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第1章 沈む世界
第3話 助けたいもの
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(気が重い仕事だ……)
何処を確認するよりも気が進まない。毎日通学を見守り、顔見知りばかりの小学校。
今から生徒たちと教職員たちを確認しなければならない。
気が重くとも、カブは走らせる。
光の玉は風に煽られるのか、防刃衣の隙間に入り込んでいるようだ。
そんな光の玉を見ながら、星斗は思案していた。
(風に煽られるってことは、物質として存在している?触れられるから間違いないか)
カブで走りながら霊子の粒が、カブの車体や星斗の体に当たり、弾けて消えていく。
(霊樹から生まれている霊子は、空気中に溶けるように消えていくが……こいつは違うんだな。意思みたいなものもありそうだし……)
小学校に到着し、すぐに目に入ったのは翠色に染まった校舎だった。
「くっ……」
思わず顔をしかめる。警察官として幾つもの事件・事故現場に臨場し、それなりの数の遺体や変死体を見てきた。多少なり耐性はあるが、いつまで経っても子供の死には慣れない。慣れてはいけない一線なのだろう。
「厳しいな……」
光の玉が何か訴える様に、星斗の周りを激しく飛び回る。まるで諦めるなと叱咤されているようだ。
「そうだよな、まだ分からないよな……探すぞ。」
光の玉が頷くように上下する。いつの間にか、自然と光の玉に話しかけている星斗。
カブを駐車し、制帽を被ってから気合を入れて校内へと入っていく。児童の多い小学校ではない、各学年1クラスだけだ。
教室にはさっきまで授業で使用していたであろう教科書や鉛筆が散乱していた。
そして顔を上げると、そこには机に向かい、椅子に座った1回り小さな霊樹が規則正しく並んでいた。
「くっそ……」
一つ一つ教室を確認する。最後に職員室はと入り、誰もいない事を確認してしまった。
「ふぅ……まだ人が集まれる場所……確認すべき場所は……」
大きく息を吐く星斗。
心が壊れないように、自衛本能が働いているのだろうか。心が掻き乱されなくなっている。
光の玉が不安そうに星斗の周りを浮いている。そんな星斗を慮ったのか、そっと胸の辺りに寄り添う。
「……暖かい……ありがとう」
凍えてしまった心が、魂が、暖められていく。
そっと光の玉を撫でる星斗。
「誰も居ないみたいだから……他の場所を探してみよう」
光の玉に語りかけ、校舎を出る。カブの所に戻ろうとした、その時。
目の前に巨大な猪がいた。
「な……にっ……」
その体格は、星斗と知る猪より遥かに大きく、ミニバン位あるだろうか。
眼は怪しく翠色に光り、興奮しているのか落ち着きなく前足を足掻いている。そして、敵意剥き出しの双眸を星斗達に向けている。
関東の平野部とはいえ、田舎で山もある。時には猪や猿、鹿が出没して110番通報が入ることもある。
星斗も猪を川に追いやったり、猿を追いかけたりしたことはあったのだが。
「今朝の熊山市の猪か?それにしちゃデカすぎだろ。――――こんな何処ぞのアニメの巨大猪みたいな化け物、聞いたことないぞ」
(警棒は……無意味……拳銃も効くのか、これ?……それよりも校内に入ってやり過ごした方が…………)
星斗は深く呼吸し、息を整える。ジリジリと後退しながら、腰の拳銃に両手を当てる。
目線は巨大猪の翠色の眼から視線を外さず、右手で覆い蓋と留め皮と外し、いつでも拳銃を抜けるようにしておく。
(猪との距離は10メートル位、一気に駆け抜けて廊下を曲がれば……)
朝礼台を遮蔽物にし、数段の階段を後ろ向きにジリジリと登る。
「離れて、何処かに隠れてろ」
光の玉に避難を呼びかける。
ふるふる横に震え、否定の意思を表す。そして星斗の懐に潜り込む。星斗は一瞬驚くも光の玉を追い出そうとはしない。そんな余裕もないため、そのまま連れて行くことにする。
星斗は振り返り、一気に校内へ走り出す。それと同時に巨大猪も全力で走り出す。その巨体からは考えられない速度で加速する巨大猪。
(左に曲がってすぐ階段を登る!!)
迫り来る巨大重量の鈍い足音から全速力で逃げる。下駄箱の間を抜け、廊下の突き当たり下に設置された鏡越しに迫り来る巨大猪が見える。廊下を曲がった、その時。
――ギャイイイィィィィンッ――
まるで金属同士がぶつかり合った様な音が響く。横目で見たそこには、朝礼台なんぞまるで眼中にない巨大猪が、朝礼台に激突して鉄製の朝礼台を吹き飛ばした所だった。
前のめりで飛び退く星斗。前周り受け身の要領でゴロゴロと転がり勢いを殺す。背後では朝礼台が昇降口に激突し、ガラスが割れ、下駄箱を薙ぎ倒していく。朝礼台は勢いをそのままに廊下の鏡に激突し、鏡が粉々に砕け散る。
巨大猪は速度を緩める事なく、倒れた下駄箱を蹴散らしながら猪突猛進し、コンクリートの壁に激突。
校舎が揺れ、轟音と共に壁にヒビが広がり、破片が周囲へ飛び散る。
そこで巨大猪の動きが止まる。
(――今しかない!!)
