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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第796話 第一印象はとても良かったみたい

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 王都の民の事情を身近に感じられるよう、ペピーノ姉ちゃんが営む託児所に通うことになったロコト君。
 王族の身分を隠して周りの子供達に接することや威張らず女の子や年少者には親切に接すること。
 母親のクコさんからそんなことを言い付けられてたけど、ロコト君は素直に頷いていたよ。
 と言うより、従来領地でしていたように自然に振る舞えば良いと告げられたのが嬉しかったみたい。
 やはり、子供ながらに生活環境が激変したことに戸惑っていたんだろうね。

 そんな訳で、早速その日の午後から、五、六歳児を預かっている部屋に仲間入りすることになったんだ。
 五、六歳児を担当する貴族のお姉さんに連れられて部屋に入ると。

「はーい、みんな、聞いてちょうだい。
 新しいお友達を紹介します。
 昨日、王都へ引っ越してきたロコト君です。
 みんな、仲良くしてくださいね。」

 打ち合わせ通り、担当のお姉さんは素性を明かさずにロコト君を紹介すると。

「母さんの仕事の都合で田舎から引っ越してきたロコトです。
 みんな、仲良くしてください。」

 ロコト君は控え目な態度で、簡単に自己紹介して軽く頭を下げたんだ。

 すると。

「キャ、ロコト君、かわいい。」

「ねえ、ロコト君、こっちに来て一緒に遊びましょう。」

「ロコト君、田舎って、何処から来たの?」

「お母さんの仕事って、なにしているの?」

 控え目な態度が好感を持たれた様子で、あっという間に女の子達に囲まれちゃったよ。

「ねえ、この部屋、どうして女の子ばかりなの?
 他の部屋には男の子も居たよね。」

 部屋の中には十人ほどの子供が居たんだけど、見事に女の子ばかりなの。
 不思議に思ってペピーノ姉ちゃんに尋ねたんだ。

「それね。私としては男の子にももっと来て欲しいと思っているのだけど…。
 このくらいの歳になると男の子は来たがらないのよ。」

 昼食まで付けて無償で預かるのだから、当初、ペピーノ姉ちゃんはもっと沢山の子供が来ることを期待したんだって。
 ところが実際に託児所を開いてみると、さほど子供は集まらなかったそうで。
 預かっている子供のお母さんから聴き取りしたり、王都の街中で聴き取りして、その原因を探ったそうなの。
 すると、一番の原因は王女であるペピーノ姉ちゃんが経営者であることだったらしい。
 王女が元離宮で始めたってことで、市井の人々には敷居が高かったらしい。

 タダで子供を預かってくれるし、タダでお昼も食べさせてくれる。そんなメリットより、子供が王女様に粗相をしたらと言うおそれの方が大きかったみたいなの。
 ここを開設して三年になるとのことだけど、初年度に子供を預けに来たのは背に腹は代えられないほど生活に困っているお母さんだけだったみたい。
 でも、そんなお母さんからこの託児所の良さが口コミで伝わって、二年目、三年目と次第に子供が増えてきたらしい。

 ただ、男の子の場合、五つ位からヤンチャな子供が増えて来て、ジッとしていられない子が多くなるんだって。
 それで我が子が施設を運営している王侯貴族のお姉さん方に粗相を働くことを虞て、五歳以上では男の子の預託が減るそうだよ。
 まあ、男の子が五歳くらいになると、世話をしなくても勝手に遊ぶようになるし。託児所で大人しく本を読んで過ごすより、ご近所のガキ大将コミュニティでヤンチャして遊ぶことを好むようになるみたい。
 もとより、市井の人々の間では朝夕二食の食習慣が普通だってこともあり、親御さんも特に託児所に預ける必要性を感じてないらしいよ。

 ペピーノ姉ちゃんは、王都の子供達の健やかな発育を考えると託児所で預かって、栄養価の高い昼食を取らせた方が良いと考えているから、そんな状況に歯がゆい思いをしているらしい。

         **********

 それからロコト君を囲んでの会話が一段落するの見計らい、ペピーノ姉ちゃんが子供達に向かって告げたんだ。

「みんな、午後はお庭で遊びましょう。
 このお姉さんがみんなに素敵なお友達を連れて来てくれましたよ。」

 このお姉さんってのはおいらの事で、素敵なお友達と言うのは…。

「わっ、ウサギさんだ! いっぱいいる!」

 一人の女の子がそんな声を上げると、それに釣られるように他の子達からも歓声が上がったよ。
 目の前に並ぶウサギを見て、子供達は大はしゃぎだった。
 そう、ペピーノ姉ちゃんから子供達をウサギに乗せてあげて欲しいと頼まれたの。

