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【最終話】共に在る未来(周防視点)
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微睡みの中でスマホのアラームが鳴っている。幸せな夢も心地よい眠りも中断される煩わしさに眉を寄せ、手探りでそれを止めて重い瞼を開いた俺は鼻先を擽る髪に気付いて微笑んだ。
視線を落とすと穏やかな寝息を立てている湊がいて、その手はしっかりと俺の服を握っている。毎回これを離すのが忍びなくて、指を一本一本外したあと起こさないように腕枕を抜くのが最近のルーティーンだ。
俺がベッドから出たあとはテディベアの出番で、そっと腕の中に収めると途端に抱き締めるのが可愛らしい。それを写真に撮り、スーツに着替えジャケットを手に寝室を出てリビングに移動する。
湊と暮らし始めて早くも三ヶ月が経った。
毎日が楽しくて、やっと本当に落ち着ける場所を見付けたって感じがしてる。当たり前のように湊が隣にいる事がこんなにも幸せだとは思わなかった。
「朝飯何にすっかな」
一緒に暮らすにあたって、家事は出来る時に出来る人がして、やりたくない時は無理にやらない。遅くなる時は連絡する。見送りと出迎えは家にいる方が絶対にするという事を湊と決めた。
まあ最後のは俺の我儘だけど、今のところは湊が見送りも出迎えもしてくれてる。仕事から帰って来て、湊の可愛い笑顔と「おかえりなさい」に迎えられると、それだけで疲れも吹き飛ぶんだからすげぇよ。
冷蔵庫から朝飯の材料を取り出し作っていく。
同棲してから朝のキッチンに湊が立ったのは片手で数えられるくらいしかない。俺がほぼ毎晩と言っていいくらい抱いてるからだけど、湊も嫌がんねぇからついつい手ぇ出しちまって…駄目だな、俺。
湊は大学で頑張ってるそうだ。何でか薫があった事を逐一教えてくれるんだけど、そのナンパ率の高い事高い事。高校三年になってから少し背が伸びた湊は、大人になるにつれ色気を増し始めた。
相変わらず可愛い顔をしてるし、素直で穏やかな性格も変わってないんだけど、ふとした表情がエロいっつーか…それにやられる奴が多いらしい。
オマケに俺が付けるキスマークが悪さをしてるみたいでどうしたらいいか悩んでる。湊は付けて欲しいみたいだけどな。
「っし、完成。湊を起こすか」
チーズオムレツ、サラダ、ロールパンとコンソメスープをテーブルに並べ再び寝室へと足を運ぶ。
寝相のいい湊はさっきと変わらない体勢で寝てたけど、今度は俺の枕の端を握ってて思わず笑みが零れた。こうやって何かを握って寝る癖が可愛くて堪らない。
ベッド縁に腰掛け湊の肩に触れる。
「湊、起きろ」
「……ん…」
「朝飯出来た」
「…ぅん…」
何とも眠そうに返事をしながら起き上がった湊は、しばらくぼーっとしたあと目を擦り俺へと腕を伸ばして抱き着いて来た。
「おはよぉ…周防くん…」
「おはよ。歩けそう?」
「……抱っこ」
「はいはい」
寝惚けてるにしろ甘えてるにしろ、こうやって言ってくれるのは可愛いから喜んで抱き上げ洗面所に連れていく。洗面台の前で下ろし前髪を上げてやると丸みを帯びた綺麗なおでこが出てきた。
人差し指でそこ突つくと不思議そうな顔で見上げてくる。
「忘れてた」
そう言って身を屈めて触れるだけのキスをしたら、パチリと目を瞬いた湊が俺の首に腕を回して引き寄せ口付けてきた。
「忘れるなんてひどい」
「ごめん」
「もう一回、周防くんからしてくれたら許してあげる」
「ん」
何も知らなかった湊は性的な事も少しずつ覚えて、今じゃ本当にごくたまにだけど誘ってくれるようになった。キスには積極的なんだけど。