その瞬間を見逃さず、星斗は拳銃を引き抜き、片膝立ちで銃を構える。
(狙いは首筋辺り。体では動きを止められないだろう。頭は頭蓋骨に弾かれる。運良く大きな血管を、願わくば心臓に当たれ!!)
強盗事件の時より僅かな余裕があると見做し、ダブルアクションではなくシングルアクションに切り替える。
左の親指で撃鉄を起こし、照星と照門を合わせる。
力み過ぎて「ガク引き」にならないよう、緩やかに、しかし素早く引き金を引く。
手首に伝わる衝撃。室内のため破裂音がより響き、屋外よりも発砲音が大きく長く聞こえる。一瞬でもの間を置いて、漂う硝煙の臭い。
命中の如何を問わず、再度素早く撃鉄を起こし、再度狙いを定める。
巨大猪の体が身じろぐ。
(――まだか!!)
続けて響く3発の銃声。
ポロポロと廊下に転がるひしゃげた弾丸。
巨大猪は何事もなかったかのように、悠然と立ち上がり星斗の方へと向き直る。
「的はデカいし、ちゃんと当たったよな!?」
外したため弾丸が転がっているのか、或いは当たったが体毛と皮膚に阻まれたのか。
致命傷を与えるどころか、血の1滴も垂れていない。あの巨体に38口径の弾丸では効果が無いのか。
「……マジかよ」
残弾はあと2発。星斗の使用している拳銃は【S&W M360J SAKURA】回転式の弾倉には5発の銃弾しか装填できない。勿論予備の銃弾など持ち合わせていない。
脱兎の如く階段へとひた走り、一気に2階へと駆け上がる星斗。その周りを必死に付いてくる光の玉。
再度後ろから迫りくる巨大重量の鈍い足音。リノリウムの廊下が悲鳴を上げながら砕け、そのままの勢いで階段を駆け上ってくる巨大猪。
(追いつかれる――)
星斗が2階へ登りきる前に、巨大猪は踊り場まで登ってきている。このままではあの巨体に押しつぶされてしまう。そうなれば一貫の終わりである。星斗が取るべき手段は限られている。
逃げるか、迎え撃つか。このままではジリ貧と判断。
素早く拳銃を構え、狙いを定める。距離は5メートルもない。
(――狙うは顔、できれば目玉!!――)
いくら巨大な体とはいえ、所詮は目玉、的は小さい。
血走った翠色の眼が、こちらを見つめ返している。
「最後の2発!くれてやるよ!!」
覚悟を決めて、発砲する。階段上からの打ち下ろし。慣れない射撃姿勢。そして先程の様にシングルアクションで撃つ時間はない。ダブルアクションになってしまうが、成るべく狙えるように引き金を一気に引き撃鉄を起こし、そして引き切る前に一瞬止める。これで撃鉄を起こしたことになり、シングルアクションのように軽く撃鉄が引けるようになる。
銃性と共に弾丸が飛び出す。
だが、弾丸は狙いの目玉を外れ、階段の踊り場に着弾し跳弾していく。
「――クッソ!――」
巨大猪が脚を足掻き、星斗に狙いを定める。
残弾はあと1発。当てられなければ、待っているのは「死」。
「やってやるよコノヤロー!!!」
先程と同じダブルアクションで撃とうと構え、引き金を引き起こし、止めたその瞬間。
校庭で見せた加速とは比べ物にならない速度で、巨大猪の体が踊り場から2階まで跳ね上がる。
反射的に体を捻じりながら横っ跳びしするが、受け身が取れず廊下に叩きつけられ、その反動で引き金にかけていた指が引き金を引いてします。
廊下に虚しく響く銃声。
(しまった――)
勢いそのまま2階の壁に激突する巨大猪。
だが昇降口の時とは違いすぐさま向き直り、再度狙い星斗に定める。
(ヤバイ――避けなければ――死ぬ)
避けようという意思はあるのに、体が動かない。体が完全に委縮してしまっていた。
(――動け、動け、動け――足掻け、あがけあがけぇぇえぇぇ!!)
