15 / 819
第二章 ゴミスキルとおいらの平穏な日常
第15話 『ゴミスキルの実』の美味しい食べ方
しおりを挟む
*本日、お昼に1話投稿しています。
まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
よろしくお願いいたします。
********
それは、おいらが五つの時。
ある日、父ちゃんが帰ってこなくなったんだ。
狩りに行くと言って家を出て行ったまま、それっきり。
父ちゃんは、おいらのことをすっごく可愛がってくれた。
そんな、父ちゃんがおいらのことを捨てていなくなる訳がない。
と言うことは、そう言う事なんだろう。
冒険者にはありがちな事だもね。
まあ、湿っぽい話はともかく。
父ちゃんがいなくなって、数日で家の中の食べ物が尽きたんだ。
その日、お腹を空かせたおいらは、生まれて初めて一人で町の外に出たの。
父ちゃんからは、危ないから一人で町の外に出たらいけないと言われてたけど。
お腹がペコペコで、そんな注意は気にしてられなかった。
幸い、初歩的な冒険者の手解きは受けてたから、何とかなると思ったんだ。
父ちゃんが、小い頃からおいらに狩場を教えてくれたし。
スライムの捕り方やシューティング・ビーンズの狩り方も教えてくれたから。
町を出て、一番近いシューティング・ビーンズの狩り場に向かっている時。
とっても、甘い良い香りが鼻をくすぐったの。
匂いに引き寄せられて辿り着いたのは、元々の目的地だった。
そう、シューティング・ビーンズの群生地。
その一角、シューティング・ビーンズの群生地の外れの方。
誰かがシューティング・ビーンズを狩ったと思われる場所にそれはあったの。
父ちゃんから、覚えるまで何度も見せられて。
「これは、何があっても絶対に食べちゃいけないよ。
生涯にたった四つしか覚えられないスキルが台無しになるからね。」
何度も、何度も、耳にタコができるくらい聞かされたモノ。
そう、シューティング・ビーンズがドロップする『スキルの実』だった。
そこに落ちている『スキルの実』は、どれも役立たずの『ゴミスキル』ばっかり。
それが『ゴミスキルの実』だと、誰もが知っているから、放置されたんだと思うの。
でも、その時、それはとってもいい香りがしてて美味しそうだったんだ。
おいらは、空腹に負けて、その中で一番いい香りのする『実』を手に取ったの。
そして、それを一かじり。
「う、美味い…。」
口の中に広がった爽やかな甘酸っぱい味。
とっても美味しかった…、父ちゃんから苦くて食べられてもんじゃないと聞いていたのに。
苦味なんて、全くない。
おいら、それから無我夢中で『スキルの実』を食べたね。
それが、例え『ゴミスキル』だったとしても、知ったこっちゃない。
だって、おいら、その時は三日も食べてなかったんだもの。
しかも、どれも甘いのやら、甘酸っぱいのやら、今まで食べたモノの中で一番美味かった。
何日か振りにお腹いっぱい食べて、空腹が満たされたおいら。
その時、ハッとして、初めてスキルを確認したんだ。
この日まで、おいらのスキルは空欄だった。
「スキルはね、マロンの人生を左右する大切な物だ。
マロンが、もう少し大きくなって、どんな大人になりたいか。
それを決めた時に、そのために役立つスキルを買ってあげよう。
俺は、マロンのために頑張って『スキルの実』を買う金を貯めるぞ。」
優しい父ちゃんは、いつもそう言ってたんだ。
おいらの幸せを願って、頑なに空欄であること守ったスキル欄には…。
『積載増加』、『回避』、『クリティカル発生率アップ』、『クリティカルダメージアップ』
という文字が並んでいたよ。
どれも、父ちゃんから聞かされていた『ゴミスキル』ばっかり…。
特に、『積載増加』なんていうのは、『強靭』と並んで効果不明のゴミスキルと言われているの。
この二つは全く効果が無くて、スキル欄を無駄にする『呪い』じゃないかとさえ言われてる。
おいらは涙が出て来たの。
父ちゃんが、良いスキルを買ってやるんだと張り切ってたのに…。
空腹に負けて、台無しにしちゃったよ。
********
まっ、もっとも、それもほんの一時のことだけどね。
もう取り消しが利かないんだから、悔やんでもしょうがない。
すぐにそう思ったよ。
ついでに、こうも思ったの。
もうスキルは固まっちゃったんだから、こんな美味しいモノを食べないなんて損だと。
よく見ると、周囲には『ゴミスキルの実』が拾い切れないほど落ちていたんだ。
さすが、シューティング・ビーンズの狩り場だけあるね。
その日、おいらは持っていた布袋いっぱいになるまで、夢中でスキルの実を拾い集めたんだ。
それこそ、当初の目的のシューティング・ビーンズを狩るのも忘れて。
