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第10挑☆酒と涙と親父と娘! 蕾の夢 前

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 俺の名前は大一文字挑。シロと稲妻を追いかけてヘーアンの国にやってきた、ムラサキ陣営のプレイヤーだ。今は、田んぼで農作業をしていた蕾の家に招かれて、晩飯にありつこうってところだ。

 むき出しの板の間には、机も椅子もない。俺とカイソンが隣同士で座り、向かい側に蕾の親父が座っている。ポワロンは俺たちの間にちょこんと正座している。モコは家の中に入ったら狭くなるから、玄関から顔だけ部屋の中に入れている。

「お待たせ~」

 蕾が質素な膳を運んできた。膳の上に並んでいるのは、玄米、みそ汁、たくあん。みそ汁の具は豆腐とねぎだ。
 これを見て、俺は泣けてきた。蕾は恥ずかしそうに笑って、

「こんなものしかなくてごめんね。うち、貧乏だから」

と言ったのだが。
 そうじゃねえ。そうじゃねえんだ。

「飯だーーーー! 米だ!」

「っすね! チョーさん、米っすよ!」

「何日ぶりの米だ。米の袋買えなくて、20円そばやらもやしやらで何日ごまかしてきたことかっ」

「こっちに来ても物価高ですしねっ」

「うおおお、いただきます!」

 俺とカイソンは両手を合わせた後、さっそく米にありついた。あったけえ。噛めば噛むほど甘みと旨味が口の中に広がっていく。

「うめえ! こんな美味い米、初めて食った!」

「みそ汁もたくあんも最高っす。米、何杯でもいけるっす」

 俺たちがガツガツ食っていると、蕾がおかしそうに笑った。

「おかわりもあるから、遠慮なく言ってよ」

 そんなこと言われたら、

「おかわり!」

すかさずお椀を出すしかねえじゃねえか。

「ははは、せっかくの客人だし、あれも出そうか」

 そう言っておっさんは、台所の隅にある樽からひしゃくで何かをすくいあげ、赤い器に入れた。俺とカイソンの前に置かれた器の中に入っているのは透明な液体。

「ん? これは……」

「純米酒だよ。どうぞ、飲んでくれ」

「カイソン、俺たちまだ20歳になってないよな」

「ゲームの世界だからいいんじゃないっすかね」

「ヘーアンの国では、お酒は15歳から飲めるわよ」

 蕾が教えてくれたので、俺とカイソンはにやっと笑った。

「じゃあ、遠慮なく……」

 くいっと飲んでみたが、これまた美味い……! 安もんの酒とは全然違う。米の旨味と甘みが感じられるのはもちろんだが、飲みやすい。これ、たくあんとも相性良いな。イカの塩辛があったらもっといいな。
 ん? 俺に酒の味がわかるのかって? 細かいことは追及しないでくれ。
 とにかく美味い飯に美味い酒……最高だぜ。
 心も身体もポカポカしてきたころ、カイソンが言った。

「チョーさん、親父さんたちに大統領の話聞きましょうよ」

「あ、そうだな。親父さんが教えてくれたホテル、入るの失敗したんだよ。だから、もうホテルの持ち主の大統領に直接話して、シロと稲妻のことを聞こうと思うんだけどさ」

「何それ。あんたたちってバカなの?」

 蕾が呆れた表情をした。

「なんでだよ。ホテル入ろうにも金がないから、直接交渉するしかねーだろ」

「一般人が大統領とそんなに簡単に会えるわけないでしょっ」

「じゃあ、あの屋敷に侵入するしかねえか……」

「やっぱりバカね。大統領には凄腕の護衛がたくさんついているのよ。みんなめちゃくちゃ強いバタフライを飼っているし、あんたたちなんかじゃ返り討ちにされるわよ」

「そんなの、やってみなきゃわからねえじゃん」

「わかるわよ。見た感じ、装備も何にもないじゃない。モコがいるだけじゃどうしようもないわよ」

 そうかな。あの塀をよじ登って、出てきた奴全部倒して、大統領に会って話をするだけだぞ? 無理じゃねえと思うんだが。

「蕾ちゃん、チョーさんはいつもこうなんだよ。なんでも特攻かけてくから、ついていくほうも大変で」

「そうなんだ。カイソンも苦労しているんだね」

「力技でごり押しが効く相手ならいいんだけど。大統領の屋敷に侵入は、俺も気が乗らないなあ」

「じゃあカイソン、どうすんだよ。シロと稲妻はこっちからの連絡を完全に無視しているんだぞ。どうやって追いかけるんだよ」

「それは、まあ、そうっすね」

 俺がカイソンを詰めていると、蕾の親父が口を挟んだ。

「蕾、明後日にヘーアンフェスティバルがあるじゃないか。そこでなら、大統領に会えるんじゃないか?」

「あ……」

 蕾の表情が陰った。どうしたんだ?

「ヘーアンフェスティバルって?」

 カイソンが訊ねると、蕾の親父が説明してくれた...

「大統領が始めたお祭りだよ。毎年、大統領の娘の誕生日に、国をあげてお祭りをやるんだ。大統領の娘の藤花とうかちゃん、蕾と仲が良かっただろう。藤花ちゃんに声をかけたら、大統領と会わせてくれるんじゃないか?」

「……仲が良かったのは昔の話。今は、藤花はカンダの国に出てお嬢様高校に通ってて、全然こっちに帰ってこないし。一方の私は毎日毎日農作業。住む世界が違いすぎて、もう話しかけるのも恐れ多いって感じ」

 蕾はさっと立ち上がり、自分の膳を片付けると、

「草取りしたい場所があるんだけど、もしかしてモコが食べてくれるかな。ちょっと連れて行くね」

と言って、モコを連れて家から出て行ってしまった。
 蕾の親父は困ったような笑顔を浮かべている。カイソンは、

「ちょっと気になってたんすけど、蕾ちゃん、学校は?」

と、蕾の親父に訊ねた。蕾の親父は事情を話してくれた。

「ここの国は、小学校までは義務教育なんだがね。そもそも、国内に中学校以上の学校がないんだよ。だから、たいていの子どもは13歳になる年から農作業に出るんだ。大統領に近い役人たちの子どもとか、一部の金持ちの子は、小学校を出たら他国の中学校や高校に行く」

「……格差社会って奴っすか」

「ああ。それでも、小学校は同じだからなあ。小さい頃はみんな仲良くやってるんだが。蕾も藤花ちゃんと本当に仲が良くてね。学校帰りに、よく一緒に遊んでいたよ。でも……」

「でも?」

 蕾の親父は、わかる範囲で蕾と藤花のことを話してくれた。


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