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アイイロモンペ

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第八章 ハテノ男爵領再興記

第164話 やっぱり、辺境は無法地帯だった…

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 クッころさんの指揮の下、『広域指定冒険者ギルドソッチカイ』傘下の末端組織『ハテノ組』のガサ入れをしていたら。
 階段の上から、大分髪の毛が薄くなった偉そうなオッサンが現れたんだ。

「組長! この女、領主だなんてぬかしやがって。
 勝手に、ギルドの中で家探しをおっぱじめやがった。」

 受付でエッチな本を見ていたオッチャンが、その人のことを組長と呼んでた。
 組長は、ガサ入れをしている騎士のお姉ちゃん達を目にして、不機嫌そうに声を荒げたんだけど。

「あなたがこのギルドの組長ですか?
 私は、先日兄に替わりまして、この領地の領主に就きましたライムです。
 現在、婦女子に対する拉致監禁及び暴行の容疑で、このギルドを家宅捜査しております。
 あなたにも、後ほど事情聴取を行いますので、暫く身柄を拘束させて頂きます。」

 ライム姉ちゃんは、ホントに肝が据わっていて臆することなく毅然と言い放ったの。

 ライム姉ちゃんの指示を受けて、騎士のお姉ちゃんが何人かで組長を拘束しに向かったんだけど。
 組長の正面に、ギルド所属の冒険者が立ちはだかってそれを阻止しようとしたんだ。

「何を惚けたことを抜かしている。
 婦女子を拉致監禁だ? それの何処が悪いってんだ。
 この国、この領地で婦女子の拉致監禁を禁止する法なんて聞いたことがねえぞ。
 ギルドに言い掛かりをつけて、カチ込みを掛けるとは良い度胸しているじゃねえか。
 ギルドにカチ込みを掛けたんだ、領主だろうが何だろうが容赦しねえぞ。」

 ギルドの若い冒険者を盾にして、組長がそんな啖呵を切ったよ。

「ねえ、女の人を閉じ込めたり、乱暴をしたりするのは禁止されているんじゃないの?」

 女の人がやつれちゃうくらい酷いことをしておいて、それの何処が悪いと言い切る組長。
 おいら、ビックリして隣に立っているクッころさんに聞いてみたんだ。

「貴族に対して拉致監禁や暴行を働いたら、罪に問われますわ。
 ですが、平民に対してはその様な、決まりは無いですね。
 平民同士の諍いで、法により禁じられているものは少ないですから。
 『殺人』、『押し込み強盗』、『放火』くらいでしょうか。
 あんまり、細かいことを禁止しても、取り締まるのが大変ですものね。
 『盗み』なんかは、当事者同士の制裁に任せています。
 ただ、王が定めた法以外にも。
 領主には、その領地限りの法を定める権限がありますし。
 厳密には法ではありませんが…。
 慣習により暗黙裡に禁止されているものもありますわ。」

 クッころさんから返ってきた答えはこんなモノだった。
 領地によっては、『婦女暴行』も罪になるところもあるらしいけど。
 そんな領地は少ないみたいで、もちろんこの領地にも無いようだよ。
 この国では女の人の立場は弱いんだって、クッころさんが嘆いていた。

「でも、モカさん達。
 王都で『アッチ会』のガサ入れをした時って、監禁部屋を口実に押し入ったよね。」

「あれは、監禁部屋に婦女子を拉致して暴行を加えていたから家宅捜査に入った訳ではありませんわよ。
 『アルトローゼン様の機嫌を損ねてはならない。』という、この国で最も重要な勅令を犯したからです。
 それによって、芋づる式に監禁部屋に監禁した婦女子の『殺害』が明らかになり厳罰に処せられたのです。」

 なんと、アルトが監禁部屋の件で機嫌を損ねて、どうにかしろと言ったから騎士団が動いたんだって。
 それはそれでビックリだよ、アルトの一言で騎士団が動いちゃうなんて。

      **********

「そうですか、では、この領地に於いて婦女子を拉致監禁することを禁じます。
 併せて、婦女子に暴行を加えることを禁じます。
 そうですね、違反した者は死罪にしちゃいましょうか。」

 組長の言葉に頷いたライム姉ちゃんはいきなりそんなことを言い出したよ。
 そう言えば、以前、にっぽん爺が言ってたね。
 この国では、王侯貴族が法なんだって。無茶苦茶、いい加減なんだね。

「はあ? このアマ、何をほざいている。
 そんな勝手な事が許される訳ねえだろうが。
 こんな片田舎じゃ、冒険者共の楽しみっていったら監禁部屋くらいしかねえんだぞ。
 それを取り上げようなんて言ったら、冒険者共の暴動が起きるぜ。」

 ライム姉ちゃんが急にご法度にすると言っても納得するようなタマじゃないね。
 組長は、声を荒げて抗議したんだ。
 すると、傍にいた冒険者の一人が、組長に進言したの。

「組長、あのアマ、本当に領主なんですかね。
 俺、この国で女の領主なんて聞いたことがねえですぜ。
 まあ、いつも野良着を着ているイモ娘に間違いないんで。
 領主の家族には違いねえんでしょうけど…。
 あのイモ娘、キチンとすると結構良い女じゃないですか。
 連れている騎士ごっこの姉ちゃん達もベッピン揃いだし…。
 粋がって乗り込んで来た方が悪いんですから。
 あのイモ娘も含めて、全員いただいちまいませんか。
 なあに、剣なんかぶら下げてますけど。
 あの細腕じゃあまともに振れるわけがねえ。
 三十人もいれば、暫くはヤリたい放題ですぜ。」

