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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第345話 だから、注意事項はちゃんと読まなきゃ…

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 登録にやって来た冒険者が十八人になったところで。
 初日はこんなものかと、父ちゃんは受付を締め切ることにしたんだ。
 父ちゃんの指示で、受付にいたお姉さんの一人が外に看板を出してたよ。
 そこには、『冒険者登録、本日の受付は終了しました。またのお越しをお待ちしております。』と書かれてた。

「俺が、『冒険者管理局』の局長だ。
 みんな良く来たな。
 お前らが、登録冒険者の第一号になる予定だ。
 これから早速、冒険者研修を始めるから。
 今日から八日間頑張ってくれよ。」

 父ちゃんが冒険者達にそう告げると。

「おい、冒険者登録ってのは、今すぐにできるもんじゃねえのか?
 登録するのに八日もかかるなんて聞いてねえぞ。」

「そうだ、そうだ。
 冒険者登録をしなきゃ剣を取り上げるって言うが。
 八日間、丸腰で行動しろってのか。
 それじゃあ、カツアゲもできねえじゃねえか。」

「全くだ、適当にゴロ巻いて金をせしめねえと。
 今日の宿代はおろか、飯も食えねえんだぞ。」

 王都の外から冒険者になるためにやって来たと言う三人組が不満を垂らしていたよ。
 適当にゴロ巻いて金をせしめるって、もう単なるならず者だよね。
 こんな奴らばっかりだから、『冒険者=ならず者』と見做されちゃうんだよ。
 三人組の会話を聞いて、父ちゃんは渋い顔をしてたよ。

 憮然とした表情の父ちゃんに代わって。

「冒険者研修のことは、今提出してくださった申請書に書いてありましたよ。
 ここに、『所定の冒険者研修を受講することに同意します。』と有りますが。
 署名が有りますので、ちゃんとお読み頂いているはずでよね。」

 父ちゃんの隣で補佐をしているお姉さんが、冒険者登録申請書を示しながら言ったんだ。

「何だって! そんな大事なことが書いてあったのか!
 それじゃあ、俺達は八日間もどうやって生きてけって言うんだ。
 宿なし、メシなしで。」

 今頃になってそんなことを口走る冒険者、ほら、よく読まないから。
 それに、周りで話してることも全然聞いてないんだ…。
 『カザミドリ会』のニイチャン達、『タダ飯、タダ宿』を目当てに来たってた言ってたのに。

「食事と宿についてはご心配ありません。
 研修期間中、三食の食事と宿泊場所は『冒険者管理局』が用意しますので。
 もちろん、全て無償ですし、食事もベッドもその辺の安宿より格段に良いですよ。」

 お姉さんが研修期間中の食事と宿について説明すると。

「やったぜ!
 半信半疑で来てみたが、ホントにタダ飯、タダ宿にありつけるみてえだ。」

「おお、ギルドの大部屋暮らしから、束の間解放されるぜ。」

「俺っちみてえな、三下はロクなもん食えねえから。
 三食まともに食えれば御の字だぜ。」

 『カザミドリ会』の連中から歓声が上がってたよ。
 こいつら、そんな慎ましい生活してるなら、フラフラしてないで真面目に働けばいいのに…。

「おい、なんか、雲行きが変だぞ。」

「ああ、でも、メシ代、宿代の心配はしなくて良いみてえだ。
 それで、大手を振って冒険者と名乗れるのなら良いんじゃねえか。」

「ちぇ、俺は王都に着いたら、すぐに二、三人から金を巻き上げて。
 最初の晩は『風呂屋』に泊ろうと思ってたんだが、仕方がねえか。」

 浮かれる『カザミドリ会』のメンツとは対照的に、田舎から出て来たばかりの三人組は渋々って感じで研修に参加することになったんだ。

     **********

 まず最初に、全員揃って王都の外にある研修施設に移動したよ。
 施設に着いたら、先ずは全員にお昼ご飯を食べさせてた。

「こりゃすげえや、タダ飯って言うからあんまり期待してなかったが。
 こんな分厚い肉のステーキに、具だくさんのスープだってか。
 それにパンも食べ放題なんて、こんな豪勢なメシは久しぶりだぜ。」

 余程、侘しい食生活をしていたのか、『カザミドリ会』の連中、出された料理に感動してた。
 それほど、贅沢な食事ではないはずだけど、十分な量は提供することにしたんだ。
 腹が減ったら戦は出来ないからって、父ちゃんがぼそっと言ってたよ。