巨大猪が廊下いっぱいの巨躯を急加速しさせ、突撃してくる。
間一髪、窓際に転がるように避ける星斗。
教室の壁を破壊しながら、すぐさま方向転換してくる巨大猪。
辺りに粉々になった壁の破片が飛び散り、星斗の後ろに残った壁が倒れてくる。
(もう一度避け……)
後方は倒壊した壁に阻まれ、もはや奴の突進を避ける場所がないことに気が付く。
「やっちまった……なから厳しいね……」
突撃してくる巨大猪、ここで終わりかと諦めかけた、その時。
星斗の周りを飛び回っていた光の玉が巨大猪に向かって飛び出して行く。
「おいっ!行くな!!」
光の玉に親近感を覚え始めていた星斗は慌てて止めようとする。誰一人として生存者に出会えない中、唯一出会った意思疎通のできるかもしれない相手。
必死に手を伸ばす。届かない指が虚しく空を掴む。
光の玉が巨大猪の顔面にぶつかる。威力など皆無の捨て身の体当たり。だが巨大猪も突然目の前に現れた光の玉には驚いたのか、巨大が身じろぎ急制動をかける。
光の玉は弾かれてしまうが、執拗に顔の周りを飛び回り、巨大猪の注意を逸らそうとする。顔面や眼に向かって体当たりを続ける光の玉に、巨大猪が鬱陶しそうに頭を振り、前脚を蹴り上げる。
「危ないから離れろ!一緒に逃げるぞ!」
星斗が光の玉に向かって叫ぶ。
光の玉がピクリと反応して、星斗の所へ戻ろうとして一瞬動きを止める。
巨大猪はその瞬間を見逃さず、鼻先を横薙ぎに振る。
鼻先が光の玉を捉え、吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。
廊下に転がる光の玉。
追い討ちをかけようと前脚を持ち上げる巨大猪。
「――やめろっ!!」
再度叫ぶ星斗。
(何か無いか!警棒で牽制するか!?)
星斗が逡巡している間に、巨大猪が脚を振り下ろす。
一瞬の判断の遅れ。それは致命的な遅れとなって星斗に現実を突きつける。
――ズドンッ!!――
動物の脚音とは到底思えない音が響き渡り、リノリウムの廊下が砕け、大きくひび割れが入る。砕けたコンクリートが飛び散り、砂埃が立ち込めて光の玉が無事か分からない。
「――待ってくれ!!――また俺を置いて行くな!!――」
体の奥底から漏れ出る、魂の慟哭。
走馬灯の様にあふれる記憶。
平坦になり跳ねることのない心電図。
慌ただしく動き回って処置をする医師と看護師。
大粒の涙を流しながら拳を握りしめ、必死に嗚咽を堪える伊緒。
美夏に縋り付き泣き叫ぶ真理。
握り返してこない痩せた手。
(また俺は無力なのか!何もできないで見ているだけなのか!!)
砂埃が薄れ、巨大猪の足元に淡く光る翠の光が見えた。
(まだ生きている!!)
そう確信した星斗はもう迷わない。素早く拳銃をホルスターに差し込み、警棒を引き抜く。伸縮する警棒を伸ばすと勢い良く飛び出していく。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
雄叫びを上げ、巨大猪の注意を引きつつ、警棒を振り上げながら突っ込んでいく。
砂煙が晴れ巨大猪の姿を現し、脚元には光の玉が見える。
「そこを退け、このクソ猪!!!!」
巨大猪の顔面、眼球目掛けて力の限り警棒を振り下ろす。
とても生物の眼球から発せられる音とは思えない異音が響き、警棒が半ばでへし折れ、先端が吹き飛んでいく。
「――ビギャァァ!!」
「――はっ?」
あまりの事に気の抜けた声を上げる星斗。
普通、警棒を全力で打ち付けて曲がってしまうことは、良くあることだが、半ばでへし折れて振り抜けるなんてことはありえない。
それでも巨大猪は悲鳴を上げ、僅かに怯んだ。今はその隙が有難い。
痛みと衝撃から数歩後ずさる巨大猪。星斗は素早く警棒を投げ捨て、光の玉を救い上げる。そのまま踵を返すように離脱しようと体を反転させた。
「おいっ!生きてる――」
光の玉に話しかけた直後、体の右半身に走る衝撃と宙に浮く感覚。そのまま全身を窓際の壁に叩きつけられて廊下に転がる星斗。
「――ぐっ――がっ――」
息ができず、視界が霞む。口の中は血の味が広がっていく。
巨大猪の鼻が星斗を横薙ぎに吹き飛ばし、壁に叩きつけたようだ。
星斗の手からこぼれ落ちる光の玉。
巨大猪が光の玉を、ヒョイと咥える。霞む視界に映る絶望の光景。
「やめろ――!!」
そんな星斗の叫びを露ほどにもかけず、丸呑みし嚥下する巨大猪。
無理矢理体を動かし、起きあがろうと力の限り拳を握り込む星斗。
(まだ諦めるな――まだ助けられるかもしれない――アイツをぶっ倒せば――まだ――弾さえあれば――助けたい!!――必ず助ける!!!)
