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第十一章 小さな王子の冒険記

第258話 そう簡単には再開できないって

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 ワームを無事討伐した訳だけど。
 念には念を入れないと鉱山の再開は出来ないということで、その後十日ほど様子を見たの。
 とは言え、騎士の姉ちゃん達を何時までも鉱山に張り付けておく訳にはいかないから。

 毎朝、アルトが一人で坑道の入り口前広場へ行って『ゴムの実』の果肉をぶちまけて。
 お昼頃に再び行って、魔物が出てきた様子が無いかを確認したんだ。

 で、十日後。

「十日、様子を見たけど魔物は一匹も出てこないかったわ。
 もうこの付近の魔物は全て退治したと考えて良さそうね。
 それじゃあ、最後に坑道の中に魔物が残っていないか確認するわよ。」

 そう言って、アルトはおいら達を鉱山に連れてきたんだ。
 『妖精の光珠』の灯りを頼りに、アルトは再び坑道中を隈なく点検していったの。
 この日は、コウモリも、ムカデも、一匹たりとも見当たらなかったよ。

 坑道の最奥までやって来たアルトは、そこで一旦おいら達を『積載庫』から降ろしたの。

「マロン、少しこの付近の岩を砕いてちょうだい。」

 アルトはそう言いながら、不良冒険者から取り上げた安物の剣を差し出してきたんだ。
 おいらは、受け取った剣で力任せに、行き止まりになった場所の岩を斬り付けてみたの。

 すると、ガチン!という鈍い音と共に、壁面の岩が大きく割れて崩れたんだ。

「信じられんのじゃ。
 幾らマロンのレベルが高いとは言え。
 そんな安物の剣で斬り付けたくらいで、岩が抉れるとは…。
 普通は剣の方がへし折れるのじゃ。」

 壁面が抉れるように崩落する様子をみてオランが驚いてた。
 岩が崩れるのを見ながら、おいらは別のことを感心してたよ。
 『クリティカル』って岩が相手でも発生するんだってね。
 そう言えば、以前、鉄製の金庫を一刀両断にしたっけ。

「マロン、足元に崩れている岩を全部『積載庫』に収納してみて。」

 アルトの指示に従って、足元に積み上がった岩を『積載庫』にしまうと。

「マロン、今収納した岩を確認するのよ。」

 矢継ぎ早にアルトから指示が飛んできたの。

 指示に従って、『積載庫』の中の岩を確認すると…。

『ダイヤモンド鉱山の岩(ダイヤモンドの原石が含まれている)』

 と書いてあったの。それをジッと見ていると…。

『ダイヤモンドの原石を分離しますか?』

 という質問が現れ、『はい』、『いいえ』って選択を迫って来たよ。
 『はい』を選択すると、『岩』が消えて『ダイヤモンドの原石』が沢山表示されたの。

「マロン、どんな感じ?」

「ええとね、岩を確認したら、ダイヤモンドの原石が分離できた。
 原石は何個って表示されてなくて、一つずつ沢山表示されている。」

「ふーん、それは原石が一つ一つ大きさも品質も違うからね、きっと。
 原石も確認してくれるかしら。」

 アルトに指示されるがまま、幾つかの原石を確認して見ると。

『ダイヤモンドの原石:最高品質、大粒、装飾品向け、資産価値大』

とか、

『ダイヤモンドの原石:低品質、極大粒、儀礼品向け、資産価値中』

更には、

『ダイヤモンドの原石:低品質、小粒、工芸品の装飾向け、資産価値皆無』

なんて表示されていたんだ。

 試しに、最高品質の原石を見ていると…。

『研磨、カッティングしますか?』と尋ねられたんで、『はい』を選択したら。
 今度は、『大きさ重視』、『品質重視』と尋ねてきたよ。

 『品質重視』を選択すると、『カッティング中』→『研磨中』→『完了』という表示が出て来たの。
 最初は、『カッティング中』という文字が点滅してたんだけど、点滅が『研磨中』に代わり、…。
 最後に『完了』の文字が点灯すると、ピー!という音が頭の中に鳴り響いたの。
 その時、ダイヤモンドの原石は、『ダイヤモンド:最高品質、大粒、資産価値大』に変わっていたよ。
 毎度のことながら…、何なのだろうね、この機能は。お便利過ぎるよ。

「はい、アルト、こんなのが採れたよ。
 最高品質で、大粒って説明がされてる。
 資産価値大だって。」

 おいらは、『積載庫』から完成したダイヤモンドを出してアルトに見せたんだ。
 それは、シューティングビーンズの豆粒の何倍も大きくて、『妖精の光珠』の光を浴びてキラキラと輝いてた。 
「凄いわね、ちょっと掘っただけで、こんなのが出てくるなんて。
 周辺国最大のダイヤモンド鉱山だと言われただけのことはあるわ。
 これなら、操業再開しても大丈夫そうね。
 それは、マロンが手間賃代わりに貰っておきなさい。
 どうせ、バレはしないし。」

 アルトは、ダイヤモンドをネコババしておけって、悪いことを言ってたよ。
 まあ、おいらも素直にもらっておくけどね。
 ワームを倒す時に死にそうな目に遭ったんだもん、このくらいの役得がないとね。

     **********

 鉱山の周辺や坑道の中に魔物がいなくなったし、まだダイヤモンドが採掘できることも確認できたということで。
 おいら達は、ライム姉ちゃんの所に知らせに行ったの。

 アルトはライム姉ちゃんに会うなり、ダイヤモンド鉱山の報告をするから人を集めろと指示したよ。
 ライム姉ちゃんとレモン兄ちゃん、それにクッころさんの他、先々代のゼンベー爺ちゃんと家宰のセバスお爺ちゃんも呼んでもらったの。

