上 下
164 / 848
第八章 ハテノ男爵領再興記

第164話 やっぱり、辺境は無法地帯だった…

しおりを挟む
 クッころさんの指揮の下、『広域指定冒険者ギルドソッチカイ』傘下の末端組織『ハテノ組』のガサ入れをしていたら。
 階段の上から、大分髪の毛が薄くなった偉そうなオッサンが現れたんだ。

「組長! この女、領主だなんてぬかしやがって。
 勝手に、ギルドの中で家探しをおっぱじめやがった。」

 受付でエッチな本を見ていたオッチャンが、その人のことを組長と呼んでた。
 組長は、ガサ入れをしている騎士のお姉ちゃん達を目にして、不機嫌そうに声を荒げたんだけど。

「あなたがこのギルドの組長ですか?
 私は、先日兄に替わりまして、この領地の領主に就きましたライムです。
 現在、婦女子に対する拉致監禁及び暴行の容疑で、このギルドを家宅捜査しております。
 あなたにも、後ほど事情聴取を行いますので、暫く身柄を拘束させて頂きます。」

 ライム姉ちゃんは、ホントに肝が据わっていて臆することなく毅然と言い放ったの。

 ライム姉ちゃんの指示を受けて、騎士のお姉ちゃんが何人かで組長を拘束しに向かったんだけど。
 組長の正面に、ギルド所属の冒険者が立ちはだかってそれを阻止しようとしたんだ。

「何を惚けたことを抜かしている。
 婦女子を拉致監禁だ? それの何処が悪いってんだ。
 この国、この領地で婦女子の拉致監禁を禁止する法なんて聞いたことがねえぞ。
 ギルドに言い掛かりをつけて、カチ込みを掛けるとは良い度胸しているじゃねえか。
 ギルドにカチ込みを掛けたんだ、領主だろうが何だろうが容赦しねえぞ。」

 ギルドの若い冒険者を盾にして、組長がそんな啖呵を切ったよ。

「ねえ、女の人を閉じ込めたり、乱暴をしたりするのは禁止されているんじゃないの?」

 女の人がやつれちゃうくらい酷いことをしておいて、それの何処が悪いと言い切る組長。
 おいら、ビックリして隣に立っているクッころさんに聞いてみたんだ。

「貴族に対して拉致監禁や暴行を働いたら、罪に問われますわ。
 ですが、平民に対してはその様な、決まりは無いですね。
 平民同士の諍いで、法により禁じられているものは少ないですから。
 『殺人』、『押し込み強盗』、『放火』くらいでしょうか。
 あんまり、細かいことを禁止しても、取り締まるのが大変ですものね。
 『盗み』なんかは、当事者同士の制裁に任せています。
 ただ、王が定めた法以外にも。
 領主には、その領地限りの法を定める権限がありますし。
 厳密には法ではありませんが…。
 慣習により暗黙裡に禁止されているものもありますわ。」

 クッころさんから返ってきた答えはこんなモノだった。
 領地によっては、『婦女暴行』も罪になるところもあるらしいけど。
 そんな領地は少ないみたいで、もちろんこの領地にも無いようだよ。
 この国では女の人の立場は弱いんだって、クッころさんが嘆いていた。

「でも、モカさん達。
 王都で『アッチ会』のガサ入れをした時って、監禁部屋を口実に押し入ったよね。」

「あれは、監禁部屋に婦女子を拉致して暴行を加えていたから家宅捜査に入った訳ではありませんわよ。
 『アルトローゼン様の機嫌を損ねてはならない。』という、この国で最も重要な勅令を犯したからです。
 それによって、芋づる式に監禁部屋に監禁した婦女子の『殺害』が明らかになり厳罰に処せられたのです。」

 なんと、アルトが監禁部屋の件で機嫌を損ねて、どうにかしろと言ったから騎士団が動いたんだって。
 それはそれでビックリだよ、アルトの一言で騎士団が動いちゃうなんて。

      **********

「そうですか、では、この領地に於いて婦女子を拉致監禁することを禁じます。
 併せて、婦女子に暴行を加えることを禁じます。
 そうですね、違反した者は死罪にしちゃいましょうか。」

 組長の言葉に頷いたライム姉ちゃんはいきなりそんなことを言い出したよ。
 そう言えば、以前、にっぽん爺が言ってたね。
 この国では、王侯貴族が法なんだって。無茶苦茶、いい加減なんだね。

「はあ? このアマ、何をほざいている。
 そんな勝手な事が許される訳ねえだろうが。
 こんな片田舎じゃ、冒険者共の楽しみっていったら監禁部屋くらいしかねえんだぞ。
 それを取り上げようなんて言ったら、冒険者共の暴動が起きるぜ。」

 ライム姉ちゃんが急にご法度にすると言っても納得するようなタマじゃないね。
 組長は、声を荒げて抗議したんだ。
 すると、傍にいた冒険者の一人が、組長に進言したの。

「組長、あのアマ、本当に領主なんですかね。
 俺、この国で女の領主なんて聞いたことがねえですぜ。
 まあ、いつも野良着を着ているイモ娘に間違いないんで。
 領主の家族には違いねえんでしょうけど…。
 あのイモ娘、キチンとすると結構良い女じゃないですか。
 連れている騎士ごっこの姉ちゃん達もベッピン揃いだし…。
 粋がって乗り込んで来た方が悪いんですから。
 あのイモ娘も含めて、全員いただいちまいませんか。
 なあに、剣なんかぶら下げてますけど。
 あの細腕じゃあまともに振れるわけがねえ。
 三十人もいれば、暫くはヤリたい放題ですぜ。」