星斗の心の底からの想い。巨大猪を倒し、光の玉を助ける。そのための手段が欲しい。そんな願い。
体の奥底で何かが弾け、解放された気がした。
やがてその感覚は連鎖し、全身を駆け巡る。
握り込んだ星斗の右手の拳が深紅に輝き、翠色の粒子が拳の中に収束していく。
「な、んだ……」
光の放流が迸り、目が眩む。光が収まると、拳の中には先程まで何も無かったはずのなのに、良く知っている細長い形をした一握りの希望があった。
そっと開いた手のひらの上には、何時もの真鍮の薬莢と銅被甲の弾丸の執行弾でも、鉛の弾丸の訓練弾でもない不思議な銃弾が乗っていた。
翡翠の様な翠色に深紅色の混じった不思議な銃弾の様なものが1発。
「銃弾、か?」
形状は弾丸のそれだが、色も質感も全く違う。散弾銃のプラスチックの薬莢とも違う不思議な質感。どちらかといえば石、或いはガラスに近い様な手触りだ。
「グモォォォォ」
星斗から発せられた光で動きを止めていた巨大猪が意識を取り戻し、動き出そうとする。
「やってみるしかないか」
一旦ホルスターに収めた拳銃を再度抜き出し、素早く弾倉を開いて翠の銃弾を込める。
星斗に向かって走り出す巨大猪。頭を下げ、突っ込んでくる。かち上げて吹っ飛ばすつもりだろう。
膝立ちの姿勢で両手で銃を構える。照星と照門を合わせ、良く狙う。狙うは下がった頭。眉間に狙いを定める。
ダブルアクションでしか間に合わない、一旦引き金を引いて撃鉄を止める方法も間に合わない。
1発しかない銃弾に【ぶっ倒して、光の玉を助ける】という願いを込めて、引き金に掛けた指に力を込める。
深紅の光が拳銃に装填した弾丸に向かって収束し、ゆらゆらと陽炎の様に踊る。
巨大猪が目前に迫る。
――必ず当てる――
その想いが、例え弾丸が当たっても、巨大猪の勢いは殺せないと分かっていても、自身が吹き飛ばされようとも、命中させることを優先させる。
(喰らえ!!)
引き金を引いた瞬間、いつもより重い発砲音が響く。
まるでイヤーマフをした時の様な、重低音と共に弾丸が弾き出される。
弾倉からは白い煙の代わりに翠色の粒子が飛び散り、反動は発砲音に反してそこまで大きくない。
翠に深紅の混じった弾丸は、巨大猪の眉間に吸い込まれていく。
弾丸は頭蓋に弾かれることも無く、まるで豆腐に打ち込んだかの如く、易々と巨大猪の分厚い頭蓋に突き刺さり、脳漿を掻き乱し、体内へとその暴威を撒き散らしていく。
やがて弾丸から翠色と深紅の光が迸り、巨大猪の体を蝕む。
前にツンのめる様な形で倒れ込み、勢いそのまま星斗に突っ込んでくる巨大猪。
体を横倒しにし、何とか体捌きをしようとするが、その巨体に轢かれる様な形で吹き飛ばされる星斗。
ゴロゴロと廊下を転がり倒壊した壁に激突して止まる。
「――ぐっ、痛っ……」
頭を強打し、悲鳴を上げている体に鞭打ってすぐさま巨大猪を確認する。
そこには眼から翠色の光が失われ、横倒しになっている巨大な猪の姿があった。
星斗はなんとか立ち上がり、慎重に巨大猪に近付きながら残弾の無い拳銃をホルスターへと収める。
あの時の銃弾の薬莢は入っておらず、弾倉は空になっていた。
警棒も折れ、拳銃も使えない状況では、星斗に対抗手段は無い。
それでも一刻も早くあの光の玉を救い出してやりたかった。
巨大猪の頭の横に立ち、まずは倒せたか確認を始める。
「呼吸はしていないかな……脈は計りようがないか」
鼻先に手をかざし、呼吸を確かめる。脈は分からないが腹の上下は無く、呼吸は止まっているようだ。
怪しく翠色に光っていた眼球は元の黒色に戻っており、生気が感じられない。
「……うっし、やってみるか」
覚悟を決め、巨大猪の口を大きく開けてみる。死後硬直もないため顎は素直に開き、まだ生暖かい。口の中から奥を覗いみるがいまいち奥が見えない。
「ライトあったよな……」
防刃衣のポケットから小型のLEDライトを取り出し、喉の奥をライトで照らしてみる。
LEDの白い光とは違う翠色の光が見えた気がした。
「――!!――おいっ!生きているか!?」
完全に生き物に話しかけるように声を掛ける星斗。
その言葉を聞いて、胃袋の奥から飛び出してくる光の玉。勢いそのままに星斗に飛びつき、擦り寄ってくる。
「あぁ……よかった……本当に良かった……」
へたりと座り込む星斗。
胡座をかいた膝の上を行ったり来たり飛び回る光の玉。
誰も救うことができなかった男が、初めて1人を救うことができた瞬間であった。
何処を確認するよりも気が進まない。毎日通学を見守り、顔見知りばかりの小学校。
今から生徒たちと教職員たちを確認しなければならない。
