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第八章 ハテノ男爵領再興記

第165話 冒険者って、ホント、他人の話を聞かないね…

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 護衛の冒険者を一蹴されてへたり込んじゃった組長さんを見下すようにライム姉ちゃんは言ったの。

「改めて告げます。
 私は、先日勅令に背いて処刑された兄に替わり領主となったライムです。
 今日は、幾つかのことを命じるつもりで参ったのですが。
 どうやら、追加で命じないとならないことがあるようですね。」

「あのロリコン領主が処刑されたってのは本当なのか?
 おい、それは何でだ!
 あいつは、かなりの悪だが用心深くて、法の抜け道を捜しては悪さをしてるんだ。
 処刑されるようなヘマはしないはずだぜ。」

 ライム姉ちゃんの言葉を俄かには信じられないようで、組長はそんな事を問い掛けてきたんだ。
 相変わらず、領主のライム姉ちゃんに対する言葉遣いは不敬だし、前の領主のこともあいつ呼ばわりだよ。
 ここの冒険者ギルドって、何んでそんなに偉そうにしてるんだろう。
 ただ、組長は、前領主と結構親しくしていたみたいで、つるんで悪さをしていたみたい。

「ええ、今日、命じるつもりで参ったことに関係するので教えて差し上げます。
 兄は、この領地の近くにある『妖精の森』の長アルトローゼン様に不敬を働いたのです。
 アルトローゼン様の機嫌を損ねることは、勅令で禁じられており、反した場合は死罪とされています。」

「なんだ、そのふざけた勅令は? そんなモノは聞いたことがねえぞ。
 妖精の機嫌を損ねただけで、死罪だと。
 無茶苦茶じゃねえか。」

 今の王様の代になって、なるべく世間に広めないようにしていたからね。
 おいら達平民が知らなくても当然と言えば当然なんだけど。

「オッチャンが信じようが信じまいが、その勅令があるのはホントだよ。
 二百年前の王様がアルトに命乞いした時にそう誓っちゃったから。
 この国の王様は、アルトに逆らうことが出来ないんだもの。
 それより、オッチャン、ギルド本部の総長さんの命令に背いているよね。
 そっちの心配をした方が良いよ、総長さんの耳に入ったら多分命が無いから。
 総長さんも、アルトに完全服従だったからね。」

 ライム姉ちゃんの言葉に半信半疑な様子の組長においらがそう伝えると。
 カウンターの奥から、ギルドの構成員らしきガラの悪いニイチャンが慌てふためいて駆け寄ってきたの。

「組長、これをご覧になってくだせえ。
 そのガキ、マジヤバです。
 シャレにならないですぜ。」

 ニイチャンは、そう言って紙束を組長に差し出したんだよ。

「うん? 何だ、これは?」

「先月、ギルド本部からあったお達しです。
 組長は、『監禁部屋の廃止だなんて従えるか』ってとおっしゃって。
 無視するように、俺たちに命じましたけど。
 このガキの言動がおかしいんで、お達しを確認したんでさあ。
 そしたら、そんな事が書いてあって…。」

 どうやら、総長から末端組織に出したお達しを書いた紙みたいだね。

     **********

「これがどうしたって言うんだ、何々…。
 えっ!」

 差し出された紙束に、組長は怪訝な顔で目を落としたんだけど。
 読み進むうちに、驚きの声を上げ、血の気を失ったんだ。
 そして、…。

「あの…、つかぬ事をお伺いしますが…。
 お嬢さん、もしかして、マロンさんとおっしゃいますか?」

 組長さん、何かの間違いであって欲しいと言う感じで恐る恐る尋ねてきたんだ。
 それも、凄く下手に出て。

「うん、おいら、マロンだよ。」

 返事をした途端、組長はおいらの前で土下座して地面に額を擦り付けたよ。

「ご無礼の数々、誠に申し訳ございませんでした。
 金輪際口答えはしません、全てお言葉に従いますので。
 どうか、この命だけは勘弁してくだせえ。」

 それから組長は、必死になって命乞いを始めたの。
 紙束に何が書いてあったのか、凄く気になるよ…。

 クッころさんも紙束の内容が気になった様子で、組長から取り上げて目を通し始めたよ。

「ふむふむ、これには監禁部屋の閉鎖と監禁している女性の解放。
 そして、解放した女性に、十分な慰謝料を手渡せと記されていますわね。
 マロンが聞いていた総長との取り決めは、ちゃんと命じられているようですわ。
 あら、最後にこんなことが書かれていますわ。
 妖精アルトローゼン、マロンと名乗る栗毛の娘、タロウと名乗る冴えない風体の黒毛の男。
 以上三名に対してはいかなる事情があろとも逆らってはならない。
 もし、指示に反して本部に苦情があった場合、その組織の幹部全員の命をもって償ってもらう。
 また、指示に反して命を落とすことになっても本部は一切関知しない。」

