ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
197 / 848
第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第197話 『山の民』は天敵だって…

しおりを挟む

 心を惹かれた包丁を手に入れ、しかもオマケに短剣までもらえてホクホク顔でいると。

「あら、マロン、今狩りから帰って来たの?
 明日からまた、興行の集金係お願いね。」

 おいらを見つけたアルトが、人混みをかき分けてやって来たんだけど…。

「げっ!『山の民』じゃない!
 マロン、なんてモノを拾って来たの。
 元いた場所に戻してきなさい!」

 おいらと一緒にいるノーム爺に気付くと、ゴキブリを見るような目で言ったんだ。
 拾って来たのって、犬や猫じゃないんだから…。

「おや、これは妖精殿ではないですか。
 珍しいですな、人嫌いな妖精族が人の町にいるなんて。
 しかし、そんな酷い言われ方をしなくてもよろしいではないですか。」

「うるさい、あんた達『山の民』は人族以上に私達の天敵じゃない。
 あんた達、鉄が出るとみれば山を丸裸にして掘り返したあげく…。
 鉄を掘り尽くすとハゲ山を放置していなくなっちゃって。
 せめて、植林ぐらいしてからいなくなりなさいよ。」

 森の中に住み、森の恵みを受けて暮らしてしている妖精族。
 森を伐り拓いて鉄を掘り、掘り尽くすとそのまま放置する『山の民』は妖精族の生活圏を脅かす天敵なんだって。

「まあ、まあ、そんなに邪険にしなさんな。
 妖精族の住む森は、結界が張ってあって儂らでは手が出せんではないですか。
 儂らが、妖精族に迷惑をお掛けしたことがありましたかな。
 それは、豊かな森の中で暮らす妖精族にとっては気分の良いモノではないかも知れませんが。」

 お怒りのアルトに対して、どこ吹く風と呑気に答えるノーム爺。

「なに惚けたことを言ってるのよ。
 あんた達が鉄を作る時に出す煙、あれに当たると木が枯れるのよ。
 それだけならまだしも、『山の民』の里の近くでは毒の雨が降って森を枯らすし…。
 鉄を掘る時、鉄を作る時に出す毒水をあんた達、そのまま垂れ流すじゃない。
 下流にある森はそれで大被害なのよ。
 私達の仲間もそれに耐えかねてどれだけ引っ越した里がある事か…。」

 『妖精の森』は森は何処も結界に護られているから、『山の民』が直接手を出すことは無いようだけど。
 妖精が住む森の近くに、『山の民』の里が出来ることはままある事みたい。
 そんな時に、毒の煙や毒の雨、それに垂れ流された毒水で森の木が枯れたり、水源が汚染されたりするらしいの。

 基本、妖精族は争いを好まないので、『山の民』による被害が余りに酷いと里ごと他の森に引っ越しちゃうみたい。

「おや、そんな事がありもうしたか。
 しかし、鉄を作る時に出た煙や水の事まで儂らの責任と言われても…、勝手に出るモノですし。
 第一、放っておけば大地の浄化力で五十年もすればキレイになるでしょうが。
 そんな、かっかなさらなくても…。」

 ハゲ山だって五十年も放っておけば勝手に木が生えて元通りになるって。
 さすが三百年も生きるだけあって、そんな気の長いことを言っているノーム爺。
 アルトのお怒りなんて、全く意に介していないの。

「おお、ファンタジーの世界でも、『鉱毒』問題があるとは思わなかったぜ。
 そうだよな、『山の民』の里がどのくらいの規模か知らないが。
 里をあげて、鉄を作っていれば公害問題も起こるよな。
 この世界、妙なところで現実的だぜ。」

 アルトとノーム爺のやり取りを聞いてて、タロウが妙な感心の仕方をしてたよ。
 『にっぽん』という国でも、ずっと昔に野放図に鉱山を開発して同じような問題が多発していたんだって。

