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第八章 ハテノ男爵領再興記
第166話 組長は涙目だったよ
しおりを挟むおいらが、若い冒険者を一人のしちゃうと、ホールの中の殺気立った雰囲気はすっかり収まったよ。
その代わりにホールの中を支配したのは恐怖だったんだ。
おいらを取り囲んだ冒険者たちは剣を捨てて、怯えた顔でおいらを見てたよ。
さすがに、手足を砕かれて町の広場に放置されたら自分達がどんなに目に遭うか想像できたみたい。
今まで町の人達から、相当な恨みをかっているみたいだからね。
シーンと静まり返ったホールの中で。
「マロンちゃん、怖い目に遭わせちゃってごめんなさい。
それと、冒険者たちを大人しくさせてくれて有り難う。」
ライム姉ちゃんはおいらのことを労うと、ギルドの組長に向かって。
「さて、皆さん静かになってくれたところで、一番大事なお話をします。
先日、このような勅令が王より下されました。
一言でいえば、『耳長族に対して一切の手出し無用』との勅です。
この勅令に反した場合、事情の如何を問わず死罪になりますから気を付けてください。
当然のことですが、この領内でも耳長族に何らかの迷惑を掛けた者は即刻死罪とします。」
ライム姉ちゃんは、王の勅令書をギルドの組長に見えるように掲げて見せたの。
その上で、耳長族がこの領地の近くアルト様の『妖精の森』に住んでることを話したんだ。
人間の町に出て来るのはこの領地が中心になるので、決して耳長族に手出しするなって。
耳長族の姉ちゃん達がおいらの町に頻繁に来ていることも教えた上で。
耳長族に手出ししようとした愚か者共の末路も聞かせていたよ。
前の領主が死罪になった直接の原因も耳長族を捕らえようとしたことだと明かしていたんだ。
「幻の民と言われている耳長族がこの領地にちょくちょく姿を現しているのですか?」
ギルドの組長は念押しをするように尋ねてきたの。
「そうです、アルト様の子飼いの剣舞集団の伴奏役として頻繁に姿を見せています。
今現在、鉱山町の冒険者ギルドはアルト様に完全服従で、耳長族の身辺警備に協力しています。
何でも、ギルドの者が町の入り口に立って不審者の侵入を拒んでいると聞きます。
今後は、私の騎士団からも一小隊を町の警備に駐在させる予定です。」
ライム姉ちゃんは組長の問い掛けに応えると、おいらの町のギルドのことも話したよ。
おいらの町のギルドはアルトとの誓約で『みかじめ料』を取っていないことなんかをね。
ライム姉ちゃんの話を聞いて、静まっていたギルドのホールにざわめきが生じたよ。
「信じられねえ…、一人拉致れば一生遊んで食ってけるのに指を咥えて見ているとか…。」
「いや、冒険者がカタギから金を巻き上げねえでどうやって食っているんだ、あの町の奴ら?」
「監禁部屋は廃止、強請も禁止、それじゃ冒険者をやっている旨味がねえじゃないか。
堅気の冒険者なんて聞いて呆れるぜ。」
なんて、ロクでもない声がいっぱい…。
こいつら、本当に冒険者の本分をはき違えているよね。
一度ジロチョー親分に説教して欲しいよ。
すると、ライム姉ちゃんは言ったの、珍しく冷淡な声で…。
「それじゃ、あなた方、生きながらにして地獄の劫火で焼かれてみますか。
私の兄は、愚かにも耳長族に手を出して…。
アルト様の力で焼かれたのです、灰一つ残さずに。
一瞬にして生きた人間を焼き尽くす、あれこそまさに地獄の劫火でした。」
おいらの視界は遮られたけど、ライム姉ちゃんは処刑の瞬間を目にしたんだね。
口調は淡々としているけど、ライム姉ちゃんの表情は鬼気迫るものがあったんだ。
ライム姉ちゃんの言葉に、冒険者連中はみんな声を失っていたよ。
どうやら、『耳長族に手出し無用』ということは呑み込めたみたいだね。
**********
「では、耳長族の皆さんに粗相をすることが無いように冒険者に徹底してくださいね。
それと、この領地独自の法を定めます。
この領地では、婦女子の拉致監禁、婦女子への強姦行為、婦女子への暴行を禁止します。
以上三点については、情状酌量の余地なく死罪を適用します。
更に、『みかじめ料』徴取や強請り行為等も禁止致します。
詳細は後日、追って広場の告知板に告知しますが心しておくように。」
ライム姉ちゃんはそう告げると、婦女子の拉致監禁、婦女子への強姦行為、婦女子への暴行を禁止は遡って適用すると言ったの。
どういうことかとライム姉ちゃんに尋ねたら。
さっき『監禁部屋』をガサ入れした時に監禁部屋にいた男八人、通常だったら罪に問えないんだって。
あの時点では禁止する法が無かったから。
だから、遡って適用することにして、捕まっていた五人のお姉ちゃん達に酷いことをした奴らを罪に問うんだって。
おいらとライム姉ちゃんの会話が聞こえたみたいで、身に覚えがある連中が逃げ出そうとしたの。
「その者達を、捕らえてください。一人も逃がさないで。」
そんなライム姉ちゃんの指示が飛ぶよりも早く、素早く騎士団のお姉ちゃんが逃げ道を塞いでくれたよ。
所詮はコケ脅しだけの冒険者だもんね、レベル二十の騎士に適う訳がなくみんな捕まってた。
「おい、やめてくれ、女をおもちゃにしたぐらいで死罪は無いだろう。
そんな横暴、許される訳ないだろうが。」
捕まった冒険者の一人が往生際が悪くてそんなことを叫んでいた。
自分が、全く悪いことをしたと思ってないところがすごいね。
「さて、現行犯の八人は情状酌量の余地が無いので、死罪とします。
あとは、被害者の女性に、誰が酷いことをしたのかを証言していただき追加で死罪としますが…。」
ライム姉ちゃんがそう告げると、今捕まった奴ら青い顔をしてたよ。
やっぱり、酷いことをしてたんだね。
そいつらを見て冷笑したライム姉ちゃんは組長を見て続けたの。
「組長、あなたが『監禁部屋』の設置を許していたのですから、あなたも同罪ですね。
強姦の実行犯と一緒に首を晒してみますか?
もし、『監禁部屋』の廃止、監禁していた女性に対する十分な慰謝料の支払いをすぐさま実行し。
現行の法及び今後私が定める法を順守すると誓約するのであれば、今回だけは見逃しても良いですよ。」
これが『王侯貴族が法』だと言うことなんだね、領主の匙加減で法が曲がっちゃうの。
「分かった、全てご領主様のお言葉に従う。
だから、勘弁してくれ。
もう、女を監禁したりしねえし、その五人には十分な金を渡す。
『みかじめ料』をとるのもやめるし、冒険者達にも悪さをしねえように徹底する。
だから、今回だけは見逃してくれ。」
組長は土下座したまま、涙目で全面降伏してたよ。
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