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第十五章 ウサギに乗った女王様
第369話 こんな人たちも雇い入れたよ
しおりを挟むその日の午後、おいらはオランと一緒に王都の外にある冒険者の研修施設を訪れたの。
もちろん、トレントの本体と未結晶の『生命の欠片』を回収する日課と言う目的もあるけど、その日はとある目的があったんだ。
オランと二人、二匹のウサギに分乗して並んで街の中を進んでいると。
「本当に、街の中で剣を所持している者が見当たらないのじゃ。
今まで街中で剣を所持するのは普通のことだと思っていたゆえ。
剣を取り上げると言ったら、市井の民の不満の声が上がると思ってたのじゃ。
よもや、こんなにすんなりと受け入れられるとは思わなかったのじゃ。」
隣りを行くオランは、キョロキョロを周りを見回しながら感心してたよ。
オランの言葉通り、表通りを歩く限りは剣その他の武器を持ち歩いている人は一人も見当たらなかった。
「まあ、元々、騎士以外で剣を振り回すなんてのは冒険者くらいだったからね。
その冒険者が質が悪いもんだから。
大概の人は、冒険者に絡まれないように護身のために剣を所持してたってのが実情だし。
騎士がこまめに巡回して冒険者を取り締まれば、普通の人は剣を持つ必要はなくなるよね。」
実際、剣の所持禁止に抵抗したのは、一部の不良冒険者だけだったみたいだからね。
それも、見せしめも兼ねて抵抗した冒険者にキツイお仕置きをしたら大人しくなったみたいだし。
「ほら、オラン。
でも、まだ、あんな奴がいるんだよ。」
おいらの指さす先には、数人の冒険者らしきガラの悪い男達とそれに対峙している近衛騎士のお姉さん達がいたんだ。
「あなた方、手にしているそれは何でしょうか?
何のために、その様な物を持ち歩いているのですか?」
巡回中のお姉さんが笑顔で冒険者達に尋ねると。
「これかい、これはオメエら騎士が剣を取り上げるもんだから。
剣の代わりに持ち歩いているんでぇ。
俺達冒険者が得物も持たねえで歩いてたら、カタギに舐められちまうだろう。
こんなもんでも、持ち歩いてりゃ、少しは脅しになるだろうぜ。」
持ち手の部分に縄を巻いて滑り止めにした木の棒を自慢気に掲げて、冒険の一人が答えたの。
お姉さんが、笑顔で物腰の柔らかい対応をしているものだから、所持の目的を正直に話したよ。
おいら、「こいつ、バカ?」って思ったね。
「そうですか、では、その木の棒は没収させて頂きます。」
お姉さんは笑顔を崩さずにそれを没収すると告げたんだ。
「何だと! 何で、これを取り上げられねえといけねえんだ。
剣の所持はダメだと言うから素直に従っているじゃねえか。」
「いえ、それ、剣の代わりに持ち歩いているのでしょう。
立派な凶器ではございませんか。
広場に掲げてあるお触れ書きは目を通して頂けましたか?
剣、槍、弓、その他一切の武器・凶器の所持を禁ずるとあったはずですが。」
そう、冒険者って、他人の話しは聞かない、お触れ書きなんて目は通さないって連中ばかりだから。
剣や槍の所持は無くなった代わり、木の棒とかを喧嘩や脅しの道具に使うようになったんだ。
裏通りに行くと、冒険者同士のシマ争いで、木の棒を使った血塗れの喧嘩が多発するようになったの。
他にも、市井の人々を棒で脅して、お金を巻き上げるとかね。
木の棒だって殴られれば痛いし、打ちどころが悪ければ最悪死んじゃうもんね。
もちろん、木の棒だって立派な凶器になるから、取り締まりの対象だよ。
あいつら、考えなしに剣の代わりに持っているなんて言うからなんだけどね。
足や腰に持病があるから杖として所持してるんだと言えば、取り上げられないのに…。
「あんな感じで、最近は剣の代わりに木や鉄の棒を持ち歩く連中がいるんだ。
最近受けた報告では、もっぱらアレが取り締まりの対象らしいよ。」
「本当に、冒険者と言う連中は懲りないのじゃのう。
これだけ厳しく取り締まられてるのじゃから。
いい加減、ならず者稼業から足を洗って、カタギな生活をすれば良いのじゃ。」
おいらの説明を聞いてオランも呆れていたよ。
もっとも、王都の中は裏通りを含めて百人以上の近衛騎士が巡回しているから。
木や鉄の棒を所持している連中も減ってきているんだけどね。
喧嘩や脅しをしている者に遭遇したら、捕縛して冒険者研修施設で更生教育を施しているし。
「ふざけるな! 木の棒すら持っちゃいけねえだと!
