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第164話 DEA
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リーダーはおれを抱っこしたまま中に入った。いつもみたいにすぐ降ろされちゃわないのが嬉しい。
おれ達はさっそく部屋を取って二階に上がった。
城下町の宿屋はすごく綺麗。部屋の中も広くて、大きなベッドが二つあった。リーダーはベッドの上におれを下ろしてくれた。おれはさっそくフードを脱ぐ。
あったかい部屋に息をつく。リーダーは向かい合わせになってもう一つのベッドに座る。
「ディー」
「ん?」
「リサから話は聞いた。本当に……大変だったな」
「ううん。一番大変だったのはフロルとナギだよ」
「そうか」
「うん」
リーダーはいつもの無表情に戻っていた。
「リーダー、そっちに行っていい?」
「ん? ああ、待て」
リーダーはそう言って自分からこっちに来て隣に座ってくれた。
「どうした?」
「うん、ユズからの伝言……良かったね」
「……ああ」
「ユズがフロルを助けてくれたんだよ、きっと。おれ達の事見守ってくれてるんだね」
「そうだな……何より、ユズが魔物になっていない事に安心した」
「え? 魔物?」
「そうか、あの話をした時お前は眠っていたんだったな」
リーダーは船の上でみんなが話していた事を教えてくれた。
魔物が人間……。確かに、船の上でコケシや他の人達が魔物に変わるのを見たけど、そんな事知っちゃったらおれ達、戦えなくなるんじゃ……。
「ディー」
リーダーがおれの手の上に自分の手を置く。
「お前の考えている事は分かる。だが、それでも俺達は戦う事を選ぶと思う」
「リーダー……」
「お前は剣の腕もあるし、上達も早い。だからと言って無理に戦えとは言わない」
「…………」
「だが、必ず守る。だから、これが俺達の選んだ道だという事は覚えておいて欲しい」
リーダー達の選んだ道。
『人』を守る為に『人』と戦う覚悟。
「分かった。でも、おれも……」
おれも『戦う』。その言葉がどうしても言えなかった。
「背中?」
カモメに添い寝してもらいながらおれはナギのことを聞いてみた。
「うん。昨日の怪我以外にも怪我してた?」
「結構古い感じの傷はあったけど、何で?」
「あったの?」
やっぱりリサの言う通りだ。
「うん。でももう治ってたよ? ていうか、ディーくんずっと隊長さんいたのに気づかなかったの?」
「だってー」
「んー、まあ背中って意外と見る機会ないのかな。でも、別に隊長さん隠してる感じじゃなかったよ? お城にいた頃とか、普通にみんなの前で着替えてたし、聞いても『子どもの頃に怪我しちゃったー』って笑ってたしー」
「子どもの頃?」
「うん。気になるなら本人に聞きなよ」
「……うん」
子どもの頃の傷。おれ心当たりあるかも。
それはきっと、ついた傷じゃなくてつけられた傷だ。多分『あの人』に。
「ディーくん、大丈夫?」
「え? ううん、大丈夫。カモメとこうして寝る前にお話するの久し振りだね」
「ですね! 船の上ではいつも隊長さんだったもんね!」
「うん」
「元気になったらまた一緒に添い寝できるよ」
「うん……タキもまた一緒に寝てくれるかな?」
「大丈夫大丈夫。きっと一緒にお昼寝もできますよー」
「おれ、フロルとナギも心配だけど、今はタキが一番心配だよ……」
昨日のタキの顔や言葉が頭から離れない。
「タキね『フロルが死んだら俺も死ぬ』って」
絶対に本気で言っていた言葉だったから。それだけフロルの事が好きなんだとしても、何か、すっごく悲しい気持ちになった。
「そっかぁ……まあ普段からサイちゃんに依存してるところあるからなぁ」
「いぞん?」
「頼りきっちゃってるでしょ?」
「んー、ちょっと」
「だからさ、つい言っちゃったんだよ。でも、あの子なりに今頑張って心の修復をしてるよ」
「しゅーふく?」
「サイちゃんが大怪我をして、ドロの心も同じ怪我を負った。だから、今サイちゃんが頑張ってる隣であの子も頑張ってる。弱いなりに必死にね。何だろう? 一心同体って言うのかな。あの二人見てるとそう思うんだ」
「いっしん……何?」
「二人で一つみたいな。お互いを必要としていて、すっごく大事にし合ってる。あの二人ってそんな感じしない?」
二人で一つ。確かに、タキとフロルは、いつも『タキとフロル』って感じ。
「すっごく純粋にお互い愛し合ってるんだよ。だから、あの二人なら絶対大丈夫です!」
「……うん、ありがとうカモメ。心配飛んでった」
「いえいえ! ぼくとディーくんもそうなりますか? とりあえず結婚する?」
「おやすみー」
今頃思い出す。
お母さんと添い寝したこと、お風呂が終わったあと、お父さんが髪を拭いてくれたって事。
まだちっちゃかったから、記憶がぼんやりしていたせいもあるけど、ちゃんと、愛されていたのに。
お父さんの愛情は同じだけお母さんにも注がれていたから、自分にだけじゃなかったから、だからおれはちゃんと覚えていなかった。『お父さん』と『お母さん』っていうのは、必ず『子ども』を一番愛してるものだって思っていたから。
自分ばっかり愛されたがっていた。
すぐに愛情を独り占めしたがった。
『何で……もっと見てくれなかったんだよ……』
リサはお母さんを嫌っていた。クソババアって言っていた。でも、本当はリサも気づいてないだけなんじゃないかな。
