DEAREST【完結】

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第162話 DEA

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「フロル!」
 ナギが駆け寄ってベッドの横に膝をついてその手を握る。
「ナギー……また会えて嬉しいよー」
 フロルの声。その声を聞いただけで、ナギはわっと泣き出した。
「よ、良かった。本当に良かった……」
 ベッドに頭をつけて、肩を震わせて泣くナギ。おれは走り寄ってナギの頭をよしよしと撫でる。
「ディーがナギをよしよししてるー。ふふーん、ナギ子どもみたーい」
 そう言って笑うフロルと目が合う。朝目が覚めた時に会ったばっかりなのに、おれもまた泣きそうになった。
 ベッドの反対側では椅子に座ったタキがまだ泣いていた。
 その隣にはリーダーが立って腕を組んでその様子を見ている。多分どうしたらいいか分かんないんだと思う。
「お前まーだ泣いてんのかよ」
 リサが隣に立ってタキの頭をペシンと叩いた。
「だって、だってよ……俺はもう本当にダメかと思ってさ……」
 タキはぐずぐず泣きながら答える。フロルは顔だけタキの方へ向けた。
「タキ、泣き虫さんなんだからー! フロルは絶対にタキを置いて死にません!」
 フロルはすごく元気な声でそう言った。
「頼むぜ。こいつさ。お前が寝てる間『フロルが死んだら俺も死ぬ』ってずーっとブツブツ言っててさー」
「なっ……馬鹿! 言うなよ!」
「ふふーん、フロル愛されてるー」
 フロルの反応がいつも通りで、本当に、この声に心が暖かくなる。
「何か負のオーラが半端なくてやばかったよなー、ディー」
「うん、ちょっと引いた」
「ディー、お前後で覚えてろよ」
 タキがそう言ってリサとフロルも笑う。
 いつもの空気。やっぱりおれ達にはフロルが必要だ。
「タキ、リサ、ディー、ナギ、リーダー、カモメ。フロルね、またみんなに会えてすっっっごく嬉しい! 本当はちょっと、もう会えないかもって思ったから……」
「フロル……」
 タキがまたぼろぼろ涙を零して泣くから、リサとフロルがそれを見て笑う。
「リサー、タキが枯れちゃーう」
「はいはい。水持って来てやるよ。お前マジでちょっと落ち着け」
 リサがタキの頭をグシャグシャってして部屋から出ていく。そう言うリサも、昨日からほとんど泣きっぱなしだったから目が真っ赤だ。おれもだけど。
「ま、でも本当に良かったよ。サイちゃんも隊長さんも生命力ありすぎ!」
 そこへリサと入れ替わるようにカモメがベッドの隣に来た。
「うん! カモメが手術手伝ってくれたんでしょ? 本物のお医者さんみたーい!」
「ぼくって天才だから! ほらー。隊長さんもそんなに泣かないで! 人間笑顔が一番さ」
「う、うん。僕の怪我もベルが?」
「イエス! と、言ってもお手伝いだけどね」
「…………」
「隊長さん?」
「え? あ、ありがとう」
 ナギ? やっぱり背中に何かあるのかな? カモメはナギの背中を見たんだよね。チラッとカモメを見ると目が合って、ニコニコーっと笑いかけてきた。
「何? ディーくん。そんな目で見ないでください。惚れちゃうから」
「はあ」
「ため息とかショックー」
 あれ? 何かリーダーがカモメの方見てる。何だろう……何かちょっといつもと違う感じ。
「あ! そうだ! あのね、フロルはリーダーに伝言があったのです!」
「伝言?」
 カチャッと小さな音がして、リサがそーっと部屋に入って来た。本当にお水持って来てくれてるし。
「あのね、フロルね寝てる間にちょっと旅をして来たみたいなんです!」
「たび?」
 おれが聞き返すとフロルはニッコリ笑って「そうだよ」と言った。
「真っ白で何もない所で、体がフワフワしてて……早くタキの所に戻らなきゃって必死に道を探すんだけど全然道が分からなくて」