それじゃ、俺達はどうやって食ってけって言うんだ。
冒険者ってのはカタギに舐められたお終めえなんだぞ。」
素直に差し出せば良いものを、冒険者連中はキレてお姉さん達に木の棒で襲い掛かったよ。
そして、瞬殺されてた・・・。
「どうやって、食べていけば良いかですか?
あなた方には、これから一月、更生教育を受けて頂きますので。
一月後には幾らでも食べていく術は見つかると思いますよ。」
打ちのめされて地面に転がる冒険者達を縄で拘束しながら、お姉さんが告げてたよ。
ほぼ一月、毎日、トレント狩りをさせられるのだから。
更生教育が終了する頃には、魔物を狩って食べていくだけの実力は付くだろうね。
「ふむ、ああやって、ゴロツキ共が町から姿を消していくのじゃな。
冒険者研修施設はさぞかし、ゴロツキ共でいっぱいなのじゃろう。」
そう、それ。冒険者研修施設を、罪を犯したゴロツキの更生施設と一緒にしたものだから。
現状、ゴロツキ共で溢れちゃってる状態なんだ。
最初の一月で犯罪者用の宿泊施設を二回も建て増しすることになったよ。
今では、百人収容できる建物が三棟も建ってるの。
冒険者研修の定員が男女合わせて百人だから、冒険者の登録を希望する人より犯罪者の方が多い状態なんだ。
**********
おいら達は冒険者研修施設へ向かう途中だったものだから、巡回のお姉さんに声を掛けて捕えた者達を預かることにしたの。
おいら達の護衛が増えて四人も騎士が同行してるから、そのくらいの人数は連行できるものね。
お姉さん達には引き続き王都の巡回を続けるように指示しておいた。
冒険者研修施設に着くと、ルッコラ姉ちゃんに連行してきた冒険者のことを任せ。
おいらとオランは、その日の研修で狩ったトレントの本体と未結晶の『生命の欠片』を回収しに行ったの。
無事に回収を済ませて、宿舎や食堂のある広場に戻ってくると。
ちょうど、軽い罪を犯した冒険者が一月の更生教育を終えたところだったの。
「あなた方は、本日をもって更生教育が終了しました。
もし、あなた方が冒険者登録を希望されるのであれば。
このまま、八日間、冒険者研修を受講することが出来ますが、いかがですか?
研修の内容は、今まで毎日してきたことと同じですので困難は無いかと思いますが。」
冒険者管理局のお姉さんが、二十人ほどの冒険者に対して終了を告げると共に冒険者登録を勧めていたの。
おいらがここを訪れたとある目的とは、更生教育を終えた冒険者がその後どうするつもりかを観察する事なんだ。
冒険者達がどんな返答をするか注目していると。
「冒険者研修? 俺はパスだ。
もう、トレント狩りなんて金輪際したくないぜ。
俺は、この一月で体も、プライドもボロボロだぜ。
冒険者の登録なんてしたくもねえや。」
このニイチャン、毎日トレントの枝の攻撃を受けたって愚痴ってたよ。
その度にケガは『妖精の泉』の水で痕も残さず治療してもらえたんだけど。
攻撃を受ける度に感じた強烈な痛みと無様に転げ回る姿を周りに晒したことで心が折れちゃったみたい。
加えて、毎朝させられた王都の清掃やドブ攫いも何気に応えたみたいだよ。
晒し者にするように、名前と罪状が大きく記された木の札をぶら下げて作業させられたからね。
街の人の間ですっかり笑い者になっちゃったものだから。
カタギに舐められたら終わりだと思っているニイチャンにとっては耐えられないことだったみたい。
「そうですか。
無理強いするつもりはございませんが。
そうしますと、お預かりしている武器は没収となり返却できません。
それでもよろしいのでしょうか?」
剣は冒険者にとっては手放せないモノのはずなんだけど…。
「要らねえよ、剣なんて持ってたって…。
所詮、俺なんて虚勢を張るだけの小者だって分かっちまったからな。
俺なんて、本気になられたら女子供にも勝てない雑魚なんだ。
