上 下
176 / 588
III プレ女王国連合の成立

防戦一方 襲われる魔戦車隊!

しおりを挟む
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 バシーーーン!!
いきなり突撃した美魅ィみみい王女のザンザスの剣は、にっくき半透明の魔ローダーに届く前に横から出て来たサッワのレヴェルの剣に遮られる。

「くそっ!!」
「なんでですか王女!?」
「ごめんなさい……つい手が」

 剣を弾かれた直後のザンザスの背後にメランの量産型魔ローダー青いSRVが守る様に立つ。一瞬にして二機の魔ローダーは、七機の敵魔ローダーに囲まれた。敵魔ローダーと言っても国境線内に侵入した美魅ィ王女とメランの方こそ相手から見れば和議を破って侵入した敵なのだが……

「サッワちゃんどうするの? この馬鹿な敵さんを一気に皆で串刺しにしちゃう? この国境線を突破してユッマランドのクラッカ城さえ陥落させれば、私達は七葉後川流域を完全制覇する事になるのよ!」

 ココナツヒメが半透明の魔ローダール・ワンの操縦席で嬉々として訊いた。

「サッワ様! 国境線の向こうでは多数の兵達が雪崩を打つ様に逃げ始めています! 如何致しましょうか!?」

 ハルカ城の地下牢からサッワを救出する為にココナツヒメに随伴して出撃し、救出直後にサッワから胸を揉まれるというセクハラを受けても文句ひとつ言わない処か頬を赤らめて受け入れた、シャクシュカ隊のリーダー格、アシュリーが慌てて訊く。

「ココナツヒメ様、逃げ始めた連中はただの騎兵や歩兵や魔導士です。我らの力で易々とクラッカ城は落とせるでしょう。我らの工作員の報告で新ニナルティナ魔戦車隊が訓練に出撃した時点で、あのメッキ野郎は旅に出ていて居ない事は聞きました。そこでお願いがあるのですが……」
「ん、何なの言ってちょうだいサッワちゃん。貴方の言う事ならなんでも聞くわよっ」

 七機の魔ローダーで二機の魔ローダーを取り囲みながら、余裕全開で聞き返すココナツヒメ。

「あ、あの……僕はハルカ城の地下牢に閉じ込められている間、とても酷い扱いを受けました! その恨みが忘れられません。この目の前の敵魔ローダーを時間をかけてなぶり殺しにしたいです!! 一撃で倒すのではなく、腕や足を切り落として最後はコクピットから敵兵を引き摺り出したいです!!」

 サッワは思い切って願いを言ってみた。

「サッワちゃんよく言ったわ! 私もそんな事がしたいなって気分だったのよ! 大賛成よ!!」
「ココナツヒメさま……有難う御座いますっ!!」

 主人まおう抱悶だもんに冷たくされイライラしていたココナツヒメと、ハルカ城地下牢での恨みが積もっていたサッワが激しく共鳴した。

「あ、あれ……敵さんなんで切り掛かって来ないの!?」
「さあ、どうやって私達を料理するか相談してるんじゃないかしら?」
「ひ~~~~~~~!!」

 さらりと言い放つ声を聞いて、メランは美魅ィ王女は死ぬつもりで来たのかと背筋が寒くなった。


 ガシャンガシャン!!
大きな音がして衣図いずライグが振り返ると、もう美魅ィ王女が乗る全高二十五Nメートルの巨大な魔ローダーザンザスが国境線を走り越えて林立する敵機に挑みかかっていた。直後それを救出する様にメランの青いSRVまでもが走り去って行く。

「あ~~~なんてこった! あの馬鹿王女ちゃん本当にやりやがった!! メランちゃん逃げろっ! そんな奴ほっとけ!!」
「あ、あのあっしらはどうしたら??」

 スリか泥棒にしか見えないラフが慌てて聞いてくる。

「こんな事やってる場合じゃねえやっ! 西リュフミュラン軍全軍撤退!! 今やってる事は全部おっぽり出してとにかく全速力で逃げろ!! 踏まれて殺されてもつまらんぞ!!」
「おい貴様っ! 何勝手に撤退している!!」

 ユッマランドの指揮官が逃げ出そうとした兵達を押し留めている。

「ちっ、魔ローダーには俺たち一般兵は何の役にも立たん、今すぐ逃げるんだ!!」

 衣図ライグが騒動に割って入る。
 
「例え西リュフミュラン軍司令官殿でも口を挟まないで頂きたい!」
「馬鹿か、お前も死ぬぞ!! とにかく逃げるんだ」
「あっおい!!」

 指揮官同士の揉め事を見て、次々に我先にと逃げ出す兵達。

「あのイケメン魔戦車指揮官はどうすんだ??」

 衣図ライグが魔戦車隊を見た。

「新ニナルティナ魔戦車隊撤退作業中止!! 魔砲最大仰角、魔ローダーの顔を狙って連射しろ!! 撃てる者から発射、撤退する友軍の盾になれっ!!」

 為嘉なかアルベルトは砲塔内に滑り込む様に入るとキューポラハッチを閉め、すぐさま防戦の指揮を始めた。

(なんて事だ……うかつだった、あの王女がここまで馬鹿だとは思わなかった。頑として国境線に近付く事に反対するべきだった!! まさかあの王女、皆を巻き込んでこうする事が目的だったのか!?)

