上 下
196 / 848
第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第196話 装備もレベルアップしたよ!

しおりを挟む
「ところで爺さん、まだ名前も聞いてなかったな。
 俺はタロウ、こっちの子供はマロンだ。」

「おお、そうじゃったのう。
 案内をしてもらうのに名乗ってもおらなんだ。
 儂はノームと言う。
 南に見える山脈の奥深くにある里の長老の一人で。
 買い付けの担当をしておる。」

 ノーム爺の話だと、『山の民』の里は幾重にも重なる南の山脈の奥の方にあって。
 人族の国では『シタニアール国』の領域内になるそうだよ。
 ノーム爺は、里で必要とする物資を人里から買い付ける役割を一手に引き受けているんだって。
 『山の民』の人達は、皆職人気質で工房に籠ってモノばかり作ってて、人里に出たがらないそうだよ。
 かと言って、獣道みたいな道しか通っていない里に行商人が来てくれる訳もなく。
 長老の中で一番若いノーム爺にお鉢が回ってきたんだって。

 ノーム爺も、本当は工房へ引き籠っていたいらしいけど、…。
 人の町で風呂屋に行くことだけを励みに、自分を𠮟咤して山を降りて来るんだって。

「本来なら、この辺りまでなら五日で来れるはずなのに。
 金剛石の鉱山が魔物の巣になっちまったもんだから。
 ぐるっと迂回するハメになって十日も掛かっちまった。」

 普段なら、シタニアール国の町に買い付けに行くらしいけど。
 前回、町に買い付けに出た時に耳にしたそうなんだ。
 ハテノ男爵領の町へ行けばトレントの木炭が幾らでも買えるとの噂を。
 
 『山の民』は鍛冶だけじゃなくてモノ作り全般が得意なんだって。
 炭焼きも得意らしいけど、今の里の近くにトレントの生息地が無いのもさることながら。
 『山の民』の小さな体躯では、トレントを狩るのは大変らしいの。
 トレントの木炭は人の町で買うしかないんだって。
 
 鍛冶を生業とする『山の民』の人々にとってトレントの木炭は垂涎の的らしくて。
 幾らでも手に入るとの噂を聞き付けて早速やって来たみたいだよ。

「ふーん、でも爺さんよ。
 木炭なんて嵩張るモノ、その身一つじゃ大した量も持って帰れねえだろう。
 王都から買い付けに来る鍛冶屋なんて、荷馬車を何台も仕立てて買いに来ているぜ。
 十日も掛けて出て来て、担いで帰るだけじゃもったいなくないか?」

 ノーム爺の話を聞いていて、タロウはもっともな疑問を口にしたんだ。

「おお、そうじゃのう。
 人族は、持っておらんのだったな。
 儂ら『山の民』には、秘伝の蔵を持っている者がおるのだ。
 何処にあるか知らんが、幾らでもしまって置ける蔵でな。
 何処にいても自由に出し入れできるのだよ。
 儂も、蔵を持っている者の一人だ。」

 どうやら、ノーム爺も『積載庫』を持ってるみたい。
 人間が『積載庫』のスキルのことを知らないから、ナイショにしておくつもりなんだね。
 アルトの『妖精の不思議空間』と一緒で、煙に巻くつもりなんだ。

「なんだ、爺さんもアルトと同じチート持ちかよ。
 ラノベでよくある時空収納を持ってるなんて羨ましいぜ。」

 タロウは、またブツクサとこぼしているけど、凄く羨ましいそうだったよ。

「そんな訳だから、良い木炭があればいくらでも買って帰るつもりなのだ。
 売り物もたんまり持って来たしな。」

 行商人も来ない山の中で暮らしている『山の民』が人族のお金をそんなに持っている訳もなく。
 買い付けに行く時は、必ず里から売り物にするモノを持ってくるんだって。
 剣や槍のような武具から、鍋釜、包丁なんかの炊事用品まで。
 買い付けと言っても、売り買い両方するんだね。

 『山の民』の製品は、どれもみな一級品なんで高く売れるそうだよ。
 じゃあ、尚更、領都へ行ってもらわないとね。
 おいら達が住んでいる過疎の町じゃ、そんな高い物が沢山売れる訳ないもんね。

       **********

 ノーム爺を連れて町へ帰ってくると。

「なんじゃ、この人だかりはお祭りでもやっているのか?」

 町の広場に差し掛かると、広場の人通りを見てノーム爺はビックリしてたよ。

 『STD四十八』の興行がある時は、ギルドが運行する駅馬車が近くの町や村から見物人を連れて来るからね。
 宿屋を利用してもらうために、前日に着くように連れて来て、興行の翌日の朝に出発するの。
 ちゃっかりしてるよね。
 でも、そのおかげで町は前日から大賑わいで、屋台も前日から出ているんだ。
 ノーム爺がお祭りかと思うのも無理ないね。

