らしかった。
そしてハリスの説明によると、どうやら依斗が召喚され、日々の生活を過ごしているこの場所は、ピアリスと呼ばれるサーチェスの聖域にある、オーバル教の総本山であるという。
中でもバチェリア大聖堂は見事な造りの聖堂で、巡礼者を多く受け入れており、依斗はそこで朝から祈りを捧げると、身を清めるために朝から行水を済ませ、質素な食事を取ってから魔力についての講習を受ける。
「なあ、ハリス」
「なんでしょうか」
「ライズライトニング」
依斗は先読みした魔導書に書かれた魔法を唱えると、指を鉤形に折って稲妻を落とす。
「うわぁあ、急になにをなさるのですか!」
「いや、魔力についてはあらかた掴めたから、実践して魔法が使えるかどうか試したんだけど」
「ここは厳粛なるバチェリア大聖堂、つまりは神の御許なのですよ! 軽々しく攻撃魔法を扱って良い場所ではありません」
黒ずんだ床板を見つめて嘆くハリスに、さすがの依斗も申し訳ないと頭を下げると、分かってくれれば良いのだとハリスは苦笑する。
「リストア」
依斗が唱えて焦げた床板に向かって指を弾くように伸ばすと、床板は元の状態に戻っていく。
「これでチャラにしてくれ」
「ちゃら? というのがなんだか分かりかねますが、悔い改めて反省なさったということで宜しいですね」
「まあ、そういうことにしといて。床も直したし」
「反省なさってくださらないと困ります!」
「分かった、分かったよ。反省してるって」
ハリスは物事を教えるのが上手く、勉強が不得手ではない依斗から見ても、端的に順序立てて説明しているのがよく分かる。
「ヨリト様は、魔力の制御が苦手なようですね」
「ああ、出力のイメージが掴みにくくてなぁ」
「ハイデル様の鑑定では、魔力が測定不能であったと聞きました」
「ああ、なんか貴重な石が割れたって怒ってたな」
依斗が喉を鳴らして愉快そうに答えると、笑い事ではありませんとハリスが真面目な顔を赤くして頬を膨らませる。
三十路の依斗からしてみれば、二十歳そこらのハリスは、実際には居たことはないが、可愛らしくて弟や甥っ子のような感覚だ。
だからつい反応が見てみたくて、イタズラのようにけしかけて揶揄いたくなってしまうし、実際何度も揶揄って遊んでいる。
「良いですか、ヨリト様。魔力という物は、以前にもご説明しておりますが発声や歌唱と似ております」
「あれだろ? 囁くとか、大声を出す感じだっけ」
「そうです。耳元で囁くのに声量はさして必要ありません。そもそもヨリト様の魔力は膨大ですので、小鳥が囀るように、僅かな力でよいのです」
「そう言われても、魔力自体が掴みにくいから仕方ないだろ」
「そうなると魔力の流れの再認識が必要ですね」
ハリスは考え込むように手を顎に当てると、依斗から視線を外して天井を眺める。
魔力は体内を巡っていると説明を受けたが、そもそも元の世界では存在しない物であり、ファンタジーの世界でしかお目に掛かれない想像上の代物だ。
「その魔力の流れだけどさ、ジレーザにも言ったけど、いちいち呼吸した酸素の流れとか、心臓が送り出す血流を意識にしてるやつなんか居ないだろ。それと同じなんだよ」
「そう言われると、確かにそれに関しては意識したことがないですね」
「だろ? それを意識するって、血圧を測るみたいに計測器でもあれば別だけど、体感で捉えるのは至難の業なんだよな」
「屁理屈にも聞こえますけど、仰りたいことは理解出来ますよ。だからと言って、先ほどのように無闇に魔法を使ってはなりません」
聞けばハリスはまだ二十歳そこらの若者だが、神官としては評判が良く、魔術に長けた優秀な存在らしかった。
そしてハリスの説明によると、どうやら依斗が召喚され、日々の生活を過ごしているこの場所は、ピアリスと呼ばれるサーチェスの聖域にある、オーバル教の総本山であるという。
中でもバチェリア大聖堂は見事な造りの聖堂で、巡礼者を多く受け入れており、依斗はそこで朝から祈りを捧げると、身を清めるために朝から行水を済ませ、質素な食事を取ってから魔力についての講習を受ける。
「なあ、ハリス」
「なんでしょうか」
「ライズライトニング」
依斗は先読みした魔導書に書かれた魔法を唱えると、指を鉤形に折って稲妻を落とす。
「うわぁあ、急になにをなさるのですか!」
「いや、魔力についてはあらかた掴めたから、実践して魔法が使えるかどうか試したんだけど」
「ここは厳粛なるバチェリア大聖堂、つまりは神の御許なのですよ! 軽々しく攻撃魔法を扱って良い場所ではありません」
黒ずんだ床板を見つめて嘆くハリスに、さすがの依斗も申し訳ないと頭を下げると、分かってくれれば良いのだとハリスは苦笑する。
「リストア」
依斗が唱えて焦げた床板に向かって指を弾くように伸ばすと、床板は元の状態に戻っていく。
「これでチャラにしてくれ」
「ちゃら? というのがなんだか分かりかねますが、悔い改めて反省なさったということで宜しいですね」
「まあ、そういうことにしといて。床も直したし」
「反省なさってくださらないと困ります!」
「分かった、分かったよ。反省してるって」
ハリスは物事を教えるのが上手く、勉強が不得手ではない依斗から見ても、端的に順序立てて説明しているのがよく分かる。
「ヨリト様は、魔力の制御が苦手なようですね」
「ああ、出力のイメージが掴みにくくてなぁ」
「ハイデル様の鑑定では、魔力が測定不能であったと聞きました」
「ああ、なんか貴重な石が割れたって怒ってたな」
依斗が喉を鳴らして愉快そうに答えると、笑い事ではありませんとハリスが真面目な顔を赤くして頬を膨らませる。
三十路の依斗からしてみれば、二十歳そこらのハリスは、実際には居たことはないが、可愛らしくて弟や甥っ子のような感覚だ。
だからつい反応が見てみたくて、イタズラのようにけしかけて揶揄いたくなってしまうし、実際何度も揶揄って遊んでいる。
「良いですか、ヨリト様。魔力という物は、以前にもご説明しておりますが発声や歌唱と似ております」
「あれだろ? 囁くとか、大声を出す感じだっけ」
「そうです。耳元で囁くのに声量はさして必要ありません。そもそもヨリト様の魔力は膨大ですので、小鳥が囀るように、僅かな力でよいのです」
「そう言われても、魔力自体が掴みにくいから仕方ないだろ」
「そうなると魔力の流れの再認識が必要ですね」
ハリスは考え込むように手を顎に当てると、依斗から視線を外して天井を眺める。
魔力は体内を巡っていると説明を受けたが、そもそも元の世界では存在しない物であり、ファンタジーの世界でしかお目に掛かれない想像上の代物だ。
「その魔力の流れだけどさ、ジレーザにも言ったけど、いちいち呼吸した酸素の流れとか、心臓が送り出す血流を意識にしてるやつなんか居ないだろ。それと同じなんだよ」
「そう言われると、確かにそれに関しては意識したことがないですね」
「だろ? それを意識するって、血圧を測るみたいに計測器でもあれば別だけど、体感で捉えるのは至難の業なんだよな」
「屁理屈にも聞こえますけど、仰りたいことは理解出来ますよ。だからと言って、先ほどのように無闇に魔法を使ってはなりません」
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