噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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番外編

ハッピーバースデー

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 明日、5月10日は大好きな周防くんの誕生日だ。
 前から絶対作ろうって決めてた周防くんの好物である筑前煮は仕込み終えてて、今は冷蔵庫で眠ってる。明日忘れないように持って行かないと。
 そんな俺は今、スマホを手にベッドで正座して表示された時間と睨めっこしてた。眠気は結構きてるけど、どうしても日付けが変わった瞬間にお祝いメッセージを送りたくて十分前から待機してる。

「0時になった瞬間になんて初めてだからドキドキする」

 周防くんもびっくりするかな。というより、もう寝ちゃってるかも。
 おやすみって送ったの二時間も前だし、俺もいつもなら寝てる時間だから起きてない確率の方が高いかも。
 でもどっちでもいいんだ、俺がしたいだけだから。

「あ、あと1分」

 23時59分。もう文字は打ってるから、次に数字が変わったら送信ボタンを押すだけ。
 じーっと見てたら、画面の時計が5月10日の0時0分に進んだ。ほぼ反射で「えいっ」と送信しホッと息を吐く。

「送れたー。じゃあ寝よう…わっ」

 無事送れた事にホッとしたら一気に限界が来た。でも欠伸をしながら布団に入ろうとしたらスマホが震えて、俺は思わず声を上げてしまい慌てて口を押さえる。薫はもう寝てるから、大きい声や音を出したら怒られちゃう。
 画面を見るとたった今メッセージを送った周防くんからで、目を瞬きながら通話ボタンを押して耳に当てると柔らかな声が聞こえてきた。

『あ、湊? おめでとうメッセージありがとな。まさか10日になった瞬間に送ってくれるとは思わなかった』
「俺が一番最初にお祝いしたかったから。起きてたんだね」
『大体いつも1時くらいまでは起きてる』
「そんなに遅くまで起きてるの? 朝しんどくない?」
『もう慣れた。湊の方こそ、いつもなら寝てる時間だろ? 眠くないのか?』
「実は結構眠い」

 スマホが震えた時は驚いて一瞬眠気も吹き飛んだけど、周防くんだって分かって、周防くんの声を聞いてると目蓋も重くなる。
 だって、すごく安心するんだもん。

『…なぁ、湊。誕生日だから1個我儘言ってもいい?』
「もちろん。なぁに?」
『寝落ちてもいいからさ、このまま通話繋いでてくんね?』

 周防くんがそんなお願いをするなんて珍しいと思って快諾したら、なんて事なくて今度はキョトンとしてしまった。
 それはむしろ、俺にも嬉しいお願いだ。

「いい、けど…でも俺、たぶんすぐに寝落ちちゃうよ?」
『いいよ、俺も湊の声聞きながら寝落ちたいし。スピーカーにして枕元置いて布団入んな』
「う、うん」

 スピーカーをオンにして布団に入り、言われた通り枕元に置いたんだけど、そこから周防くんの声が聞こえると不思議な感じ。

『明日はうちで祝ってくれるんだろ?』
「うん。ケーキは帰りに買って行こうね」
『そうだな。でも次の日も学校あるし、泊まれないのが残念』
「でも週末は泊まるよ」
『誕生日が終わるまで湊と過ごしたかったんだよ、俺は』

 子供みたいな事を言う周防くんの声が拗ねてて笑みが零れる。いつもは大人な恋人がこんな風に俺に我儘を言ってくれるの嬉しい。
 周防くんがもっと我儘言ってって言う気持ち分かる気がするかも。

(…あ、寝ちゃいそう…)

 布団の温かさと、ボリュームを抑えたいつもより低めの周防くんの声が子守唄みたいになって俺の目蓋を重くする。

『明日の飯はどうする?』
「俺が作る…」
『マジで? やった、楽しみにしてるな』
「ん……」
『……湊?』
「…………」

 もっと話してたいって閉じそうになる目蓋と戦っててたんだけど、瞬きしようとして一度視界が真っ暗になるとダメだったみたいで、俺は自分でも気付かないうちに寝息を立てていた。

『おやすみ、湊』

 優しい声がそう言ってくれた事も、周防くんがしばらく俺の寝息を聞いてた事も、当人である俺は知る由もない。




 周防くんの誕生日当日。
 昨日はいつの間にか寝ちゃってて、起きてスマホを見た時は通話は終わってたけど周防くんからは『おはよう』のメッセージが来ていた。早起きだ。
 学校ではいつも通りに過ごして、放課後にケーキ屋さんとスーパーに寄って必要なものを買い周防くんの家に向かった。
 時間があれば誕生日の飾りをしたかったんだけど、それは一緒に暮らす時まで取っておく。その代わり、その時にはめいっぱい飾り付けしたいな。

「いい? 周防くん。ぜーったい、覗きに来ちゃダメだからね?」
「分かった分かった。大人しく待ってます」
「少しでも覗いたら怒るから」
「湊が怒ってるとこ見てみたいけど、今日は言う事聞くよ」

