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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第340話 裸の王様にはなりたくないからね

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 冒険者ギルド『タクトー会』のガサ入れしてから二日後、おいらは拉致されていた三十六人のお姉さん達を連れて王宮を出たの。
 目的地は『ハニートレント』の森。そこで、前日に続いてお姉さん達の訓練をするんだ。

 朝、王宮を出て街中に差し掛かると…。。

「うあぁ、かっわいぃ!
 おねえちゃん、それ、なににのっているの?」

 小さな女の子が、おいら達が乗るウサギに興味を引かれてやって来たよ。
 おいらがその子の側でウサギを停めると。

「これ、ダメでしょう。お貴族様の通行の邪魔をしたら。」

 慌てて母親らしき人が出て来て、その女の子を叱ったの。
 まあ、通行を妨害されると怒る貴族もいるし。
 質が悪い貴族になると、馬車の前に飛び出して来た人を平気で轢き殺す奴もいるみたいだからね。

 お母さんに叱られて、話しかけて来た女の子はシュンとしちゃったよ。

「そんなに叱らなくて良いよ。
 走っている前に飛び出してきた訳じゃないし。
 ゆっくり移動している脇から声を掛けられたくらいじゃ怒らないから。」

 おいらが母娘にそう伝えると。

「おねえちゃん、おこってなぁい?」

「うん、全然怒ってないよ。
 ただ、走っている馬車とかの前に飛び出したらダメだよ。
 危ないからね。」

「うん、わかった!」

 飛び出しはダメって注意すると、女の子は元気に返事を返してくれたよ。

「そう、良い子だね。
 そうそう、おいらが乗っているのはウサギだよ。
 可愛いでしょう?」

「ウサギさんっていうの? かぁいいね。」

 おいら達の騎乗するウサギに興味津々な様子の女の子。
 辺境の町でもこんな事はしょっちゅうだったし、そんな時は大抵…。

「おねえちゃん達、これからウサギに乗って町の外にお出掛けなんだ。
 一緒に来るなら、ウサギに乗っけてあげるよ。」

 ウサギに乗っけて欲しいと思っている子がほとんどなんだよね。
 この子も例にもれず…。

「のる! のりたい!」

「あっ、いけません!
 お貴族様にご迷惑おかけするなんて。」

 女の子はおいらの言葉に飛びついたのだけど、お母さんはそれを止めたんだ。
 まあ、この国、かなり身分制度が厳格みたいだから、特にヒーナルが簒奪をしてからは輪をかけて。
 我が子が貴族に馴れ馴れしくして不興をかうことになったら拙いと懸念しているんだろうね。

「遠慮すること無いよ。
 おいら、この国の女王マロン。
 おいらが、良いと言っているのだから、乗りたければどうぞ。」

 おいらが女の子にそう話し掛けると、その子はおいらとお母さんを交互に見て…。

「のりたい!」

 ウサギの魅力には抗えないかったみたい。
 返事をすると女の子はウサギに抱き付いて来たよ。

「心配しないで良いよ。
 夕方までには無事に送り届けるからね。」

 おいらはお母さんにそう告げると、女の子を抱き上げてウサギに乗せたんだ。
 お母さんは凄く恐縮してしまい、本当はダメと言いたかっただろうけど言葉を飲み込んでいたよ。

「わーい! モフモフ!」

 ウサギの背に顔を擦り付けて喜んでる女の子を、抱きかかえるように前に乗せておいらは町の外へお出掛けしたの。

       **********

 王都の外に出るのは初めてという女の子を乗せて草原へ出たおいら達。
 女の子は初めて目にした、広大な草原の景色に終始はしゃいでいたよ。

「女王様、随分と子供に優しいんだな。
 王侯貴族ってのは、お高く留まっていて市井の子供なんて相手にしないもんだと思ってたぜ。」

 女の子と楽しそうに喋りながら草原を進むおいらをみて、ルッコラ姉ちゃんがそんなことを言ったの。

「最初に言った通り、おいら、市井で育ったから身分とかあんまり気にしないんだ。
 だいたい、そんなことを言ったら、ルッコラ姉ちゃんのおいらに対する接し方なんて。
 前王のヒーナルあたりなら、無礼打ちにされていたかもしれないよ。
 この子に接するのも、ルッコラ姉ちゃん達に接するのも同じだよ。
 それに、市井に住んでいた時は、しょっちゅう街の子をこんな風に乗せてあげたんだよ。」

 それに、オランも言ってたもの。
 この国はそうじゃないかも知れないけど、シタニアール国では王族もなるべく市井の民と親交を持つようにしているって。
 『王侯貴族は民を支配するものではなく、より住み易い世の中を作るために民から統治を任されてるもの。』
 おらんが小さな時から聞かされていると言う、その言葉はとても良いと思うんだ。

 おいらの家の家訓が、『国は民のためにあるもの、王侯貴族は民を護るためにあるもの』だったと聞いていて。
 それも良いけど、同じような内容でもオランの家の家訓の方がしっくりくるんだ。
 多分、王侯貴族と民を同じ高さの目線で捉えているように聞こえるからだと思うの。
 王侯貴族は民の上に立つのではなく、同等な位置に立っている民の代表なんだと。
 『護る』だと、何だか上から目線みたいだものね。

