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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

スナコちゃん再々降臨!! ⑤ 巨大化・雷・敗……

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「えいやっ! くるくるくるくるしゅたっ」

 セレネの声当てで、掛け声と共にスカートを押さえて回転しながらスナコちゃんは地上に舞い降りた。

「凄い、やっぱりスナコちゃんのメイクは完成度が高い! 凄く参考になるよ……」
「えっ何の参考になるのよ、紅蓮くん謎過ぎるわ」

 ル・ツー漆黒ノ天から地上に舞い降りた途端に、紅蓮アルフォードがかぶり付く様にスナコちゃんの顔をまじまじと見て、まおう軍潜入調査の為とか事情を知らないフルエレは困惑した。

「若君は砂緒は嫌いなのに、スナコになるとOKなのですな」
「どっちも同じなのでしょう……不気味です」

 当然貴城乃たかぎのシューネと夜叛やはんモズは鳥肌が立つ思いでスナコを嫌悪して見た。それはフゥーも同じである。

「そんな事はどうでも良いです。とにかく大言壮語されたのですから、早く千岐大蛇チマタノカガチを退治して下さいな」
「おーよー見とけよフゥー! 茶番はもう良い、早速出撃しようぜっ」

 フゥーの前に立って睨み付けながらセレネが言った。

「砂緒が心配だわ! 私も行くわよっ」
「砂緒て言っちゃダメ、スナコちゃんでしょ、いきなり忘れないでよ」
兎幸うさこもメランと一緒に行くよ!」

 という訳で、スナコちゃんと雪乃フルエレ女王とセレネが蛇輪に、メランと兎幸がル・ツーに乗り込んで早速チマタノカガチ討伐に向かった。この時点で当人達はあっさりとカタが付く物とタカをくくっていたのだった。


『チマタノカガチ浮遊視認! メランはル・ツーを蛇輪へびりんの後ろに退避させといて下さい。ちなみにこの場は身内しかいないクローズドな回線なので、地声で話しますよ』
『大きいわぁ……砂緒本当にこんなの倒せるの?』
『身内……やっぱあたしは砂緒の身内なんだなフフ』
『いやー私まで身内扱いなのは光栄だけど、本当に下がってて良いの?』

 メランは振り返って、魔ローンの盾をスタンバイしている兎幸を見ながら言った。

『なにやら蛇輪には真実の鏡の加護で光線系の攻撃を跳ね返すそうです。だから兎幸の魔ローンも必要ありません。後ろで指を咥えて観てて下さい。だろう、割れ鏡?』
『さーー? 私はフルエレ様の物であってお前の質問に答える気はありません』
『はあ? いつかお前とはどっちが真実の真実の鏡か決着を付けないといけない様ですね?』
『望むところですよ』

 いきなり喧嘩を始めた蛇輪と砂緒に皆は頭を抱えた。

『お前ら元は同じブツみたいだし、仲良くしろよ……』
『喧嘩良くないよー、兎幸は二人とも好きだよ』
『おお、兎幸さまはなんとお優しい、また私に乗って下さい』
『ロリコンやないか……』

 メランが呆れた所で、スナコは真面目に操縦桿を握り直した。

『では……フルエレ魔力を最大限放出して下さい』
『分かったわ』

 スナコはそっと目を閉じた。先程あれだけ大言壮語した以上、負ける訳には行かない。確実に一発で仕留める為に、スナコこと砂緒は蛇輪を巨大化させるつもりだった。しかしこれまで巨大化は自然に発生していた為に、意識して出来るのかどうか必死であった。

『……ふぅ自分の身体が蛇輪と同化して……さらにそこから拡大化するイメージ……蛇輪の手は私の手だ』

 突然ブツブツ独り言を言い出し始めたスナコに、やっぱりヤバい奴だったのかと皆冷や汗を流した。

『うおっ!? 視線が上がり始めたぞ、スナコちゃん巨大化して行って……』
『シーッ、セレネ集中を邪魔しない!』

 思わず興奮して大声を出したセレネを、雪乃フルエレ女王がたしなめた。フルエレら搭乗員達が固唾を飲んで見守る中、同盟の旗機魔ローダー日蝕白蛇輪はぐんぐんと巨大化して行き、遂には百Nメートルを越える大きさとなって止まった。

『ふぅ』

 スナコはやりきった感を発散しながら額を拭った。

『でも、三百Nメートルのヌッ様を見た直後だから』
『コラーッフルエレさんも割とデリカシーないな? それは言ってはいけない約束だぞ?』
『セレネ、さすがクレイジーキャラでも実は優しい。要はデカさでは無くて能力ですよ!!』
『えっあたしってクレイジーキャラなん?』
『全然違うわよ、いちいち砂緒の言う事気にしないで!』
『では黒雲よ出でよ!!』