 アルベルトは砲塔内で冷や汗が滲んだ。撃ち始めた以上、何機かの敵魔ローダーは必ずこちらに来る。いやあの王女とメランの機体がもし撃破されれば、即座に逃げる兵と自分達魔戦車隊は完全に的になって全員皆殺しの状態になるだろうと思い、つくづくも王女の軽挙に怒りが沸いた。


 ドパパパパパパパ!!! ドーンドーーーン!! ドドーーン!!
突然七機のメドース・リガリァ側の魔ローダー達の、主に国境線に背を向ける四機程の背中にアルベルトが指示した猛烈な魔戦車の魔砲攻撃がヒットする。ヒットすると言っても全くダメージを与えないのだが。

「キャーーーーッ!!」

 モロに一番攻撃を受けたフゥーが叫び声を上げる。

「フゥー情けない声を上げるな!! たかが魔戦車の魔砲だろがっそんなもんちっともダメージにならんっ!」
「は、はい……」
「ちっしかしムカツク奴らだな……魔戦車風情の癖に!? アシュリーとジャスミンはうるさい魔戦車共を破壊して回ってくれっ! ココナツヒメさま良いですか?」
「何を言っているの? サッワちゃんの部隊でしょう好きになさい」
「はいっ有難う御座います!! 行けっ!!」
「はいっ」
「はっ」

 ジャスミンもアシュリーと同じくサッワを救出に向かった二人の内一人だった。この二人が容姿も含めサッワの特にお気に入りだった。

 ガシャンガシャンッ!!
二機を取り囲む七機の魔ローダーの内、二機の魔ローダーが走って行く。しかし二機対五機という事で数的な不利は同じだった。

「ああっなんて事!? 応戦してくれてる魔戦車に魔ローダーが向かって行く助けなきゃ!!」
「放っておきなさい、兵達も覚悟があって来てるのよ、私達自身の事だけを考えましょう!」
「ふざけるなっ! 何てこと言うの? とにかく私達が助けないとみんな死んじゃうのよ!? 貴方一人の為に皆大変な事になっているのよ? 分かっているの!」
「ご、ごめんなさい……」

「隊長、魔ローダー二機接近! 如何しますか!?」
「隊長!! 敵が来ます!!」

 為嘉アルベルトに対して、部下の戦車隊から悲鳴の様な魔法通信が次々に入る。アルベルトは仕方なく二機の味方魔ローダーを見捨てる事に決めた。

「敵魔ローダーを分割させる事に成功した! 我々にはこれ以上出来る事は無い、各自の判断で後退しながら応射!! 私の車は最後までここに残って皆の撤退を支える!!」
「隊長!! 我々も残ります!!」
「好きにしろ!! 各自の判断に任せる!」

 その通信の直後から五十両程になっていた魔戦車隊はその場に留まって応戦する者と撤退する者に分かれた。留まる者達の中心にアルベルトの指揮車があった。

「あらあら、かわいいネズミさん達がチューチュー言いながら逃げ回っているじゃないかっジャスミン、片っ端から潰して行くよ! そらっ!!」

 アシュリーのレヴェルが屈んで巨大な剣を振り下ろすと、ちょうど真下に居た二両の魔戦車が剣先の直撃を受け爆発する。
 ドドーーーン!!

「隊長ーーーっ!!」
「うわーーっ!!」
「あははっアシュリーあたしもやってやるよっ!!」

 続けてジャスミンの魔ローダーも操縦者が笑いながら魔戦車を踏み潰して行く。ボカンドカンと爆発して潰れる魔戦車。

「ぎゃーーーーっ」
「芹沢―――!!」

 アルベルトは同盟締結式の時に真横で破壊された魔戦車の搭乗員の兄弟が偶然乗っていた魔戦車が破壊されて慟哭する。

「あんなの虐殺だよ! あれが一般兵達にも行われるんだよっ! 貴方の大切な侍女さんと同じ人達が殺されてるんだよっ!」

 メランが自分達の眼前で行われている惨劇に愕然として王女を叱った。

「ご、ごめんなさい……自分の事しか考えて無くて……」
「とにかくこの囲みを突破しましょう!」

 ガシッ!!
等と二人が言った直後に、メランの青いSRVが背中を切り裂かれる。

「きゃーーーーーっ痛いっ!?」
「メランさんっ! このーーっ!!」

 逆上した王女がサッワのレヴェルに切り掛かるが、同じように後ろから別の機体に切り掛かれる。寸でで避ける王女。

「くすくす、隊長もう腕の一本でも切り落として良いですか?」
「よしそうだなっ! 斬って良いぞアウララ!」

 少しサディスティックな性格のアウララが笑いながら切り掛かると、ガシッと王女の魔ローダーが剣で受け止める。

「そこっ!!」

 今度は残りの美女ヘレナが後ろから腕に切り掛かり、本当に片腕を斬り落としてしまった。直後王女は片腕を押さえて絶叫する。

「ぎゃーーーーーっ」
「ミミイ!? このーーーっ!!」

 メランが背中を斬られた痛みも忘れて王女をカバーに回るが、今度は四方から同時に切り掛かられる。防戦虚しくメランのSRVも片腕を切り落とされた。

「ちいいいい!! くっそーーーーーー!!!」

 メランも片腕を押さえて絶叫する。王女もメランもそれぞれ剣を持つ手では無い方の腕を切り落とされて、よろよろと背中合わせでようやく立っている状態になってしまった。

「よし、フゥー今度はどっちかの片足を切り落とせ!!」
「えっ!?」

 何もせず見ていたフゥーは突然サッワから命令を受けて呆然として立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...