上 下
503 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ④ 冷徹のカガチ

しおりを挟む
『進化系って何ですか? 取り敢えず魔戦車と兵員は後退、魔ローダーの戦闘スペースを作りなさい!!』
『ハッ』

 魔戦車の隊長から各兵士達に下命されると、大騒ぎになりながら蜘蛛の子を散らす様に前後に後退を始めた。

「早く下がれ!!」
「魔戦車も後退するぞ邪魔だっ!」
「狭い道でそんな一気に進めるか!」

 キュラキュラキュラ……

「うわーーやべえ、魔戦車が動き出した!?」
「轢かれるぞ!!!」
「川に落ちろ!!」

 魔法サーチライトに照らされる謎の多首生物を中心に、映画十戒の様に探索部隊が前後にサーーッと別れていき、大慌てで動き出した魔戦車にびっくりして複数の兵士が川に落ちた……

『何ですかこの大混乱は!? 情けない……』
『この国は戦争向きの国では無いのです』

 等と言いつつも、散々混乱した挙句に、謎の生物の周囲に魔ローダーが進出出来るスペースが開いた。

『GSX-R25隊、かかれっ!』
『ええっ?』
『かかれいっ!』

 三機の神聖連邦帝国製魔ローダー、GSX-R25が恐々と謎の生物に接近して行く。

『しかし、生き物の限りはーーーっ!』
『気を付けろ!』

 一人の勇気ある操縦者が剣を振り上げながら謎の生物に切り掛かる。
 ガシーーーーーン!!
が、勢いよく切り掛かった剣は謎のバリアーにでも弾かれる様に、全く生物を傷付ける事が出来ない。

『何だ? 何でこんなに固い?? もう一度っ』

 バシンバシンッ!!
 再び振り上げた剣で滅多切りにするが、やはり全く傷付ける事が出来ず、謎の生物の多数の蛇の様な顔は不思議そうに様子を伺っているだけだった。何か攻撃されているという事が理解出来ない風にも見えた。途中から残りの機体も参加して切り掛かるが一向に埒があかない。

夜叛やはんモズさま、こいつ全く攻撃を受け付けませんが、どうやら頭が悪い様でボケーッとしたままです。捕獲出来るのでは……』

 等と余裕を見せた瞬間だった。
 グワーーーーーッ
鳴き声とも作動音とも付かない不気味な音を発しながら、一機の魔呂の身体全体を無数の首が巻き付く様に襲い掛かった。

『な、なんだこいつら!?』
『ええい、離せっ離せコラッ!!』
 
 僚機達が必死に首を斬り落としに掛かるが、やはり全く太刀打ち出来ず、魔ローダーの二十五Nメートルの巨大な機体は、それより若干小さい謎生物の無数の首に不気味に覆われていく。

『こ、この首一つ一つが魔呂の装甲や手足を食ってるぞ!?』
『きょ、強制脱出! 何? 効かない? 隊長、魔法発火ボルト作動しませんっ』

 先程までの余裕が消え、段々と機体全身を蝕まれていく恐怖に乗員の声が震えている。

『ええい、何をしているのですか? ハッチの周囲をえぐりなさい!!』
『は? ハッ!!』
『早くしてくれ、早くっ!』

 残りの二機のGSX-R25が剣を立てて、コクピットハッチの周囲をこじ開ける様に突き刺した。しかし時既に遅く、ハッチと機体の境界線辺りまで多くの首が巻き付き覆って行く。真っ赤に光る無数の目が禍々しく不気味であった。

『あああモズさま、隊長、早く助けて下さい!! ベキベキベキ』

 魔法秘匿通信は機体が破壊される音まで拾って来て、聞いていたモズ達は声を失う。

『ひ、ひいいいい化け物、くるなあああっぎゃああああああああああ、ガリッ』

 ザーーーーーー。
 兵士一人の断末魔の叫びと共に通信は切れた。
 ドンッ!
無数の首に囲まれる中で魔ローダーは鈍く爆発した。この時、最初の魔戦車一両も食われた事にようやく気付いた……

