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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第344話 『冒険者管理局』、本日、開店(?)だよ!

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 タロウを無事に『タクトー会』の会長に祭り上げた翌日のこと。

「おいらがトアール国へ戻る前に頼んでおいた件は準備出来ているかな?」

 おいらは、三ヶ月ほど前に頼んだことについて、クロケット宰相に確認したの。

「はい、準備万端整っております。」

 宰相から良い返事をもらえたので、宰相に目的のモノを見せてもらうことにしたんだ。
 アルトに頼んで、おいらと宰相、それに父ちゃん達『冒険者管理局』のみんなを案内してもらったの。
 
 草原側にある王都の門を出たところにそれは造られていたよ。王都の城壁にピタリと寄り添うようにね。
 王都の城壁に接している部分以外の三方を深い空堀で囲われ、内側には空堀を掘った時に出た土で土塁が作られていたの。
 更に、土塁の上には木の板塀が作られていて、ちょっとした砦みたいになってたの。

「うん、いい出来だね。これなら簡単には出入りできないや。」

 おいらは、その一画が注文通りに作られているのを確認すると、鉄格子で出来た門を潜ったの。

「はい、陛下の御注文が、脱走不可能な牢獄を造れとのことでしたので。
 外周は念入りにこしらえました。」

 宰相はそう答えると、土塁の内側へ案内してくれたんだ。
 鉄格子の門を潜った先には、木造で横長の建物が十棟、それに真四角の建物が一棟、建てられていたの。
 横長の建物は、真四角の建物を挟んで左右に五棟ずつ並べられてた。
 横長の建物は全て間取りが同じで、一列に部屋が十室並んでいるんだ。
 部屋の中は、ベッドにテーブルとイス、それに物入れが、一つずつ置かれていたよ。
 もちろん、部屋の隅にはトイレも設えてあった。

 そして、真四角の建物にあるのは台所と食堂。
 食堂は最大で百人以上が同時に食事が取れるように長テーブルと長椅子が置かれた。

「個室の広さは十分だし、ベッドも程々に柔らかいものだから文句無しだよ。
 七日間も過ごすのだから、狭い部屋じゃ息が詰まるし、ベッドが固いと熟睡できないからね。
 食堂で働いてもらう給仕の人の手配は済んでいる?」

「はい、朝昼晩の食事係兼個室の掃除係として、十分な人数を雇い入れました。
 召集をかければ、明日からでも働き始められるかと。」

「そう、有り難う。じゃあ、すぐにでも施設をオープン出来るね。
 後は、アレだけかな?」

 おいらは、宰相の返答に満足すると、建物が立ち並ぶ一画から更に奥へ向かったの。
 そこは、だだっ広い空き地になっていたんだ。

「アルト、お願いしてあったモノを出してもらえるかな。」

 おいらがアルトにお願いすると。

「了解、敷地の奥の方から詰めるようにして配置すれば良いわね。
 明日からすぐに使えるような状態にしておくわね。」

 快く返事をしてくれたアルトは、敷地の奥の方に向かって飛んで行ったよ。
 そして、『積載庫』から若木を出すと、次々に敷地の中に置いて行ったの。
 地面に放たれた苗木を見てたら、うねうねとキモい動きで根っこが地の中に潜っていったよ。

 そう、アルトが植えたのはトレントの若木だよ。
 毎日、スフレ姉ちゃんの訓練でトレント狩りに行ってるので、ついでに若木を採って来てもらったの。
 ちゃんと、『シュガートレント』、『ハニートレント』、『メイプルトレント』の三種類全部ね。
 若木と言っても、アルトの『積載庫』の時間早送り機能で結構な大きさまで育っているの。
 一日あれば十分成木という大きさになるくらいにね。

「こんなもんでどうかしら?
 少し小さいけど、立派なトレントの林の出来上がりよ。
 取り敢えず、三種類のトレントを百本ずつ植えておいたわ。」

 アルトが戻って来て、作業の完了を報告してくれたよ。

「ほう、立派なトレントの狩場が出来たもんだ。
 アルト様の『妖精の不思議空間』は、本当に便利なもんなんだな。
 これくらいのトレントがあれば訓練には十分だな。」

 父ちゃんが目の前に現れたトレントの林を見て感心していたよ。
 そう、この場所、『冒険者管理局』が設けた冒険者の研修施設なんだ。
 最大で収容人数百人、男女五十人ずつを受け入れることが出来る規模で作ってあるの。
 冒険者登録に来た冒険者が研修途中で音を上げても逃がさないように牢獄のような作りにしたんだ。
 因みに、男性冒険者用の宿舎は個室の窓が鉄格子、宿舎の出入り口は外から施錠できるようになってんの。
 男女の冒険者が一緒に研修を受ける時に夜這いなんてさせないようにね。