そして、家に持ち帰って晩ごはんにもスキルの実を食べたんだけど…。
良い香りのしない実をうっかり食べたら、めっちゃ苦かった。
さっきのタロウと同じで、必死になって水を飲んじゃったよ。
苦いのも我慢しながら、拾って来たスキルの実の食べ頃を探ってみたの。
そしたら、わかったのが、良い香りがしてきたら食べ頃だという事。
良い香りが漂う頃には、スキルの実が心持ち柔らかくなるの。
それに、モノによっては、皮が手で向けるようになるしね。
その頃になると、どの種類でも苦みが消えて、甘くなるんだ。
それから、三年間毎日、おいらはシューティング・ビーンズの狩り場に行ってるんだ。
最初は、シューティング・ビーンズは狩らずに、他の人が放置したスキルの実を拾うだけ。
五歳のおいらにもシューティング・ビーンズなら狩れたんだけど。
放置されているスキルの実が沢山あって、五歳のおいらにはそれを拾うだけで持ち切れなくなったから。
だから、一人暮らしになってしばらくは、スキルの実ばっかり食べてたよ。
拾って来たものの中から、良い匂いするモノだけ食べて。
残りは、良い香りを放つまで保存してから食べたんだ。
毎日、同じものばかりで多少飽きたけど…。
おかげで五歳のおいらが飢え死にしないで済んだんだから感謝だね。
少し体も大きくなって、担げる荷物が増えたらシューティング・ビーンズも狩るようになったの。
それで、多少のお金が稼げるようになったんで、肉串やパンも食べられるようになったよ。
それと、大事なことが分かったよ。
自分でシューティング・ビーンズを狩ると、何時ドロップしたのかわかるスキルの実が手に入るでしょう。
稼いだお金で安物のツボを買って、スキルの実をドロップした日毎に分けて保存することにしたの。
すると、だいたいドロップしてから七日前後で食べ頃になるのが分かったよ。
以来、こうやってツボを並べて、七日前のモノから食べることにしたんだ。
これ、おいらだけの秘密だよ。
シューティング・ビーンズのドロップする『スキルの実』が実は美味しいと知れたら。
それ目的で、シューティング・ビーンズを乱獲する人が出てくるかも知れないからね。
そのせいで、おいらの手に入らなくなったら一大事だからね。
それと、もう一つ、もっと大事な秘密が知られちゃうから。
まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
よろしくお願いいたします。
********
それは、おいらが五つの時。
ある日、父ちゃんが帰ってこなくなったんだ。
狩りに行くと言って家を出て行ったまま、それっきり。
父ちゃんは、おいらのことをすっごく可愛がってくれた。
そんな、父ちゃんがおいらのことを捨てていなくなる訳がない。
と言うことは、そう言う事なんだろう。
冒険者にはありがちな事だもね。
まあ、湿っぽい話はともかく。
父ちゃんがいなくなって、数日で家の中の食べ物が尽きたんだ。
その日、お腹を空かせたおいらは、生まれて初めて一人で町の外に出たの。
父ちゃんからは、危ないから一人で町の外に出たらいけないと言われてたけど。
お腹がペコペコで、そんな注意は気にしてられなかった。
幸い、初歩的な冒険者の手解きは受けてたから、何とかなると思ったんだ。
父ちゃんが、小い頃からおいらに狩場を教えてくれたし。
スライムの捕り方やシューティング・ビーンズの狩り方も教えてくれたから。
町を出て、一番近いシューティング・ビーンズの狩り場に向かっている時。
とっても、甘い良い香りが鼻をくすぐったの。
匂いに引き寄せられて辿り着いたのは、元々の目的地だった。
そう、シューティング・ビーンズの群生地。
その一角、シューティング・ビーンズの群生地の外れの方。
誰かがシューティング・ビーンズを狩ったと思われる場所にそれはあったの。
父ちゃんから、覚えるまで何度も見せられて。
「これは、何があっても絶対に食べちゃいけないよ。
生涯にたった四つしか覚えられないスキルが台無しになるからね。」
何度も、何度も、耳にタコができるくらい聞かされたモノ。
そう、シューティング・ビーンズがドロップする『スキルの実』だった。
そこに落ちている『スキルの実』は、どれも役立たずの『ゴミスキル』ばっかり。
それが『ゴミスキルの実』だと、誰もが知っているから、放置されたんだと思うの。
でも、その時、それはとってもいい香りがしてて美味しそうだったんだ。
おいらは、空腹に負けて、その中で一番いい香りのする『実』を手に取ったの。
そして、それを一かじり。
「う、美味い…。」
口の中に広がった爽やかな甘酸っぱい味。
とっても美味しかった…、父ちゃんから苦くて食べられてもんじゃないと聞いていたのに。