 エプロンを身に着けたあと、キッチンで隣に立とうとする周防くんに人差し指を立ててそう言うとどうしてか笑いながら頷くから、重ねて言えば抱き締められてキスされた。目を瞬いてる間に俺の頭を撫でてからベッドに行って寝転がる周防くんを見てふぅと息を吐き、筑前煮のタッパーを保冷バッグから取り出して鍋に移す。
 ゆっくり温めてるうちにご飯を仕掛けて、お味噌汁と副菜作りに取り掛かった。

 部屋の中にお出汁のいい匂いが漂ってる。誕生日のお料理といえばって感じではないけど、主役である周防くんの好きな和食尽くしだからいいよね。
 完成したからテーブルに運びたいんだけど、周防くんは待ちくたびれたのか静かに寝息を立てていて俺は迷ってしまう。
 前にもこんな事あったなぁ。
 エプロンを外して近付き、片腕を枕にして寝ている周防くんを眺めていると何だか寂しくなって、俺はベッドに上がって周防くんの腰を跨いで座り身体の上に寝転んだ。
 ベッドの軋みと重さで目が覚めたのか、周防くんの手が俺の髪に触れる。

「…ん…湊…?」
「ご飯、出来たよ」
「あー…ごめん、起きる」

 俺の背中に手を添え俺ごと起き上がった周防くんは欠伸を零すと、見上げてる俺に気付いて吐息で笑い目元に口付けてきた。反射的に目を瞑ったけど、それ以上はなくてそのまま抱き上げてソファまで連れて行かれる。
 もっとキスされると思ってた俺は拍子抜けしつつも、盛り付けておいた料理を運ぶ為降ろされるなりキッチンへと向かった。

「手伝う」
「ダメ。主役は座っててください」
「はいはい」

 すぐに動こうとする周防くんに手でストップをかけ、筑前煮以外をテーブルに並べていく。ケーキを置いたあと、ドキドキしながらメインを運んだらそれを見た周防くんが目を見開いた。

「湊、これ…」
「周防くんが一番好きなおかず。ちゃんと俺が一から作ったんだよ。うちの味だからお口に合うかは分からないけど、お母さんに教えて貰ったから大丈夫…なはず。あ、ちなみにね、昨日から煮てたからきっと味も染みてると思…」

 何となく気恥ずかしくて早口で捲し立ててたんだけど、最後まで言い切る前に周防くんに腕を引かれて抱き締められた。
 周防くんの匂いと腕に包まれて戸惑ってると顔中に唇が触れる。

「周防くん?」
「あーもー…ほんっとに可愛い。マジで好き」
「え、えっと…」
「ありがとな、湊。すげぇ嬉しい」
「う、うん。どういたしまして……あの、周防くん、食べないの?」
「食うよ。でももうちょいこうさせて」
「うん」

 今日は周防くんの誕生日だから、周防くんのお願いは何でも聞いてあげようと思ってる俺はこくりと頷く。
 少しして腕を離してくれた周防くんは、俺を膝に乗せて着火器具を手に取ると自分でローソクに火を灯してしまった。
 それからリモコンを操作して電気を消す。

「俺が点けたかったのに」
「危ないから駄目」

 普通のライターと違って火が点く場所が離れてるからそんなに危なくないのに、周防くんは絶対ちょっとでも危ない事はさせてくれない。薫や悠介とは違う意味で過保護だけど、この甘やかされ方は正直嫌じゃなかったりする。
 それなら代わりにと手拍子付きでバースデーソングを歌ったら嬉しそうに笑ってくれた。
 ローソクが吹き消されて一瞬部屋が暗くなり、パッと電気がついて目がシパシパする。

「湊、筑前煮食わせて」
「うん。ちょっと待ってね」

 明かりに目が慣れてきた頃に周防くんからそうお願いされ、一度腰を浮かせてから取り皿に筑前煮をよそい箸で摘んで口元に寄せる。すぐに口を開けてパクッと食べ咀嚼するのを緊張しながら見てたら、飲み込んだ周防くんがにこっと笑った。

「めっっっっちゃくちゃ美味い」
「ほんと?」
「ホント。マジで世界一美味い。この先もずっとこんな美味いもんが食えるとか、俺すげぇ幸せ者だな」
「褒めすぎだよ」
「そんな事ないって。俺の為に頑張ってくれてありがとう」

 そこまで喜んで貰えると逆に照れ臭いけど、周防くんがにこにこしてるのは嬉しい。上手に作れて良かった。

「これで、得意料理は周防くんの好きな食べものですって言えるね」
「胸張っていいよ。……ん、味噌汁も美味い」
「良かった」
「もっと食いたい」
「はい、あーん」

 お味噌汁以外を俺に食べさせて貰いつつ、俺の口にも運んでくれる周防くんはずーっとご機嫌だった。
 筑前煮、結構量を作ったつもりだったけど完食してくれて、出したお皿は全部綺麗になってシンクに運ばれる。ケーキ、食べれるのかな。