笑いながら唇を重ね舌を差し込むと軽く歯が立てられ吸われる。
覚えたは覚えたけど、こういうのが俺を煽るっつーのは今だに分かんねぇんだよな。
「ん…」
「…はい、おしまい。顔洗ったらおいで」
「うん…」
「また夜にな」
ほんのり上気した頬と物足りなさそうな返事に釣られそうになり、自分の気持ちを落ち着かせる為にも湊の頭を撫でてそう言うとダイニングへと行って先に椅子に座って待つ。
少しして裸足の足音を鳴らしながら来た湊は、ぴょこんと跳ねた毛先を弄りながら向かいに座った。
「寝癖直んなかった」
「あとで直してやるから、先に食お」
「うん。いただきます」
「いただきます」
揃って手を合わせて食べ始めるのもすっかり当たり前になった。オムレツを食べた湊がにこっと笑い、ロールパンを手に取り千切る。
「美味しい」
「それは良かった」
「やっぱりまだまだ周防くんの方がお料理上手」
「そんな事ないって。和食は湊の方が得意じゃん」
「周防くんの好きな食べ物だからね」
こうやって、俺の為ならとことんまで努力してくれる湊が愛しくて仕方ないんだよな。毎分毎秒、俺を夢中にさせてくれる。
湊はコンソメスープの温度を確かめるように少しだけ飲み、大丈夫だと分かるとスプーンいっぱいに救って飲んだ。一回熱いまま飲んで火傷したからか、スープや汁物に関しては慎重過ぎるくらい慎重になってる。
「今日は何限から?」
「三限からで、今日はお母さんに呼ばれてるからちょっと帰るの遅くなるけど夜ご飯作って待ってるね」
「ん、ありがとう。でも外食でもいいんだし、無理はすんなよ」
「うん」
湊の飯は美味いから、食えるのは嬉しいんだけどな。
朝食を終え、ソファの背凭れに掛けていたジャケットを羽織りバッグを手に玄関に向かうと、洗濯を仕掛けていた湊が慌てて駆け寄って来た。俺の手を握りしょんぼりと項垂れる
「お弁当、今日も用意出来なくてごめんね」
「いいって、元は俺が無理させてるからだし。じゃあ行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「湊も、大学気を付けて行けよ」
上り框の高さで少しだけ距離の近付いた湊の首筋に唇を寄せ、薄くなった場所に重ね付けるように痕を残す。それを指で撫で、恥ずかしそうにはにかむ湊の頭を軽くポンと叩いてから俺は玄関を出た。
あのキスマーク、また薫に「付ける場所考えろ」って文句言われるかもな。見えるようにっつって湊に教えたの自分だし、より見えてる方が虫除けになんのにな。
思わぬトラブルによって残業になってしまい、帰宅時間が二十二時を回ってしまった。湊には遅くなるって事と先に飯食うようにって連絡したから、もしかしたらもうベッド入ってるかもな。
湊、何もない時は寝るのはえぇんだよ。
「ただーいまー…」
なるべく音を立てないように入り小さな声で帰宅を告げると案の定しーんとしてる。でもリビングの電気はついてて、俺は不思議に思いながら扉を開けて入ったらダイニングのテーブルで突っ伏して寝ている湊が目に入った。
目の前にはラップされた一人分の夕飯があって、どうやら待ってくれてたみたいだけど耐えられずに寝落ちたようだ。
「湊、寝るならベッド行きな」
「……周防くん…?」
「ん、ただいま」
「おかえりなさい…」
揺すりながら声をかけると、少しして身体を起こした湊は寝ぼけ眼で俺に抱き着いてきた。落ちないように支えて背中を撫でたら、むにゃむにゃと出迎えの挨拶をしてくれる。
「ベッドで寝てて良かったのに」
「…だって…」
「ん?」
「また夜にって言ったから…」
また夜に? いつ言ったっけ? と記憶を辿ってハッとする。確かに今日の朝そんな事を言っていたなと思い出したけど、もしかしてキスの続きをする為に起きてようと思ったのか? マジで?
