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III プレ女王国連合の成立

バックマウンテンのアンジェ玻璃音女王とスピネル

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 バックマウンテンの仮設コンテナの中で、シャワワワーーーーーっとメアは再びシャワーを浴びていた。

 カチャッ!

 完全に無防備に全裸でシャワーを浴びていたメアの前に、無造作にドアを開けたウェカ王子が顔を突き出した。あまりに突然の事でメアは隠す事も出来ず、全裸のまま王子と目が合った。


「またお前はシャワーを浴びているのか~~重要な話があるから早く出てこい!」

「きゃーーーーーーーー!!」


 ようやくメアは背中を向けて大きめのお尻を掌で隠した。


「何を恥ずかしがっている? 早く出ろ……」

「早く出てって下さいっ!!」

「お前も女かあ、実は結構恥ずかしがり屋さんなんだなあ」

「いいからっ! 裸族の瑠璃ィさん基準で考えないで下さいっ」


 背中を向けたまま、メアは顔を真っ赤にして叫んだ……



「ようやくメアが出て来たか、それでは今後の方針について伝えるぞ!」


 ウェカ王子が皆を集めていた所にようやく風呂上りの真っ赤なメアが戻って来た。


「遂に同盟軍がトリッシュ王国を落としたらしい。また同時に行動していたミャマ地域軍の西方面では七葉後川に仮設橋を掛ける事に成功し、続々と部隊がSa・ga地域に侵入しているらしい。これにより今後は大規模両面作戦が発動する事だろう……」

「本当にあんた王子か? 誰かに入れ替わったんちゃうか?」

「……わたしもそう思います」


 瑠璃ィとメアは本当に心配そうにウェカ王子を見た。


「失礼な奴らだな」

「そんでなんやねん早くいいや」

「そうですよ」

「話の腰を折っておいて良く言うな。でだ、本来であればその大規模両面作戦に呼応してソーナ・サガを攻め込む事がパパ上からの命令だった……けどボクはそれを堂々と嘘を付き破り、メドース・リガリァに攻め込もうと思っていた!」


 メアも瑠璃ィもあ前とした。


「はっきり言うたな~~」

「最初から私達を騙してたんですね、プンプン」

「最後まで聞け! でもそれだと結局また埋没してしまって目立たないと思うんだ。なんと言ってもこの大規模作戦には遂にセレネの旗機蛇輪が出て来るらしい……あれは飛べるしめっちゃ強いから直ぐにカタが付くだろう。やっぱりそれだとボクの武勇伝が依世ちゃんに伝わりにくい……で、ボクは思い出した、瑠璃ィに気絶させられる前にぴろっと聞いていた、北に向かった部隊の事を!!」


