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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第556話 この見習い達、どうしたものか…

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 ヌル王国の本国へ乗り込む前に、途中にあるノノウ島と呼ばれる島に立ち寄ったの。
 そこは、ノノウ伯爵お抱えの暗殺集団、工作メイドを養成している島なんだ。
 早朝に島に着くと、アルトはまだ就寝中の見習いメイド達を全員『積載庫』に保護したの。

 そして、館の裏に広がる広大な森の中で修了試験中の見習いメイド五人も保護し終えると。
 アルトは島のほぼ中央部にある低い山の頂付近で小休止したの。
 そこで、おいらはアルトと共に保護した見習いメイド達と対面したんだ。
 ジャスミン姉ちゃんとメイドのウレシノにも付き合ってもらったよ。

 先ずは、二人部屋にいた、見習いの中では年少組の娘達。
 全員が一つの広い空間に集められていたよ。
 就寝中の娘達をベッドごと『積載庫』に収めたものだから、目を覚ました娘達は見知らぬ空間に戸惑ってる様子だったの。

「みんな、驚かせちゃってゴメンね。
 おいらはマロン、遠い国で女王をしているの。
 このノノウ島は今日限りで閉鎖されるから。
 みんなは自由の身になるの。
 親元に帰るのなら送っていくよ。」

 細かい説明は抜きにして、この施設が今日で閉鎖されることを告げたよ。
 拉致されてきた娘さんもいるみたいだから、親御さんの許へ帰れれば喜ぶと思ったんだけど。

「えっ、ここから出て行かないといけないの?
 それ、困る。
 私、これからどうやって生きていけば良いの…。」

「私、親なんて見たこと無いし…。
 親元に帰すと言われても。」

「あんな家、帰りたくない!
 ゴハンもまともに食べられないんだもの。」

 意外なことに、うちに帰りたいという声は聞こえなかったよ。

「ねえ、ここから追い出されると困るって。
 お父さんやお母さんの所へ戻りたいと思わないの?」

 試しに、一番最初に困ると呟いた娘さんに尋ねてみたの。
 おいらと同じくらいの年頃の娘さんだったよ。

「私、小さい頃、街角に捨てられたんだ。
 お腹を空かせていたら、ここに拾ってもらったの。
 ここを追い出されたら、また残飯漁りの生活に戻っちゃう。」

 どうやら孤児だったようで、ここに拾われたことを感謝している様子だったよ。
 すると、今度は…。

「あたいなんか、はした金でここに売られて来たんだ。
 あの飲んだくれの親父のところに帰ったら、これ幸いとまた売られちまうよ。
 あの頃に比べて大分育っちまったから、きっと今度は娼館だぜ。」

 おいらより少しだけ年上に見える娘さんが、そう言って嘆いていたの。
 世の中には平気で娘を売り払う親が居るんだね。
 おいら、父ちゃんに拾われて本当に幸運だったんだ。
 血が繋がっていない娘を大事に育ててくれたんだもの。

 おいら、今度はなるべく小さな子供に尋ねてみたよ。
 多分、五、六歳かな。

「ねえ、パパやママのところへ帰りたいでしょう?
 お姉ちゃんが、送って行ってあげるね。」

「パパ、いない。ママ、きらい。
 よるになると、おそとにでてないさいって。
 しらないおじさんがきて、じゃまだからって。」

「????」

 どういう事?
 知らないおじさんが夜に訪ねて来て、邪魔だと言われる?
 何でだろう、こんな小さな娘さんを夜間外に出しておくなんて信じられないよ。
 とにかく、この子が親に虐待されていて、親元に帰りたくないというのは分かった。

       **********

 予想外の返答が多くておいらが困っていると。

「ああ、最近はあからさまな誘拐は少ないのです。
 両親や親族に騒がれると厄介ですから。
 大きな町では、この子のように親から疎まれている子供が結構居るのです。
 そんな子を狙って誘拐してくるものですから…。」

 ウレシノが事情を説明してくれたよ。
 親から疎まれている子供や虐待されている子供は誘拐しても騒動になること無いから都合が良いんだって。
 誘拐して来た子供の方も、満足な食事や部屋を与えると従順になるのでメイドとして養成し易いそうだよ。

「それじゃ、ここに居る子供達は全員、おいらが引き取る。
 引き続きメイドの見習いをしてもらうよ。
 暗殺術とか物騒なものは抜きで、普通のメイドとしてね。」

「それが良いですね。
 私と一緒に採用して頂いたヤメが、この子達と同じ境遇なので。
 彼女に、指導してもらえば良いでしょう。
 いっそ他の三人も、指導役に充ててしまえば良いのでは。
 私はオラン様の専属と決まっていますから、パスと言うことで。」