えー、何それ、可愛すぎだろ。
「俺が風呂上がるまで起きてられる?」
「頑張る…」
「じゃあパッと入ってくるから待ってて」
「うん」
また寝落ちる確率の方が高そうだけど、俺は急いでジャケットを脱ぎ部屋着を持って浴室に行くとカラスの行水並の速さで出て、髪を乾かす時間も惜しくてタオルを被せたままリビングに戻ると、眠そうな湊が俺を見てふわりと微笑んだ。
その気怠さが妙な色気を纏っていて俺の下肢に一気に熱が集まる。
湊を抱き上げ寝室に向かった俺は、すぐに湊を組み敷いて全身に口付けた。見事に煽られた俺は蕩けまくった湊を抱き潰してしまい、翌日やっちまったと頭を抱えた事は湊には秘密だ。
数週間後、付き合って三年目を迎える日に約束していた証を贈る為、俺はシルバーのペアリングを購入した。内側に記念日と二人のイニシャルを刻んで貰い、ケーキもご馳走も準備して祝うつもりだ。
小さい頃から親と不仲で、ひどくやさぐれてた俺を大切にしてくれたばあちゃんが亡くなって、どん底まで落ちてた俺を救ってくれた湊が今は俺の隣で笑ってる。
湊に出会えなければ俺はもっと堕ちていただろうし、俺を守ってくれてた母親とも仲違いしたまま死に別れていたかもしれない。
こんな幸せな日々がある事も知らないで、気まぐれに喧嘩してそこら辺の奴と寝て、クソみたいな人生を送っていたと思う。
湊の純粋さと見返りを求めない優しさに触れて俺の心も随分丸くなったし、小さな身体で大きく包み込んでくれる懐の深さに何度も助けられた。俺はきっと、湊には一生敵わないだろうな。
こんなにも想える人と出会えて良かった。
「周防くん、大好き」
顔立ちが大人びても変わらない笑顔でいつだってそう言ってくれる。
俺と湊なら、この先何があったって大丈夫だ。
「俺も、湊が一番好きだよ」
左手で湊の左手を握り指を絡める。お互いの薬指には細く銀色が光ってるけどまだ少しだけ見慣れない。
でも、これは証だから。俺と湊がずっと一緒にいられるようにと二人で願った誓い。
俺の言葉に嬉しそうにはにかむ湊と額を合わせて微笑んだ俺は、上目遣いで見たあとそっと目を閉じる姿に吐息を漏らし、僅かに弧を描く柔らかな唇へと口付けた。
これから何十年と続く二人の未来に想いを馳せながら。
FIN.
⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·
これにて、『噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした』の本編完結でございます! 短編予定のはずが結構長くなってしまいましたが…^^;
実は、本編で出すほどではないかなと思い端折った部分もいくつかありまして、それを番外編で作ろうかなと思っております!
周防が湊に甘過ぎてあんまり不良っぽい部分がなかったのが少し残念でした。何なら変態っぽくなってたし(笑)
ツンツン男とヒョロ男とはもっと絡ませたかったですね。何だかんだ、湊や周防と仲良くなってそうですけど(*´艸`)
それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!
良ければ番外編もお読み頂けると嬉しいですm(*_ _)m
視線を落とすと穏やかな寝息を立てている湊がいて、その手はしっかりと俺の服を握っている。毎回これを離すのが忍びなくて、指を一本一本外したあと起こさないように腕枕を抜くのが最近のルーティーンだ。
俺がベッドから出たあとはテディベアの出番で、そっと腕の中に収めると途端に抱き締めるのが可愛らしい。それを写真に撮り、スーツに着替えジャケットを手に寝室を出てリビングに移動する。
湊と暮らし始めて早くも三ヶ月が経った。
毎日が楽しくて、やっと本当に落ち着ける場所を見付けたって感じがしてる。当たり前のように湊が隣にいる事がこんなにも幸せだとは思わなかった。
「朝飯何にすっかな」
一緒に暮らすにあたって、家事は出来る時に出来る人がして、やりたくない時は無理にやらない。遅くなる時は連絡する。見送りと出迎えは家にいる方が絶対にするという事を湊と決めた。
まあ最後のは俺の我儘だけど、今のところは湊が見送りも出迎えもしてくれてる。仕事から帰って来て、湊の可愛い笑顔と「おかえりなさい」に迎えられると、それだけで疲れも吹き飛ぶんだからすげぇよ。
冷蔵庫から朝飯の材料を取り出し作っていく。
同棲してから朝のキッチンに湊が立ったのは片手で数えられるくらいしかない。俺がほぼ毎晩と言っていいくらい抱いてるからだけど、湊も嫌がんねぇからついつい手ぇ出しちまって…駄目だな、俺。
湊は大学で頑張ってるそうだ。何でか薫があった事を逐一教えてくれるんだけど、そのナンパ率の高い事高い事。高校三年になってから少し背が伸びた湊は、大人になるにつれ色気を増し始めた。
相変わらず可愛い顔をしてるし、素直で穏やかな性格も変わってないんだけど、ふとした表情がエロいっつーか…それにやられる奴が多いらしい。
オマケに俺が付けるキスマークが悪さをしてるみたいでどうしたらいいか悩んでる。湊は付けて欲しいみたいだけどな。