       **********

 『冒険者管理局』は、王都の外に設けた訓練施設とは別に事務所も用意したよ。
 町の中央広場に面した建物の一階を借りて、目立つ場所にね。

 『冒険者管理局』と書いた大きな看板を掲げた他に、入り口前に二つの立て看板を置いたよ。
 片方の看板には、大きな文字でデーンと『冒険者登録受付中』と書いてあり。
 その脇に少し小さな文字で『男女の性別は問いません、冒険者になりたい方はお気軽に申し込みください。』って書いてあった。

 もう片方の看板には、大きな文字で『冒険者に対する苦情はこちらへご通報ください。』と書いてあり。
 その脇に少し小さな文字で『どんなことでもお気軽にご相談ください。きめ細かく対応いたします』って書いてあった。

 冒険者になりたいと言う人や冒険者の無法に困っている人が、すぐに立ち寄れるように目立つ場所に事務所を開いたんだ。
 事務所のある場所は、中央広場の中でも駅馬車が終着点になっている停留所の前なんだよ。
 王都へ出て来た人が馬車から降りると、最初に目に留まる場所を選んだの。
 仕事のあてが無く王都へ出て来た人が、変な仕事に引っ掛からないようにね。

 『訓練施設』を見に行った翌日、早速、広場に面した事務所をオープンしたの。
 初日は、おいらもどんな様子か見に行ったよ。 

 事務所を開いてしばらくすると。

「おう、ここで冒険者の登録が出来るとか書いてあるけど。
 冒険者ってのは、お役所に登録しないといけねえのか?
 俺は、冒険者ってのは、自分で勝手に名乗るモンだと思ってたんだがよ。」

 ガラの悪いニイチャンが三人連れだって入って来たんだ。

「いらっしゃい、冒険者管理局、『みんなの窓口』にようこそ。」

 『みんなの窓口』って、いつの間にそんな事務所名になったの…。
 それはともかく、管理局に配置したお姉さんの一人が満面の笑顔で三人のチンピラを迎えたの。

「何だよ、『冒険者管理局』だなんて小難しい名前だから。
 ムサイおっさんが出て来るモンかと思ったら、えらく愛想の良い姉ちゃんだな。
 俺ら、冒険者になろうかと思って村から出て来たんだが。
 冒険者ってのは、勝手に名乗って良いんじゃなかったか?
 そこいらのモンにゴロ巻くのに資格なんていらねえだろう。」

 こいつら、見た目通りだね。真面目に働くのが嫌で、王都に出て来た口だよ。
 少し腕っ節に自信があるから、堅気を強請って楽して暮らしていこうって輩だね。

「あいにく、先日から冒険者はこの『冒険者管理局』に登録を義務付けられました。
 登録のない人がかってに冒険者を名乗るとそれだけで罰せられますよ。
 冒険者は、管理局が発行する登録証を目に付くところに着けないといけません。
 冒険者以外の人が、町中、村中で武器を携行することも罰することになりました。
 冒険者登録をしないのであれば、お腰に下げた剣は没収させて頂きます。」

 お姉さんは、笑顔を崩さずにそんな説明をしたんだ。

「何だって、そんなことは聞いてねえぞ。
 この剣は、なけなしの金を叩いて手に入れたんだ。
 役人に没収なんかされたら、たまんねえぜ。
 じゃあ、その冒険者登録ってのさっさとやってもらおうか。」

 ニイチャン達、すぐに登録できるものだと思い込んで、そんなことを言ったの。
 受付のお姉さんが笑顔だからって態度が良くないね。
 お姉さんはお役人さんなんだから、少しは敬った方が良いと思うんだけど。

