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第十五章 ウサギに乗った女王様

第370話 雇った人達の行き先は…

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 おいら達は雇い入れた二十人をぞろぞろと引き連れて王都の広場に戻ったの。
 そこにはいつもと違いたくさんの幌馬車が停められていたんだ。

 その周りには、沢山の男達が集まってた。
 男達の間を、トシゾー団長を始めとして騎士団の面々がせわしく動き回っていたよ。
 集まった男達は一様にガラが悪く、おいらが連れて来た二十人と似たような雰囲気だったの。

「もうそろそろ出立せんと、陽が暮れる前に隣り町まで着かんな。
 おい、集まっている者達の中で、手続きが済んだ者からを幌馬車に乗せるのだ。
 予定数には到底及ばないが、不足分は明日以降多めに送ることで勘弁してもらおう。」

 トシゾー団長が命じると、配下の騎士達は手際よく集まった男達を幌馬車に誘導し始めたよ。
 おいらは、慌ただしそうにしているトシゾー団長に近寄ると。

「トシゾー団長、どう? 人は集まったかな?」

「はあ、十日以上前から募集していたのですが…。
 あまり芳しくありません。
 開発局は、第一陣で百人の募集をかけておりました。
 ですが、まだ、七十名ほどしか採用できていません。
 そろそろ、出発しないといけませんので、締め切るつもりなのですが…。」

 おいらの問い掛けに浮かない顔で答えるトシゾー団長。
 人手の募集をしたのは王宮の開発局で、騎士団は集まった人を現場に送る作業を請け負っているだけ。
 なので、人が集まらないのはトシゾー団長が悪い訳ではないんだ。
 とは言え、そこは根が真面目なトシゾー団長の事、少々責任を感じているみたい。

「ちょうど良かったよ。
 この二十人を雇い入れたので連れて行って。
 これで、九十人を超えるでしょう。
 定員割れ十人以内なら上出来だよ。」

「陛下、助かりました。
 九十人いれば、開発局に面目が立ちます。」

 おいらが、連れて来た人達を見てトシゾー団長が喜んでいたよ。
 そう、今幌馬車に乗せている人達は、辺境の街道整備のために雇い入れた人なんだ。
 やっと、着工の準備が出来て、今回が最初の現場作業員募集なの。

 現場作業員を雇い入れるのは開発部なんだけど。
 辺境までの護衛と途中で作業員が逃亡しないように監視を兼ねて騎士団が五十人ほど同行するの。
 その関係で、王都の作業員募集の受付手続きも騎士団が代行したんだ。

「じゃあ、みんなもこれに署名したら、騎士の指示に従って幌馬車に乗ってちょうだい。」

 おいらは、『街道整備工事作業員雇用契約書』と銘打った紙を差し出して署名するように指示したの。

「へっ? このいっぱい停まっている幌馬車に乗るんですかい?
 俺達、いったい何処に連れて行かれるんで?」

「今更なんだけど、俺達、どんな仕事をするんですかい?」

 ホント、今更だよ…。
 こいつ等ってホント迂闊、何で最初にそれを聞かないかな? 一番大切な事なのに。

「みんなが行くのは、この国とトアール国の国境地帯だよ。
 それも主要街道が通ってる中央部じゃなくて、西部辺境の。
 みんなには、そこから王都までの街道の整備作業をしてもらうよ。
 三年で完成を予定しているから、三年間は仕事の心配をしなくて良いね。」

 契約は一年になっているけど、サボらずに働けば工事終了まで更新できると教えて上げたよ。
 それと、十年掛りで国中の街道を整備する予定なので、その気になれば十年間働き続けることが出来るともね。

「ちょっと待っておくんなせえ。
 それって土木仕事ですよね、無茶苦茶重労働じゃねえっすか。
 そんなの聞いてねえっす。」

「それより、西部辺境って、街があるんですかい。
 俺達の寝床って、いったいどうなってるんすか。」

 ここで初めて仕事の内容と勤務場所を知り、みんな焦っていたよ。
 だから、迂闊なんだって…、給金だけ聞いて飛びついて来るんだもん。

「聞いてないも何も、どんな仕事か聞かなかったじゃない。
 給金に加えて食事・寝床支給って言っただけで働くって言ってたよ。
 それに、魔物狩りみたいな危ない仕事じゃないでしょう。
 途中険しい山や谷がある訳でもあるまいし。」

 不満気な男達においらがそう答えると…。

「宿舎はちゃんと用意したぞ。
 屋根もあるし、隙間風が入ることも無いから安心して良いぞ。
 一日の疲れが取れるように上等なベッドも用意したと聞いてる。
 もちろん、力が出るように食事も腹いっぱい食って良いぞ。
 これだけ、良い条件を揃えたんだ、よもや嫌とは言うまいな。」

 おいらの言葉に続き、トシゾー団長が連中の問いに答えたんだ。
 雇用を辞退したら赦さんぞと恫喝するするように、凄みの聞いた口調でね。
 その時のトシゾー団長ったら、逆らったらられそうな鋭い眼光をしてたよ。
 この二十人を逃したら大幅な定員割れだものね、絶対に逃さないつもりみたい。