 みんながフロルの話を真剣に聞いてる。
「そしたらね」
 フロルがチラッとリーダーの方を見た。
「ユズちゃんがいたの」
「ユズ?」
「うん、フロル怒られちゃった。まだあんたはこっちに来んなーって!」
 おれが見た夢と似ている。おれはジュジュにそう言われたっけ。
「それでね、フロルが何でーって言い返したの。そしたらユズちゃんがね、いいからはよ帰れーって。それで、ついでやからあの人に伝えてーって!」
 フロルの喋るユズの言葉が何だか可愛い。
「……俺にか?」
「うん! 『もういいから素直になりー』って」
「素直に?」
「うん。でね『だってあんたは本当は泣き虫なんやからアホボケ鈍感!』以上!」
「…………」
 さ、さすがユズ。何かすごい。
「……アラン? どうしたの?」
 ナギの心配そうな声に、みんながリーダーの方を見る。
「リーダー……泣いてるの?」
 おれはそう聞いた。リーダーの目からは確かに涙が零れていて、でも。
「そうか……ユズらしいな」
 リーダーは笑っていた。何だかすごく嬉しそうに。
「リーダーが笑ってるー!」
「リーダーが泣いてる……」
 タキとフロルはまったく正反対の所にびっくりしていて、おれはどっちにもびっくり。
 ほんとにちょっとだけ微笑んだりはしてるけど、こんな風に声を出して笑った顔は初めてで。みんなが泣いてる時に、いつも一人だけ絶対に泣かなかったリーダーが泣いてるのもびっくりで。
「フロル……ありがとう。伝言は確かに受け取った」
「はーい!」
「それと、生きて戻って来てくれてありがとう……お帰り」
 リーダーは袖で涙を拭った後、そう言ってまた笑った。泣いたのは一瞬だったけど、きっとこの自然な笑顔はもう消えない。
「……うん、ただいま。もー、リーダーってばフロルを泣かせないでよー。泣いたら傷に響くよぉー」
 そう言って顔を隠すフロルを見てリーダーはオロオロする。
「さてと、一時はどうなるかと思ったけどみんな無事で良かったね!」
「まあな」
 カモメに相づちを打ちながら、リサがごくごくとお水を飲む。あれ? タキに持ってきたんじゃなかったっけ?
「難しい事やこれからの事はみんなが元気になってからお話しましょう! とにかく、サイちゃんも隊長さんも今はしっかり休んで下さい!」
 カモメがそう言ってフロルに毛布をかけ直す。
「えー、フロルもうちょっとみんなとお話してたーい」
「ダーメ。今一番必要なのは休息だよ。ほら、みんなも部屋出て! 隊長さんもお部屋に戻りますよー!」
 カモメは今度はナギの腕を持って立たせた。
「……うん。フロル、一人で大丈夫?」
「うん! だいじょー……」
「俺がついてる。俺がフロルにずっとついてる」
 フロルの言葉を遮ってタキがそう言った。
「タキ、我儘言うなよ」
 リサがタキの腕を持って立たせようとしたけど、タキはその手をバッと振り払った。よろけたリサをリーダーが支える。
「俺はここにいる」
「タキ……」
 フロルはちょっと嬉しそう。
「うんうん、ドロ。分かったからサイちゃんが寝るの邪魔しちゃダメだよ?」
「分かってます」
 タキはフロルを見たまま頷く。意外にもカモメからオッケーが出たので、リサもテーブルにバンってコップを置いてそのまま部屋を出た。
「ナギ、行こう。おやすみ、フロル」
「おやすみ、ディー! ナギもお大事にー」
「う、うん。フロルもね。お休み……」
 おれ達はタキとフロルの二人を残して部屋を出た。廊下でみんな一旦集まる。昨日の騒ぎで運び込まれた人達が結構入院しているみたいで、看護師さんが何人かバタバタしてた。
「大丈夫かよ、あいつ。何か、大分きてないか?」
 おれ達は邪魔にならないように廊下の端に寄る。壁にもたれたリサがさっそくそう切り出した。
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