DEAREST【完結】

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第62話 KAMOME

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「ディー、ほんとに可愛いね!」
「ほぼ女だな。ぱっと見お前って分かんねーよ。すげー」
 髪の花を見てサイちゃんとドロは大絶賛だ。ディーくんは照れ臭そうに俯いている。夕食も済んでサイちゃんの淹れてくれたおいしいお茶を飲みながら、各自報告を。
 そしてぼくたちの番。盗みは無事成功した事を伝えて本題へ。キョウダイ達の『お話』。
「今日は重要なお話を聞けました! 何と、新たな魔物情報です!」
 立ち上がってそう言うとサイちゃんだけがパチパチと拍手してくれた。
「どーもどーも! 実はですね、海、川、と旅して来ていたぼくが発見した『水が苦手』という情報なんですが!」
「うんうん!」
「どうやら、例外の魔物も存在する可能性が出てきました!」
「何と!」
 サイちゃん、リアクションありがとう! 他の皆さんは眉一つ動かしませんね! 話聞いてます?
「『港』で聞いたお話だそうです! ここ最近、海での行方不明者が増加しているとの事!」
「きゃー」
「何と帰って来た船は無人! 争ったような形跡もなくただ忽然と姿を消した! そんな様子でただ船だけが港に帰って来るようです!」
「やーん」
 サイちゃんのリアクションがいちいち可愛い。
「魔物の仕業なのでしょうか? しかし、誰一人無事な人間はいない為真実は闇の中!」
「ふんふん」
「さらに! ここ最近の魔物の『呪い』の被害が増大! 様々な呪いに人々は悩まされている模様!」
「むー」
 頭を抱えるサイちゃん。抱きしめてもいいですか? 刺されますか? 刺されますね。やめておきましょう。
「魔物の呪いは様々です! 何故に魔物は人々を襲うだけではなく呪うのでしょうか?」
 人を呪うだなんて何だか『人』みたいだね。と、いう言葉は飲み込んでぼくはぐるりとみんなを見渡す。視線をディーくんの所で止めて、ぼくは続けた。
「そして! 最後の情報です!」
 キョウダイ達の話を聞いている間落ち着かなかったディーくん。特にこの『お話』の時は空気が変わった。今も唇を噛んで俯いている。
「なーんと! 救世主様が生きておられたそうです! 身を隠す為お城にいらっしゃったそうで! さらにさらに王子様とご結婚された事が今日発表されたそうです! はい、拍手拍手ー!」
 パチパチと手を鳴らすのはぼく一人。空気が変わったのはディーくんだけじゃなかった。サイちゃんとドロ。ディーくん以上に表情の強張った二人がそこにいた。


