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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
プロローグ 帝国の姫乃さんとワータイガーの王国
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―中心の洲、聖都ナノニルヴァ。
緑の屋根に覆われ、華麗な金色の装飾が施された多層塔の巨大なバルコニーでは、今日も神聖連邦帝国第二百十二代聖帝の娘、姫乃ソラーレが忙しい政務の合間をみつけ、魔法イルミネーション輝く下界を見下ろして一息ついていた。少し涼しくなって来た夜風で清楚なドレス姿の姫乃の烏の濡れ羽色の長い髪がサラサラとなびいた。
「ふぅ、セブンリーフに修行に旅立った紅蓮を瑠璃ィキャナリーまで追い掛けて行ったかと思えば、今度はシューネと夜叛モズまでもがクラウディア元王国に行ってしまった……なんだかわたくし寂しい……」
政治軍事で聖帝を助けると言いながらも、なんだか最近幼馴染で元学友の貴城乃シューネ達がこそこそと立ち回っている気配を感じて一人疎外感を感じる姫乃であった。
「……良からぬ事を企んで無ければ良いのですが」
姫乃が心配している最中だった。
ドンドン!! ドパーンパーン!!
突然バルコニーから眺める聖都ナノニルヴァの夜の街に数発の花火が上がった。
「何ですかこれは、この様な予定は聞いていませんが……」
姫乃が怪訝な顔をした直後だった。
「おひいさま、た大変に御座います!」
メイドさんの格好をした侍女が一人バルコニーに駆け込んできた。
「おひいさまとは何ですか、姫殿下とお呼びなさい。して何か変事があったのでしょうか?」
「申し訳ありません姫殿下。そ、それが、阪魚神タイガーズが百八十年ぶりに優勝したそうに御座います!」
姫乃は一瞬の沈黙の後、驚愕の顔で聞き直した。
「阪魚神タイガーズが百八十年ぶりに優勝ですって!? なんという事でしょうお父様にお知らせしなくては」
すぐさまいつもは清楚な姫乃だが、長いスカートの端を白い手袋で包まれたか細い手で掴んで必死に階段を駆け下り、ナノニルヴァの宮殿に向かった。
―ナノニルヴァの宮、聖帝の寝所。
「お父様、お父様大変な事に御座います!!」
静かに眠りに就こうとしていた聖帝陛下は、娘の血相を変えた様子にも驚く事は無く泰然自若として迎えた。
「これ、聖帝陛下と呼びなさい」
聖帝は侍女達の手前、愛する娘だとて礼節をわきまえる様諭した。
「は、これは申し訳ありませぬ。聖帝陛下、大変な事に御座います」
「むっ? 如何したか」
いつもおっとりとした娘の尋常ならざる迫力に聖帝は少し身構えた。
「阪魚神タイガーズが巨魚人ジャイアンスを降し、百八十年ぶりの優勝を果たした……との事に御座います」
なんらかのスポーツチームで、聖都ナノニルヴァの阪魚神タイガーズは東国の巨魚人ジャイアンスに常に煮え湯を飲まされていたのだった。
「……なんとその様な事が」
侍女達が六神山の天然水を美しいガラスの器に入れ、二人に差し出した事で少し落ち着いての話し合いとなった。
「今聖都では大変な騒ぎとなっているとか……」
「うむ、羽目を外し過ぎた民に怪我人が出ぬように警備兵と交通警備兵の増員をするのじゃ」
「はい、もう既に手配をしております……」
姫乃は頭を下げた。
「百八十年前の年代記にはル・バロル川に飛び込む輩もいたとか」
「はい、それも抜かりなく警備しております」
「そうか……姫乃よ成長したな」
「いえ……」
「よし、それでは明日は聖都の民に蛸の入った丸い食べ物を配布するのだ。一人残らずじゃぞ」
「はい! それは思いも寄りませんでした。さすがお父様民の心に寄り添っておられる」
「うむ、常に民の平安を願って生きるのだよ」
「はい聖帝陛下」
姫乃は尊敬する父に深々と頭を下げた。
「して、阪魚神の監督はいまだ星乃サンかな?」
「い、いえ星乃監督はさらにいにしえの時代の話に御座います。現在の監督は岡乃田監督にて、百八十年前の優勝時の一族の末裔とか」
聖帝は遠い目をして天井を見つめた。
「そうか……星乃監督はもはやいにしえの時代か……その岡乃田監督の末裔とやらに褒美をとらせい!」
「はっ早速手配致します」
その時侍女が姫乃に耳打ちした。
「何ですって!? それは本当なのですか??」
「どうしたのかね?」
「はいにわかには信じられぬのですが、岡乃田監督は末裔では無く百八十年前優勝時のご本人だとか……」
「なんと長命な……そして有能、我が軍の将軍として招聘したい物じゃ……」
再び聖帝は遠い目をして虚空を見つめ、姫乃は少し心配した顔で年老いた父を仰ぎ見た。
一書に曰く神聖連邦帝国には甚だ長命な者が時折現れたという。
緑の屋根に覆われ、華麗な金色の装飾が施された多層塔の巨大なバルコニーでは、今日も神聖連邦帝国第二百十二代聖帝の娘、姫乃ソラーレが忙しい政務の合間をみつけ、魔法イルミネーション輝く下界を見下ろして一息ついていた。少し涼しくなって来た夜風で清楚なドレス姿の姫乃の烏の濡れ羽色の長い髪がサラサラとなびいた。
「ふぅ、セブンリーフに修行に旅立った紅蓮を瑠璃ィキャナリーまで追い掛けて行ったかと思えば、今度はシューネと夜叛モズまでもがクラウディア元王国に行ってしまった……なんだかわたくし寂しい……」
政治軍事で聖帝を助けると言いながらも、なんだか最近幼馴染で元学友の貴城乃シューネ達がこそこそと立ち回っている気配を感じて一人疎外感を感じる姫乃であった。
「……良からぬ事を企んで無ければ良いのですが」
姫乃が心配している最中だった。
ドンドン!! ドパーンパーン!!