「周防くん、お誕生日おめでとう」

 夜ご飯の片付けを終えてケーキを切り分けたあと、俺は小さめの長方形の箱を差し出した。紺と白のストライプの包装紙でラッピングされたそれは周防くんへの誕生日プレゼント。
 周防くんへのプレゼントだけはどんな時でも本当に悩む。

「ありがとう。開けていい?」
「もちろん」

 丁寧にテープを剥がして包装を解き、箱の蓋を開けて中身を取り出した周防くんはそれを目の前まで持ち上げて裏表を見る。
 今年の誕生日プレゼントは名前のイニシャル入りドッグタグのキーホルダー。鍵とかも付けられるかなってリングも三つぶら下がってる。

「へぇ、ドッグタグ? カッコイイじゃん」
「周防くんにはカッコいいのが似合うから」
「うちの鍵何も付いてないし、これ付けるかな」

 立ち上がった周防くんはキーホルダーのカラビナ部分に人差し指を入れてくるくる回しながら玄関に行くと、そのままのお家の鍵を持って来てソファに座りリングを弄り始める。
 それを見て自分のリュックを取って膝に乗せた俺は、中から同じドッグタグのキーホルダーを取り出して照れ笑いを浮かべながら周防くんに見せた。
 俺のは自分の名前が入ってる。

「実は俺もお揃いにしたくてお願いしちゃった」

 名前以外は色もデザインもまったく一緒。〝M〟って刻まれた部分を見せると周防くんが目を瞬いた。
 付けようとしていた鍵を置き、自分のキーホルダーを俺の方に出してくる。

「俺そっちがいい。交換しよ」
「え? でも俺の名前だよ?」
「だからこそそっちがいいんだって。ほら、湊は俺の名前の方な」
「う、うん」

 周防くんのイニシャルが入ったキーホルダーが手の平に乗せられ、自分のイニシャルが入った方を周防くんに渡す。受け取った周防くんはいそいそと鍵を付けていて何だか微笑ましく思ってしまった。
 俺もリュックの付けられるところにカラビナをはめて満足し、ケーキを食べようとテーブルに向き直る。

「湊」
「?」
「ケーキ持ってこっちおいで」

 ソファの肘置きに寄り掛からせたクッショに凭れるようにして、足を伸ばして座った周防くんが自分の腰元を叩いて呼ぶ。首を傾げながらも言われた通りケーキが乗ったお皿を手に跨って座ったら持っていたフォークを取られた。
 そのままケーキを一口サイズに切って刺し、俺の口元に差し出す。

「あーん」
「あー」
「…美味い?」
「うん、美味しい」

 周防くんの親指が俺の唇を拭いながら微笑んで問い掛ける。
 何だか凄く空気が甘い…ような。
 俺が飲み込んだのを見計らってまたケーキが寄せられる。そうして最後の一口になった時、少し大きくて食べる時に口端についた生クリームを舌で拭おうとしたら、いきなり首の後ろに周防くんの手が回ってきて引き寄せられ代わりに舐め取られた。

「ひゃ…ん…っ」

 びっくりしたけど、そのまま唇が塞がれて舌が入ってくると今度はゾワゾワした感覚が背中を走る。
 周防くんとのキスはいつも気持ち良くて、特に舌が触れ合うと頭がぼんやりしてずっとしてたいなって思うくらい好き。

「ん…ふ…」
「…湊の口の中、甘いな…」
「ケーキ…食べたから…」
「もっと味わってもいい?」
「うん…もっと舐めて…」
「可愛い」

 周防くんの頬を両手で挟んでねだると優しく目を細めて再び口付けてくれる。俺のよりも大きくて厚みのある舌が口の中を擽るように動いて、周防くんの手が腰を撫でるからお腹の下が疼いてきた。
 この人、絶対分かっててやってる。

「…っ…ん、周防く…」
「抱きたい。駄目?」
「…だ、だめ…」
「どうしても?」
「……うぅ…」

 今日は周防くんの誕生日で、周防くんのお願いなら何でも聞いてあげたい。でもしちゃったら俺はすぐには動けなくなるから、ギリギリ門限に間に合うかどうか…泊まりになるのは問題ないんだけど。

「抱かせて、湊」
「ん…っ」

 耳に周防くんの唇が触れて軽く吸われる。
 本当は俺だって周防くんに触られたい。たくさん抱いて欲しい。
 この部屋にだって俺の着替えはあるんだし、誕生日が終わるまで一緒にいたいって言ってた周防くんのお願いを叶えてあげる為にも泊まる事に決めた俺は、小さく頷いて彼の首に抱き着いた。

 その後、気を失った俺の代わりに周防くんがお家に連絡してくれたのは言うまでもない。





FIN.
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