 みんなの前で、魔物の討伐が完了したことを報告すると。

「儂の目の黒いうちに、鉱山を奪還できるとは思いもしませんでした。
 アルト様、色々とご支援いただきまして、感謝致します。
 これで、儂も安心して亡き妻のもとへ旅立てるというものです。
 妻も草葉の陰でさぞかし喜んでいる事でしょう。」

 いの一番にゼンベー爺ちゃんが、目に涙を浮かべてアルトに感謝の気持ちを伝えたの。
 すると、アルトは…。

「あんた、何を一人で楽になるつもりでいるのよ。
 ライム一人で、あんな大きな鉱山を切り盛りできる訳ないでしょう。
 あんたとセバスお爺ちゃん、二人にもまだまだ働いてもらうわよ。
 鉱山の経営が軌道に乗るまでは、死なれては困るのよ。
 『長生きして、この領地が往時の繁栄を取り戻すのを見届けてやる。』くらいの気概を見せなさい。」

 もう思い残すことは無いと言わんばかりのゼンベー爺ちゃんを叱咤したんだ。

「そうですな、大旦那様。
 私達も若い二人に責任を押し付けて、無責任に逝ってしまう訳にも参りませんぞ。
 ライム様も、レモン様もしっかりなされているとはいえ、鉱山経営は全くの素人。
 私らが先人より引き継いでいる鉱山経営の手法を伝授しませんと。」

 セバスお爺ちゃんもアルトの言葉に同意していたよ。

「鉱山を取り戻したと聞いた以上、こうしてはおられません。
 幸いにして、鉱山技師や研磨師などでこの町に隠居しておる者が居ります故。
 まだ、体が動く者は動員をかけてみましょう。
 皆、老いぼれで無理は出来ないでしょうが、若いモンの指導くらいは出来ましょうて。」

 技術者は一朝一夕には育たないし、ダイヤモンドは高価な物なので信用の置ける者でないと要職に就けることは出来ない。
 セバスお爺ちゃんはそう言って、かつてダイヤモンド鉱山の技術者で存命な人を集めて若い人の指導を任せると言ってたよ。
 全員、六十代後半から七十代らしいから、かなりのお年寄りを集めることになりそうだね。

「しかし、アルト様。
 アルト様のおかげで、この領地に他所から訪れる者が増え。
 宿屋や酒場が繁盛するようになりましたが。
 今の時点では、税収が大きく増加している訳ではございません。
 現状、男爵家の収入はトレントの木炭から得られるモノが中心でして。
 騎士団の維持や傷んだ道路の補修などで出費が嵩んでいるため。
 まだまだ、男爵家の者が食べていくのがやっとの状態なのです。
 率直に言って、鉱山を再開するための初期投資をするには心許ないのですが…。」

 それまで、みんなの話を黙って聞いていたレモン兄ちゃんが、男爵家の台所事情を説明したんだ。
 婿養子なので、最初は控え目に聞きに回っていたみたいなのだけど、財源の事は見過ごせなかったみたい。

 確かに、おいらが住んでいる町なんて見違えるほど賑やかになったけど、税は取られてないもんね。
 おいらの住む町から領主の懐に入るモノと言えば…。
 『STD四十八』の興行収入の一部や騎士団のお姉ちゃんの興行収入くらいかな。
 ライム姉ちゃんの家の収入には、あんまり役立っていない訳だ。

 鉱山を再開させるためには、採掘する人を雇わないといけないし、機材を揃えないといけない。
 ダイヤモンドは貴重品なんで、鉱山や輸送隊の警備のために騎士も増員しないといけない。
 もちろん、鉱山の運営を指揮する鉱山技師や研磨などダイヤモンドの加工をする技術者も雇わないとね。
 それは、ダイヤモンド鉱山の創業前からお金を必要とする事なんだよね。

 レモン兄ちゃんの指摘に、みんな頭を抱えちゃったんだ。

     **********

 それで、結局どうなったかと言えば…。

「さあ、マロン、ちゃっちゃと掘る!
 早く掘らないと陽が暮れちゃうわよ!」

「マロンは凄いのじゃ。
 私が剣で殴ったくらいでは、少ししか岩が崩れんのじゃ。」

 おいらが、初期投資分のダイヤモンドを掘ることになったの。
 『クリティカル』のスキルを活かせば、一度に大量の岩が砕けるし。
 その後は、ダイヤモンドの完成品まで、『積載庫』が自動で加工してくれるからね。
 人を何十人雇うより、ずっと効率的にダイヤモンドの採掘が出来るって。
 
 おいらが原石を含んだ岩の採掘からダイヤモンドの加工までやって、アルトが王都に売りに行くの。
 もちろん、ただ働きじゃないよ、手数料として売上げの三割を貰うことになったから。
 その間に、ライム姉ちゃん達は従業員や資材の手配をして、クッころさんは王都で騎士の募集をするの。

 アルトは、

「こうすれば、初期費用を捻出することに加えて。
 鉱山の操業再開までに、ハテノ男爵領のダイヤを宣伝できるから。
 まさに、一石二鳥ね。」

 なんて言ってるけど。
 そのせいで、おいらは、朝から晩まで薄暗くて狭い坑道の中で岩を掘るハメになったよ。
 
 これって、幼女虐待だよね、トホホ…。
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