気が重くとも、カブは走らせる。
光の玉は風に煽られるのか、防刃衣の隙間に入り込んでいるようだ。
そんな光の玉を見ながら、星斗は思案していた。
(風に煽られるってことは、物質として存在している?触れられるから間違いないか)
カブで走りながら霊子の粒が、カブの車体や星斗の体に当たり、弾けて消えていく。
(霊樹から生まれている霊子は、空気中に溶けるように消えていくが……こいつは違うんだな。意思みたいなものもありそうだし……)
小学校に到着し、すぐに目に入ったのは翠色に染まった校舎だった。
「くっ……」
思わず顔をしかめる。警察官として幾つもの事件・事故現場に臨場し、それなりの数の遺体や変死体を見てきた。多少なり耐性はあるが、いつまで経っても子供の死には慣れない。慣れてはいけない一線なのだろう。
「厳しいな……」
光の玉が何か訴える様に、星斗の周りを激しく飛び回る。まるで諦めるなと叱咤されているようだ。
「そうだよな、まだ分からないよな……探すぞ。」
光の玉が頷くように上下する。いつの間にか、自然と光の玉に話しかけている星斗。
カブを駐車し、制帽を被ってから気合を入れて校内へと入っていく。児童の多い小学校ではない、各学年1クラスだけだ。
教室にはさっきまで授業で使用していたであろう教科書や鉛筆が散乱していた。
そして顔を上げると、そこには机に向かい、椅子に座った1回り小さな霊樹が規則正しく並んでいた。
「くっそ……」
一つ一つ教室を確認する。最後に職員室はと入り、誰もいない事を確認してしまった。
「ふぅ……まだ人が集まれる場所……確認すべき場所は……」
大きく息を吐く星斗。
心が壊れないように、自衛本能が働いているのだろうか。心が掻き乱されなくなっている。
光の玉が不安そうに星斗の周りを浮いている。そんな星斗を慮ったのか、そっと胸の辺りに寄り添う。
「……暖かい……ありがとう」
凍えてしまった心が、魂が、暖められていく。
そっと光の玉を撫でる星斗。
「誰も居ないみたいだから……他の場所を探してみよう」
光の玉に語りかけ、校舎を出る。カブの所に戻ろうとした、その時。
目の前に巨大な猪がいた。
「な……にっ……」
その体格は、星斗と知る猪より遥かに大きく、ミニバン位あるだろうか。
眼は怪しく翠色に光り、興奮しているのか落ち着きなく前足を足掻いている。そして、敵意剥き出しの双眸を星斗達に向けている。
関東の平野部とはいえ、田舎で山もある。時には猪や猿、鹿が出没して110番通報が入ることもある。
星斗も猪を川に追いやったり、猿を追いかけたりしたことはあったのだが。
「今朝の熊山市の猪か?それにしちゃデカすぎだろ。――――こんな何処ぞのアニメの巨大猪みたいな化け物、聞いたことないぞ」
(警棒は……無意味……拳銃も効くのか、これ?……それよりも校内に入ってやり過ごした方が…………)
星斗は深く呼吸し、息を整える。ジリジリと後退しながら、腰の拳銃に両手を当てる。
目線は巨大猪の翠色の眼から視線を外さず、右手で覆い蓋と留め皮と外し、いつでも拳銃を抜けるようにしておく。
(猪との距離は10メートル位、一気に駆け抜けて廊下を曲がれば……)
朝礼台を遮蔽物にし、数段の階段を後ろ向きにジリジリと登る。
「離れて、何処かに隠れてろ」
光の玉に避難を呼びかける。
ふるふる横に震え、否定の意思を表す。そして星斗の懐に潜り込む。星斗は一瞬驚くも光の玉を追い出そうとはしない。そんな余裕もないため、そのまま連れて行くことにする。
星斗は振り返り、一気に校内へ走り出す。それと同時に巨大猪も全力で走り出す。その巨体からは考えられない速度で加速する巨大猪。
(左に曲がってすぐ階段を登る!!)
迫り来る巨大重量の鈍い足音から全速力で逃げる。下駄箱の間を抜け、廊下の突き当たり下に設置された鏡越しに迫り来る巨大猪が見える。廊下を曲がった、その時。
――ギャイイイィィィィンッ――
まるで金属同士がぶつかり合った様な音が響く。横目で見たそこには、朝礼台なんぞまるで眼中にない巨大猪が、朝礼台に激突して鉄製の朝礼台を吹き飛ばした所だった。
前のめりで飛び退く星斗。前周り受け身の要領でゴロゴロと転がり勢いを殺す。背後では朝礼台が昇降口に激突し、ガラスが割れ、下駄箱を薙ぎ倒していく。朝礼台は勢いをそのままに廊下の鏡に激突し、鏡が粉々に砕け散る。
巨大猪は速度を緩める事なく、倒れた下駄箱を蹴散らしながら猪突猛進し、コンクリートの壁に激突。
校舎が揺れ、轟音と共に壁にヒビが広がり、破片が周囲へ飛び散る。
そこで巨大猪の動きが止まる。
(――今しかない!!)