リサのお母さんはリサの事を愛していたと思う。そうじゃなきゃ、あんな風に『命』を語れない。そんな気がした。それに、きっとリサも本当はお母さんを……。
おれ達はさっそく部屋を取って二階に上がった。
城下町の宿屋はすごく綺麗。部屋の中も広くて、大きなベッドが二つあった。リーダーはベッドの上におれを下ろしてくれた。おれはさっそくフードを脱ぐ。
あったかい部屋に息をつく。リーダーは向かい合わせになってもう一つのベッドに座る。
「ディー」
「ん?」
「リサから話は聞いた。本当に……大変だったな」
「ううん。一番大変だったのはフロルとナギだよ」
「そうか」
「うん」
リーダーはいつもの無表情に戻っていた。
「リーダー、そっちに行っていい?」
「ん? ああ、待て」
リーダーはそう言って自分からこっちに来て隣に座ってくれた。
「どうした?」
「うん、ユズからの伝言……良かったね」
「……ああ」
「ユズがフロルを助けてくれたんだよ、きっと。おれ達の事見守ってくれてるんだね」
「そうだな……何より、ユズが魔物になっていない事に安心した」
「え? 魔物?」
「そうか、あの話をした時お前は眠っていたんだったな」
リーダーは船の上でみんなが話していた事を教えてくれた。
魔物が人間……。確かに、船の上でコケシや他の人達が魔物に変わるのを見たけど、そんな事知っちゃったらおれ達、戦えなくなるんじゃ……。
「ディー」
リーダーがおれの手の上に自分の手を置く。
「お前の考えている事は分かる。だが、それでも俺達は戦う事を選ぶと思う」
「リーダー……」
「お前は剣の腕もあるし、上達も早い。だからと言って無理に戦えとは言わない」
「…………」
「だが、必ず守る。だから、これが俺達の選んだ道だという事は覚えておいて欲しい」
リーダー達の選んだ道。
『人』を守る為に『人』と戦う覚悟。
「分かった。でも、おれも……」
おれも『戦う』。その言葉がどうしても言えなかった。
「背中?」
カモメに添い寝してもらいながらおれはナギのことを聞いてみた。
「うん。昨日の怪我以外にも怪我してた?」
「結構古い感じの傷はあったけど、何で?」
「あったの?」
やっぱりリサの言う通りだ。
「うん。でももう治ってたよ? ていうか、ディーくんずっと隊長さんいたのに気づかなかったの?」
「だってー」
「んー、まあ背中って意外と見る機会ないのかな。でも、別に隊長さん隠してる感じじゃなかったよ? お城にいた頃とか、普通にみんなの前で着替えてたし、聞いても『子どもの頃に怪我しちゃったー』って笑ってたしー」
「子どもの頃?」
「うん。気になるなら本人に聞きなよ」
「……うん」
子どもの頃の傷。おれ心当たりあるかも。
それはきっと、ついた傷じゃなくてつけられた傷だ。多分『あの人』に。
「ディーくん、大丈夫?」
「え? ううん、大丈夫。カモメとこうして寝る前にお話するの久し振りだね」
「ですね! 船の上ではいつも隊長さんだったもんね!」
「うん」
「元気になったらまた一緒に添い寝できるよ」
「うん……タキもまた一緒に寝てくれるかな?」
「大丈夫大丈夫。きっと一緒にお昼寝もできますよー」
「おれ、フロルとナギも心配だけど、今はタキが一番心配だよ……」
昨日のタキの顔や言葉が頭から離れない。
「タキね『フロルが死んだら俺も死ぬ』って」
絶対に本気で言っていた言葉だったから。それだけフロルの事が好きなんだとしても、何か、すっごく悲しい気持ちになった。
「そっかぁ……まあ普段からサイちゃんに依存してるところあるからなぁ」
「いぞん?」
「頼りきっちゃってるでしょ?」
「んー、ちょっと」
「だからさ、つい言っちゃったんだよ。でも、あの子なりに今頑張って心の修復をしてるよ」
「しゅーふく?」
「サイちゃんが大怪我をして、ドロの心も同じ怪我を負った。だから、今サイちゃんが頑張ってる隣であの子も頑張ってる。弱いなりに必死にね。何だろう? 一心同体って言うのかな。あの二人見てるとそう思うんだ」
「いっしん……何?」
「二人で一つみたいな。お互いを必要としていて、すっごく大事にし合ってる。あの二人ってそんな感じしない?」
二人で一つ。確かに、タキとフロルは、いつも『タキとフロル』って感じ。
「すっごく純粋にお互い愛し合ってるんだよ。だから、あの二人なら絶対大丈夫です!」
「……うん、ありがとうカモメ。心配飛んでった」
「いえいえ! ぼくとディーくんもそうなりますか? とりあえず結婚する?」
「おやすみー」
今頃思い出す。
お母さんと添い寝したこと、お風呂が終わったあと、お父さんが髪を拭いてくれたって事。
まだちっちゃかったから、記憶がぼんやりしていたせいもあるけど、ちゃんと、愛されていたのに。
お父さんの愛情は同じだけお母さんにも注がれていたから、自分にだけじゃなかったから、だからおれはちゃんと覚えていなかった。『お父さん』と『お母さん』っていうのは、必ず『子ども』を一番愛してるものだって思っていたから。
自分ばっかり愛されたがっていた。
すぐに愛情を独り占めしたがった。
『何で……もっと見てくれなかったんだよ……』
リサはお母さんを嫌っていた。クソババアって言っていた。でも、本当はリサも気づいてないだけなんじゃないかな。
リサのお母さんはリサの事を愛していたと思う。そうじゃなきゃ、あんな風に『命』を語れない。そんな気がした。それに、きっとリサも本当はお母さんを……。
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