「そうですか、では、この注意事項を良くお読みになって。
 ご承諾いただけましたら、こちらの登録申込書の記入欄を埋めてください。」

 お姉さんは三人に二枚組の紙を渡したんだ。
 お姉さんに指示されて、申込書記入のために用意された机に移動した三人。

「何だ、冒険者になるに際しての注意事項だって。
 何々、冒険が遵守しないとならない法についてだ?
 何か細かいことがいっぺえ書いてあんな。」

「ホントだな、目がチカチカしちまうぜ。
 俺、こんな細かい字を読むのは性に合わねえんだ。」

「全くだ、一々、読むの面倒くせえよ。
 まあ、いいや、こっちの紙を適当に埋めて出せば良いんだろう。」

 結局三人共、ロクに注意事項も読まずに、冒険者登録申請書にサインしちゃったよ。
 ちゃんと読まないで簡単に同意しちゃって良いの?
 その申請書の中の文言。

『別添注意事項に書かれた法令を遵守することを誓約し、冒険者登録を申請します。』とか。
『冒険者研修中に負傷し、また落命することになっても一切不服は申し立ていたしません。』とか書いてあるのに…。

     **********

 おいらが、最初ににやって来た三人組の迂闊さに呆れていると。

「よお、マロン、『冒険者管理局』の仕事始めを見に来てたのか?」

 タロウが事務所に入って来て声を掛けられたよ。。
 一応、おいら、女王様なんだけど、相変わらず呼び捨てなんだね。

「うん、父ちゃんの事務所開きだからね。
 どんな様子か見に来たんだ。
 タロウが連れてるのは『タクトー会』の若い衆?」

 タロウの後ろには、最初に来た三人組と同じような年頃のニイチャンが十人並んでたよ。
 誰も皆、ガラが悪くて如何にも冒険者って感じなんだけど…。
 何故かみんな、ボコられた様子で、目の周りに青たんを付けてたり、鼻血の跡が残ってたよ。

「ああ、ギルドのロビーでうだうだやってた連中だ。
 こいつら、身の程知らずにも、幹部の姉さん達にセクハラかましやがって。
 見ての通り、姉さん達にボコられたんだ。
 真面目に魔物狩りに行く様子も見えねえもんだから。
 ここで根性を叩き直してもらおうかと思って連れて来たんだ。
 今日店開きをすると聞いたから、ちょうど良いと思ってな。」

 タロウは、初日にから登録に来るような殊勝な冒険者は少ないだろうと思ったみたい。
 『冒険者管理局』が開店休業状態じゃ寂しかろうと思って、連れて来たって言ってたよ。

 タロウはおいらとの会話を終いにすると、冒険者達を受付カウンターへ連れて行ったよ。

「あのう、すみません、冒険者の登録はこちらでよろしいんで。」

 次に入って来たのは冒険者の五人組。
 町の広場で『タクトー会』の幹部を見せしめにした時に、声を掛けて来た冒険者だった。
 五人ともガラが悪いのには変わりないんだけど、見た目、下っ端感がひしひしと感じられる冒険者達だったよ。
 例えていうなら、ならず者に使いっぱをさせられてる三下って感じ。

「いらっしゃい、また会ったね。
 さっそく、冒険者登録に来てくれたのかな。
 一緒に居るのは同じギルドの冒険者?」

 おいらが尋ねると。

「女王様に顔を覚えてもらえるなんて、ありがてえっす。
 へい、冒険者登録をしねえと剣を取り上げちまうと聞いて早速やって来ました。
 こいつら、俺っちと同じ『カザミドリ会』っていうケチなギルドのメンツでさぁ。
 タダ飯、タダ宿にありつけると言ったらついて来やして。」

 このニイチャン達は、王都で細々とやっている零細ギルドに出入りしている冒険者みたい。
 大手のギルドに出入りする度胸もない半端者を自認する冒険者の集まりで。
 『カザミドリ会』って名称は、『風向きを見ながら上手く世渡りする』ってモットーから取ったんだって。
 博打とか、『風呂屋』の泡姫さんの勧誘とかをシノギにして細々とやっているギルドらしいよ。
 「いや、だから、冒険者なら狩りでも採取でもしなよ。」と言ったら…。
 このニイチャン、採集もしてると言ってたよ。
 乾燥させて吸うと、気分がハイになる『イケイケ草』とか、吸うと酩酊感が味わえる『クラクラ草』の採集は良くやっているって。
 それって、アブナイ葉っぱだよね、以前、にっぽん爺から聞いた覚えがあるよ。

「俺っち達、ならずモンなのは自覚してるっすけど。
 大手と違って、お上に目を付けられたひとたまりもねえっすから。
 お上の許可が要ると言われりゃ、素直に言うこと聞きまっせ。」

 何事も風見鶏、長い物には巻かれろ、お上には逆らうなだって…。
 なんだかなぁ…。 
 
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