その瞬間を見逃さず、星斗は拳銃を引き抜き、片膝立ちで銃を構える。
(狙いは首筋辺り。体では動きを止められないだろう。頭は頭蓋骨に弾かれる。運良く大きな血管を、願わくば心臓に当たれ!!)
強盗事件の時より僅かな余裕があると見做し、ダブルアクションではなくシングルアクションに切り替える。
左の親指で撃鉄を起こし、照星と照門を合わせる。
力み過ぎて「ガク引き」にならないよう、緩やかに、しかし素早く引き金を引く。
手首に伝わる衝撃。室内のため破裂音がより響き、屋外よりも発砲音が大きく長く聞こえる。一瞬でもの間を置いて、漂う硝煙の臭い。
命中の如何を問わず、再度素早く撃鉄を起こし、再度狙いを定める。
巨大猪の体が身じろぐ。
(――まだか!!)
続けて響く3発の銃声。
ポロポロと廊下に転がるひしゃげた弾丸。
巨大猪は何事もなかったかのように、悠然と立ち上がり星斗の方へと向き直る。
「的はデカいし、ちゃんと当たったよな!?」
外したため弾丸が転がっているのか、或いは当たったが体毛と皮膚に阻まれたのか。
致命傷を与えるどころか、血の1滴も垂れていない。あの巨体に38口径の弾丸では効果が無いのか。
「……マジかよ」
残弾はあと2発。星斗の使用している拳銃は【S&W M360J SAKURA】回転式の弾倉には5発の銃弾しか装填できない。勿論予備の銃弾など持ち合わせていない。
脱兎の如く階段へとひた走り、一気に2階へと駆け上がる星斗。その周りを必死に付いてくる光の玉。
再度後ろから迫りくる巨大重量の鈍い足音。リノリウムの廊下が悲鳴を上げながら砕け、そのままの勢いで階段を駆け上ってくる巨大猪。
(追いつかれる――)
星斗が2階へ登りきる前に、巨大猪は踊り場まで登ってきている。このままではあの巨体に押しつぶされてしまう。そうなれば一貫の終わりである。星斗が取るべき手段は限られている。
逃げるか、迎え撃つか。このままではジリ貧と判断。
素早く拳銃を構え、狙いを定める。距離は5メートルもない。
(――狙うは顔、できれば目玉!!――)
いくら巨大な体とはいえ、所詮は目玉、的は小さい。
血走った翠色の眼が、こちらを見つめ返している。
「最後の2発!くれてやるよ!!」
覚悟を決めて、発砲する。階段上からの打ち下ろし。慣れない射撃姿勢。そして先程の様にシングルアクションで撃つ時間はない。ダブルアクションになってしまうが、成るべく狙えるように引き金を一気に引き撃鉄を起こし、そして引き切る前に一瞬止める。これで撃鉄を起こしたことになり、シングルアクションのように軽く撃鉄が引けるようになる。
銃性と共に弾丸が飛び出す。
だが、弾丸は狙いの目玉を外れ、階段の踊り場に着弾し跳弾していく。
「――クッソ!――」
巨大猪が脚を足掻き、星斗に狙いを定める。
残弾はあと1発。当てられなければ、待っているのは「死」。
「やってやるよコノヤロー!!!」
先程と同じダブルアクションで撃とうと構え、引き金を引き起こし、止めたその瞬間。
校庭で見せた加速とは比べ物にならない速度で、巨大猪の体が踊り場から2階まで跳ね上がる。
反射的に体を捻じりながら横っ跳びしするが、受け身が取れず廊下に叩きつけられ、その反動で引き金にかけていた指が引き金を引いてします。
廊下に虚しく響く銃声。
(しまった――)
勢いそのまま2階の壁に激突する巨大猪。
だが昇降口の時とは違いすぐさま向き直り、再度狙い星斗に定める。
(ヤバイ――避けなければ――死ぬ)
避けようという意思はあるのに、体が動かない。体が完全に委縮してしまっていた。
(――動け、動け、動け――足掻け、あがけあがけぇぇえぇぇ!!)
