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第十章 続・ハテノ男爵領再興記
第197話 『山の民』は天敵だって…
しおりを挟む心を惹かれた包丁を手に入れ、しかもオマケに短剣までもらえてホクホク顔でいると。
「あら、マロン、今狩りから帰って来たの?
明日からまた、興行の集金係お願いね。」
おいらを見つけたアルトが、人混みをかき分けてやって来たんだけど…。
「げっ!『山の民』じゃない!
マロン、なんてモノを拾って来たの。
元いた場所に戻してきなさい!」
おいらと一緒にいるノーム爺に気付くと、ゴキブリを見るような目で言ったんだ。
拾って来たのって、犬や猫じゃないんだから…。
「おや、これは妖精殿ではないですか。
珍しいですな、人嫌いな妖精族が人の町にいるなんて。
しかし、そんな酷い言われ方をしなくてもよろしいではないですか。」
「うるさい、あんた達『山の民』は人族以上に私達の天敵じゃない。
あんた達、鉄が出るとみれば山を丸裸にして掘り返したあげく…。
鉄を掘り尽くすとハゲ山を放置していなくなっちゃって。
せめて、植林ぐらいしてからいなくなりなさいよ。」
森の中に住み、森の恵みを受けて暮らしてしている妖精族。
森を伐り拓いて鉄を掘り、掘り尽くすとそのまま放置する『山の民』は妖精族の生活圏を脅かす天敵なんだって。
「まあ、まあ、そんなに邪険にしなさんな。
妖精族の住む森は、結界が張ってあって儂らでは手が出せんではないですか。
儂らが、妖精族に迷惑をお掛けしたことがありましたかな。
それは、豊かな森の中で暮らす妖精族にとっては気分の良いモノではないかも知れませんが。」
お怒りのアルトに対して、どこ吹く風と呑気に答えるノーム爺。
「なに惚けたことを言ってるのよ。
あんた達が鉄を作る時に出す煙、あれに当たると木が枯れるのよ。
それだけならまだしも、『山の民』の里の近くでは毒の雨が降って森を枯らすし…。
鉄を掘る時、鉄を作る時に出す毒水をあんた達、そのまま垂れ流すじゃない。
下流にある森はそれで大被害なのよ。
私達の仲間もそれに耐えかねてどれだけ引っ越した里がある事か…。」
『妖精の森』は森は何処も結界に護られているから、『山の民』が直接手を出すことは無いようだけど。
妖精が住む森の近くに、『山の民』の里が出来ることはままある事みたい。
そんな時に、毒の煙や毒の雨、それに垂れ流された毒水で森の木が枯れたり、水源が汚染されたりするらしいの。
基本、妖精族は争いを好まないので、『山の民』による被害が余りに酷いと里ごと他の森に引っ越しちゃうみたい。
「おや、そんな事がありもうしたか。
しかし、鉄を作る時に出た煙や水の事まで儂らの責任と言われても…、勝手に出るモノですし。
第一、放っておけば大地の浄化力で五十年もすればキレイになるでしょうが。
そんな、かっかなさらなくても…。」
ハゲ山だって五十年も放っておけば勝手に木が生えて元通りになるって。
さすが三百年も生きるだけあって、そんな気の長いことを言っているノーム爺。
アルトのお怒りなんて、全く意に介していないの。
「おお、ファンタジーの世界でも、『鉱毒』問題があるとは思わなかったぜ。
そうだよな、『山の民』の里がどのくらいの規模か知らないが。
里をあげて、鉄を作っていれば公害問題も起こるよな。
この世界、妙なところで現実的だぜ。」
アルトとノーム爺のやり取りを聞いてて、タロウが妙な感心の仕方をしてたよ。
『にっぽん』という国でも、ずっと昔に野放図に鉱山を開発して同じような問題が多発していたんだって。
**********
「はぁ…、もういいわ…。
それで、引きこもりの『山の民』がこんなところまで来るとは珍しいわね。
何をしに来たのよ。」
何を言っても暖簾に腕押しな感じで、全く意に介した様子を見せないノーム爺。
アルトは、そんなノーム爺を相手に真剣に怒るのが、馬鹿馬鹿しくなったみたい。
「いやなに、久しぶりに風呂屋でねっとりご奉仕してもらおうかと思うてな。
ついでに、貴重なトレントの木炭を手に入れようかと思いやって来たのじゃ。」
おっちゃん、おっちゃん、それ、本来の目的とついでが逆になってるって…。
「このエロ爺、子供の前で何てこと口走ってるのよ!