 まだ、ライム姉ちゃんが領主だってことを疑っている輩がいるよ。

「おう、おまえ、冴えてるじゃねえか。
 そうだな、あのロリコン領主が、ギルドに楯突くとは思えねえし。
 こいつらを拉致ッちまっても文句は言わねえだろうな。
 おい、ギルドにいる奴らを全員集めろ。
 あの女共をひっ捕まえるんだ。
 捕まえた奴には、その女の一番乗りの権利をやるぞ!」

 組長も単純だね、下っ端冒険者の口車に乗っちゃったよ。
 組長も、処刑されちゃた前の領主が今でも領主だと信じているみたいだった。
 それに、騎士団の姉ちゃん達はみんな華奢で虫も殺せないような雰囲気だもんね。
 とてもレベル二十の猛者揃いには見えないから、御し易いと思ったんだろうね。

       **********

 そうこうしている間に、ギルドのホールにぞろぞろと冒険者が集まって来たよ。
 この建物の何処にそんなに潜んでいたのかと不思議に思うくらい。
 騎士のお姉ちゃんの倍くらいいるんじゃないかな。

「ねえ、オッチャン、このギルドって『ソッチカイ』に属してるんだよね。
 ギルドの本部からお達しが来ていない、二ヶ月くらい前に?
 『監禁部屋』を廃止して、監禁している女の人に一年分くらいの生活費を渡して開放するようにって。
 そうそう、病気をうつしちゃってたら、その治療費も上乗せするようにって。」

 集まってきた冒険者たちと荒事になる前に、おいらは組長に聞いてみたんだ。
 『ソッチカイ』の総長が、アルトにそう約束していたから。証文も作ったしね。

「何だ? このガキは?
 何を寝ぼけたこと言ってる。
 本部がそんなことを言ってきても知ったこっちゃねえよ。
 誰が、こんな片田舎の末端組織のことなんか確かめに来るかって。
 そんなお達しなんか、届いてねえって惚けていれば良いんだよ。
 …って、このガキ、何で、それを知っている!」

 あの総長、慎重そうだったからきちんとやると思ったけど、ちゃんとお達しを出していたんだね。
 もっとも、末端には総長の意思までは伝わっていないみたいだけど。

「うん? だって、ソッチカイの総長にその約束させたのおいらの知り合いだもの。
 おいらも、その場にいたよ。
 ちゃんと、『ソッチカイは今後一切、女の人の拉致監禁はしない』って、総長さんが証文に書いてくれたもん。
 総長さんに知れたら、組長さん、タダでは済まないと思うな。」

 末端組織の構成員がヘマをやらかしたら、指を詰めさせるのが冒険者ギルドの流儀らしいけど。
 今回の件、総長さんの命が掛かっているから、この組長も指くらいでは済まないとおもう。
 文字通り、首を差し出すことになるんじゃないかな。

「おい、ヤバいぞ。
 女共より、このガキの口を封じる方が先だ!
 誰か、このガキを殺っちまえ!」

 おいらが、ソッチカイの総長と顔見知りだと知って、組長は泡を食っていたよ。
 最優先でおいらを仕留めろって命令したよ。

 組長の命令を受けてすぐさま数人の冒険者が剣を振りかざして襲って来たよ。

「「「「「キャーーーーッ!」」」」」

 おいらが斬られると思ったんだね、騎士のお姉ちゃん悲鳴が上がってた。

 でも、おいらのスキル『回避率百%』に掛れば、数人掛かりの冒険者なんてどうってことは無いよ。
 おいらは、全員の剣を躱すと同時に、全員の腕をへし折ってあげたよ。
 おいらみたいな幼子に剣を向けるような、ロクでなしに剣なんか持たせちゃダメだからね。

「「「ギャアアアア!」」」

 今度は、冒険者の耳障りな悲鳴が上がった、男の悲鳴はいつ聞いても耳障りだね。

「なんだ、このガキは。無茶苦茶、強えじゃねえか。」
 
 そんな、驚きの声が上がって、おいらを取り囲む冒険者たちが一歩引いたの。
 おいらは、そんな冒険者をかき分けるように親分に近付いて行ったの。

 おいらが近づくと、冒険者はみんな道を開けたよ。
 とんだ腰抜けだけど、がむしゃらに掛かってこないだけ知恵が回るのかな。

 おいらが組長に近付くと。

「おめえら、なにボウッと突っ立てるんだ!
 そのガキをサッサと仕留めるんだ!」

 再度、組長が周りを叱咤すると、組長を護っていた冒険者たちが剣を抜いたの。
 さっき、おいらが倒した冒険者よりは腕の立つ人達みたいだったけど。

「「「うがっ!」」」

 鎧袖一触だったよ…。

「信じられねえ…。この組で一番腕が立つ奴らだったのに…。」

 自分を護っていた冒険者たちを一瞬で駆逐された組長は、呆然と立ちすくんでいたよ。

「組長さん、大人しくお縄に付こうね?」

 おいらがそう笑いかけると、組長はその場にへたり込んじゃった。
  
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

処理中です...