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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第679話 そのお金の使い方、普通じゃないって…

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 公衆浴場開業初日、『STD四十八』の連中やペンネ姉ちゃん達が客寄せのデモンストレーションをするらしいのでロビーを覗いてみたの。
 ロビーの一画にはお馴染みアルトお手製の舞台が置かれてた。

 開業後まだ数時間だったけど、ロビーは風呂上がりに寛ぐ人が沢山居てまずまずの滑り出しに見えたよ。
 ロビーで寛ぐ人の顔色を窺いながらぶらついていると。

「マロン陛下、誘われたから来てみたよ。
 いやあ、初めて入ったけど風呂ってのは良いもんだね。
 永年溜まってた垢を落としたらスッキリしたよ。
 それに、係の娘さんが風呂の浸かり方を親切に教えてくたんで助かったよ。」

 その日の朝、広場で噴水を見ていた時に公衆浴場のことを宣伝したオバチャンが声を掛けてくれたよ。
 オバチャンは、イチゴ牛乳を片手にご機嫌な様子だった。
 オバチャンが言ってた『風呂の浸かり方』とは、開業後しばらくの間、ギルドにお風呂の使い方を説明する人を置くよう指示したの。
 この王都には入浴の習慣が無いからね、お風呂をキレイに使ってもらうためにルールを説明しておかないと。
 基本は辺境の街にあった公衆浴場のルールと同じにしたんだ。
 湯船に浸かる前に体を洗う、転倒防止のため浴室内では走らない、湯あたり防止のため過度な長湯はしないとか。
 それから、洗い場の蛇口の使い方も説明してもらっている。従来、存在しなかったものだからね。

 すると、一緒にいた別のオバチャン達が。

「それに、こうして寛げる場所があるのも気が利いてるね。
 このソファー、うちのよりずっと座り心地が良いわ。
 ここにのんびり腰掛けて飲むこのイチゴ牛乳が最高よ。」

「そうそう、お風呂に入って、のんびり寛いで…。
 これでタダなんて最高ね。
 使ったお金はイチゴ牛乳の銅貨十枚だけだものね。
 マロン陛下、本当に良いモノ造ってくださったわ。」

 そんなこと言ってたよ。施設を満喫しているね。

      **********

 そんな感じで、寛ぐオバチャン達の感想を聞いていると…。

「はーい! 皆さん。 本日はようこそお越しくださいました。
 これから、本日夕刻より催されるショーを少しだけお見せします。
 お時間のある方は、見て行って下さいね。」

 『きゃんぎゃる』の服装をしたシフォン姉ちゃんが舞台の上に現れて、ホールの人々に呼び掛けたの。

「何だい、あのふしだらな格好は。
 へそとパンツが丸出しじゃないかい。
 最近の若い娘は慎みってモノが無いのかね。」

 シフォン姉ちゃんの姿を見て、意外と真っ当な言葉を吐くオバチャン。

「自分じゃ、もうあんな格好できないからって。
 何、嫉妬しているんだい。
 あんただって若い頃は相当だったじゃないかい。
 男をとっかえひっかえ。
 あんたの若い頃の行状は知ってるよ。昔馴染みなんだからね。」

「あんた、マロン陛下の前で何てことをバラしてくれるんだい。
 恥ずかしい…。」

 真っ当だと思ったのは、勘違いらしい…。

 それはともかく、シフォン姉ちゃんの言葉に続いて舞台に現れたのは耳長族のお姉さん達。
 お姉さん達の楽器が、静かな音色を奏で始めるとロービーの人々の視線が舞台に集まったよ。

「何だい、あの娘さん達は驚くほどのベッピンさん揃いじゃないかい。
 でも、何か違和感が…。あっ、耳が長いんだね。」

 オバチャン、耳長族を見るのは初めてみたいだね。
 タロウの家にお針子として三人滞在しているし、シフォン姉ちゃんの店も手伝っているんだけど。
 誘拐防止のため、普段は帽子とか、長い髪で耳を隠しているから気付かなかったのかな。
 シフォン姉ちゃんのお店に行ったことが無いのかも知れないね。

「あの人達は、アルトの森で保護している『耳長族』のお姉さん達だよ。
 トアール国の辺境にあるアルトの森から招いたんだよ。
 耳長族は歌舞音曲に優れた部族なんで、ここで演奏をしてもらうの。」

「おや、そうなのかい。
 確かに、楽器が上手だね。音色が耳に心地よいや。」

 オバチャンはうっとりと演奏に聞き入っていたよ。

 そして、最初の静かな曲が終わると、一転曲調がアップテンポなものに変わり。
 同時に舞台の両袖から『STD四十八』の連中が二手に分かれて現れたんだ。
 アップテンポな曲に合わせて、ひとしきり軽やかな剣舞を舞うと。

「ボク達、トアール国からやって来た舞踊集団、『STD四十八』です。
 この公衆浴場のこけら落としで、今日から二十日間剣舞を始め歌や踊りを披露します。
 皆さん、是非、見に来てくださいね。」

 元札付きの不良少年とは思えない爽やかな笑顔で、リーダー『花菱責めのサブ』が挨拶したんだ。

「「「「キャー!」」」」

 するロビーにいた年頃の娘さん達から黄色い声が上がったよ。
 連中、見た目だけなら全員イケメンだものね。…性根は大分腐っているけど。

「ほう、今度はイケメンのお兄ちゃん達だね…。
 でも、どこか胡散臭い感じがするわね。
 アレって、大分女を泣かせてきたんじゃないの。
 無節操にタネを蒔き散らしてそうな気がするわ。」