巨大猪が廊下いっぱいの巨躯を急加速しさせ、突撃してくる。
間一髪、窓際に転がるように避ける星斗。
教室の壁を破壊しながら、すぐさま方向転換してくる巨大猪。
辺りに粉々になった壁の破片が飛び散り、星斗の後ろに残った壁が倒れてくる。
(もう一度避け……)
後方は倒壊した壁に阻まれ、もはや奴の突進を避ける場所がないことに気が付く。
「やっちまった……なから厳しいね……」
突撃してくる巨大猪、ここで終わりかと諦めかけた、その時。
星斗の周りを飛び回っていた光の玉が巨大猪に向かって飛び出して行く。
「おいっ!行くな!!」
光の玉に親近感を覚え始めていた星斗は慌てて止めようとする。誰一人として生存者に出会えない中、唯一出会った意思疎通のできるかもしれない相手。
必死に手を伸ばす。届かない指が虚しく空を掴む。
光の玉が巨大猪の顔面にぶつかる。威力など皆無の捨て身の体当たり。だが巨大猪も突然目の前に現れた光の玉には驚いたのか、巨大が身じろぎ急制動をかける。
光の玉は弾かれてしまうが、執拗に顔の周りを飛び回り、巨大猪の注意を逸らそうとする。顔面や眼に向かって体当たりを続ける光の玉に、巨大猪が鬱陶しそうに頭を振り、前脚を蹴り上げる。
「危ないから離れろ!一緒に逃げるぞ!」
星斗が光の玉に向かって叫ぶ。
光の玉がピクリと反応して、星斗の所へ戻ろうとして一瞬動きを止める。
巨大猪はその瞬間を見逃さず、鼻先を横薙ぎに振る。
鼻先が光の玉を捉え、吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。
廊下に転がる光の玉。
追い討ちをかけようと前脚を持ち上げる巨大猪。
「――やめろっ!!」
再度叫ぶ星斗。
(何か無いか!警棒で牽制するか!?)
星斗が逡巡している間に、巨大猪が脚を振り下ろす。
一瞬の判断の遅れ。それは致命的な遅れとなって星斗に現実を突きつける。
――ズドンッ!!――
動物の脚音とは到底思えない音が響き渡り、リノリウムの廊下が砕け、大きくひび割れが入る。砕けたコンクリートが飛び散り、砂埃が立ち込めて光の玉が無事か分からない。
「――待ってくれ!!――また俺を置いて行くな!!――」
体の奥底から漏れ出る、魂の慟哭。
走馬灯の様にあふれる記憶。
平坦になり跳ねることのない心電図。
慌ただしく動き回って処置をする医師と看護師。
大粒の涙を流しながら拳を握りしめ、必死に嗚咽を堪える伊緒。
美夏に縋り付き泣き叫ぶ真理。
握り返してこない痩せた手。
(また俺は無力なのか!何もできないで見ているだけなのか!!)
砂埃が薄れ、巨大猪の足元に淡く光る翠の光が見えた。
(まだ生きている!!)
そう確信した星斗はもう迷わない。素早く拳銃をホルスターに差し込み、警棒を引き抜く。伸縮する警棒を伸ばすと勢い良く飛び出していく。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
雄叫びを上げ、巨大猪の注意を引きつつ、警棒を振り上げながら突っ込んでいく。
砂煙が晴れ巨大猪の姿を現し、脚元には光の玉が見える。
「そこを退け、このクソ猪!!!!」
巨大猪の顔面、眼球目掛けて力の限り警棒を振り下ろす。
とても生物の眼球から発せられる音とは思えない異音が響き、警棒が半ばでへし折れ、先端が吹き飛んでいく。
「――ビギャァァ!!」
「――はっ?」
あまりの事に気の抜けた声を上げる星斗。
普通、警棒を全力で打ち付けて曲がってしまうことは、良くあることだが、半ばでへし折れて振り抜けるなんてことはありえない。
それでも巨大猪は悲鳴を上げ、僅かに怯んだ。今はその隙が有難い。
痛みと衝撃から数歩後ずさる巨大猪。星斗は素早く警棒を投げ捨て、光の玉を救い上げる。そのまま踵を返すように離脱しようと体を反転させた。
「おいっ!生きてる――」
光の玉に話しかけた直後、体の右半身に走る衝撃と宙に浮く感覚。そのまま全身を窓際の壁に叩きつけられて廊下に転がる星斗。
「――ぐっ――がっ――」
息ができず、視界が霞む。口の中は血の味が広がっていく。
巨大猪の鼻が星斗を横薙ぎに吹き飛ばし、壁に叩きつけたようだ。
星斗の手からこぼれ落ちる光の玉。
巨大猪が光の玉を、ヒョイと咥える。霞む視界に映る絶望の光景。
「やめろ――!!」
そんな星斗の叫びを露ほどにもかけず、丸呑みし嚥下する巨大猪。
無理矢理体を動かし、起きあがろうと力の限り拳を握り込む星斗。
(まだ諦めるな――まだ助けられるかもしれない――アイツをぶっ倒せば――まだ――弾さえあれば――助けたい!!――必ず助ける!!!)