突然バルコニーから眺める聖都ナノニルヴァの夜の街に数発の花火が上がった。
「何ですかこれは、この様な予定は聞いていませんが……」
姫乃が怪訝な顔をした直後だった。
「おひいさま、た大変に御座います!」
メイドさんの格好をした侍女が一人バルコニーに駆け込んできた。
「おひいさまとは何ですか、姫殿下とお呼びなさい。して何か変事があったのでしょうか?」
「申し訳ありません姫殿下。そ、それが、阪魚神タイガーズが百八十年ぶりに優勝したそうに御座います!」
姫乃は一瞬の沈黙の後、驚愕の顔で聞き直した。
「阪魚神タイガーズが百八十年ぶりに優勝ですって!? なんという事でしょうお父様にお知らせしなくては」
すぐさまいつもは清楚な姫乃だが、長いスカートの端を白い手袋で包まれたか細い手で掴んで必死に階段を駆け下り、ナノニルヴァの宮殿に向かった。
―ナノニルヴァの宮、聖帝の寝所。
「お父様、お父様大変な事に御座います!!」
静かに眠りに就こうとしていた聖帝陛下は、娘の血相を変えた様子にも驚く事は無く泰然自若として迎えた。
「これ、聖帝陛下と呼びなさい」
聖帝は侍女達の手前、愛する娘だとて礼節をわきまえる様諭した。
「は、これは申し訳ありませぬ。聖帝陛下、大変な事に御座います」
「むっ? 如何したか」
いつもおっとりとした娘の尋常ならざる迫力に聖帝は少し身構えた。
「阪魚神タイガーズが巨魚人ジャイアンスを降し、百八十年ぶりの優勝を果たした……との事に御座います」
なんらかのスポーツチームで、聖都ナノニルヴァの阪魚神タイガーズは東国の巨魚人ジャイアンスに常に煮え湯を飲まされていたのだった。
「……なんとその様な事が」
侍女達が六神山の天然水を美しいガラスの器に入れ、二人に差し出した事で少し落ち着いての話し合いとなった。
「今聖都では大変な騒ぎとなっているとか……」
「うむ、羽目を外し過ぎた民に怪我人が出ぬように警備兵と交通警備兵の増員をするのじゃ」
「はい、もう既に手配をしております……」
姫乃は頭を下げた。
「百八十年前の年代記にはル・バロル川に飛び込む輩もいたとか」
「はい、それも抜かりなく警備しております」
「そうか……姫乃よ成長したな」
「いえ……」
「よし、それでは明日は聖都の民に蛸の入った丸い食べ物を配布するのだ。一人残らずじゃぞ」
「はい! それは思いも寄りませんでした。さすがお父様民の心に寄り添っておられる」
「うむ、常に民の平安を願って生きるのだよ」
「はい聖帝陛下」
姫乃は尊敬する父に深々と頭を下げた。
「して、阪魚神の監督はいまだ星乃サンかな?」
「い、いえ星乃監督はさらにいにしえの時代の話に御座います。現在の監督は岡乃田監督にて、百八十年前の優勝時の一族の末裔とか」
聖帝は遠い目をして天井を見つめた。
「そうか……星乃監督はもはやいにしえの時代か……その岡乃田監督の末裔とやらに褒美をとらせい!」
「はっ早速手配致します」
その時侍女が姫乃に耳打ちした。
「何ですって!? それは本当なのですか??」
「どうしたのかね?」
「はいにわかには信じられぬのですが、岡乃田監督は末裔では無く百八十年前優勝時のご本人だとか……」
「なんと長命な……そして有能、我が軍の将軍として招聘したい物じゃ……」
再び聖帝は遠い目をして虚空を見つめ、姫乃は少し心配した顔で年老いた父を仰ぎ見た。
一書に曰く神聖連邦帝国には甚だ長命な者が時折現れたという。
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