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アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第371話 シフォン姉ちゃんが困ってた

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 街道整備の作業員募集を始めてからしばらく経ったよ。
 先日、第一陣として送り込んだ九十人が一人の逃亡者も出さず無事に辺境の作業現場に着いたって報告があったよ。
 先発していた開発局の工事技師により、作業員受け入れの準備は整っていてすぐさま工事に着手したって。

「うちのホールも昼間っから管を巻いている奴がめっきり減ったが。
 王都の雰囲気も随分と良くなったな。
 つい最近までは繫華街の道端にヤンキー座りでたむろって。
 怪しげな葉っぱを吸ってる連中がいっぱいいたが。
 今じゃ、全く見かけねえもんな。」

 従者よろしく、ラビに乗ったおいらの隣を歩くタロウが、街路の様子を眺めて感心してたよ。

「そりゃ、トシゾー団長達が『誠心誠意』説得して、タロウがヤンキーって呼ぶ連中を辺境へ送っていたものね。
 近衛騎士のお姉ちゃん達もこまめに街中を巡回してるから、悪さをするのも難しくなってるしで。
 ガラの悪い連中は、本当に減ったよね。
 街の人達と話していても、安心して歩けるようになったって好評だよ。」

 連日、騎士達が繁華街にたむろってた連中に対して、街道整備の現場作業員になるよう勧誘を続けてくれたんだ。
 騎士達が、『誠心誠意』勧誘した甲斐あって、第一期の目標千人を辺境へ送り出すことが出来たって報告を受けたよ。
 
 これが、街の巡回強化、剣の所持制限と相俟って、街の治安は目に見えて良くなってるんだ。
 ならず者とその予備軍が、辺境の土木作業員として、大挙して街から出て行ったからね。

「誠心誠意説得って怖えな…。
 騎士に取り囲まれて、仕事の勧誘されたら嫌と言えねえじゃねえか。
 それって、一歩間違えれば恐怖政治だぜ。」

「恐怖政治なんて、失礼な。
 強引な勧誘をしている訳でもないし、強制労働させてる訳でもない。
 ましてや、今定職に就いてる人を無理やり引き抜いたりなんてこともしてないよ。
 定職に就いてなくて、仕事を探そうともしてない連中に待遇の良い仕事を紹介しただけじゃない。
 何の技能も経験もない人に月々二百五十枚も銀貨を払う雇い主はいないよ。
 しかも、食事と宿舎は別途無料支給だもの、実際は銀貨三百枚以上の稼ぎだよ。」

 おいら、別にヒーナルみたいに独裁政治や民衆への弾圧をするつもりは無いからね。
 ただ、仕事もせずに周りに迷惑ばっかり掛けてる連中を真人間にしたいだけだから。

「まあ、確かに、マロンがしたことほど極端じゃないけど。
 ハテノ男爵領じゃ、不良冒険者に仕事を与えたら見違えるくらい真人間になったしな。
 やっぱり、ロクに仕事が無いと人間が腐っちまうもんな。」

「そうそう、仕事が無いのが問題なら、国が仕事を作ってあげれば良いんだよ。
 それにね、街道整備は土木作業員に仕事を与えるだけじゃないんだ。
 今、工事が始まった現場だけでも千人の作業員が働くでしょう。
 それに必要な物資は、王都から運ぶんじゃなく、現場近くの町や村で調達することになってるの。
 食糧なら現場近く農家からだし、ツルハシみたいな道具なら近くの鍛冶屋さんだね。
 そうすることで、辺境の街や村の仕事を増やしてあげるんだ。」

 街道整備は西南部辺境だけじゃなくて、国中で実施する計画だから多い時は同時に何万もの人を雇うことになるんだ。
 そのために調達する資材や作業員の食べ物なんかの増産で、地元の仕事も大分増えるはずなの。

 本当は、現場の作業員のニイチャン達にも休暇に近くの町に遊びに連れてって、お金を使わせたいんだけど。
 まだ素行が良くないから、町で問題を起こされても困るし、何より逃亡されたら困るからね。
 しばらく馬車馬のように働かせて、真人間になったらそれも検討しようと思ってるんだ。

「おおっ、それ、学校の社会の授業で聞いたことがあるぜ。
 景気の悪い時には公共事業ってのをやって金をばら撒くって。
 マロン、おまえ、まだ十歳になってないのに賢いな。
 学校すら行ってないのに。」

 タロウの故郷では学校ってモノがあって、生きて行くのに必要な知識を国が教えてくれんだって。
 六歳から十五歳まで、九年間も仕事もしないで学校って所に通うらしい。
 その後も、三年から七年上の学校に通うなんて言ってたよ。
 凄いね、この国では十歳になれば親の仕事の手伝いをするのが当たり前だし。
 おいらなんて、五歳からシューティング・ビーンズ狩りをして一人で生きてきたのに。