 皆の会話を無視して、スナコが蛇輪の両手を上げると、辺り一面とチマタノカガチを覆う様にどす黒い雷雲が発生し、何本もの稲妻の閃光が横走りし始めた。

『砂緒、頑張って! クラウディアの平和は貴方の肩に掛かっているわっ』
『スナコ、あたしはお前を信じているからなっ』
『私も、私もそれそれ、すっごい信じてるし!』
『兎幸もー!』

 天に掲げた蛇輪の指先から太い稲妻が黒雲に向かって伸び始めた。未だチマタノカガチは眠りに就いたままで全く目を覚ます気配は無い。

『行きます! 落ちろっっっ!! 最大限の巨大化雷!! いっけええええええええええ!!』

 ピッシャアアアアアアアッ
 ドドドドドドドドドドドドーーーーーーーーーーーーーンンンン!!
 スナコの叫びと同時に激しい閃光が走ったかと思うと、黒雲から何本もの黒い稲妻がほとばしり、眠ったままのチマタノカガチに降り注いで直撃した。
 ズドドドドドドォオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!

『きゃああああああああ!?』
『メラン、吹き飛ばされない様に!!』

 雷が落ちたかと思った直後、巨大な爆発とその爆風で辺りは覆われ、二機の魔呂の魔法モニターが焼き付きを起こす程の視界不良となった。その閃光と爆発音は当然仮宮殿に待機する連中にも届き、地鳴りの様に不気味な爆発音はしばらく響き続けた。

「なんだこの爆発は!?」
「これが砂緒くんの雷だよ、荒涼回廊でもやったらしい……」
「これが……魔ローダー蛇輪の、スナコちゃんの力か」

 シューネも猫弐矢ねこにゃも紅蓮も、想像を超える巨大過ぎる爆発に戦慄していた。もちろん避難している人々もフゥーも同じであった……

『爆発が明ける、カガチの死体を確認しよ……』
『うっバカな』
『カガチ健在!!』

 セレネが叫んだ直後だった、多少上部のウロコが黒く焦げた程度で無傷のまま川の上で浮かぶ、チマタノカガチの何本もの首の真っ赤な瞳が輝き出し、いつもと違ってなんだか目に見える速さに感じる何本もの光線をあらぬ方向に発した。

『これは何だ!?』
『いつもと違う、何か収束してる感じだぞ』
『へ?』

 言っている間に、複数の首の瞳から発せられた光線が、空中で収束し太い光線に変わった…… 
 シィイイイイイイイイインンンンン!!!
 直後、突然収束してから速さを激増させた真っ赤な太い光線が、避ける間も無く蛇輪の胸に直撃した。
 ギィイイイイイイイイイインンン!!
真実の鏡が装甲材に使用され、鏡の加護がある蛇輪はその太い光線を空に向かって跳ね返した。

「何だ!? あの赤い太い光は??」
「カガチの光線か??」
「不気味なっ」

 仮宮殿からもしっかり見える不気味な光線は、あっけにとられている間に蛇輪の光線系に加護があるハズの装甲をどんどん真っ赤に溶かして行く。

『お、おい砂緒!? 避けるとかなんとかしろよ??』
『あ、は、そうですね……しかし後ろにメランが』
『熱い!?』

 突然フルエレが苦悶の表情を浮かべた。

『フルエレさん操縦桿離して! 早くっ!!』

 セレネの言葉に最大の魔力供給源のフルエレは、思わず操縦桿から手を離した。

『ピーーーーーッ! 危険情報、胸部装甲、融解10% ピーーッ! 熱いです熱い……』

 砂緒が来るまで饒舌だった蛇輪の声が、突然たどたどしく警告を発した。フルエレの魔力供給が断たれ、途端に装甲の強度と加護が極端に落ちたのだった。

『蛇輪ちゃんが退化してない??』
『砂緒!!! どうした?? 早くなんとかしろっ!!』
『………………う?』

 絶対の自信がある雷攻撃で、余裕でカガチを瞬殺する未来しか描いていなかったスナコは、頭が真っ白になっていた。

『砂緒危ない!! 魔ローン展開!!!』

 動かない砂緒を見かねて、咄嗟に兎幸が後ろのル・ツーから出張させて、魔ローン六枚を縦に重ねて蛇輪の胸の前に展開させた。
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