これからは、泡姫の勧誘でもしながら、ひっそり生きていくよ。」
自分が虚勢を張っているだけの雑魚だと気付いたのは偉いけど、…。
それでも、堅気に生きて行こうとは思わないんだね。
「ああ、俺もそうするぜ。
最近は送られてきた連中から聞かされた話しじゃ。
冒険者に登録しても街中で剣を持ち運ぶには、布袋に入れて口を縛らないとならねえんだろう。
それじゃ、虚仮脅しにもならねえじゃねえか。
街中で剣を振り回せねえんじゃ、剣を持っている意味がねえぜ。」
だから、剣は人に向けないで魔物に向けようよ…。
結局、今日更生教育を終えた二十人は全員腰抜けばかりだったよ。
トレント狩りをして稼ごうと言う気概のある人は一人もいなかったの。
しかも、ならず者稼業から足を洗って堅気になろうと言う人もいなかったんだよ。
みんな、博打で生きて行くとか、泡姫の勧誘をして稼ぐとか、ロクでもないことばっかり言ってた。
そんなロクでなしばかりが集まっている所に、おいらはオランを連れて行ったの。
「ねえ、ニイチャン達、堅気に稼ぐつもりはないの?」
おいらが、元自称冒険者達に尋ねると。
「なんだい、このガキは…。
堅気の仕事だって?
バカ言っちゃいけねえよ。
俺達みたいなはみ出し者を誰が使ってくれると言うんだ。」
「そうだぜ、嬢ちゃん。
今まで、散々好き勝手やって来たんだ。
俺達にも出来る堅気の仕事なんて、ドブ攫いか道の馬糞掃除くらいだ。
一日働いても銀貨一、二枚にしかならねえ仕事なんてやってられるかっての。
子供の駄賃じゃあるまいし。」
まあ、そう言うのも無理ないね。
こいつら、強請りやら美人局やらで、楽して金を稼いできたのだろうから。
「じゃあ、まともな仕事を紹介するって言ったら働くかな?
雇用期間は一年以上で給金は月払いで銀貨二百五十枚。
それとは別に一日三食の食事と寝床が無償で支給されるよ。
仕事振りが良ければ、雇用期間は更新可能で十年くらいは雇えるかも。」
おいらが、仕事を紹介するとして雇用条件を伝えると。
「おい、銀貨二百枚に加えてメシと寝床だって?
それは本当か?
そんな、上手い話があるなら、俺はやっても良いぞ。
子供だからって騙したら許さねえぞ。」
「いや、ちょっと待て。
子供をここに送り込んで調子いこと言わせてるけど…。
実は危ねえ仕事なんじゃねえか。
それこそ、トレントよりもっとおっかねえ魔物狩りとかよ。」
おいらの話しが本当なら働いても良いと言うニイチャンがいたけど。
別のニイチャンはおいらを疑って制止してたよ。
「魔物狩りなんて、そんな危ない仕事はさせないよ。
危険な職場じゃないから、安心して良いよ。
ゴハンも美味しいものをお腹一杯食べさせてあげるよ。」
誓って危険な仕事じゃないよ、無茶苦茶重労働ではあるけど。
まあ、お金は貯まるはず、仕事の現場は人里離れた辺境でお金を使う場所なんて無いから。
「マロン陛下、今日は仕事の勧誘でございますか?」
さっき冒険者研修の勧誘をした冒険者管理局のお姉さんがおいらに声を掛けてくれたんだ。
「陛下?」
「そのお嬢ちゃんは一体何者なんだ?」
お姉さんに向かっておいらのことを尋ねる声が上がると。
「ご存じありませんか?
こちらは、この国の女王陛下、マロン陛下にあらせられます。」
お姉さんはおいらを元自称冒険者達に紹介したの。
「女王…、って事はこの国で一番偉い人ってことか?」
「おい、じゃあ、仕事を紹介してくれるって話も信用して良いんじゃねえか。」
おいらの素性が明かされると、俄かにおいらの言葉を信用するようになったみたい。
お姉さん、いいタイミングで声を掛けてくれたね。
そんな訳で、二十人全員を雇い入れることになったよ。
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