「っし、完成。湊を起こすか」
チーズオムレツ、サラダ、ロールパンとコンソメスープをテーブルに並べ再び寝室へと足を運ぶ。
寝相のいい湊はさっきと変わらない体勢で寝てたけど、今度は俺の枕の端を握ってて思わず笑みが零れた。こうやって何かを握って寝る癖が可愛くて堪らない。
ベッド縁に腰掛け湊の肩に触れる。
「湊、起きろ」
「……ん…」
「朝飯出来た」
「…ぅん…」
何とも眠そうに返事をしながら起き上がった湊は、しばらくぼーっとしたあと目を擦り俺へと腕を伸ばして抱き着いて来た。
「おはよぉ…周防くん…」
「おはよ。歩けそう?」
「……抱っこ」
「はいはい」
寝惚けてるにしろ甘えてるにしろ、こうやって言ってくれるのは可愛いから喜んで抱き上げ洗面所に連れていく。洗面台の前で下ろし前髪を上げてやると丸みを帯びた綺麗なおでこが出てきた。
人差し指でそこ突つくと不思議そうな顔で見上げてくる。
「忘れてた」
そう言って身を屈めて触れるだけのキスをしたら、パチリと目を瞬いた湊が俺の首に腕を回して引き寄せ口付けてきた。
「忘れるなんてひどい」
「ごめん」
「もう一回、周防くんからしてくれたら許してあげる」
「ん」
何も知らなかった湊は性的な事も少しずつ覚えて、今じゃ本当にごくたまにだけど誘ってくれるようになった。キスには積極的なんだけど。
笑いながら唇を重ね舌を差し込むと軽く歯が立てられ吸われる。
覚えたは覚えたけど、こういうのが俺を煽るっつーのは今だに分かんねぇんだよな。
「ん…」
「…はい、おしまい。顔洗ったらおいで」
「うん…」
「また夜にな」
ほんのり上気した頬と物足りなさそうな返事に釣られそうになり、自分の気持ちを落ち着かせる為にも湊の頭を撫でてそう言うとダイニングへと行って先に椅子に座って待つ。
少しして裸足の足音を鳴らしながら来た湊は、ぴょこんと跳ねた毛先を弄りながら向かいに座った。
「寝癖直んなかった」
「あとで直してやるから、先に食お」
「うん。いただきます」
「いただきます」
揃って手を合わせて食べ始めるのもすっかり当たり前になった。オムレツを食べた湊がにこっと笑い、ロールパンを手に取り千切る。
「美味しい」
「それは良かった」
「やっぱりまだまだ周防くんの方がお料理上手」
「そんな事ないって。和食は湊の方が得意じゃん」
「周防くんの好きな食べ物だからね」
こうやって、俺の為ならとことんまで努力してくれる湊が愛しくて仕方ないんだよな。毎分毎秒、俺を夢中にさせてくれる。
湊はコンソメスープの温度を確かめるように少しだけ飲み、大丈夫だと分かるとスプーンいっぱいに救って飲んだ。一回熱いまま飲んで火傷したからか、スープや汁物に関しては慎重過ぎるくらい慎重になってる。
「今日は何限から?」
「三限からで、今日はお母さんに呼ばれてるからちょっと帰るの遅くなるけど夜ご飯作って待ってるね」
「ん、ありがとう。でも外食でもいいんだし、無理はすんなよ」
「うん」
湊の飯は美味いから、食えるのは嬉しいんだけどな。
朝食を終え、ソファの背凭れに掛けていたジャケットを羽織りバッグを手に玄関に向かうと、洗濯を仕掛けていた湊が慌てて駆け寄って来た。俺の手を握りしょんぼりと項垂れる
「お弁当、今日も用意出来なくてごめんね」
「いいって、元は俺が無理させてるからだし。じゃあ行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「湊も、大学気を付けて行けよ」
上り框の高さで少しだけ距離の近付いた湊の首筋に唇を寄せ、薄くなった場所に重ね付けるように痕を残す。それを指で撫で、恥ずかしそうにはにかむ湊の頭を軽くポンと叩いてから俺は玄関を出た。
あのキスマーク、また薫に「付ける場所考えろ」って文句言われるかもな。見えるようにっつって湊に教えたの自分だし、より見えてる方が虫除けになんのにな。
思わぬトラブルによって残業になってしまい、帰宅時間が二十二時を回ってしまった。湊には遅くなるって事と先に飯食うようにって連絡したから、もしかしたらもうベッド入ってるかもな。
湊、何もない時は寝るのはえぇんだよ。
「ただーいまー…」
なるべく音を立てないように入り小さな声で帰宅を告げると案の定しーんとしてる。でもリビングの電気はついてて、俺は不思議に思いながら扉を開けて入ったらダイニングのテーブルで突っ伏して寝ている湊が目に入った。
目の前にはラップされた一人分の夕飯があって、どうやら待ってくれてたみたいだけど耐えられずに寝落ちたようだ。
「湊、寝るならベッド行きな」
「……周防くん…?」
「ん、ただいま」
「おかえりなさい…」
揺すりながら声をかけると、少しして身体を起こした湊は寝ぼけ眼で俺に抱き着いてきた。落ちないように支えて背中を撫でたら、むにゃむにゃと出迎えの挨拶をしてくれる。
「ベッドで寝てて良かったのに」
「…だって…」
「ん?」
「また夜にって言ったから…」
また夜に? いつ言ったっけ? と記憶を辿ってハッとする。確かに今日の朝そんな事を言っていたなと思い出したけど、もしかしてキスの続きをする為に起きてようと思ったのか? マジで?