「明日から『STD四十八』の興行があるからね。
 他所の町や村から見物人が来ているんだよ。
 四十八人で披露する剣舞が到底マネできる物じゃないと評判なんだ。
 それと、伴奏している耳長族のお姉ちゃんがキレイだって。」

 おいらが賑わいの理由を教えてあげると。

「何じゃと、『森の民』の演奏が聴けるじゃと。
 それは、是非とも見物していかないとならんな。」

 ノーム爺は、昔、耳長族の演奏を聞いたことがあるみたいで。
 明日は、興行を見物するつもりのようだよ。

「おっ、この世界ではドワーフとエルフは仲が悪くないは無いのか。」

 ノーム爺が耳長族の演奏に関心があると聞き、またタロウが勝手な事を言ってたよ。
 何で、仲が悪いものだと決めつけているの…。

「うん? ドワーフが儂らのことなら、エルフとは『森の民』のことか?
 何で、仲が悪い必要があるのだ。
 儂ら、『山の民』は酒を飲んで騒ぐのが唯一の楽しみと言っても良いくらいだ。
 『森の民』の演奏は、それにピッタリだぞ。
 『森の民』の里が沢山あった時分には、鍋釜と交換で良く演奏をしに来たもんだ。
 人族のバカ共が『森の民』狩りなんてしたものだからすっかり見なくなってしまったわい。
 何十年かぶりに『森の民』の演奏が聴けるのなら、ここまで出て来た甲斐があったわ。」

 山の中でモノ作りに没頭している『山の民』の唯一の娯楽がお酒を飲むことなんだって。
 「引き籠ってばかりいるから、風呂屋の楽しみも知らんのだ。」とノーム爺が嘆いてたよ。

 まだ、耳長族が沢山いた頃は、耳長族の人達が流しで演奏しに来たんだって。
 その時は、里を上げて歓迎して、飲めや歌えやの大騒ぎだったって。

「まあ、『森の民』の女が良いとほざいて、狩り尽くしおった人族の気が知れんがな。
 あんな細っこくて、『山の民』の女とは逆の意味で乳だか腹だかわからん女の何処が良いのか…。
 女子おなごは、出るところが出て、引っ込んでいるとこが引っ込んでる人族が一番だろうが。」

 ノーム爺は耳長族には好意的だけど、耳長族の女の人は好みではないみたい。
 まあ、人の好みはそれぞれだからね。

「そうじゃ。
 こんなに人がいるなら、良い商売ができるかもしれん。
 チョイと露店でも広げて、風呂代でも稼いでおくか。」

 ノーム爺って、本当に自由奔放だね。
 昼間から酒をかっ食らって草原で寝ていたかと思えば、今度はいきなり店を広げるって…。
 ちなみに、この町の広場で露店を広げるのは全くの自由だよ。
 王都みたいにお金を払って場所を借りる必要はないの。
 まあ、領主のライム姉ちゃんも統治を放棄した無法地帯だからね…。

 どんなものを売るのか興味があったんで、そのままノーム爺と一緒にいると。
 ノーム爺は何も無い空間から茣蓙ゴザを取り出して地面に広げたんだ。
 そこに、次々と鍋や釜、それに包丁なんかを並べていったよ。

「へえー、本当に色々なモノを持って来たんだな。」

 何もない空間から色々なモノを出すノーム爺を、タロウは感心しながら見てたんだ。

 でもね…。
 どれもこれも、無茶苦茶高いの。
 包丁なんか一番安いモノでも銀貨三十枚だって…。
 剣に至っては銀貨百枚からとか言ってるし。
 この辺境で誰がそんなモノを買うのってツッコミたいよ。

 そんな中で、おいらの目に留まった一本の包丁…。
 とってもキレイな刃文で、何故か心が引かれるんだ。
 で、お値段はと言うと…、銀貨百枚。

 おいらの食費が一日約一枚だから、百日分ごはんが食べられるよ…。
 でも、最近アルトのおかげで大分稼がせてもらって、『積載庫』の中にはウン千枚の銀貨が眠っているし…。

「おっちゃん、この包丁ちょうだい。
 はい、銀貨百枚。」

 物欲に負けちゃった…。
 おいらは、腰に下げた物入れ袋から出すふりをして、『積載庫』にあった銀貨百枚を差し出したの。

「おっ、嬢ちゃん、小っちゃいのに金持ちだな。
 それに、その包丁に目を付けるたぁ、大した目利きだ。
 その包丁は儂の作品の中でも自慢の一品なんだ。」

 ノーム爺は、嬉しそうにおいらが差し出した銀貨を受け取ると。
 自分が作った渾身の品だから値引きはしないと言いつつ。

「気分が良いから、オマケにこれをつけてやろう。
 護身用に持っておけば良い。
 その包丁ほどではないが、これもまずまずの出来なんだ。」

 おいらが買ったと包丁と一緒に、護身用の短い剣を渡してくれたの。
 懐剣、いやナイフかな。

 おいらの装備品が『錆びた包丁』から一気にグレードアップしたよ。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...