 まだ、ライム姉ちゃんが領主だってことを疑っている輩がいるよ。

「おう、おまえ、冴えてるじゃねえか。
 そうだな、あのロリコン領主が、ギルドに楯突くとは思えねえし。
 こいつらを拉致ッちまっても文句は言わねえだろうな。
 おい、ギルドにいる奴らを全員集めろ。
 あの女共をひっ捕まえるんだ。
 捕まえた奴には、その女の一番乗りの権利をやるぞ!」

 組長も単純だね、下っ端冒険者の口車に乗っちゃったよ。
 組長も、処刑されちゃた前の領主が今でも領主だと信じているみたいだった。
 それに、騎士団の姉ちゃん達はみんな華奢で虫も殺せないような雰囲気だもんね。
 とてもレベル二十の猛者揃いには見えないから、御し易いと思ったんだろうね。

       **********

 そうこうしている間に、ギルドのホールにぞろぞろと冒険者が集まって来たよ。
 この建物の何処にそんなに潜んでいたのかと不思議に思うくらい。
 騎士のお姉ちゃんの倍くらいいるんじゃないかな。

「ねえ、オッチャン、このギルドって『ソッチカイ』に属してるんだよね。
 ギルドの本部からお達しが来ていない、二ヶ月くらい前に?
 『監禁部屋』を廃止して、監禁している女の人に一年分くらいの生活費を渡して開放するようにって。
 そうそう、病気をうつしちゃってたら、その治療費も上乗せするようにって。」

 集まってきた冒険者たちと荒事になる前に、おいらは組長に聞いてみたんだ。
 『ソッチカイ』の総長が、アルトにそう約束していたから。証文も作ったしね。

「何だ? このガキは?
 何を寝ぼけたこと言ってる。
 本部がそんなことを言ってきても知ったこっちゃねえよ。
 誰が、こんな片田舎の末端組織のことなんか確かめに来るかって。
 そんなお達しなんか、届いてねえって惚けていれば良いんだよ。
 …って、このガキ、何で、それを知っている!」

 あの総長、慎重そうだったからきちんとやると思ったけど、ちゃんとお達しを出していたんだね。
 もっとも、末端には総長の意思までは伝わっていないみたいだけど。

「うん? だって、ソッチカイの総長にその約束させたのおいらの知り合いだもの。
 おいらも、その場にいたよ。
 ちゃんと、『ソッチカイは今後一切、女の人の拉致監禁はしない』って、総長さんが証文に書いてくれたもん。
 総長さんに知れたら、組長さん、タダでは済まないと思うな。」

 末端組織の構成員がヘマをやらかしたら、指を詰めさせるのが冒険者ギルドの流儀らしいけど。
 今回の件、総長さんの命が掛かっているから、この組長も指くらいでは済まないとおもう。
 文字通り、首を差し出すことになるんじゃないかな。

「おい、ヤバいぞ。
 女共より、このガキの口を封じる方が先だ!
 誰か、このガキを殺っちまえ!」

 おいらが、ソッチカイの総長と顔見知りだと知って、組長は泡を食っていたよ。
 最優先でおいらを仕留めろって命令したよ。

 組長の命令を受けてすぐさま数人の冒険者が剣を振りかざして襲って来たよ。

「「「「「キャーーーーッ!」」」」」

 おいらが斬られると思ったんだね、騎士のお姉ちゃん悲鳴が上がってた。

 でも、おいらのスキル『回避率百%』に掛れば、数人掛かりの冒険者なんてどうってことは無いよ。
 おいらは、全員の剣を躱すと同時に、全員の腕をへし折ってあげたよ。
 おいらみたいな幼子に剣を向けるような、ロクでなしに剣なんか持たせちゃダメだからね。

「「「ギャアアアア!」」」

 今度は、冒険者の耳障りな悲鳴が上がった、男の悲鳴はいつ聞いても耳障りだね。

「なんだ、このガキは。無茶苦茶、強えじゃねえか。」
 
 そんな、驚きの声が上がって、おいらを取り囲む冒険者たちが一歩引いたの。
 おいらは、そんな冒険者をかき分けるように親分に近付いて行ったの。

 おいらが近づくと、冒険者はみんな道を開けたよ。
 とんだ腰抜けだけど、がむしゃらに掛かってこないだけ知恵が回るのかな。

 おいらが組長に近付くと。

「おめえら、なにボウッと突っ立てるんだ!
 そのガキをサッサと仕留めるんだ!」

 再度、組長が周りを叱咤すると、組長を護っていた冒険者たちが剣を抜いたの。
 さっき、おいらが倒した冒険者よりは腕の立つ人達みたいだったけど。

「「「うがっ!」」」

 鎧袖一触だったよ…。

「信じられねえ…。この組で一番腕が立つ奴らだったのに…。」

 自分を護っていた冒険者たちを一瞬で駆逐された組長は、呆然と立ちすくんでいたよ。

「組長さん、大人しくお縄に付こうね?」

 おいらがそう笑いかけると、組長はその場にへたり込んじゃった。
  
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