ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十一章 小さな王子の冒険記

第257話 えっ、おいらが討伐するの?

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 『ゴムの実』の果肉をばら撒いて魔物を釣り出し、離れた場所から大弓を使って討伐する作業を延々と繰り返すこと三日間。
 四日目には、『ゴムの実』の果肉をばら撒いても魔物は一匹も現れなくなったの。
 しばらく待って、魔物が現れないことを確認すると、アルトは坑道の入り口に『ゴムの実』の果肉を撒いてたよ。

 そしてアルトは、しばらく様子を窺っていたけど。
 坑道の中に潜んでいるはずのワームは、いっこうに姿を現す気配がなかったの。

「付近の魔物はもういなくなったかしら…。
 あと厄介なのは、坑道から出てこないワームよね。
 嗅覚が無いのか、潜んでいるところまで匂いが届かないのか。
 中に潜んでいるのが一匹だけで、番がいなのかもしれないわね。」

 アルトがそんなことを呟いたので、おいらは尋ねてみたんだ。

「それでどうするの。
 ワームが姿を現すまで、何時までもここで待ってるの?」

「まさか。
 私もそんなに暇じゃないわ。
 ここは、エクレア達に任せても大丈夫そうだし。
 これから坑道の中へワームを討伐しに行きましょう。」

 アルトはそう返答すると、クッころさんに自分は坑道の中に潜む魔物を退治しに行くことを告げ。
 クッころさん達には、ここに残って後から魔物が現れたら討伐しておくようにと、指示したんだ。

 おいらとオランは、アルトの『積載庫』に乗せてもらい、同行することになったの。

 坑道の中に入ると…。

「見事に真っ暗じゃな。
 これでは、魔物に不意打ちされたらひとたまりも無いのじゃ。」

 オランの言葉通り、坑道に入るとすぐに外からの光は届かなくなり窓の外は一面の闇になったよ。
 これじゃ、本当に危ないと思っていると、急に視界が明るくなったよ。
 目の前に浮かんだ明るく輝く光の珠、アルトが『妖精の光珠』を灯したみたいだった。

 どんな力で光珠を制御しているのか不思議だけど、光珠はアルトの少し前方をプカプカ浮きながら移動していたよ。
 
 坑道の中は凄く入り組んでいて驚いた。
 アルトは分岐点に行き当たると、手にした棒みたいな物で壁に来た方角を刻んでたの。
 分岐点は右へ曲がると決めて、アルトは進んでいるようだった。
 そして、行き止まりに突き当たると引き返して、分岐点をまだ通っていない方向へ進んで行ったの。

 そんな要領で、行き止まりにまで行っては引き返して、別の道を進むというのを繰り返したんだ。
 最終的には坑道の全てを隈なく点検するつもりみたいだよ。

 坑道を進む間にも…。

 バリ!バリ!バリ!

「ええい、鬱陶しい、雑魚は出てこないで!」

 鋭い牙を持っているんで多分魔物だと思うけど、コウモリの姿の生き物がアルトを襲ってくるの。
 アルトってお人形サイズだから、格好の獲物だと思われているみたい。

 どうやら、このコウモリ、巨大なワームにとっては腹の足しにもならないようで見逃されているみたいだよ。
 坑道の中にウヨウヨいるの。

 他にも…。

「うう、キモいのじゃ。
 あれは魔物なのじゃろう。
 あんな巨大なムカデが普通にその辺におったらイヤなのじゃ。」

 確かに目にするだけで怖気が走る巨大なムカデの魔物なんかもいて、アルトが手当たり次第にビリビリで倒していたよ。
 ダイヤモンド鉱山の操業を再開した時にあんなのが残っていたら拙いから、倒してもらえるのは有り難いと思うけど。
 ムカデの魔物がワームの餌食にならずに坑道の中に生息しているのが不思議だったよ。
 ワームって、結構好き嫌いが多いのかな。
 ムカデの魔物って、毒持ちだし、殻が堅そうだし、アレを丸呑みすると無数の足が口の中で蠢きそうで食べたくないのも頷けるけど。

 オランとそんな事を話していると…。

「見つけたわ。」

 アルトのそんな呟きが聞こえたんだ。

         **********

 そこは、坑道の奥深く、何故か広場状になったスペースがあったの。
 鉱山で働いていた人の休憩スペースか、何かなのかな。

 とにかく、坑道を抜けた先に広い空間があって、そこにワームがいたんだ。
 夜行性という予想が当たっていたようで、ワームはとぐろを巻いて眠っているみたいだった。

 でも、ホント、蛇ってキモいね。見ているだけで悪寒がするよ。

 一ヶ所に留まってワームを観察していた様子のアルトだけど。

「マロン、やっぱり、アレ、あなたが討伐しなさい。」

 おいら達の『特別席』に入って来たアルトが唐突に言ったんだ。

「えー、それは遠慮したいかな。
 おいら、足が無いのと、足が沢山あるのは苦手なんだ。
 あのキモい姿で睨まれたら、足が竦んじゃうよ。」

 だいたい、アレって、九歳児に相手させるような魔物じゃないよね。
 ワームの胴回りって、おいらの背丈よりはるかに大きいし。
 巨大な猪の魔物を一飲みに出来るのだもの。
 おいらのスキル『完全回避』だって、丸飲みまで回避してもらえるかどうか不安だよ。

