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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

スナコちゃん再々降臨!! ⑥ 片割れの死……

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 シュバアアアッッ!! 
 八岐大蛇チマタノカガチから放出された野太い真っ赤な光線が、展開されたばかりの兎幸うさこの魔ローンを、一気に四枚破壊して突破した。

『きいいやああああああああ!?』
『兎幸ちゃん!? しっかりして!!』

 魔ローン破壊のダメージがモロに兎幸を直撃して、兎幸は後ろにのけ反った。しかしこの破壊で光線が減衰されたのか、残り二枚の魔ローンは辛うじて残った。

『砂緒、何やってる今の内になんとかしなきゃ!!』

 脇から片手だけ伸ばし砂緒の握る操縦桿を少しだけ触り、魔力だけ供給していたセレネがしびれを切らし、砂緒を押しのけて無理やりどかせた。

『メランさん、しゃがんで後ろに下がって!!』
『メラン、早く匍匐ほふく前進で斜め後ろに後退して早く!!』

 セレネと同時に操縦桿を握り直した雪乃フルエレ女王も思わず大声で叫んだ。

『は? はいはい、匍匐前進ね!? やりますやりますっ』

 メランはがばっとル・ツー漆黒ノ天を地面に伏せさせると、ゴキブリの様にカサカサと斜め後ろに逃げ始めた。
 ゴバアアアアアッ!!
 メランが後退した直後、ちょうど同時に残り二枚の魔ローンが破壊されて、再び光線が蛇輪へびりんの胸に直撃した。蛇輪自体は、砂緒が雷を最大限のパワーで落とした直後か、はたまたチマタノカガチの光線が直撃した直後かは不明だが、いつしか魔ローダー通常サイズの二十五Nメートルに戻っていた。その小さい身体に約五百Nメートルのカガチの巨体から発せられる怪光線がしつこく再び直撃した。
 キュイイイイイイイィイイイイインンンン!!!
 途端に金属を削る様な猛烈に甲高い音が響いた。

『あううう……う』
『兎幸ちゃん!? しっかりしてしっかりするのよ!』

 残り二枚までも六枚全ての魔ローンを破壊されて、兎幸は一言うめいて気絶した。

『メランさん離脱! じゃあこれもう避けて良いんだよな!? いや、避けたら仮宮殿直撃するのか!? おい、蛇輪どうすればいい?』

 壁にぶち当たって、ぶつぶつ独り言を言い出した砂緒を放置して、セレネは蛇輪に聞いた。

『ピーーーーッ危険情報、胸部装甲、融解30%突破、危険です、退避して下さい』
『お、おい? 仕方ない、フルエレさんメランが逃げた以上、此処は避けます!!』
『駄目よ!? 方角的に後ろの仮宮殿に直撃するわっ』
『そんな事言っても、フルエレさんが死んだら意味ありませんよ!?』
『大丈夫です……誘引している我らが動けば、この光線も追尾します。最悪の事態を避ける為に、方向を仮宮殿からずらして下さい。全てのリソースを跳ね返しと胸部冷却に注いでいます。耐えてみせます!!』

 機械的な音声に退化していた蛇輪が、知的な会話が出来るまでに復帰した。

『お、おう! 頑張れっ』

 セレネは冷や汗を流しながら、カニ歩きで徐々に横に移動した。そして射線は仮宮殿直撃コースから外れて行った。しかし蛇輪が言った様に、真っ赤な光線の追尾は執拗に続き蛇輪の胸を焼き続けた。
 パーーーンッ!!
 突然何かが弾ける音がした。

『おいおい今の何だよ!?』
『外部一次装甲が破損しました。このままこの攻撃が続けば残り60秒で装甲を貫き私は全壊します』
『マジカ!? 変形して飛ぶか!?』
『変形シークエンス中に関節等に直撃して破壊されます……』
『くそっ』
『うそっ』

