18 / 41
第10挑☆酒と涙と親父と娘! 蕾の夢 後
しおりを挟む
俺とカイソンは、膳の片づけを手伝った後、家の外に出た。家のそばの畦道に、モコの大きな身体を見つけた。モコの陰に隠れるようにして、蕾が膝を抱えて座っていた。
俺は、モコの顔を覗き込んだ。
「お前、何喰ってんだ?」
「わっ、びっくりした!」
蕾は大きな目をさらに大きくして、こっちを見上げた。
「モコ、雑草を食べてくれてるの。これ食べてって言ったら食べてくれる。除草剤よりモコのほうがいい」
蕾はモコの頭をなでた。なんだよ、あんなに邪険に言ってたくせに、すっかりモコのこと気に入ってんな。
「なあ蕾、俺たちといっしょに、明後日のフェスティバルに行かねえか」
蕾は笑顔を消して、うつむいた。俺は、蕾の隣にしゃがみこんだ。
「なんだよ、そんなに友達に会いたくないのか?」
「友達なんかじゃないよ」
即答。藤花との溝は、けっこう深いみてえだ。
「なんだよ、なんでそんなに藤花と会うのが嫌なんだ?」
蕾は少しの間の後、こんなことを言ってきた。
「チョーは、夢、ある?」
「夢? あるぜ」
「どんな?」
「たくさんの人を笑顔にすることだ。そのために、素晴らしい動画を撮る」
「今はまだぜんっぜん底辺っすけどね」
「うるせえ! そういう蕾は、夢とかあるのか?」
「……あったけど、もう、ないよ」
「なんで」
「だって無理だもん。働いても働いてもお金なんかできないし。遠くに行きたくてもいけないし。やってみたいこと考えるだけむなしいよ。……藤花みたいなお嬢様じゃなきゃ、無理なんだよ」
「そんな、なんでも無理って決めつけんなよ」
「無理なものは無理なの! この国で農家に生まれちゃったら、一生農民なの」
蕾の瞳から涙がこぼれた。
「蕾……」
「モコ見てたら、バタフライの幼虫ほしくなったけど、やっぱり、飼わない。もともと禁止だし。何より、自由に生きられる可能性を奪いたくない。自由でいられるなら、自由でいたほうがいい。そうじゃなきゃ、可哀そう」
モコは蕾のほっぺたに触手を伸ばした。蕾の涙を拭いてやっている。蕾はモコの顔に自分の身体をくっつけた。
「蕾、生きているからには可能性は無限大なんだぜ」
「だから、それは……」
「言ってみろよ! 蕾にはどんな夢があるんだよ。言うのだって自由だ」
俺は蕾の目をまっすぐに見た。蕾はおそるおそる言った。
「……笑わない?」
「なんで笑うんだよ。笑うわけねえよ」
「私……モデルになりたかったの」
モデルか! たしかに、蕾は顔可愛いし、手足も長いし、いいじゃねえか。
「いいじゃん! 蕾ならなれるだろっ」
「でも、毎日農作業で、モデルになろうにもチャンスなんか……」
「だーかーら、フェスティバルに行こうぜ! 蕾の親父に聞いたよ。藤花、カンダの国ってとこでモデルもやってんだろ? 話聞いてみればいいじゃねえか」
「でも……」
「でも、ばっかり言うな。とにかく、決まりだ。親父にはオッケーもらってる。明日は買い物に出かけて、服かなんか買おうぜ」
「え、そんなお金ない……」
「俺たちがなんとかする! いいな」
蕾はとまどいながらもうなずいた。よし。こんな14歳くらいで夢をあきらめてちゃ、人生もったいねえ。蕾の親父も言ってたんだ。
「蕾の母親は蕾を産んですぐに死んでしまってね。あの子は小さいころから家のことをよく手伝ってくれたし、今もよく働くんだ。本当は、蕾も都会の学校に行きたかったんだ。でも、情けない話、私にはどうしてあげることもできなくて。でも、親はね、娘に幸せになってもらいたいものなんだよ。叶えてやれるなら叶えてやりたいよ。蕾のやりたいこと、させてやりたいんだよ……」
親父の娘に対する愛、泣かせるじゃねえか。ここで力になってやるのが、男ってもんだろ!