「アルトが教えてくれたよ。
 アルトは長生きだから、世間のことにも詳しいんだ。」

「アルト姐さん、伊達に何百年も生きてねえな。
 妖精は人の世界に関わらないなんて言ってるけど。
 人の社会のこともすげえ物知りじゃねえか。」

 ハテノ男爵領を復興する時にアルトから教えてもらったんだけど、それを言ったらタロウは凄く感心してたよ。
 ホント、アルトってとっても物知りだよね。

       **********
 
 そんな会話を交わすうちにやって来たのは王都の中央広場。

「あっ、マロンちゃん、わざわざ来てくれたの。
 女王様に足を運んでもらうなんて、何か申し訳ないわね。」

 シフォン姉ちゃんが、開店したばかりのお店で迎えてくれたんだ。

「どうせ、トレントを回収しに行った帰り道だから気にしないでいいよ。
 ギルドの様子を見に言ったら、シフォン姉ちゃんが何か用があるって聞いたから。」

 そう、何でタロウと一緒に歩いてたかと言うと、シフォン姉ちゃんが何か用があると聞いたからなんだ。
 シフォン姉ちゃんが王宮に行っても良いかって、タロウから尋ねられたの。

「アルト様って、まだ、こちらに戻ってこないのかしら?
 私、アルト様にお願いしたいことがあるのよ。」

「アルト?
 今頃、お義父さん達を送ってシタニアール国へ着いた頃だと思うけど…。
 『妖精の森』の様子も見て来ると言ってたから、戻るのは後一月くらい先になると思う。」

「まだ、一月も先なのね、困ったわ…。」

 シフォン姉ちゃんは本当に困った様子だったの。

「困ったって、何か問題が起こっているの?
 おいらで出来ることなら、力になるよ。
 シフォン姉ちゃんにも無理言ってついて来てもらったんだから。」

「マロンちゃんに心配してもらうほどの事ではないんだけど…。
 マロンちゃんのお力添えでこんな良い場所にお店を持てたこともあって。
 開店からこっち、予定よりも売り上げが順調なの。
 おかげで在庫も心許無くなってるんで、一所懸命増産しているんだけど…。
 手持ちの布地が底をついて来ちゃって、王都のお店に仕入れに行ったのよ。
 そしたら、ビックリ、同じ材質の布地がトアール国の倍の値段なの。」

 シフォン姉ちゃんは値段を見て布地を仕入れずに帰って来たそうだよ。
 布地が倍の値段だと赤字になっちゃうんだって。
 シフォン姉ちゃんの売っているパンツは銀貨一枚、これでも結構良い値段なんだ。
 ゴムを使っていない従来のパンツだったら、銅貨三十枚から五十枚くらいで買えるからね。

「マロンちゃんも知ってると思うけど。
 この国の人の給金って、トアール国の相場と変わらないの。
 だとしたら、パンツ一枚に銀貨二枚とか出す人なんていないわよね。」

 布地だけでじゃなくて、糸なんかも倍の値段がしたらしくて…。
 値上げしないと赤字になるけど、かと言って値上げできる感じでもないんだって。
 銀貨一枚と言うのはゴムの便利さを買ってもらえるギリギリの水準らしいよ。
 それ以上の値を付けたら、従来の紐で留めるパンツにお客が流れちゃうだろうって。

 なので、アルトに頼んでトアール国に仕入れに連れて行ってもらおうと考えてたみたい。
 一月後じゃ、作り置きも、布地も在庫が無くなっちゃうらしいの。
 それで、困っていたんだね。

「街の人の給金がトアール国の倍だったら、二倍の値段を付けられるんだけどね。
 我が身にかえって考えれば、パンツ一枚に銀貨二枚は無いわ…。
 まっ、仕方ないか、アルト様が返ってくるまで高い生地を買って赤字で売りますかね。」

 シフォン姉ちゃんは、アルトの帰りがまだ大分先だと知ると諦めて王都の店で布地を仕入れることにしたみたい。
 まだ開店したばかりだから、欠品を理由に休業をするより、多少足が出ても店を開けていた方が良いって。

 シフォン姉ちゃん、これまで大分儲けていたみたいだから余裕があるみたい。

「ねえ、シフォン姉ちゃん、高いのは布地や糸だけだった?
 おいらが騎士の募集の時に聞いた話だと、王都は物が何でも高くて生活が厳しいって聞いたんだけど。」

「ゴメン、マロンちゃん、その辺、全然気にしてなかったわ。
 このところ、タロウ君の稼ぎが良いのに加えて、私もそれなりに稼いでたから。
 忙しいこともあって、あんまりモノの値段を気にしてなかった。
 その辺、どうなんだろうね?」

 シフォン姉ちゃん、開店に向けて服やらパンツやらを作り溜めるのに忙しかったそうなの。
 買い物は時間を掛けずに適当に済ませてたみたいで、物の値段を余り吟味したことが無かったらしいよ。

「それじゃあ、これから、町にその辺を調べに行こうよ。」

 おいらは、街へモノの値段を調べに行こうと、シフォン姉ちゃん達を誘ったんだ。
 おいらも、ウエニアール国へ来てからお店を見て回ったことが無いから楽しみだよ。
 
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