 食事が終ったら、各自に宿泊する部屋を割り当てたの。

 部屋に案内すると。

「おおっ、こんなに広い部屋を一人で使って良いのか。
 ギルドの大部屋に雑魚寝とは大違いだな。」

「ホントだな。ベッドなんてフカフカだぜ。
 久しぶりに、人並みの寝床で寝られるわ。」

 またしても、『カザミドリ会』の連中の切ない話が聞こえたよ。
 何度も言うけど、ホント、堅気な暮らしをすれば良いのに…。

 でも、田舎から出て来た三人組はというと…。

「おい、これは一体なんなんだ。
 窓に鉄格子が嵌っているじゃねえか。
 これじゃまるで、監獄のようだぜ。」

 女子棟への夜這いや逃亡を防止するために設置した鉄格子を見て、不満をもらしてたよ。
 案内したお姉ちゃんは、三人組の苦情なんて無視していたけどね。

「よし、部屋割りは済んだな。
 そしたら、荷物を部屋に置いて、得物だけ持って庭に集まれ。」

 父ちゃんは十八人にそう指示したの。
 荷物を置くだけなので、大した時間も要せずに全員が集合したよ。

「では、五人ずつでグループを作ってください。」

 お姉さんはそんな指示を出したけど、今回研修を受けるのは十八人な訳で…。

「俺達は、三人組なんであぶれちまったがどうすれば良いんだ。」

 『カザミドリ会』はきっちり五人だし、タロウが連れて来たのは十人。
 当然、気心が知れた人達でグループを作るとそうなるよね。

「三人組でもかまいませんよ。
 一人の負荷が重くなるでしょうが、死ぬことは無いでしょうから。
 危なくなったら、私たちが助けに入ります。」

 お姉さんは、そんな物騒な事を言ったよ。

「おい、いったい何なんだよ。
 その、『死ぬことは無い』ってのは!
 いったい、俺達に何をさせようって言うんだ。」

 食ってかかる三人組に対し。

「えっ、冒険者に必要な実技研修ですよ。
 大丈夫です、気を抜かなければ避けることは出来ますので。
 先ずは、各グループとも、そこにある荷車を引いてついて来て下さい。」

 実際に何をさせるかはナイショのままで、お姉さんは淡々と返事をしたの。
 それ以上取り付くしまが無い様子だったから、三人組も諦めて指示に従ったよ。

 各グループに一台、荷車を引いて草原に出て来たところで。

「それでは、実技研修第一回、ウサギ狩りを始めます。
 各グループ、最初は協力してウサギを狩ってみましょう。
 研修三日目には、各自一人でウサギを狩るのが目標です。
 それができたら次のステップに移行です。」

「おい、ちょっと待て!
 何で、ウサギなんか狩らにゃいかんのだ。
 俺は冒険者になりに王都まで出て来たんだぞ。
 俺たちゃ、その辺の弱そうな奴を捕まえて強請って食ってければ良いんだ。
 誰がウサギ狩りなんて、危ないばっかりでたいして金にならないことをするかって。」

「はい? 冒険者になるために王都へ来たのですよね?
 冒険者には、この国で定められた法を順守して頂きますよ。
 登録申請書でも、『法を順守する』と誓約したでしょう。
 この国では、『強請り』は重罪ですよ。
 悪さをしないでも生きて行けるように研修を課したのではないですか。」

 文句ばかり言っている三人組にお姉さんは、そんな言葉を返したの。

「そんなの、やってられるか!
 俺は止めたぞ、冒険者の登録なんて要らねえよ。
 おい、こんなの止めて、王都へ戻るぞ。
 とっとと強請ゆすりでもして、『風呂屋』に繰り出すぞ。」

 お姉さんの言葉を聞いて、キレた一人が仲間の二人に研修離脱を呼び掛けたよ。
 だから、お姉さんが言ったことも、渡した書面にちゃんと書いてあったよね…。

「そうはいきませんよ。
 登録申込書に書いてありましたよ。
 『登録申請は、いかなる理由があっても、途中で申請を取り消すことは出来ない』と。
 登録申請が取り消されるのは、登録が不可能な事情が生じた時だけです。」

「なんだよ、その登録が不可能な事情ってのは。
 その事情があれば途中で止められるんなら、早くそれを教えろよ。」

「研修中に『死亡』した時か、『四肢の欠損』等を生じ冒険者として登録することが困難になった時ですね。
 何なら、両の手足を斬り落として、登録申請を取り消してみますか?」

 声を荒げた冒険者(仮)に怯むことなく、お姉さんは冷たい目をして返答したんだ。
 お姉さんの言葉を聞いた冒険者(仮)は、怒りに顔を赤らめると。

「役人だと思って、大人しく従ってれば調子に乗りやがって。
 もう、いい、テメエみてえな、小娘の言うことなんて聞いてられるか。」

 吐き捨てるように声を上げた冒険者(仮)は剣を抜いて威嚇したんだ。
 剣を抜いて脅せばお姉さんが怯んで解放してくれると思ったみたい。

 次の瞬間、お姉さんは素早く冒険者(仮)の懐に入り込んだの。
 そして、冒険者(仮)の鳩尾に拳でキツイ一撃を入れながら。

「ダメですよ、人に向かって剣を向けるのも違反行為です。
 本来ならしばらく強制労働の重罪ですが…。
 これから、素直に研修を受けるなら今回は大目に見ますよ。」

 冷淡な口調で告げたんだ。
 鳩尾にキツイ一発を食らって、地面に転がりもんどりうつ冒険者(仮)。

「おい、今の一撃、見えたか?」

「いいや、素速や過ぎて目で追えなかったぜ。
 この姉ちゃん、無茶苦茶強えぞ。
 多分、俺達じゃ歯が立たねえ。」

 残りの二人は、打ちのめされた仲間を見てそんなセリフを漏らしていたよ。
 お姉さん達、全員がレベル二十だものね。
 トレントも一人で狩れるし、そこいらのチンピラではとても太刀打ちできないよ。
  
「さて、そこの二人、大人しく研修を受けて頂けますか?」
 
 お姉さんは凄むでもなく、冷淡な口調で問い掛けたの。
 悶え苦しむ冒険者(仮)を抱え上げた二人は、必死に首を縦に振ってたよ。
 
 これでやっと、実技研修が開始できるよ。
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