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第163話 DEA
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「んー、まあサイちゃんが無事なのは分かったから変な真似はしないでしょ。元々メンタル弱い子だし、黙って見守っててあげようよ」
カモメがそう言う。めんたるって何だろう。でも、リサの言う通り本当に大丈夫かなって心配だ。
さっきは茶化していたけど、昨日のタキは本当に死んじゃうんじゃないかってくらい落ち込んでた。
「タキは……フロルがついてるから大丈夫だと思う」
ナギが鼻をすすりながら言った。まだ泣きそう。もしかして、傷が痛いんじゃないのかな。
「ナギ、お前も部屋で休め」
リーダーがそう言っても、ナギは首を横に振る。
「でも、街の様子も気になるし……それに、フロルのお母さんは……」
「その事なら自警団と王国軍の人達に調査を任せてあるから。魔物の事もね。街の様子も含めて後で報告があると思いますよー」
「え? でも……」
「ぼくもカルテから得られた情報を話したいしさ、とにかくみんなが元気になって集まってから話し合い!」
「……だけど」
ナギがごねるの珍しいな。いつもなら何でも「うん!」って言うのに。
「ほらほら、リサちゃんと二人っきりにしてあげるから! あ、リサちゃん。あくまでも見張りだからね。変な事しちゃダメだよ!」
「しねーよ! ほら、行くぞナギ!」
リサはナギの腕を引っ張って隣の病室まで歩いてく。
「あ、リサ待って!」
「ん? 何だ?」
駆け寄って服を引っ張ると、リサはすぐにしゃがんでくれた。
うわ、何か今のすごく嬉しい。
「え、えっとね、あのね」
おれはリサの耳元に口を寄せた。
「昨日ね、すっごく格好良かったよ。リサの言葉は……呪いの言葉なんかじゃないよ」
「…………」
「そ、それとね」
まだ、全部理解したわけじゃないけど。
好きになったわけじゃないけど、だけど。
「お父さんの事、嫌いなんて言ってごめんなさい……」
「ディー……」
リサが真っ直ぐおれを見る。そして、おれの頬に手が触れる。
え? え、もしかして、リサからキスしてくれるとか?
何だか急に緊張してきておれは目を瞑った。
「バーカ」
「いた!」
ほっぺをプニーッとつねられた。リサひどい!
「何するの!」
「期待してんじゃねーよ、マセガキ。じゃあなー」
リサはおれの頭をぐしゃぐしゃってしてから、ナギを連れて部屋に入ってってしまった。もー! やっぱむかつく!
「あははははっ、あーお腹痛い」
お腹を抱えて笑うカモメ。リーダーも咳払いでごまかしたけど絶対に笑ってたし。
「笑わないで!」
「ごめんごめん! ディーくん、元気ならぼく達とお散歩行かない?」
「お散歩?」
「そ! 日が沈むまであと少しだけど、リサ隊長も迷子のまんまだしね!」
お散歩か。フロルとナギが寝ちゃうなら退屈だし、今日は体の調子もいい。
「うん、行く」
「決まり! じゃあ出発しましょう! 昨日の騒ぎの事もあるので、ディーくんは念のためフードを被っててください!」
「りょーかい」
おれはサッとフードを被る。狭くなった視界が、何だか懐かしい。
「手繋ぐ? 抱っこする?」
カモメがしゃがんでフードの中のおれを覗き込む。
「抱っこ、いいの?」
「いいですよ!」
カモメがパッと両手を広げる。おれはすぐにそこへ飛び込んで抱きついた。
何でかな……今さらまた泣きそうになるよ。
悲しい事は起きなかった。
みんな無事だった。
もっと喜んでいい事なのに、何故か不安が消えてくれない。
いっぱい分からない事がありすぎるからかな。
あのすごく大きな魔物は、結局何だったんだろう。何で急に首都に現れたんだろう。それに、リサは大丈夫かな。救世主ってバレなかったかな?