 流石、年の功。オバチャン、連中の本性を見抜いているね。
 
「あら、いいじゃない。可愛くて。
 あの子達に迫られたなら、貢いじゃいそうだわ。」

 でも、お仲間のオバチャンの中には連中の毒牙にかかりそうな人も居たよ。

 そして、挨拶が済んだSTD四十八が舞台の袖に引っ込むと。
 耳長族のお姉さんによるアップテンポな曲の演奏が再び始まり。
 今度は若い娘さん五人組が突然舞台の上に現れたの。
 アルトの『積載庫』から直接舞台の上に出されたんだ。

 そして、アップテンポな演奏に合わせて踊りながら、軽めの歌詞の歌を披露する五人。

「司会の娘も慎みの無い格好をしてるけど…。
 こっちの娘達はまた輪をかけて酷い服装だね。
 あんな短いスカートじゃ、履いてる意味ないじゃないかい。
 パンツ丸出しだよ、ヘソだって隠してないし…。
 アレって、娼婦の一団かい?」

 五人の過激なステージ衣装を目にして、オバチャンはそんな感想を呟いていたけど…。

「こんにちは~! トアール国から来ました。
 ハテノ男爵領騎士団、花小隊のペンネで~す! 
 公衆浴場の開業おめでとうございます!
 今日から、二十日間、お祝いのために頑張って歌っちゃいま~す!
 是非、コンサートを聞きに来てくださいね~!」

 元気よく自己紹介するペンネ姉ちゃんに…。

「年のせいで耳が悪くなったのかね…。
 騎士団の小隊って聞こえたんだけど、聞き間違いだよね。
 あんなふしだらな格好をした騎士様だなんて居るわきゃないものね。」

 オバチャン、耳を疑っているようだったよ。

「あのグループ、正真正銘の騎士だよ。
 しかも、挨拶をしたペンネ姉ちゃん、子爵だもの。
 他四人も全員、トアール国の貴族家当主だよ。」

 花小隊は全員、ワイバーン討伐の功績で叙爵したからね。

「あれが貴族の当主…。」

 おいらの説明が余りに予想外だったのか、オバチャンは言葉を失っていたよ。

        **********

 メンバーの紹介が終わって、花小隊の五人が舞台の袖に引っ込むと。

「そして、今、素敵な演奏を披露してくれたのが。
 幻の民と言われている『森の民』の皆さんです。
 この『森の妖精楽団』は当施設の専属楽師として活動します。
 先ずは今日の夕刻から二十日間。
 STD四十八、花小隊とのジョイントコンサートを行います。」

 シフォン姉ちゃんは耳長族のお姉さん達の紹介をしたんだ。
 『森の妖精楽団』ってのは、ここで活動するに当たって付けたユニットの名前ね。

 そして、シフォン姉ちゃんが観客の呼び込みをしたんだけど…。

「会場は二階の大広間、入場料は一公演銀貨二十枚となっています。
 今回はオープン記念と言うことで来場の皆さんには素敵なプレゼントを用意しています。
 五日連続観覧のお客様には、お気に入りの出演者との握手を。
 十日連続観覧のお客様には、お気に入りの出演者がハグを。
 十五日連続観覧のお客様には、お気に入りの出演者からほっぺにチュウーを。
 そしてなんと、二十日連続観覧のお客様には、お気に入りの出演者との一日デートをプレゼントしちゃいます!
 しかも、デートはマロン陛下のご厚意で、王室専用船での一日クルーズです。
 イケメンサブ君や可愛いペンネちゃんとデートをしたい方、いませんか?
 二階の大広間は二百五十席限定となっていますので、お早めにお申し込みください。」

 王室専用船での海上デートと聞いて、ロビーに大歓声が上がったよ。 
 因みに、二十日連続でチケットを買うと銀貨四百枚。
 これって若い人の給金じゃ、二ヶ月分以上なんだ。

 おいら、タロウからプランを聞いた時に言ったよ。
 いかな王室専用船を出すと言っても、二十日連続で見に来る物好きはいないだろうと
 すると…。

「マロン、甘いぞ。
 俺の故郷じゃ、『し活』ってのがあってな。
 贔屓のアイドルやホストへ、無限に金を貢ぐ奴が少なからず居たんだ。
 稼ぎの殆どを貢いじまって、ロクな物を食って無いとか。
 中には、借金で首が回らなくなる奴とかな…。」

 タロウったら、自信たっぷりに言い放ったんだ。
 いや、それじゃあ身を滅ぼすって…。

 そしたら、タロウは言ってたよ。
「大丈夫だって。トレント狩れば金なんて何とかなるぜ。」って。
 お金に困った人を、みんな冒険者にするつもりなのかな…。

 タロウの言葉が正しいかどうかはともかくとして。
 シフォン姉ちゃんの案内に続き、二階へ上がる階段横に置かれたカウンターで。

「これより、本日の公演のチケットを販売します。
 チケットは全席指定、限定二百五十席となっています。
 お買い上げの方は、こちらに一列にお並びください。」

 ギルドの職員がそう叫ぶと、カウンターの前にお客さんが殺到したよ。
 タロウはこれを見越して、ロープを使って迷路のような通路を作っていたんだ。
 数名のギルド職員が、ロープで仕切られた通路に手際よく並ばせてた。
 タロウの故郷で良く利用される、沢山のお客さんを効率的に一列に並ばせる仕組みらしいよ。

「最近の若いもんは、呆れたもんだよ。
 銀貨二十枚もする公演にあんなに群がるなんて…。
 イケメンやら、パンツ丸出し娘がそんなに良いのかね。」

 チケットを買いに群がる人達を見て、オバチャンは呆れてた。
 でもね、オバチャン、気付いてる? お仲間が一人チケットを買いに走ったのを。
 
 
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