 おいらも、オランの家の家訓を見習って、民に愛される王室を目指したいと思っているの。
 こうして自然に触れあえるような。

 おいらがそんな話をすると。

「ふーん、そうなんだ。
 それで、わたし達みたいな町娘を騎士にしたり、役人にしたりしようってのか。」

「そうだよ、ルッコラ姉ちゃん達、新しい近衛騎士団は責任重大だよ。
 ヒーナルの治世の時、騎士団は凄く横柄で市井の人の鼻つまみ者になっていたみたいだしね。
 近衛騎士団は、おいらが女王になって生まれ変わった王室の看板になるんだ。
 民に愛される王室の看板として。
 おいらのお側に侍る近衛騎士団が、市井の人に親しまれるようになってもらわないとね。」 

「そうか、わたし等、責任重大だな。
 街からならず者を駆逐して、誰もが住み易い街を作るんだからな。
 それだけじゃなくて、威張ることなく、親しみやすい態度を心掛けないとな。」

「そうそう、困っている人がいたら気軽に助けを求めることができる騎士団になってね。」

 ルッコラ姉ちゃんとそんな会話を交わすうちに、おいら達は『ハニートレント』の狩場に着いたんだ。 

       **********

 例によって、三十六人のお姉さん達にトレント狩りを実践してもらったんだけど。
 二日目は、初日と違い単独でトレント狩りに挑んでもらったの。 

 女の子にウサギの背に乗ったままで見ているようにお願いして。
 おいらは、スフレ姉ちゃんと手分けして、トレントへ挑むお姉さんのサポートに回ったの。

 オランが最初に単独トレント狩りに挑んだ時もそうだったけど。
 レベル二十にもなると、前面や側方から襲ってくる枝は慣れれば危なげなく対処できるんだ。
 でも、背後から襲ってくる枝には注意が疎かになって、おいらが危ないところを助けることになるの。

 それを一度、二度と繰り返すうちにコツが掴めてきて。
 三体目、遅い人でも四体目を倒する時には全員が単独でトレントの討伐に成功していたよ。

「みんな、お疲れさま。これで事前研修は終わりだよ。
 八本の鋭い枝で攻撃してくるトレントを一人で狩れれば、もう大丈夫。
 冒険者のヘッポコな剣なら、八人掛かりでもトレントの攻撃よりずっと温いから。
 冒険者なんか、ちっとも怖くないよ。」

 全員が単独でのトレント狩りを成功させたことを確認すると、おいらは訓練終了を告げたの。
 トレントを一人で狩れるようになれば、もう冒険者なんて怖くないからね。
 後は、お姉ちゃん達の住む場所を手配すれば、各自の配属先に行ってもらうことが出来るね。

 その日も勿論、狩ったトレントは全ておいらの『積載庫』に入れて回収したよ。
 一人頭、三本ないし四本のトレントを狩ったから凄い数になったの。

 『スキルの実』と『ハチミツ壺』を売ってみんなに均等に分けたら…。

「こんなに頂いてしまって良いんですか?
 昨日頂いた銀貨五百枚だって、私達田舎者には大金ですのに…。
 銀貨一万枚なんて大金、生まれて初めて見ました。」

 前日とは桁外れに大きな布袋を目の前に置かれて、そんなことを尋ねて来るお姉さんがいたよ。
 銀貨一万枚と言えば、ちょっとした役人の年収だものね。信じられないのも無理ないよ。

「うん、でも、実際、それがお姉ちゃん達が倒したトレントをお金に換えたもんだし。
 スフレ姉ちゃんにも、指導料として銀貨一万枚を渡してるから。
 遠慮なく受け取っておいて。」

 繰り返しになるかもしれないけど、これって普通のことじゃないよ。
 普通の冒険者は、単独で『ハニートレント』を狩ることなんかできないし。
 ましてや、『ハニートレント』三体分の収穫物を持ち帰ることなんて出来ないから。
 全てはおいらの『積載庫』があるからこそできることだからね。

 そして。

「じょうおうさま、ありがとう。
 すっごくたのしかった!」

 やってきたのは王都の住宅街、お屋敷街ではないけど小ぎれいな家が集まった平均的な市井の民の住む区画。
 辺境の町の鉱山住宅よりはずっと大きくてキレイな家に女の子は住んでいたの。

 家の前まで送ってくると、お母さんが心配そうに庭に出て待っていたよ。

「女王様、娘がお世話になり有り難うございました。」

「気にしないで良いよ、おいらも楽しかったから。
 これ、今日のお土産ね。
 その子に美味しいお菓子でも作って上げて。」

 感謝の言葉と共に頭を下げたお母さんに、おいらは『ハチミツ壺』を二つ手渡したの。

「わあ、はちみつだ! じょうおうさま、ありがとう!」

 女の子はお母さんに渡した壺の中身がハチミツだと知ってたみたいで凄く喜んでいたよ。

「どういたしまして、おいらが町を歩いていたら気軽に声を掛けてね。
 お友達も紹介してくれると嬉しいな。」

 おいらが女の子にそう返すと、女の子は満面の笑みを浮かべて返事をしてくれたよ。

「うん、また、うさぎさんにのっけてね。」

 おいらはいつでも乗せてあげると約束して、その子の家を後にしたんだ。
   
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