「カモメ、ナギとお前は軍に連れ戻されたりはしないのか?」
病院を出た所でリーダーがカモメに聞いた。
「うん、ぼく達は王妃様からの極秘任務で動いてる事になってますから!」
あ、だからナギを見てもそんなに驚いてなかったんだ。
「そうか」
「うん! なので街は自由に動き回ってても問題なし!」
カモメはスタスタ歩いて通りに出た。
雨はすっかり上がって、夕焼け空はとても綺麗。だけど、城下町はすっごくひどい事になってた。
「うっわぁ、悲惨だねー」
ほとんど昨日のままで、瓦礫とか全然片付いていない。あんなにたくさんいた人達は誰も歩いてなくて、自警団や軍の人達だけがたくさんうろうろしてた。
「確かにひどいな、これは。負傷者も相当いるんじゃないか?」
「そうだね。実はある程度報告は受けてるんだ。負傷者は確かに多いけど、今回死者は出てないんだって」
そうなんだ、良かった。
でも、じゃあやっぱりフロルのお母さんもどこかで生きている。
「何かすんごい魔物が出たんだってね。ディーくん怖かったでしょ?」
「う、うん……」
おれ達は路地裏を覗いたりしてリサ隊長を探しながら歩き続ける。
「隊長さんがね二人がいない事に気がついて探しに行ったんだって。そしたら指笛が聞こえたって」
カモメがそう言ってピーっと指笛を吹いた。
「カモメもできるの?」
「できますよー! ね、リーダー」
「ああ、当然だ」
リーダーも指笛を吹こうとするけどヒューヒューいうだけで全然鳴らない。
「できてないじゃん!」
カモメがそう言って笑うとリーダーも笑った。
「ほらほら、ディーくんも笑って笑って! 人間笑顔が一番さ」
「でも」
この状況を見てたら笑えない。おれはフードを深く被り直して俯く。
「ディーくん、誰の命も消えなかったんだよ。こういう時こそ明るく笑って、明日を生きる力にしなきゃ」
「……うん。分かった」
「うんうん! いい子だね!」
カモメがおれの頭を撫でる。誰の命も消えなかった。『今回』は。
「リサ隊長いないねー。まあ、あの子ならすぐ戻って来るとは思うけど」
「カモメ、これからどうするの? おれ達」
「ん? うーん、こうなった以上しばらく首都から出られないよね。少なくともあの二人の怪我が治るまでは」
「確かに、今の二人は動かせる状態じゃない。という事はあの病院に入院させておく事になるのか?」
「だね。とりあえず、ぼく達は宿に部屋を取ろう。あれだけ患者が多いと、部屋借りるのも悪いしね」
「……あの医者の元に置いておくのか? 不安だな」
リーダーが眉間にしわを寄せる。立派なお医者さんってフロルが言ってなかったっけ?
「大丈夫大丈夫! 必ず誰か一人ずつ付き添う事にするし、お医者さんとはぼくが仲良くお話しましたから!」
「なるほど。脅したのか」
「人聞き悪いですねー。仲良くって言ってるじゃん」
何か話がよく見えないや。
「お医者さん、あんまりいい人じゃないの? そういえば、カモメがジュジュみたいな怒り方してたよね?」
少し薄暗くなった大通りを曲がって、おれ達はあんまり崩れてない建物が並ぶ道を歩いていく。
「えー、してないですよー。それより、ディーくん寒くない?」
カモメがおれをぎゅーってする。はぐらかされたし。カモメも実は口悪いとか?