「大丈夫よ、危なくなったら私が助太刀してあげるから。
 せっかくのレベルを上げるチャンスなんだから。
 やってみなさい。」

 アルトには何か思うところがある様子で、無情にもおいらの返答を却下したんだ。
 そして、おいらは、問答無用で『積載庫』の中から広場に出されちゃった。
 何故おいらが討伐する必要があるのかを、教えてくれる気はないみたい。 

「じゃあ、ワームの目を覚まさせるから、気合いを入れて倒しなさいよ。」

 アルトの言葉に、おいら、慌てて『積載庫』から剣を取り出したよ。ノーム爺から買った業物の剣をね。
 おいらが剣を出したことを確認すると、アルトはワームに向かってビリビリを放ったの。

 パチン!

 そんな音と共に、ワームの頭の辺りに青白い光が走ると、ワームの目が開いたの。
 そして、ワームは鎌首もたげて周囲を警戒し、やがておいらを視線に捕らえたんだ。

 怪しく光るワームの目に睨まれたおいらは、足が竦んで動けくなっちゃったよ。
 よく、蛇に睨まれた蛙というけど、まさにそんな感じ。

 鎌首をもたげたまま、おいらを睨んでいたワームだけど。
 やがて、その大きな顎門を開くと…。

 ボワッ!

 いきなり火を噴きやがったの、しかももの凄い灼熱の炎を。
 おいら、食い掛かられるものだと思っていたから一瞬呆気にとられちゃった。
 惚けている間にも迫りくる劫火、これは死んだと思ったら…。

「うわっち!」

 驚くことに、炎の攻撃にもスキル『完全回避』はきっちり働いてくれたよ。
 頬に微かな炎の熱さは感じたけど、火傷をしない位置まで炎から体を遠ざけてくれたんだ。

「ふむ、『回避』って便利なスキルね。
 物理攻撃以外もちゃんと避けてくれるんだ。」

 おいらが命からがら劫火を逃れたというのに、アルトはそんな呑気な事を言ってたの。 

 一方のワームはというと、おいらが炎を掻い潜ったと見るや。

 ボワッ!

 再び炎を吐いたの。
 当然、『回避』が働いてそれを避けるおいら。

 ワームが炎を吐く、おいらが炎を回避する、そんな事を何度か繰り返すうちにワームは焦れて来たみたい。

 鎌首をより高くもたげたワームは、猛毒を持つという二本の牙を剥き出しにして…。
 目にもとまらぬ勢いで、おいらに襲い掛かってきたんだ。全力で殺し気に来たという勢いでね。

 目の前に迫るワームの毒牙、それがまさにおいらに噛みつくという寸前で『回避』が働いて。
 毒牙を躱したおいらの前をワームの大きな頭が通り過ぎようとしていたの。

 おいらは、ワームの頭の付け根を狙って剣を振り下ろしたんだ。
 剣がワームを捉える瞬間、『クリティカル発生率』に関する二つのスキルが働いて…。

 スパッ!っと、ワームの首が刎ね飛んだよ。

 と同時に、辺りに血飛沫が飛散して、地面が血に染まったんだ…。

「マロン、ぼさっとしないで、ワームを『積載庫』にしまいなさい。
 もたもたしていると『生命の欠片』に押しつぶされるわよ!」

 アルトの狼狽した言葉を耳にして、おいらは慌ててワームを『積載庫』の中に放り込んだの。
 すぐに積載庫の中を確認すると、見たこともない桁数の『生命の欠片』が収納されていたよ。

 たしかに、不意打ちで『生命の欠片』が崩れて来たら、体に取り込む前に押しつぶされそうな数だった。

「良くやったわ、マロン、見事だったわよ。
 マロンくらいのレベルになってくると、レベルを上げるのが難しくなってくるのは分かるでしょう。
 自分より格上だと思う魔物がいれば、積極的に討伐するようにしなさい。
 あなたには、二つのお便利スキルがあるのだから。」

 ワームを見た時に、アルトにとっては端数にしかならないけど、おいらのレベルなら上がると踏んだらしいの。
 オランでは敵わないと思ったみたいで、おいら一人で倒すようにさせたみたい。
 二人で対峙してオランが足手まといになると、おいらとオランの二人とも怪我をするかもしれないってね。

「さて、『生命の欠片』を取り込むのは後回しにして。
 先に、この坑道の中を隈なく探索するわよ。
 鉱山の操業再開の障害になるような魔物は全て駆逐するからね。」

 ホッとしているおいらに、アルトはそう告げると再び『特別席』に入れられたの。
 この後、アルトの言葉通り坑道の隅々まで見て回ったけど、大物はいなかったよ。
 コウモリとかムカデの魔物が多くて、アルトが一蹴してた。

 こうして、アルトの目論見通り、ダイヤモンド鉱山の奪還作戦は成功したの。
 この日、ハテノ男爵領は、周辺国の中で最大のダイヤモンド鉱山を魔物の手から取り戻したんだ。
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