「昨日さぁ、サイとドロの様子変じゃなかった?」
「そだねー。救世主様の結婚がそんなに驚く事かな?」
「まあ、わたしもびっくりしたけどな。旅にも出やんと結婚とか、いいご身分やなぁ」
 談話室のソファーに深く座るユカワちゃんは、そう言って目の前のテーブルを蹴った。
「大丈夫か?」
「は?」
 隣に座るリーダーがユカワちゃんの足に目をやる。
「こんくらいの事でいちいち心配せんとって。ほんま変なとこ気にしすぎんねんなー、あんたは」
 うんうん。ユカワちゃんの言う通りだよリーダー。目の前に座っていたせいで蹴られたテーブルが臑に直撃したぼくの方を心配して下さい。
 朝食が済んでサイちゃんとドロは今日は『買い出し』へ。ディーくんは昨日の疲れからかいまだに眠っている。で、ぼく達三人は談話室。
「昨日ね、ディーくんがかなりお金になる物を盗ってくれましてー、しばらく『盗賊団』はお休みしても問題ないと思うんです!」
「そうか」
 リーダーはまったく表情を変えずにそう言った。他の人から見たら真剣に何かを考えてるように見える。でも、昔からリーダーを知ってるぼく達には眠いだけなのがバレバレだ。
「やから何?」
「『魔物退治』に専念しませんか?」
 リーダーとユカワちゃんが顔を見合わせた。
「救世主様もご結婚された事ですし、世界救出は遠のきました! と、いう事はこれからさらに魔物の被害が増大するという事です!」
「まあ、確かに稼ぎ時やな」
「人助けです! 人々に夢と希望を! それがこの『ハロースカイ』の目的じゃん!」
「ジオはどう思う?」
「いいんじゃないか?」
 リーダーと目が合う。ちょっと目が覚めてきたみたい。
「か弱き者を助けるのが俺達の努めだ」
「さっすがリーダー! 分かってますね!」
「んー、あんたがそう言うならしゃあないな。でも、ディーにはまだ魔物退治は早いんちゃう?」
「大丈夫! ぼくが守るからご安心を!」
 ぼくは立ち上がってそう言った。二人は同時にぼくを見上げる。
「カモメがそう言うなら安心だ。お前は俺達の中で一番強いからな」
「いやいや、リーダーには負けますよー!」
 当面の目標は『呪い』について探る事。ぼく達は、呪いの被害を受けた街や村を回ることにした。海はさすがに調べに行けないしね。
 そして、サイちゃんやドロの事は保留。
 救世主様の結婚はこの世界に珍しい明るい話題だ。だけど、内心複雑な気持ちの人達は多いはず。特に、魔物の被害に遭った人達なら。ドロなんか『呪い』の被害者でもある。だから多分素直に祝福できないんだろう。と、リーダーのご意見でこういう結論に至ったから。
 さすがリーダー。美しいご意見です。あなたの恋人はすっごく勘ぐってましたよ? 珍しく何も言いませんでしたが。 
「さーてと、そろそろディーくん起こして来まーす!」
 そう言って談話室を出るとユカワちゃんがすぐに追いかけて来て背中で扉を閉めた。
「何?」
「カモメ、多分な近いうちシュシュ帰って来んで」
「マジ? やったぁ! あれ? でも、お城ってこれから忙しくなりそうじゃない?」
「やからやろ。馬鹿王子に、さらにわがままお嬢が増えるんやから。嫌になって帰って来るんちゃう?」
 ユカワちゃんは腕を組んでそのまま扉にもたれた。
「わがままお嬢なの?」
「知らんけど。わたしの勘」
「ふーん。ま、シュシュが帰って来るなら万々歳! 何ヵ月振りかな? かなり会ってないよね?」
 三人も新入りが増えてるから驚くだろうなぁ。それとも……喜ぶかな? 生きていた事に。
「シュシュ戻って来たらあんたどうするん?」
「ん? 何が?」
 背の小さなユカワちゃんはうんと背伸びをしてぼくの肩に手を置くと、耳のそばで囁いた。
「プロポーズ」
「え?」
 声が裏返るぼくにユカワちゃんはしたり顔。
「あんまりフラフラしてたら愛想つかされんで。何やっけ? 十人連続プロポーズ成功がノルマやっけ?」
「イ、イエス」
「今の実績は?」
「残念ながらまだ一人も成功していません!」
 おちゃらけてそう言ったぼくにユカワちゃんはやれやれと首を振る。
「『成功したらあたしにプロポーズをする権利をやろう』やっけ? 無茶苦茶言うなーあの子」
「まあ、確実に冗談だよね!」
「でも、あんたは馬鹿正直にそれを続けてるやんか」
 まあ、それも冗談半分にですがね。人々に夢と希望をと謳っているぼくが、希望を見出だせない事があるという事を実感したんですから。
「せめてちゃんと気持ち伝えたら?」
「いやいや、シュシュには別に想いを寄せる人間がいるのです!」
「え? うそうそ? 誰なん?」
「ぼくには、到底勝てない人」
 ユカワちゃんは眉をひそめる。
「せやから誰なんよ? ていうか、ぶつかる前から諦めるん?」
「内緒。でも、ぼくとは真逆の存在すぎて勝てる見込みは皆無なんです」
 本当に。失恋確定なんです。ぼくも。ジュジュも。
「えー分からん。わたしの知ってる人?」
「内緒です! では、ぼくはディーくんを起こしに行ってきます!」
 ぼくは逃げるようにして階段を駆け上がった。ユカワちゃんは恋愛話が大好き。でも、自分絡みの事にはすごく鈍いよなぁ。
 ユカワちゃん、リーダー、ジュジュ。この三人に何があったのか、詳しくは知らない。
 だけど、ジュジュの表情を見て気づいた。自分とジュジュの失恋に。
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