「あ、あの建物宿屋じゃない? 良かったねー、無事な場所があって!」
カモメが明りのついた建物に走って行く。
「じゃあ、リーダーとディーくんは先に入って部屋取っておいてくれる? ぼくはリサちゃんに伝えてくるから」
カモメの腕からリーダーの腕の中へ移動する。そっか、最初はお散歩って言ってたもんね。リサの事だから探しに来ちゃいそうだし。
リーダーが返事をして走ってくカモメの背中を見送った。
もうほとんど日は沈んでいて、冷たくなってきた風に身震いする。
「寒いか? 中に入ろう」
「うん」
カモメがそう言う。めんたるって何だろう。でも、リサの言う通り本当に大丈夫かなって心配だ。
さっきは茶化していたけど、昨日のタキは本当に死んじゃうんじゃないかってくらい落ち込んでた。
「タキは……フロルがついてるから大丈夫だと思う」
ナギが鼻をすすりながら言った。まだ泣きそう。もしかして、傷が痛いんじゃないのかな。
「ナギ、お前も部屋で休め」
リーダーがそう言っても、ナギは首を横に振る。
「でも、街の様子も気になるし……それに、フロルのお母さんは……」
「その事なら自警団と王国軍の人達に調査を任せてあるから。魔物の事もね。街の様子も含めて後で報告があると思いますよー」
「え? でも……」
「ぼくもカルテから得られた情報を話したいしさ、とにかくみんなが元気になって集まってから話し合い!」
「……だけど」
ナギがごねるの珍しいな。いつもなら何でも「うん!」って言うのに。
「ほらほら、リサちゃんと二人っきりにしてあげるから! あ、リサちゃん。あくまでも見張りだからね。変な事しちゃダメだよ!」
「しねーよ! ほら、行くぞナギ!」
リサはナギの腕を引っ張って隣の病室まで歩いてく。
「あ、リサ待って!」
「ん? 何だ?」
駆け寄って服を引っ張ると、リサはすぐにしゃがんでくれた。
うわ、何か今のすごく嬉しい。
「え、えっとね、あのね」
おれはリサの耳元に口を寄せた。
「昨日ね、すっごく格好良かったよ。リサの言葉は……呪いの言葉なんかじゃないよ」
「…………」
「そ、それとね」
まだ、全部理解したわけじゃないけど。
好きになったわけじゃないけど、だけど。
「お父さんの事、嫌いなんて言ってごめんなさい……」
「ディー……」
リサが真っ直ぐおれを見る。そして、おれの頬に手が触れる。
え? え、もしかして、リサからキスしてくれるとか?
何だか急に緊張してきておれは目を瞑った。
「バーカ」
「いた!」
ほっぺをプニーッとつねられた。リサひどい!
「何するの!」
「期待してんじゃねーよ、マセガキ。じゃあなー」
リサはおれの頭をぐしゃぐしゃってしてから、ナギを連れて部屋に入ってってしまった。もー! やっぱむかつく!
「あははははっ、あーお腹痛い」
お腹を抱えて笑うカモメ。リーダーも咳払いでごまかしたけど絶対に笑ってたし。
「笑わないで!」
「ごめんごめん! ディーくん、元気ならぼく達とお散歩行かない?」
「お散歩?」
「そ! 日が沈むまであと少しだけど、リサ隊長も迷子のまんまだしね!」
お散歩か。フロルとナギが寝ちゃうなら退屈だし、今日は体の調子もいい。
「うん、行く」
「決まり! じゃあ出発しましょう! 昨日の騒ぎの事もあるので、ディーくんは念のためフードを被っててください!」
「りょーかい」
おれはサッとフードを被る。狭くなった視界が、何だか懐かしい。
「手繋ぐ? 抱っこする?」
カモメがしゃがんでフードの中のおれを覗き込む。
「抱っこ、いいの?」
「いいですよ!」
カモメがパッと両手を広げる。おれはすぐにそこへ飛び込んで抱きついた。
何でかな……今さらまた泣きそうになるよ。
悲しい事は起きなかった。
みんな無事だった。
もっと喜んでいい事なのに、何故か不安が消えてくれない。
いっぱい分からない事がありすぎるからかな。
あのすごく大きな魔物は、結局何だったんだろう。何で急に首都に現れたんだろう。それに、リサは大丈夫かな。救世主ってバレなかったかな?