えー、何それ、可愛すぎだろ。
「俺が風呂上がるまで起きてられる?」
「頑張る…」
「じゃあパッと入ってくるから待ってて」
「うん」
また寝落ちる確率の方が高そうだけど、俺は急いでジャケットを脱ぎ部屋着を持って浴室に行くとカラスの行水並の速さで出て、髪を乾かす時間も惜しくてタオルを被せたままリビングに戻ると、眠そうな湊が俺を見てふわりと微笑んだ。
その気怠さが妙な色気を纏っていて俺の下肢に一気に熱が集まる。
湊を抱き上げ寝室に向かった俺は、すぐに湊を組み敷いて全身に口付けた。見事に煽られた俺は蕩けまくった湊を抱き潰してしまい、翌日やっちまったと頭を抱えた事は湊には秘密だ。
数週間後、付き合って三年目を迎える日に約束していた証を贈る為、俺はシルバーのペアリングを購入した。内側に記念日と二人のイニシャルを刻んで貰い、ケーキもご馳走も準備して祝うつもりだ。
小さい頃から親と不仲で、ひどくやさぐれてた俺を大切にしてくれたばあちゃんが亡くなって、どん底まで落ちてた俺を救ってくれた湊が今は俺の隣で笑ってる。
湊に出会えなければ俺はもっと堕ちていただろうし、俺を守ってくれてた母親とも仲違いしたまま死に別れていたかもしれない。
こんな幸せな日々がある事も知らないで、気まぐれに喧嘩してそこら辺の奴と寝て、クソみたいな人生を送っていたと思う。
湊の純粋さと見返りを求めない優しさに触れて俺の心も随分丸くなったし、小さな身体で大きく包み込んでくれる懐の深さに何度も助けられた。俺はきっと、湊には一生敵わないだろうな。
こんなにも想える人と出会えて良かった。
「周防くん、大好き」
顔立ちが大人びても変わらない笑顔でいつだってそう言ってくれる。
俺と湊なら、この先何があったって大丈夫だ。
「俺も、湊が一番好きだよ」
左手で湊の左手を握り指を絡める。お互いの薬指には細く銀色が光ってるけどまだ少しだけ見慣れない。
でも、これは証だから。俺と湊がずっと一緒にいられるようにと二人で願った誓い。
俺の言葉に嬉しそうにはにかむ湊と額を合わせて微笑んだ俺は、上目遣いで見たあとそっと目を閉じる姿に吐息を漏らし、僅かに弧を描く柔らかな唇へと口付けた。
これから何十年と続く二人の未来に想いを馳せながら。
FIN.
⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·
これにて、『噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした』の本編完結でございます! 短編予定のはずが結構長くなってしまいましたが…^^;
実は、本編で出すほどではないかなと思い端折った部分もいくつかありまして、それを番外編で作ろうかなと思っております!
周防が湊に甘過ぎてあんまり不良っぽい部分がなかったのが少し残念でした。何なら変態っぽくなってたし(笑)
ツンツン男とヒョロ男とはもっと絡ませたかったですね。何だかんだ、湊や周防と仲良くなってそうですけど(*´艸`)
それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!
良ければ番外編もお読み頂けると嬉しいですm(*_ _)m
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