『離れろ!!』

 一瞬声を失った僚機はモズの命令で後ろにバッと下がった。

『済まぬ許せ、私の認識不足であったわ。本国の両親には手厚く報いよう。魔戦車及び兵員は全員撤退!!』
『全員撤退!!』

 魔ローダーの攻撃が通じぬ以上、無用なあがきでさらなる被害を拡大させる事を懸念したモズは、あっさりと撤退を決意した。

『しかしこの様な危険な物を放置しては……うっあれを!?』

 うじゃうじゃと魔ローダーにたかっていた謎の多首生物は、いつの間にか魔ローダーを越える程の大きさに成長していた。

『バカなっ金属と宝石とセラミックで出来ている魔ローダーを食って、モンスターが成長しただと!?』

 不気味に巨大化した生物は、今や魔ローダーを見下ろす大きさになっていた。この生物こそかつて砂緒達がクラウディアを出発する直前に目撃しつつも放置した、謎の緑色エノキ茸的生物の成長した姿であった……

『モズさま一体如何されますか?』

 しばし返答は無かった。

『この生物、冷静に考えれば我々が来る前から、我々が来た後にしても自ら襲い掛かって来る訳では無くむしろボーッとしていた。つまり攻撃本能が強い生物では無いと思う……だから私が一人で時間を稼ぎ、出来れば川上に戻す! 貴方達は全員素早く里まで撤退なさい!』

 不気味な鳥の仮面を付けたラスボスっぽい風情の男、モズは普通に真面目な人物だった。

『そ、そんなどうやって!?』
『ええい、急ぎなさい! 行きますよっ瑠璃ィるりぃさま見てて下さい! 魔ローダースキル絶対服従ッ!!』

 モズが魔ローダースキルを発動させると、桃伝説ももでんせつの機体からピンク色の妖しい玉がふわふわと飛んで行き、そのまま謎生物に当たって吸い込まれていく。

「キュッ?」

 それぞれあらぬ方向を見ていた赤い無数の目が一斉に桃伝説を向いた。

『おおっ反応した!?』
『まだまだ、絶対服従百連打ッッ!!』

 桃伝説が両手を広げ機体中からピンクの玉を大量放出し始めた。

「キュキュッ?」

 ピキーーーンッと謎生物が赤い瞳のまま無数の首を上げて固まった。

『行けそうです! さぁ早く貴方達は撤退なさいっ!』
『はっはいっ! ど、どうぞモズ様もご無事で、総員撤退!!』

 残りの魔ローダーも敬礼すると、大慌てで撤退を始めた。一人残されたモズは冷や汗を流しながら必死に謎生物を押し返そうと念じ続けた。

『くっこんな時に貴城乃たかぎのシューネさまの金輪こんりんがあれば……あの光の剣があればあるいは』

 等と一人でブツブツ言いながら、ゆっくりと川上に押し上げつつ歩き出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号
ファンタジー
ラノベ作家志望の俺、トオル・ユウキ17歳。ある日、夢の中に謎の金髪の美少年神スパイラルが登場し、俺を強引に神の使徒とした。それどころか俺の顔が不細工で能力が低いと一方的に断言されて、昔のヒーローのように不完全な人体改造までされてしまったのだ。神の使徒となった俺に与えられた使命とは転生先の異世界において神スパイラルの信仰心を上げる事……しかし改造が中途半端な俺は、身体こそ丈夫だが飲み水を出したり、火を起こす生活魔法しか使えない。そんな無理ゲーの最中、俺はゴブリンに襲われている少女に出会う……これが竜神、悪魔、人間、エルフ……様々な種族の嫁を貰い、人間の国、古代魔法帝国の深き迷宮、謎めいた魔界、そして美男美女ばかりなエルフの国と異世界をまたにかけ、駆け巡る冒険の始まりであった。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...