「カモメ、ナギとお前は軍に連れ戻されたりはしないのか?」
病院を出た所でリーダーがカモメに聞いた。
「うん、ぼく達は王妃様からの極秘任務で動いてる事になってますから!」
あ、だからナギを見てもそんなに驚いてなかったんだ。
「そうか」
「うん! なので街は自由に動き回ってても問題なし!」
カモメはスタスタ歩いて通りに出た。
雨はすっかり上がって、夕焼け空はとても綺麗。だけど、城下町はすっごくひどい事になってた。
「うっわぁ、悲惨だねー」
ほとんど昨日のままで、瓦礫とか全然片付いていない。あんなにたくさんいた人達は誰も歩いてなくて、自警団や軍の人達だけがたくさんうろうろしてた。
「確かにひどいな、これは。負傷者も相当いるんじゃないか?」
「そうだね。実はある程度報告は受けてるんだ。負傷者は確かに多いけど、今回死者は出てないんだって」
そうなんだ、良かった。
でも、じゃあやっぱりフロルのお母さんもどこかで生きている。
「何かすんごい魔物が出たんだってね。ディーくん怖かったでしょ?」
「う、うん……」
おれ達は路地裏を覗いたりしてリサ隊長を探しながら歩き続ける。
「隊長さんがね二人がいない事に気がついて探しに行ったんだって。そしたら指笛が聞こえたって」
カモメがそう言ってピーっと指笛を吹いた。
「カモメもできるの?」
「できますよー! ね、リーダー」
「ああ、当然だ」
リーダーも指笛を吹こうとするけどヒューヒューいうだけで全然鳴らない。
「できてないじゃん!」
カモメがそう言って笑うとリーダーも笑った。
「ほらほら、ディーくんも笑って笑って! 人間笑顔が一番さ」
「でも」
この状況を見てたら笑えない。おれはフードを深く被り直して俯く。
「ディーくん、誰の命も消えなかったんだよ。こういう時こそ明るく笑って、明日を生きる力にしなきゃ」
「……うん。分かった」
「うんうん! いい子だね!」
カモメがおれの頭を撫でる。誰の命も消えなかった。『今回』は。
「リサ隊長いないねー。まあ、あの子ならすぐ戻って来るとは思うけど」
「カモメ、これからどうするの? おれ達」
「ん? うーん、こうなった以上しばらく首都から出られないよね。少なくともあの二人の怪我が治るまでは」
「確かに、今の二人は動かせる状態じゃない。という事はあの病院に入院させておく事になるのか?」
「だね。とりあえず、ぼく達は宿に部屋を取ろう。あれだけ患者が多いと、部屋借りるのも悪いしね」
「……あの医者の元に置いておくのか? 不安だな」
リーダーが眉間にしわを寄せる。立派なお医者さんってフロルが言ってなかったっけ?
「大丈夫大丈夫! 必ず誰か一人ずつ付き添う事にするし、お医者さんとはぼくが仲良くお話しましたから!」
「なるほど。脅したのか」
「人聞き悪いですねー。仲良くって言ってるじゃん」
何か話がよく見えないや。
「お医者さん、あんまりいい人じゃないの? そういえば、カモメがジュジュみたいな怒り方してたよね?」
少し薄暗くなった大通りを曲がって、おれ達はあんまり崩れてない建物が並ぶ道を歩いていく。
「えー、してないですよー。それより、ディーくん寒くない?」
カモメがおれをぎゅーってする。はぐらかされたし。カモメも実は口悪いとか?
「あ、あの建物宿屋じゃない? 良かったねー、無事な場所があって!」
カモメが明りのついた建物に走って行く。
「じゃあ、リーダーとディーくんは先に入って部屋取っておいてくれる? ぼくはリサちゃんに伝えてくるから」
カモメの腕からリーダーの腕の中へ移動する。そっか、最初はお散歩って言ってたもんね。リサの事だから探しに来ちゃいそうだし。
リーダーが返事をして走ってくカモメの背中を見送った。
もうほとんど日は沈んでいて、冷たくなってきた風に身震いする。
「寒いか? 中に入ろう」
「うん」
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