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Ⅳ セブンリーフ新北中同盟女王選定会議

エピローグⅢ 燃えた魔輪とサイドカーと焦燥の即位②

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「ごめん……なさい」

 フルエレが見たセレネの笑顔は、よく見ると目頭が充血して涙で潤みかけていた。どういう意味の涙か良く分からなかったが、セレネが砂緒の事が好きなのは誰でも知っている事だった。

「フルエレさんは皆の希望なのです。あたしが傷付こうがどうしようが構いません。元気を取り戻して欲しいのです」

 セレネはフルエレの暴言に直接反論する事など無く、話題を換えた。

「そうじゃ無いの、セレネだって女の子として……その、砂緒の事が大好きなのに、酷い事言ってごめんなさい」

 セレネが転換した話題をフルエレは元に戻した。セレネは内心このアマァー! とキレかけたが、元に戻りかけたフルエレがまた心乱れてはいけないと笑顔を保った。

「……今はそういう話では無いのです。あたしの事なんて小さい事です。なあ砂緒?」

 会話に詰まったセレネは砂緒の目を見て言った。突然のパスを受けた砂緒はギョッとして固まった。つられてフルエレも何か良い事を言ってくれるに違いないと期待する目で砂緒の顔を見た。今、美少女二人と周囲で見守る人々の視線の全てが砂緒に集中した。

(しまった、油断してた所にいきなりセレネさんからの丸投げパスが来た!? エーーこれどう言うのが正解なんですか?? 傷心のフルエレの前でセレネさんと相思相愛です! とか言ったら絶対ダメですよね、かと言ってフルエレの事を一番愛しているのは私です! とか言うのも嘘な気がする。でも今アルベルトの指輪を必死に探しているフルエレにいきなり皆の前で告白して、フルエレが急に嬉しいいぃとか言い出したらトンデモ尻軽破天荒女扱いされますよね、では……フルエレもセレネも同じくらい好きです! いやいやそれも変なハーレム宣言みたいですよねえ……)

 砂緒は以前の空気の読めない彼とはまるで違い、夜の街角で突然目が合った野良猫の様にカッと目を見開いてぴたっと固まったまま、必死に考えた。

「……そうフルエレ、つまり」
「そうね、砂緒が気の利いた事なんて言える訳ない物ね」

 フルエレは最初から砂緒の発言を待つ気は全く無く首を振った。

「どうぞっ!」
「私、森で彷徨っている時に舞台みたいに砂緒と初めて出会って……突然色々な事に巻き込まれて、それから人生が変わったの。だからその時手に入れた私のサイドカー魔輪は今でも大切な宝物。それで……金色が飛んでる時、蛇輪に早く辿り着かなきゃって思ってる癖に、サイドカーは絶対壊したく無かったから、お金持ちのセレネの魔輪なら何台でも壊していいやって思っちゃったの……でも神様はちゃんと見てるのね、サイドカーを守ろうとして同じくらい大切な指輪を無くしちゃった……エヘヘ、全部自業自得ね、ごめんなさいセレネ」

 フルエレは笑顔を回復しつつも、涙をポロポロと流しながらセレネに謝った。

「フルエレさん泣かないで下さい、フルエレさんが泣くとあたしまで悲しいです」
「フルエレ、これからも私とセレネさんと二人で全力で貴方を支えます。だから指輪はもう開ける事が出来ない心の小箱にしまったと思って下さい」

 砂緒とセレネはフルエレを見返した。

「そ……うね、砂緒の言う通りね。指輪は無くした訳じゃないわ……」

 しばらくして三人は立ち上がり、城に戻って行った。


 ―さらに次の日、ザ・イ・オサ新城の会議室。
 城に集っていたウェカ王子等の王族達はもはやとっくの昔に帰国していた。今や残っているのは主要なメンバーだけである。

「えーー、わたくしナメ国大アリリァ乃シャル王、新ニナルティナ有未うみレナード公、ユッマランド王、さらにユティトレッド魔道王国セレネ王女の四者が協議した結果、貴城乃たかぎのシューネの緊急動議は無効として先の女王投票の結果、雪乃フルエレ女王陛下が、北部海峡列国及び中部七葉後川流域国家群新同盟の女王に相応しく、続けて即位して頂く事と相成りました。フルエレさん、同意して頂けますかな?」

 残った主要メンバーや猫呼ねここやイェラ等のフルエレ一味が見守る中、フルエレは静かに頷いた。

「眠っていた前回よりはマシだけど、でも私より相応しい方が居たらいつでも私は退くわよ。あくまで仮初めの女王という事よ……」
「なんですかフルエレさん、砂緒の三文芝居の最後のセリフと同じ事を言わないで下さい! あたしは、いつか貴方が自ら心の底から人々の為に女王に成りたいと仰る日を待っていますから」

 セレネはフルエレの目を見て言った。しかしフルエレはすぐに視線を逸らした。

「そんな日は来ないわ」
「おい、お前らワシの事を忘れ過ぎじゃ! この抱悶だもん様もフルエレの即位を祝してやろうぞ!!」

 会議の場にまで入り込んでいたまおう抱悶が間に割り込んだ。

「あら改めて初めまして。これからもよろしくね抱悶ちゃん!」
「うむ、色々あったが其方とは仲良くしようぞ」

 何故か同盟と非常に友好的な抱悶はフルエレと握手してブンブン手を振った。

「それくらいにしなさい抱悶ちゃん、フルエレは貴様程頑丈では無いのです」
「ワシを放流しようと提案したのはお前の様だな? セレネから聞いたぞ……」

 無理やりフルエレの手を解いた砂緒を抱悶はギロッと睨んだ。

「あの時はセレネさんと二人旅を楽しんでたんです。お子様とは言え空気を読まない貴様が悪い」
「なんじゃと?」
「大切な同盟相手を貴様呼ばわりしちゃダメ」

 フルエレがオロオロする中、砂緒と抱悶は立ち上がるとお互いバチバチと火花を散らした。その後人類史にも残る死闘が繰り広げられたともいう。


 ―さらに数日後。
 すっかり人気が無くなったザ・イ・オサ新城には広場にSRV達の残骸が転がるままになっていた。そんなある晴れた日に新城付きの名も無きメイドさんが、鼻歌を歌いながらほうきを振り掃除をしている。

「るんるんるーん、早く解体業者さんやってこんか~い! ウフフ……あれ?」

 メイドさんは光る物を見つけて拾い上げた。

「ウワッ凄い、宝石は飛んで無くなっちゃってるけど、白金プラチナのリングよ! はぁ~これだからお姫様王女様は、こんな高価な物簡単に捨ててしまうのだから~~」

 言いながらメイドさんはリングを指に嵌めて、空にかざして輝かせてみた。

「村の鍛冶屋さんに頼んで修理してもらおっと! 神さまありがとう!!」

 名も無きメイドさんは指輪を大切にポケットにしまって、再び満面の笑顔で掃除を再開した。こうしてアルベルトの指輪は名も無きメイドさんの家宝になり、二度とフルエレの元には戻らなかった……
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