 ウレシノはオランの側仕えは絶対に譲らないって感じで。
 ライバルを蹴落とすためか、他の四人をこの子達の指導役に就けることを勧めて来たよ。

「私達をマロン様が引き取って下さるのですか?
 路頭に迷わないで済むのなら助かります。」

「おっ、あのロクでなし親父の許へ帰されなくてラッキーだぜ。
 場末の酒場の酌婦なんて真っ平だからな。」

「こんどはおねえちゃんちにいくの?
 おねえちゃんがごはんたべさせてくれるの?」

 おいらの言葉を聞いて、見習い達の表情が明るくなったよ。

「良いんじゃない。
 そしたら、この子達の養育費もヌル王国から頂いて行きましょう。」

 成り行きを見守っていたアルトがそんな事を言ってた。
 アルトは、こっそり呟いていたよ。「いっそのこと王宮の金銀財宝を根こそぎ貰っていこうか」って。
 
 次に訪れたのは、個室の部屋に居た年長のお姉さん達と修了試験中だった五人のお姉さん。
 アルトは年長組を一つの部屋に集めてあったけど、そのうち六人は何故かシーツを体に巻き付けていたんだ。

 年少組の時と同じように、ここが閉鎖されることを伝えると。

「助かったー!
 このままだと、敵国に爆薬を抱えて突入させられるところでした。
 まだ、十七年しか生きていないのにあんまりだと思ってたのです。」

 まずは、森の中で崖から落ちて怪我をしていたお姉さんが歓喜の声を上げたよ。

 でも…。

「チッ、私ゃ、修了試験が終われば正式なメイドになれたんだ。
 貴族の家にでも潜入させてもらって、当主を誑し込もうと思ってたのに。
 余計な事をしてくれたもんだぜ。」

 修了試験中に森の中で捕まえた見習いメイドは凄く不機嫌だったよ。
 この見習いは、反国王派の貴族の家に潜入することを希望していたらしい。
 ここで学んだ房中術を駆使して当主を篭絡し、国王派に寝返えさせるんだって。
 そうすれば任務の完遂に対して、ノノウ伯爵から多額の褒賞をもらえるのは勿論だけど。
 本人は当主の愛人に収まることで、一生遊んで暮らしたいなんて野望を抱いていたようだよ。

 こういうのなんて言ったけ、捕らぬ狸の皮算用?

 すると、ウレシノがその見習いに向かって尋ねたの。

「うん? そうしたいなら、すれば良いんじゃない?
 貴族の愛人に収まりたいのならば。
 別にノノウ伯爵の手下じゃなくても出来るんだし。
 マロン様、大きな国の女王様よ。
 お仕えする貴族の家を紹介してもらえば?」

 おいらに女好きの貴族を紹介して貰えなんて言ってたよ。
 そんな貴族、知らないって…。まあ、宰相あたりに指示すれば何とかなるかな…。 

「そっか、どの道、この島が閉鎖されるのなら。
 不平を言ってるより、仕える先を変えりゃいいんだな。
 なあ、女王さん、どこか良い出仕先を紹介してくれよ。
 出来れば、若くてイケメンの当主が良いな。」

 ウレシノにそそのかされて、あっさりと手のひらを返したよ。
 ノノウ伯爵家に対する忠誠心は欠片も無いみたい。

「あのう…。
 出来れば私も、ウレシノお嬢様みたいに女王陛下にお仕えできませんか。
 自爆攻撃に使われないのは嬉しいのですが。
 この島が無くなると食べて行く当てが無いのです。
 私も孤児なので、紹介状をもらう伝手もありませんし…。」

 蚊の鳴くような声で控え目に願い出たのは、崖の下で保護した見習いさんだったよ。
 身寄りも無いので、何処かに放り出されても困るって。

 その願いを聞き届けても良いかなと、その時、おいらは考えていたの。
 側仕えを最小限に留めているから身寄りのない娘達を召し抱えても良いかなと。

 すると、ウレシノが耳元に顔を寄せて来て耳元で囁いたの。

「マロン様、いっそ、見習いも含めてノノウ一族を丸抱えしちゃいましょう。
 殺しはともかくとして、情報収集に長けた人材を抱えておくと何かと重宝しますよ。」

 ノノウ一族のノウハウごと貰っちゃおうって、今度はおいらを唆すんだ。
 本家筋の人は、王家に対する忠誠心が強いので難しいかも知れないけど。
 ウレシノみたいな分家の人間は冷遇されているんで、案外簡単になびくかも知れないって。

 確かに、サヤマとか、メイド長のウジに対して不満たらたらだったものね。
 ウレシノも簡単に転んだし…。
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