 ペピーノ姉ちゃんも一匹飼っているけど、如何せん預かっている子供が多いからウサギで遊ばせることは難しいって。
 おいら達全員がウサギに騎乗しているので、この機会に子供達をウサギで遊ばせたいそうなんだ。
 ウサギは全部で五匹、おいら、オラン、タルトにトルテ、そしてペピーノ姉ちゃんの飼いウサギだね。
 それに対してここに集めた子供達は最年少の部屋を除く四十人ほどだから、余裕で全員を乗せる時間はあるよ。
 さすがに一、二歳児は危なくて乗せられないもの。

 ところが乗りたい人は手を上げてと伝えたけど、誰も手を上げないんだ。
 子供達は皆が皆興味津々な顔をしているのに誰も手を上げることなく、ロコト君の顔色を窺っているの。
 まさかロコト君が王子の息子だとバレている訳じゃ無いだろうなと思っていると。

「ねえ、何で誰も手を上げないの? みんな、乗りたいんでしょう。」

 ロコト君が隣に立つ女の子に尋ねたんだ。

「えっ、ロコト君が最初じゃなくて良いの?
 面白い遊びは、いつも男の子が先に楽しんでいるよ。
 男の子より先に遊ぼうとすると意地悪されるし…。」

 女の子はロコト君の顔色を窺うようにそんな返事をしたんだ。
 どうやらロコト君が王族だから遠慮しているんじゃなく、男の子に遠慮しているみたい。
 街中じゃ、ガキ大将がご近所の子供達を仕切っていて、何事も男の子優先らしい。
 逆らうと虐められるんだって。

「へっ? 母さんはいつでも言ってるよ。
 どんなことでも女の子と小さな子供を優先しなさいって。
 僕に遠慮する必要無いから、どんどん手を上げれば良いと思う。」

「良いの?」

 ロコト君の言葉を聞いて、その女の子は顔色を窺うように確認してきたの。
 ロコト君が笑顔で「お先どうぞ。」と頷くと…。

「はい、私、乗りたい!」「あっ、私も!」「抜け駆けは無しだよ。じゃんけんで決めよう!」

 それまでロコト君の顔色を窺っていた女の子達が一斉に手を上げたんだ。

「ロコト君、優しいね。近所の男の子とは大違いだよ。」

「ホント、みんな、ロコト君みたいな男の子だったら良いのにね。」

 ロコト君の側に居た女の子からそんな会話が聞こえてきたよ。
 それからしばらく、代わる代わる子供達をウサギに乗せて広いお庭の中を走り回ったんだ。

 何人目かの子供を前に乗せて、お庭を周回して戻ってくると…。

「どうしたの? 君はウサギさんに乗りたくないの?」

 ロコト君が他の子供達から少し離れた場所でポツンと立っていた小さな女の子に話し掛けていたんだ。
 その子はロコト君の問い掛けに首を横に振ると。

「乗りたいけど…。少しこわい…。」

 どうやら乗りたいのは乗りたいけど、自分の背丈よりも大きなウサギに臆している様子だったの。

「大丈夫、ボクも乗せてもらったけど、全然怖くなかったよ。
 ほら、一緒に行こう。乗せてもらえるよう、お姉さんに頼んであげるよ。」

 臆している女の子に手を差し出すロコト君。

「お兄ちゃんも一緒に乗ってくれる?」

 女の子は一人で乗るのが不安なのか、ロコト君も一緒に乗ろうと誘っていたんだ。
 そもそも、おいら達が騎乗しているんだから不安に思う必要ないんだけどね。

「三人乗れるかどうか分からないけど、お姉さんに頼んでみるね。」

「うん!」

 ロコト君の返事に気を良くした女の子はニッコリと笑って差し出された手を握ってた。
 それからロコト君はおいらの所にやって来て、三人乗り可能か尋ねてきたの。
 それをおいらが快諾すると。
 ロコト君は小さな女の子を持ち上げて、おいらが騎乗するウサギに乗せてきたの。
 ロコト君に抱えられて嬉しかったのか、女の子をは大はしゃぎだったよ。

 女の子、ロコト君、おいらの順で前の人を抱きかかえるようにウサギに乗って、広い庭を一回りしたんだけど。
 ロコト君の前に乗った女の子は終始楽し気にはしゃいでいたの。

 そして、スタート地点に戻てくると、先に降りたロコト君は女の子を抱き留めるようにしてウサギから降ろしたんだ。
 女の子はロコト君の首に抱き付いたまま、「お兄ちゃん、ありがとう。大好き!」だって。

 その様子を遠巻きに眺めていたクコさん。

「あらあら、さすが、旦那様の子供ですわ。
 この調子なら将来モテモテですね。」

 そんな言葉を口にして笑っていたけど。

 実際、その日の午後だけで、ロコト君は託児所で預かっている女の子達の心を掴んだ様子だったよ。
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