     **********

「はぁ…、もういいわ…。
 それで、引きこもりの『山の民』がこんなところまで来るとは珍しいわね。
 何をしに来たのよ。」

 何を言っても暖簾に腕押しな感じで、全く意に介した様子を見せないノーム爺。
 アルトは、そんなノーム爺を相手に真剣に怒るのが、馬鹿馬鹿しくなったみたい。

「いやなに、久しぶりに風呂屋でねっとりご奉仕してもらおうかと思うてな。
 ついでに、貴重なトレントの木炭を手に入れようかと思いやって来たのじゃ。」

 おっちゃん、おっちゃん、それ、本来の目的とついでが逆になってるって…。

「このエロじじい、子供の前で何てこと口走ってるのよ!
 いい加減にしないと町から摘まみ出すわよ!」

 ほら、アルトがキレた…。

「アルト、そんなに邪険にしなくても良いじゃん。
 大事なお客さんだよ、トレントの木炭、沢山買ってくれるって。
 ノーム爺がここで露店を広げてるのって。
 トレントの木炭を買い付けるためのお金を稼ぐためだよ。
 ほら見て、おいら、こんなに良い包丁買ったんだよ。
 ノーム爺の自身の作だって。」

 さっきから激おこモードのアルトを宥めつつ、おいらはお気に入りの包丁を見せたんだ。

「あら、性根が腐っている割には、良いモノを作るじゃない。
 流石、モノ作りには妥協しない『山の民』ね。
 ただのスケベ爺じゃないってことね…。」

 アルトはおいらが差し出した包丁をつらつらと眺めると、ノーム爺を少しは見直したみたい。
 今度は、ノーム爺が茣蓙ゴザの上に並べている品物を吟味し始めたんだ。
 そして、おいらの肩の上に飛んで来て。

「マロン、今、お金どのくらい持っているかしら?
 あのスケベ爺の持って来た品、どれも一級品よ。
 しかも、かなり安いわ。 
 王都へもっていけば、二倍、いえ、三倍で売れるから。
 お金に余裕があるのなら買っておきなさい。」

 そう耳元で囁いたの。
 また、王都へ行く機会があるから、その時武器屋に持って行って売りなさいって。
 おいらが、手持ちの銀貨の数を告げると、アルトは質が良くて割安の物から順番に教えてくれたよ。
 でも、一振り銀貨千枚の剣とか、目が飛び出るほど高い物を幾つも示されても…。

 試しにアルトに業物だと教えてもらった銀貨千枚の剣を買ってみることにしたんだ。
 銀貨千枚が詰まった布袋を差し出して、剣を買うと告げると…。

「嬢ちゃん、その歳で、普段から何て大金を持ち歩いているんだ。」

 ノーム爺、おいらが銀貨千枚を持ち歩いていることに目を丸くしてたよ。
 そりゃそうか、この町の炭鉱住宅なら一件買えるお金だもんね。

 おいらの隣では、タロウが「いったい何処に持ってたんだ、そんな金。」とか言って首を傾げてた。

「それはともかくとして、嬢ちゃんには敵わねえな。
 この剣は、里で一番の刀匠と呼ばれる長老から預かって来たもんなんだ。
 今回、持って来たモノの中で一番の目玉なんだがいきなり買われちまうとは。」

 村の人達から、売ってきて欲しいと頼まれた品を預かってくるそうなんだけど。
 あらかじめ、預ける人から売却希望の値段が指示されるらしいの。

 この剣を作った長老は自分の作品に厳しい人なんだって。
 この剣に何処か納得のいかない所があるみたいで、銀貨千枚で売ってこいと言われたそうなの。
 ノーム爺は人族の町なら銀貨五千枚でも買う人がいると助言したそうなんだけど。
 「こんな駄作をそんな値段で売ったら、儂の沽券に関わる。」と言われたんだって。

 ちなみに、その長老、自分の納得のいく品が出来ると、平気で銀貨十万枚とか言うんだって。
 ノーム爺は、いくら良くても剣一振りに銀貨十万枚も出す人はいないと、助言するそうだけど。
 全然聞いてくれなくて、いつも売り先を見つけるのに苦労しているみたいだよ。

 ノーム爺、「少しは相場と言うモノを考慮して欲しい」ってボヤいてたよ。

 今回、トレントの木炭を買い付けに行くと伝えたら、この剣をお金に換えて木炭を買って来いと言われたそうだよ。
 売却希望の値段が銀貨千枚と破格の安さなんで、人寄せの目玉に使おうと思ってたらしいの。
 店を広げるなりに、いきなり買われるとは思ってなかったって。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...