DEAREST【完結】

Lucas’ storage

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第122話 語り部

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「リサ隊長、ディー達は見つかりそう?」
「にゃあ」
 トコトコと歩いて行くリサ隊長の後をナギはのんびりとついて行きます。
 物珍しそうにキョロキョロとするナギを、ジキの人達はさらに珍しげにじろじろと見ます。
「にゃー!」
 すると、リサ隊長が急に走り出しました。
「え? リサ隊長どこ行くの?」
 ナギは慌ててその後を追います。
 リサ隊長が向かった先にはたくさんの女性が集まっていました。その中央に立って困ったような顔をしている人物。その人物を見つけたナギの足が止まります。
「……『アラン』」
 そして、そう囁きました。
 とても小さな声でしたが、その名前は、ちゃんとリーダーの元へ届きました。
 リーダーがこちらを向き、二人の目が合います。途端に、ナギが走り出しました。
「アラン!」
 突然リーダーに抱きつくナギに、本人はおろか周りにいた女性も唖然としています。
「良かった……良かったアラン! 生きてたんだね!」
 ナギはさらに泣き出しました。リーダーに抱きついたまま離れません。
「え、えーっと、それじゃあ私達はこれで」
「ま、またね。ジオ」
 何やら誤解されているようですが、潮が引くようにいなくなった女性達を見てリーダーは胸を撫で下ろしました。そして、ナギの肩を掴んで自分から離すともう一度顔を確認します。
「……ナギ?」
「うん!」
 顔をくしゃくしゃにして笑うナギに、わずかな動揺の色は見せつつもリーダーの表情はほぼ表情の変わりません。
「お前……死んだのではなかったのか?」
「ううん、生きてるよ」
「そうか」
「うん! アランも死んじゃったって聞かされてたからびっくりしたよ。本当に良かった」
 『アラン』。そう呼ばれる度に、リーダーの瞳が潤んでいきます。しかし、リーダーはぐっと涙をこらえました。
「お前も、生きていて良かった。よく俺だと分かったな。十年近く会っていないのに」
「分かるよ。アランも、僕の事分かってくれて嬉しいよ」
「……もうその名を呼ぶのはお前だけだからな」
「え?」
「何でもない。それより、どうしてここへ?」
 リーダーがそう聞くと、ナギは涙をごしごしと拭いました。足元ではリサ隊長が心配そうに鳴いています。ナギはそんなリサ隊長を抱き上げて言いました。
「僕ね、人を探しに来たんだ」
「人を?」
 ナギは頷きます。リーダーはナギを上から下まで眺めます。
 その制服が『王国軍』のものだったからです。
「『ディー』と『タキ』と『フロル』って名前の子知らないかな?」
 それを聞いて、リーダーはため息をつきます。
「アラン?」
「ナギ、正直に答えてくれ。どういった理由でその三人を探しているんだ?」
「え?」
「理由によっては……」
 リーダーは、そっと剣に手をかけます。ナギの目にもその動きは映っています。しかしナギは臆せず、また一歩リーダーに近づいて微笑みました。
「会いに来たんだよ。僕の……大好きな家族だから」
 ナギはそう答えました。
「アラン、三人を知ってるんだね?」
「ナギ……」
 ナギは自分の胸に手を当てます。
「この制服は僕じゃないよ。僕は、『ナギ』として会いに来たんだよ」
「…………」
「会いたいから、会いに来ただけ」
 リーダーの瞳から鋭さが消えていきます。
「ナギ、お前はやはり正しい道を歩んで来たんだな」
「正しいかは分からないけど、この道を歩いて来て良かった。アランに会えて、より一層そう思えたよ」
 ほんの少しだけ、リーダーは笑顔を見せました。そしてナギの横をすり抜けます。
「アラン?」
「ついて来い。三人に会わせてやる。詳しい話は全員揃ってからでいいだろう?」
「うん! ありがとう!」
 ナギはリサ隊長を抱いたまま、リーダーの後をついて行きます。
「タキとディーは……今はどこを掃除してるか分からないな……。フロルならレストランにいるからすぐに会える」
「レストラン?」
「ああ」
 二人はフロルのいるレストランへと向かいます。
 その頃フロルは、可愛らしいエプロンドレスに身を包んで開店準備をしていました。シェフがそんなフロルに声をかけます。
「フロルちゃんはよく働いてくれるから助かるよ。でも、あんまり無理をしないようにね」
「大丈夫でーす!」
 フロルはくるりと回って手を上げました。
「まあ、こちらとしてもフロルちゃんが入ってくれるとお客さんが増えるから助かってるんだけどね」
「ふふーん。フロルモテモテ!」
「はははっ、だけどここ最近休んでないだろ? こんなに働いて大丈夫かい?」
「うん! ここのお仕事楽しいし、早くお金を貯めたいの!」
 笑ってみせるフロルに、シェフは少しだけ心配そうです。
「でも、体を壊さないようにね。休みたい時はいつでも言ってね」
「はーい。ありがとうございます!」
 お礼を言いながら、フロルは厨房を出てテーブルのセットを始めました。
 その時、扉が開く音がしたのです。
「あ、ごめんなさいお客さん! まだ開店じゃないのー」
 フロルはすぐにそう言って振り向きました。そして、入って来た人物を見て信じられないといった表情で固まりました。
 フロルが口を開くよりも先に、その人物はこちらへ走って来てフロルを抱きしめました。それから、再び涙を流し始めたのです。
「フロル! 良かった……フロルも無事だったんだね! 久しぶり、久しぶりフロル!」
「……ナギ? 嘘?」
「本当だよ。本当にナギだよ」
「ナギ?」
「うん」
 フロルは、ナギの背中に手を回して抱きしめ返します。確かにナギの温もりを感じて、フロルの瞳からも涙が溢れ出しました。
「ナギ! 生きてたの? 本当に本当に本当に生きてる?」
「生きてるよ。本当に本当に本当に生きてるよ」
「ナギ……良かった……良かった!」
 フロルは子どものように大声で泣き始めました。声を上げて泣くフロルを見るのは初めてで、リサ隊長を抱っこしたリーダーは優しい目で二人を見守ります。そして、まったく状況の分かっていないシェフも何故かもらい泣きしていました。
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