苦味なんて、全くない。
おいら、それから無我夢中で『スキルの実』を食べたね。
それが、例え『ゴミスキル』だったとしても、知ったこっちゃない。
だって、おいら、その時は三日も食べてなかったんだもの。
しかも、どれも甘いのやら、甘酸っぱいのやら、今まで食べたモノの中で一番美味かった。
何日か振りにお腹いっぱい食べて、空腹が満たされたおいら。
その時、ハッとして、初めてスキルを確認したんだ。
この日まで、おいらのスキルは空欄だった。
「スキルはね、マロンの人生を左右する大切な物だ。
マロンが、もう少し大きくなって、どんな大人になりたいか。
それを決めた時に、そのために役立つスキルを買ってあげよう。
俺は、マロンのために頑張って『スキルの実』を買う金を貯めるぞ。」
優しい父ちゃんは、いつもそう言ってたんだ。
おいらの幸せを願って、頑なに空欄であること守ったスキル欄には…。
『積載増加』、『回避』、『クリティカル発生率アップ』、『クリティカルダメージアップ』
という文字が並んでいたよ。
どれも、父ちゃんから聞かされていた『ゴミスキル』ばっかり…。
特に、『積載増加』なんていうのは、『強靭』と並んで効果不明のゴミスキルと言われているの。
この二つは全く効果が無くて、スキル欄を無駄にする『呪い』じゃないかとさえ言われてる。
おいらは涙が出て来たの。
父ちゃんが、良いスキルを買ってやるんだと張り切ってたのに…。
空腹に負けて、台無しにしちゃったよ。
********
まっ、もっとも、それもほんの一時のことだけどね。
もう取り消しが利かないんだから、悔やんでもしょうがない。
すぐにそう思ったよ。
ついでに、こうも思ったの。
もうスキルは固まっちゃったんだから、こんな美味しいモノを食べないなんて損だと。
よく見ると、周囲には『ゴミスキルの実』が拾い切れないほど落ちていたんだ。
さすが、シューティング・ビーンズの狩り場だけあるね。
その日、おいらは持っていた布袋いっぱいになるまで、夢中でスキルの実を拾い集めたんだ。
それこそ、当初の目的のシューティング・ビーンズを狩るのも忘れて。
そして、家に持ち帰って晩ごはんにもスキルの実を食べたんだけど…。
良い香りのしない実をうっかり食べたら、めっちゃ苦かった。
さっきのタロウと同じで、必死になって水を飲んじゃったよ。
苦いのも我慢しながら、拾って来たスキルの実の食べ頃を探ってみたの。
そしたら、わかったのが、良い香りがしてきたら食べ頃だという事。
良い香りが漂う頃には、スキルの実が心持ち柔らかくなるの。
それに、モノによっては、皮が手で向けるようになるしね。
その頃になると、どの種類でも苦みが消えて、甘くなるんだ。
それから、三年間毎日、おいらはシューティング・ビーンズの狩り場に行ってるんだ。
最初は、シューティング・ビーンズは狩らずに、他の人が放置したスキルの実を拾うだけ。
五歳のおいらにもシューティング・ビーンズなら狩れたんだけど。
放置されているスキルの実が沢山あって、五歳のおいらにはそれを拾うだけで持ち切れなくなったから。
だから、一人暮らしになってしばらくは、スキルの実ばっかり食べてたよ。
拾って来たものの中から、良い匂いするモノだけ食べて。
残りは、良い香りを放つまで保存してから食べたんだ。
毎日、同じものばかりで多少飽きたけど…。
おかげで五歳のおいらが飢え死にしないで済んだんだから感謝だね。
少し体も大きくなって、担げる荷物が増えたらシューティング・ビーンズも狩るようになったの。
それで、多少のお金が稼げるようになったんで、肉串やパンも食べられるようになったよ。
それと、大事なことが分かったよ。
自分でシューティング・ビーンズを狩ると、何時ドロップしたのかわかるスキルの実が手に入るでしょう。
稼いだお金で安物のツボを買って、スキルの実をドロップした日毎に分けて保存することにしたの。
すると、だいたいドロップしてから七日前後で食べ頃になるのが分かったよ。
以来、こうやってツボを並べて、七日前のモノから食べることにしたんだ。
これ、おいらだけの秘密だよ。
シューティング・ビーンズのドロップする『スキルの実』が実は美味しいと知れたら。
それ目的で、シューティング・ビーンズを乱獲する人が出てくるかも知れないからね。
そのせいで、おいらの手に入らなくなったら一大事だからね。
それと、もう一つ、もっと大事な秘密が知られちゃうから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
288
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる