上 下
407 / 588
Ⅳ セブンリーフ新北中同盟女王選定会議

思わぬ再会とニアミス 中 生きていたウェカ王子

しおりを挟む
美柑みか?」

 紅蓮は、もう一度チラッと振り返り目深く被った帽子の影からウェカ王子を凝視する美柑を心配して思わず声を掛けた。

「……もしかして美柑」
「な、なに?」

 美柑は何を言われるのだろうと思わず心臓がきゅっとなる。

「ああいう朗らかタイプの王子サマが好みなの?」

 美柑はズルッとコケた。

「違うよっ!! う、ううん何でも無いから! 行こ行こ」
「うん、雪乃フルエレ女王の顔がどんなか、なんとか近くで拝んでみよう!」

 しかし歩きながら美柑の頭の中はウェカ王子と最後に別れた場面を思い出していた。


 ―約九年前、ラ・マッロカンプ王国の街角。
 幼稚園交換留学生としてこの国に来た依世いよ王女こと後の偽名美柑みかは、姉夜宵やよいの百発百中の占い能力で判明した将来戦争を起こし人々に不幸をもたらす危険人物を排除する為に暗躍していた。
 ドシャッ
 そしてこの日、人知れず町の裏通りで軍人を一人暗殺する事に成功した依世だった。

「ふっ他愛も無い……」
「あ、依世ちゃん、何してるの!?」

 しかし運悪くその現場を目撃してしまうウェカ王子だった。彼はいじめっ子から助けてくれた強く美しい依世を心から好きになっていたのだ。
 
「ちっ暗殺しごとを見られたか、仕方が無い……」

 幼稚園児依世の掲げた片手が妖しく光り輝く。

「い、いよちゃん何するの!? やめて……」
「恨まないで、平和の為なのよ……」
「ちょっ、止めて!!!」
「ワォーウィンドッ!!」
「ぎゃっ」

 依世は証拠が残らない様に、風魔法でウェカ王子の脳天に痛撃を与えた。
 ザシュッッ!!
 脳天に衣世から巻き起こるつむじ風が直撃し、身体ごと吹き飛ばされたウェカ王子がドシャッと地面に叩き付けられてピクリとも動かなくなった。

「ウェカくん……? ご、ごめんなさいっ」

 依世は一瞬震える手を掛けようとしたが、突然怖くなって振り返らず走って逃げた。その直後から依世は姿を消し、海と山とに挟まれた小さき王国のサポートチームが依世の留学生としての記録を全て抹消した……


 ―半日後。
 突然何事も無かったかの様に、ウェカ王子はむくっと立ち上がった。

「あれ~~依世ちゃん? あれ今依世ちゃん居たよねえ!?」

 ぴしゅ~~~
 突然ウェカ王子の脳天から血しぶきが噴水の如く噴き出した。ウェカ王子は今の魔ローダー操縦能力に繋がる天性の恐ろしいまでの運動能力で依世の攻撃を無意識に寸前でかわし気絶していただけだった……

「ぎゃーーー!! 血が何故か血があ!?」
「あっウェカ王子がいらっしゃいます!」
「おい、ウェカ王子が見つかったぞ怪我をしてられる、回復者早く来い!!」

 そして王子を探していたメイドや家臣達に保護されたのだった。

「あれ、みんな依世ちゃん知らない? おーい依世ちゃーん??」

 この日からウェカ王子は依世ちゃん王子と呼ばれる事となった……


(よ、良かった、ウェカくん生きてた……生きて元気に成長していた……ううっ夜宵お姉さま、ウェカくんは生きていました!)

 今は美柑こと依世は、今度はうっすらと涙を浮かべていた。

「ぎょっ美柑、今度は泣いているの?? 本当にどうしたの」
「ううん、本当に何でも無いから一刻も早くこの場からズラかろ!」
「え? うん……」

 清掃係姿の二人は、なんとか雪乃フルエレ女王に接近しようとこの場から離れた。


「そやで~~~ウェカ王子、メアちゃんは毎日体磨いてウェカ王子の夜這いを待ってるんやで~~、一回くらいお手付きしたりや~~」
「何ヘンな事言ってるんですか瑠璃ィるりいさん!! 恥ずかしい事言わないで下さいっ!!」

 瑠璃ィの突然の大胆な発言にメアは顔を真っ赤にした。

「ん、何か言ったか~?」

 が、猫呼の様子を凝視してたウェカ王子は聞いて無かった。

「いいえ、聞いて無くて良いですから!」
「ん?」

 と、その時瑠璃ィの視界に妙なポーズで信号を送る仮面の男が目に入った。

(瑠・璃ィ・さ・ま・ちょ・っ・と・来・い)
(あれは、神聖連邦帝国公式ジェスチャー信号!? 行かねば)

「ちょ、ちょっとメアちゃん、ウチ蛸の入った丸い食べ物売ってないか見て来るわ~~王子と仲良くしときや」
「あっ瑠璃ィさん!? 何処へ行くのですか」

 メアが必死に呼び止めても瑠璃ィは一瞬で姿を消した。


 二人は建物の陰に隠れて顔を合わせた。

「怪しげな仮面の男、貴様何者なんや? 神聖連邦帝国の工作員かえ?」
「瑠璃ィさま私ですよ、貴城乃たかぎのシューネで御座います」

 再び貴城乃シューネは一瞬だけパカリと仮面を外してすぐに元に戻した。

「シューネ、なんでお前が此処におるんや? 姫乃殿下や聖帝陛下は息災なんやろうな」
「それはこっちの台詞ですよ! 帝都は平和その物ですよ、それより瑠璃ィさま若君を放置して何をされてるんですか?」

 シューネは指先を押し付け瑠璃ィを問い詰めた。

「あはは、なんや迷いに迷ってなあ、今はラ・マッロカンプ王子に世話になってるんや~」
「ご安心を、若君ならこの会場に潜入しておられます」
「え、なんやて!? それを早く言いやあ。どこやねん?」

 瑠璃ィは左右をキョロキョロと探した。

「清掃係としてこの城の何処かに潜入しております」
「なんでまた清掃係なんや……それはそうと、シューネお前って砂緒そっくりやってんなあ」
「え、今頃ですか瑠璃ィさま……そんな事よりお願いがあるのです」

 言いながら貴城乃シューネは瑠璃ィキャナリーの独特の豹柄の衣服を、目を細めじろじろと三白眼の白い目で見た。

「な、なんやねん急にウチの身体をじろじろと嘗め回す様に……年上が好きなん?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...