星斗の心の底からの想い。巨大猪を倒し、光の玉を助ける。そのための手段が欲しい。そんな願い。
体の奥底で何かが弾け、解放された気がした。
やがてその感覚は連鎖し、全身を駆け巡る。
握り込んだ星斗の右手の拳が深紅に輝き、翠色の粒子が拳の中に収束していく。
「な、んだ……」
光の放流が迸り、目が眩む。光が収まると、拳の中には先程まで何も無かったはずのなのに、良く知っている細長い形をした一握りの希望があった。
そっと開いた手のひらの上には、何時もの真鍮の薬莢と銅被甲の弾丸の執行弾でも、鉛の弾丸の訓練弾でもない不思議な銃弾が乗っていた。
翡翠の様な翠色に深紅色の混じった不思議な銃弾の様なものが1発。
「銃弾、か?」
形状は弾丸のそれだが、色も質感も全く違う。散弾銃のプラスチックの薬莢とも違う不思議な質感。どちらかといえば石、或いはガラスに近い様な手触りだ。
「グモォォォォ」
星斗から発せられた光で動きを止めていた巨大猪が意識を取り戻し、動き出そうとする。
「やってみるしかないか」
一旦ホルスターに収めた拳銃を再度抜き出し、素早く弾倉を開いて翠の銃弾を込める。
星斗に向かって走り出す巨大猪。頭を下げ、突っ込んでくる。かち上げて吹っ飛ばすつもりだろう。
膝立ちの姿勢で両手で銃を構える。照星と照門を合わせ、良く狙う。狙うは下がった頭。眉間に狙いを定める。
ダブルアクションでしか間に合わない、一旦引き金を引いて撃鉄を止める方法も間に合わない。
1発しかない銃弾に【ぶっ倒して、光の玉を助ける】という願いを込めて、引き金に掛けた指に力を込める。
深紅の光が拳銃に装填した弾丸に向かって収束し、ゆらゆらと陽炎の様に踊る。
巨大猪が目前に迫る。
――必ず当てる――
その想いが、例え弾丸が当たっても、巨大猪の勢いは殺せないと分かっていても、自身が吹き飛ばされようとも、命中させることを優先させる。
(喰らえ!!)
引き金を引いた瞬間、いつもより重い発砲音が響く。
まるでイヤーマフをした時の様な、重低音と共に弾丸が弾き出される。
弾倉からは白い煙の代わりに翠色の粒子が飛び散り、反動は発砲音に反してそこまで大きくない。
翠に深紅の混じった弾丸は、巨大猪の眉間に吸い込まれていく。
弾丸は頭蓋に弾かれることも無く、まるで豆腐に打ち込んだかの如く、易々と巨大猪の分厚い頭蓋に突き刺さり、脳漿を掻き乱し、体内へとその暴威を撒き散らしていく。
やがて弾丸から翠色と深紅の光が迸り、巨大猪の体を蝕む。
前にツンのめる様な形で倒れ込み、勢いそのまま星斗に突っ込んでくる巨大猪。
体を横倒しにし、何とか体捌きをしようとするが、その巨体に轢かれる様な形で吹き飛ばされる星斗。
ゴロゴロと廊下を転がり倒壊した壁に激突して止まる。
「――ぐっ、痛っ……」
頭を強打し、悲鳴を上げている体に鞭打ってすぐさま巨大猪を確認する。
そこには眼から翠色の光が失われ、横倒しになっている巨大な猪の姿があった。
星斗はなんとか立ち上がり、慎重に巨大猪に近付きながら残弾の無い拳銃をホルスターへと収める。
あの時の銃弾の薬莢は入っておらず、弾倉は空になっていた。
警棒も折れ、拳銃も使えない状況では、星斗に対抗手段は無い。
それでも一刻も早くあの光の玉を救い出してやりたかった。
巨大猪の頭の横に立ち、まずは倒せたか確認を始める。
「呼吸はしていないかな……脈は計りようがないか」
鼻先に手をかざし、呼吸を確かめる。脈は分からないが腹の上下は無く、呼吸は止まっているようだ。
怪しく翠色に光っていた眼球は元の黒色に戻っており、生気が感じられない。
「……うっし、やってみるか」
覚悟を決め、巨大猪の口を大きく開けてみる。死後硬直もないため顎は素直に開き、まだ生暖かい。口の中から奥を覗いみるがいまいち奥が見えない。
「ライトあったよな……」
防刃衣のポケットから小型のLEDライトを取り出し、喉の奥をライトで照らしてみる。
LEDの白い光とは違う翠色の光が見えた気がした。
「――!!――おいっ!生きているか!?」
完全に生き物に話しかけるように声を掛ける星斗。
その言葉を聞いて、胃袋の奥から飛び出してくる光の玉。勢いそのままに星斗に飛びつき、擦り寄ってくる。
「あぁ……よかった……本当に良かった……」
へたりと座り込む星斗。
胡座をかいた膝の上を行ったり来たり飛び回る光の玉。
誰も救うことができなかった男が、初めて1人を救うことができた瞬間であった。
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