 瑠璃ィとメアに衝撃が走った。


「気付いてたんかい!!」

「あの司会して偉そうにしてた癖にいきなり死にかけて生き返った子ですね~~あれは恥ずかしいです!」

「メアぁ、他人の振りしてても、お前も共犯だと気付いているぞ」

「ヒッ」


 ウェカ王子が恐ろしい真顔でメアの目を見た。


「でもまーーそんな事はどうでも良いよ、二人共友達だからなハハハ! で、話に戻るとだな、ボクはメド国本国に攻め入る事は諦めて、北に向かおうと思う!!」


 王子はビシッと、まっすぐ北に向かって指を差した。途端に皆が怪訝な顔をした。


「あのなあ王子、北に向かった部隊がどの程度の規模かも分からへんし、ほっといても大したこと無いんちゃうか?」

「そうですよ王子、背後からメド国を急襲するのもそこそこ目立つと思いますけど……」

「いや、ボクが北に追撃すると言えば追撃するんだい! もう決定しましたっ!!」


 ウェカ王子はもはや一度言い出したら絶対に聞かないという状態になっていて、瑠璃ィもメアも説得を諦めた。


「まあ、私は元々王子に危険な戦闘に参加して欲しくなかったから、北の少数の部隊を追撃して大した戦闘にならない方がいいですよ!」


 この時点で誰も同盟女王の事を心配していない……新ニナルティナから遠いラ・マッロカンプ王国はあんまり同盟の女王に興味が無かった。


「よしっ決まったな! 木こりに北に向かった連中の情報をさらに聞いて出発だっ!!」


 ウェカ王子は再び立ち上がって、ビシッと北に指を差した。


「……王子、先程完全にバッチリと私の全裸を見ましたよね、もうちゃんと責任とってお嫁さんにしてもらいますからねっ!」

「そうだな~~~この戦いが終われば少しは考えてやるかなフフ?」

「……そうですよね、依世ちゃんがいるし、駄目ですよねーって、エッ??」


 メアの血の気が引いた。


「お、王子、それ戦う前に一番言ったらアカン台詞やでっ!」

「お、王子止めて下さい、取り消して下さいっ!!」


 メアは真顔で王子の事を心配した。


「ボクと結婚したいのかしたくないのか、どっちなんだよお前……」



 ―同じバックマウンテン山中、遥か北の新ニナルティナ直前の峰。


「アンジェ玻璃音女王陛下、只今貴嶋様から情報が伝えられました。口惜しい事にトリッシュ王国が陥落し、さらに同時に七葉後川西側に仮設橋が掛けられ続々と部隊が侵入している由にて、遂に大規模反抗作戦が始まる可能性があります」


 スピネルは切り株に腰を掛け、遠く新ニナルティナの街並みを見下ろし眺めながら物思いに耽る盲目の美女アンジェ女王に、艶やかな長い髪の垂れる背中越しから声を掛けた。


「……そうなのですね、トリッシュ王国の民に被害が無ければ良いのですが。それにしても一度破壊した橋をまた掛ける等と忙しい事。民は大迷惑ですね」


 アンジェは振り返る事無く言葉を発した。


「全戦力が出払い大規模反抗作戦が始まる時が我らの新ニナルティナ首都急襲作戦の好機であろうと思われます。我らも以前よりお話ししておりました同盟の女王に就任して頂く作戦の発動です……つきましてはアンジェ女王陛下には此処より御動座頂きます」


 スピネルからその話が出て、ようやくアンジェ女王は振り返った。


「遂になのですね……私なりに精一杯頑張りましょう……でも、此処で過ごした何日かはとても楽しかったですわ。まるで紅蓮や美柑ちゃんと短い冒険をした時のようでした。また会ってみたいものです、ふふ」


 アンジェ玻璃音女王が笑顔で遠い目をしたので、スピネルは戸惑った。彼がメド国に現れる直前の話だった。


「アンジェ、女王陛下……」

「どうして男の方はその様にじっと私の顔を見つめるのかしら?」


 唐突に発せられた女王の言葉にスピネルはどきっとして戸惑った。アンジェ女王も七華や雪乃フルエレの様に美しかったから、兵達はしばしアンジェ女王の顔をまじまじと眺めていたのは事実だった。


「い、いえ……その……え?」

「うふふふふ、男性の方は簡単にこの手に引っ掛かりますわね! 私は魔法の力で相手の位置や大体の動きは把握出来ますが、視線という物が何処を向いているかまでは分かりませんよ、安心なさい、うふふ」


 女王は突然悪戯っぽく笑いだした。それを見てスピネルは大変戸惑ったが、それ以上にアンジェ玻璃音女王が女性としても大変魅力的な人物であると気付いた。


「……あ、あの女王陛下……周囲には誰もおりません。もし、もし女王陛下が普通の生活をお望みでしたら、誰も知らない里にお逃がしする事は……可能です……今であれば!」


 スピネルは慎重に周囲の気配を見て、誰もいない事を確認して小声で言った。本来砂緒並みに自分の事しか考えていないスピネルが何故そんな事を言ったか、自分でも分からなかった。


「うふふふふ、そんなに貴嶋が悪人に見えますか? 別に脅されている訳でも何でも無い、私の意志で彼を愛しているのですよ、うふふ」

「……差し出がましい事をすみません、どうぞお忘れ下さい」


 スピネルは見えない女王の前で跪き、絶対に作戦を成功させて彼女を幸せにしようと誓った。
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