「ひっ…、勿論です。
 騎士様に逆らうなんて事は致しません。
 喜んで働かせて頂きます。
 なあ、みんな。」

「おっ、おう…、俺たちゃ、良い仕事にあり付けて運が良いぜ。」

 みんな顔を引き攣らせて頷くと、渋々雇用契約書にサインしてたよ。

「みんな頑張って、立派な街道を造ってね。
 ここから、辺境まで幌馬車で一月以上かかるけど。
 今日の分からちゃんと給金は計算されるから安心してね。
 最初の一月は移動だけで、給金が貰えてお得だね。」

 移動の間は働かなくても給金が出ると伝えれば喜ぶかと思ったけど、…。
 辺境へ行くのがそんなに嫌なのか、はたまた土木作業が嫌なのか、みんなどんよりした顔のままだったよ。
 
        **********
 
 トシゾー団長、依頼を受けた土木部に顔向けができたとホッとした表情で幌馬車隊を送り出していたよ。

「トシゾー団長、作業員の募集手続きお疲れさまでした。
 所期の目的通りに動いてくれたかな。」

 無事に第一陣を送り出して安堵した様子のトシゾー団長を労いながら尋ねると。

「はい、街をこまめに巡回して、路地裏でたむろっている若者や冒険者崩れを探して。
 『』な勧誘に努めました。
 陛下の指示通り、放置すると犯罪者予備軍になるような者を可能な限り『』しました。」

「それは良かった。
 しょうもない人が暇を持て余すとろくなことをしないからね。
 まあ一年間も、毎日仕事を与えて規則正しい生活をしてもらえば。
 少しは真人間になるだろうしね。」

 そう、勿論、良い給金を求めて自分から応募してくれる人は大歓迎だけど。
 おいらが注目したのは、冒険者予備軍とも言える仕事もせずにフラフラしている若いニイチャン達。
 集団で行動して、他のグループと喧嘩したり、若い娘さん強引に誘ったりとか…。
 ホント、暇にあかせてしょうもない事ばかりしているんだ。

 それと、おいらが連れて来た連中みたいに、登録冒険者になれなかった冒険者崩れ。
 微罪を犯した連中に一月の更生教育の終了後、登録冒険者になることを勧めるんだけど。
 おいらが連れてきた連中同様に、冒険者を止めちゃう者が頻出したの。
 しかも、そいつらは判を押したみたいに、堅気な仕事はしないって言うんだ。
 放っておくと、また悪さをしでかすのが目に見えるようだったの。

 そんな連中に仕事を与えて、堅気な生活をさせようと思ったんだ。
 王都からいなくなれば王都の治安は良くなるし、遊んでいる連中を国の発展に寄与させられるからね。
 それに、現場に近くには遊ぶところが無いし、ご飯と寝床は支給されるから給金は丸々貯まるはずなんだ。
 月に銀貨二百五十枚と言う水準は、何の経験も技能もない人に対する給金としては破格らしいし。
 雇用期間が終了する時にはまとまったお金が手許に貯まっていると思うから。
 それを元手に、堅気な仕事を始められるかも知れないしね。

 すると。

「マロン、おぬし、極悪なのじゃ。
 仕事の内容も告げずに、給金や宿舎と食事の条件だけで勧誘したのじゃ。
 仕事の内容を告げていれば、あの中の半分以上は付いて来なかったと思うのじゃ。」

 勧誘の様子を見ていたオランが、おいらを非難したの。

「別に隠していた訳じゃないよ。
 聞かれれば正直に答えるつもりだったし。
 仕事の内容も尋ねずに決めちゃったあいつらが迂闊なだけだよ。」

 あいつら、博打で生きて行くとかしょうもない事を言っていたんで。
 是が非でも雇入れようと思ったから、仕事の内容は後回しにしたんだ。
 根っからの怠け者ばかりに見えたから、どんな仕事か教えたら乗ってこないだろうと思って。
 案の定、あいつらは迂闊で、高い給金と食事と宿の条件を耳にしただけでのこのこ付いて来たしね。
 ここまで連れてきちゃえば、後はトシゾー団長が何とかしてくれると思ったんだ。

 おいらの返答を聞いて微妙な表情をしたオランだけど。

「マロン、あんな、ならず者みたいな連中ばかり雇い入れて大丈夫なのか?
 街道整備というのは重要な仕事じゃろう。」

「平気だよ。送り込んだ連中が仕事をサボらないように。
 現場に監視役の騎士を二十人ほど張り付けたから。
 サボったら、キツイお仕置きが待ってるの。
 数人痛い目に遭えば、みんな真面目に働くよ。
 王都からゴロツキを排除するのと。
 ゴロツキに真面目に仕事をさせるという二つの目的を両立できるでしょう。」

 おいらが問い掛けに答えると、オランはますます微妙な顔をしていたよ。
 取り敢えず、千人くらいは街道整備に雇い入れる予定なので、冒険者崩れや冒険者予備軍をどんどん現場に送り込むよ。
 王都で燻ぶってて悪さをされると面倒だからね。
       
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