 衝撃的な蛇輪の報告にフルエレもセレネも血の気が引いた。

『……私が外に出て硬化して跳ね返します。その内に蛇輪はフルエレを乗せて逃げなさい』
『却下! ハッチを開けた瞬間に中が蒸発します。このバカ者』

 復活したスナコが声を絞り出して言った提案だが、即座に蛇輪に否定された。

『じゃーーどーーせーーと?? フルエレさんだけ何とか逃がす手はないか!?』
『私が下の操縦席に降りて背中をぶち抜きます。セレネさんはフルエレを抱えて逃げて下さい!』

 砂緒はセレネの腕を掴んでスナコメイクのままだが真剣な顔で言った。

『出来るかっ! お前も一緒に逃げよう』
『……この責任を取って蛇輪と死にます』
『ふざけんなっ!』
『駄目よ砂緒も一緒じゃなきゃいやよ』

 フルエレは不安気に下から叫んだ。

『……朗報です……敵の光線が減衰して来ました。放射終了が近そうです……』
『マジカヨ!?』

 蛇輪が途切れ途切れの聞きにくいラジオの様な声で報告した通り、真っ赤な太い光線は色が多少薄く、徐々に細くなって来ていた。

『いけるんじゃねーの!?』
『助かるのね!?』
『蛇輪耐えろっ!』
『貴様……言われ……無くとも……フルエレさま……』
『どうしたの蛇輪ちゃん!?』

 突然呼び掛けられてフルエレはドキッとした。

『貴方様を……幼い頃の……お見掛けした時から、お慕いして……』
『えっ? どうしたのよ、しっかりして』
『お、おい??』
『蛇輪??』
『旅、魔法マンガ喫茶で一緒……楽しかったです……』
『そうよ、これからも一緒よ!? 私を守って!!』

 フルエレは様子も声もおかしい蛇輪に向かって呼びかけ続けた。

『フル……さま、機能は残し……ました、別れ……です、どうぞ幸せを……』
『え? 蛇輪ちゃ、真実の鏡さん??』

 ヒュイイイイイーーーン
 突然蛇輪の声が途絶えたかと思うと、空回りするファンの様な音だけがして、唐突に操縦席内の魔法ランプも魔法モニターも消えた。実はその丁度声が途絶えたのと同じ瞬間、外部ではチマタノカガチの真っ赤な光線は最後の輝きを失って虹の根本の様にフッと消えていた。カガチの光線から内部のフルエレを守り切った蛇輪の声こと真実の鏡の割れた片割れは、これから砂緒と喧嘩したり漫才を繰り広げたり、時には適切なアドバイスをしてくれたりして大いに活躍するかに思われたが、今あっさりと死んだ。その力を使い時を遡り何千年の悠久の時を生きた魔法の魂だったが、蛇輪建造と共に魔法機械の物理回路に移してあった魂が、カガチの光線から内部を守り切る為に全ての力を使い切り、回路が焼き切れた末の死であった。

『蛇輪ちゃん!? 蛇輪ちゃん?? 真実の鏡さん??』

 フルエレは真っ暗な操縦席内で真実の鏡への心配と己の身の不安で叫び続けた。

『システムダウン!? リセットリセット!! 魔法システム再起動!!』

 どこまでも冷静なセレネは、フルエレと自分と砂緒を守る為に、剣での戦いと同様の反射神経で、瞬時に真っ暗闇の中でシステム再起動を図った。
 ヒュイイイイイイイイイーーーーン
 セレネの的確な操作で、直ぐにまず蛇輪内の非常ランプが点灯して、システム再起動の動作音が聞こえ始めた。

『生きてるのね!?』
『早く早くっ! 早く点け!!』

 セレネが操縦桿を握りながら念じ続けると、ようやく魔法モニターが生き返った。生き返ったと言っても機械的に再始動しただけで、もう蛇輪の声つまり真実の鏡の片割れの声が聞こえる事は二度とない。

 くおおおおおおおおーーーーーーんんん!!!

『があああ!? カガチの口がっ!?』

 システムが完全に再起動して魔法モニターが蘇って外部の視界が目に入った瞬間、チマタノカガチの大きく開けた口と牙が迫って来ていた……

『うぐううっ』

 それと同じ瞬間、片割れの魂が永遠に失われた痛みが伝わったかの様に砂緒が苦しみだした。セレネは外と中の同時の衝撃に頭が一瞬パニくった。 
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