いい加減にしないと町から摘まみ出すわよ!」
ほら、アルトがキレた…。
「アルト、そんなに邪険にしなくても良いじゃん。
大事なお客さんだよ、トレントの木炭、沢山買ってくれるって。
ノーム爺がここで露店を広げてるのって。
トレントの木炭を買い付けるためのお金を稼ぐためだよ。
ほら見て、おいら、こんなに良い包丁買ったんだよ。
ノーム爺の自身の作だって。」
さっきから激おこモードのアルトを宥めつつ、おいらはお気に入りの包丁を見せたんだ。
「あら、性根が腐っている割には、良いモノを作るじゃない。
流石、モノ作りには妥協しない『山の民』ね。
ただのスケベ爺じゃないってことね…。」
アルトはおいらが差し出した包丁をつらつらと眺めると、ノーム爺を少しは見直したみたい。
今度は、ノーム爺が茣蓙の上に並べている品物を吟味し始めたんだ。
そして、おいらの肩の上に飛んで来て。
「マロン、今、お金どのくらい持っているかしら?
あのスケベ爺の持って来た品、どれも一級品よ。
しかも、かなり安いわ。
王都へもっていけば、二倍、いえ、三倍で売れるから。
お金に余裕があるのなら買っておきなさい。」
そう耳元で囁いたの。
また、王都へ行く機会があるから、その時武器屋に持って行って売りなさいって。
おいらが、手持ちの銀貨の数を告げると、アルトは質が良くて割安の物から順番に教えてくれたよ。
でも、一振り銀貨千枚の剣とか、目が飛び出るほど高い物を幾つも示されても…。
試しにアルトに業物だと教えてもらった銀貨千枚の剣を買ってみることにしたんだ。
銀貨千枚が詰まった布袋を差し出して、剣を買うと告げると…。
「嬢ちゃん、その歳で、普段から何て大金を持ち歩いているんだ。」
ノーム爺、おいらが銀貨千枚を持ち歩いていることに目を丸くしてたよ。
そりゃそうか、この町の炭鉱住宅なら一件買えるお金だもんね。
おいらの隣では、タロウが「いったい何処に持ってたんだ、そんな金。」とか言って首を傾げてた。
「それはともかくとして、嬢ちゃんには敵わねえな。
この剣は、里で一番の刀匠と呼ばれる長老から預かって来たもんなんだ。
今回、持って来たモノの中で一番の目玉なんだがいきなり買われちまうとは。」
村の人達から、売ってきて欲しいと頼まれた品を預かってくるそうなんだけど。
あらかじめ、預ける人から売却希望の値段が指示されるらしいの。
この剣を作った長老は自分の作品に厳しい人なんだって。
この剣に何処か納得のいかない所があるみたいで、銀貨千枚で売ってこいと言われたそうなの。
ノーム爺は人族の町なら銀貨五千枚でも買う人がいると助言したそうなんだけど。
「こんな駄作をそんな値段で売ったら、儂の沽券に関わる。」と言われたんだって。
ちなみに、その長老、自分の納得のいく品が出来ると、平気で銀貨十万枚とか言うんだって。
ノーム爺は、いくら良くても剣一振りに銀貨十万枚も出す人はいないと、助言するそうだけど。
全然聞いてくれなくて、いつも売り先を見つけるのに苦労しているみたいだよ。
ノーム爺、「少しは相場と言うモノを考慮して欲しい」ってボヤいてたよ。
今回、トレントの木炭を買い付けに行くと伝えたら、この剣をお金に換えて木炭を買って来いと言われたそうだよ。
売却希望の値段が銀貨千枚と破格の安さなんで、人寄せの目玉に使おうと思ってたらしいの。
店を広げるなりに、いきなり買われるとは思ってなかったって。
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