 なんと、アルトだけじゃなくて、おいらやタロウにも逆らうなって指示が出ていたよ。
 指示に逆らってアルトやおいら達が本部に苦情を言ったら、逆らった末端組織の幹部は皆殺しみたい。
 苦情以前に、その場で殺されちゃっても、本部は見殺しにするって。

 んで、その後に補足があって、アルトが『番外騎士団』を一瞬にして消滅させたことや。
 おいらとタロウの二人だけで『アッチカイ』を潰しちゃったことが書いてあったみたい。
 このギルドの末端組織の構成員も、そうなりたくなければおいら達に絶対に逆らうなって。
 弱そうな見た目に惑わされて侮って掛かると大変な目に遭うから、気を付けるようにと念押しされてたらしいよ。

「やだなあ、おいら、人殺しなんてしないよ。
 人殺しはしちゃダメって、父ちゃんからきつく言われているから。
 これから、ライム姉ちゃんの言うことをちゃんと聞いて、…。
 堅気の人達に一切迷惑かけなければ、『監禁部屋』のことも本部に内緒にしといてあげる。
 これからは、『みかじめ料』なんて取ったらダメだよ。」

 おいらが、『監禁部屋』廃止のお達しを無視したことを本部に告げ口しないと言うと親分はホッとしていたけど。
 周りにいる冒険者たちは、おいらがどさくさ紛れに命じたことに不満を漏らしていたよ。

 冒険者ギルドにとって町のお店から巻き上げる『みかじめ料』は主要な収入源らしいし。
 その辺にいる冒険者の収入の大部分は、町の人から恐喝で巻き上げたお金らしいからね。
 少しは冒険者らしく、魔物狩りをして町の人に貢献して欲しいよ。

      **********

 そしたらね、冒険者ってのは人の話を聞かない連中が多くて…。

「ふざけるな! ガキが調子こいてるんじゃねえぞ!
 組長も、そんなガキに土下座して、恥かしくねえんか。
 俺は嫌だぜ。
 なんで今更、アブねえ思いをして魔物なんざ狩らにゃいけんのだ。
 その辺の堅気にゴロ巻いてりゃ、楽して生きていけるのによ。
 『監禁部屋』の廃止だって、冗談じゃねえや。
 俺らの楽しみを取り上げようったってそうはいかねえぞ。」

 タロウが『パンチ』と呼んで恐れるクルクル巻きの短髪に剃り込みを入れてる、眉の無い典型的な冒険者が声を張り上げたの。
 まだ若いニイチャンだったよ、少しは真面目に働けばいいのに…。

「「「「そうだ、そうだ、何で、そんなガキの言うこと聞かないといけねえんだ!」」」

 自分達に都合の良い言い分に同調する連中も多くてね。
 大挙して、おいらに襲い掛かってきたよ、剝き身の剣を振りかざして…。

「バカ!やめろ!」

 組長が、慌てて止めるけど、素直に聞くようなら冒険者なんかにはなっていないよ。
 親の制止を振り切って冒険者になった連中ばかりだから。

 おいらは、さっき大声を張り上げた冒険者に的を絞ったんだ。見せしめは一人で良いからね。
 剣を振り被って走り寄ってくるそいつに敢えて近付くと。

「ははは、自分から剣の間合いに入ってくるたぁ。
 所詮、知恵の回らないガキだな。死ねや、こらー!」

 そいつは思い切り剣を振り下ろしてきたんだ。
 ダメダメだよ、そんな力任せに振り回したんじゃ…。

 おいらは、スキル『回避』が発動する以前に余裕で剣を躱して、その膝をめがけて軽く蹴りを入れたんだ。

「痛てえぇ!」

 そんな悲鳴を上げて、前のめりに転倒する冒険者。
 いつもは、これで勘弁してあげるんだけど、今日はもう少し痛めつけるよ。
 見せしめだから。

 おいらは、その冒険者が転がると同時に、床に付いた拳を踵で踏み抜いたの。
 もちろん、剣を握る利き腕だよ。

 グシャっと言う聞き苦しい破砕音と共に拳が砕け、「ギャアアアア!」と言う悲鳴がホールに響き渡ったよ。
 その様子を見て、荒ぶっていた他の冒険者はみんな動きを止めたよ。

 おいらは、ダメ押しにもう片方の膝も砕いたんだ。

「さっき言ったように、おいらは人殺しはしないから。
 おいらのお仕置きはこれでお終い。
 でも、これで赦されたと思わないでね。
 ニイチャンは、町の人に裁かれるんだよ。
 これから、町の広場にニイチャンを捨ててくるから。
 手足が動かせないニイチャンを見た町の人がどうするかな。
 大分恨みをかっているみたいだしね。」

 おいらは、蹲るニイチャンにそう宣告したの。
 以前、王都でイチャモンを付けてきた連中にした事と同じだね。
 町の人にゴロを巻いて楽に生きたいなんて言ってたんだ、自分がやられる立場になって思い知るが良いよ。
 自分が今まで犯してきた罪がどんなもんかをね。

 おいらの言葉は他の連中の耳にも届いたようで、みんな、剣を捨てて大人しくなったよ。
  
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