蕾が家に入って、寝静まったあと、俺とカイソンは拳を鳴らした。ポワロンが、
「今から、本当にやるの?」
と、呆れたように言ったが、やる。
「ああ。森に戻って盗賊狩りだ」
「片っ端からボコって金を稼ぎましょう」
「どっちが盗賊だかわかんないわね……」
ポワロンのつっこみは、無視だ。
なんとなく、モコもやる気を出しているぞ。
「さあて、行くか!」
俺たちはヘーアンの国に来る前に通った森を目指して歩き出した。
俺は、モコの顔を覗き込んだ。
「お前、何喰ってんだ?」
「わっ、びっくりした!」
蕾は大きな目をさらに大きくして、こっちを見上げた。
「モコ、雑草を食べてくれてるの。これ食べてって言ったら食べてくれる。除草剤よりモコのほうがいい」
蕾はモコの頭をなでた。なんだよ、あんなに邪険に言ってたくせに、すっかりモコのこと気に入ってんな。
「なあ蕾、俺たちといっしょに、明後日のフェスティバルに行かねえか」
蕾は笑顔を消して、うつむいた。俺は、蕾の隣にしゃがみこんだ。
「なんだよ、そんなに友達に会いたくないのか?」
「友達なんかじゃないよ」
即答。藤花との溝は、けっこう深いみてえだ。
「なんだよ、なんでそんなに藤花と会うのが嫌なんだ?」
蕾は少しの間の後、こんなことを言ってきた。
「チョーは、夢、ある?」
「夢? あるぜ」
「どんな?」
「たくさんの人を笑顔にすることだ。そのために、素晴らしい動画を撮る」
「今はまだぜんっぜん底辺っすけどね」
「うるせえ! そういう蕾は、夢とかあるのか?」
「……あったけど、もう、ないよ」
「なんで」
「だって無理だもん。働いても働いてもお金なんかできないし。遠くに行きたくてもいけないし。やってみたいこと考えるだけむなしいよ。……藤花みたいなお嬢様じゃなきゃ、無理なんだよ」
「そんな、なんでも無理って決めつけんなよ」
「無理なものは無理なの! この国で農家に生まれちゃったら、一生農民なの」
蕾の瞳から涙がこぼれた。
「蕾……」
「モコ見てたら、バタフライの幼虫ほしくなったけど、やっぱり、飼わない。もともと禁止だし。何より、自由に生きられる可能性を奪いたくない。自由でいられるなら、自由でいたほうがいい。そうじゃなきゃ、可哀そう」
モコは蕾のほっぺたに触手を伸ばした。蕾の涙を拭いてやっている。蕾はモコの顔に自分の身体をくっつけた。
「蕾、生きているからには可能性は無限大なんだぜ」
「だから、それは……」
「言ってみろよ! 蕾にはどんな夢があるんだよ。言うのだって自由だ」
俺は蕾の目をまっすぐに見た。蕾はおそるおそる言った。
「……笑わない?」
「なんで笑うんだよ。笑うわけねえよ」
「私……モデルになりたかったの」
モデルか! たしかに、蕾は顔可愛いし、手足も長いし、いいじゃねえか。
「いいじゃん! 蕾ならなれるだろっ」
「でも、毎日農作業で、モデルになろうにもチャンスなんか……」
「だーかーら、フェスティバルに行こうぜ! 蕾の親父に聞いたよ。藤花、カンダの国ってとこでモデルもやってんだろ? 話聞いてみればいいじゃねえか」
「でも……」
「でも、ばっかり言うな。とにかく、決まりだ。親父にはオッケーもらってる。明日は買い物に出かけて、服かなんか買おうぜ」
「え、そんなお金ない……」
「俺たちがなんとかする! いいな」
蕾はとまどいながらもうなずいた。よし。こんな14歳くらいで夢をあきらめてちゃ、人生もったいねえ。蕾の親父も言ってたんだ。
「蕾の母親は蕾を産んですぐに死んでしまってね。あの子は小さいころから家のことをよく手伝ってくれたし、今もよく働くんだ。本当は、蕾も都会の学校に行きたかったんだ。でも、情けない話、私にはどうしてあげることもできなくて。でも、親はね、娘に幸せになってもらいたいものなんだよ。叶えてやれるなら叶えてやりたいよ。蕾のやりたいこと、させてやりたいんだよ……」
親父の娘に対する愛、泣かせるじゃねえか。ここで力になってやるのが、男ってもんだろ!
蕾が家に入って、寝静まったあと、俺とカイソンは拳を鳴らした。ポワロンが、
「今から、本当にやるの?」
と、呆れたように言ったが、やる。
「ああ。森に戻って盗賊狩りだ」
「片っ端からボコって金を稼ぎましょう」
「どっちが盗賊だかわかんないわね……」
ポワロンのつっこみは、無視だ。
なんとなく、モコもやる気を出しているぞ。
「さあて、行くか!」
俺たちはヘーアンの国に来る前に通った森を目指して歩き出した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる