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III プレ女王国連合の成立

雪乃フルエレの幸せと焦り

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「はい、これが重臣達の弱みの調査結果よ。不正蓄財に脱税、女性絡みに不倫スキャンダル選り取り見取りよ。それを調査結果を伝えて、金銭を要求しない形で言いなりになる様に仕向けたわ」

 新ニナルティナ冒険者ギルドビル七階、猫呼のマスターオフィスの横の、密談用応接室のテーブルの上に、バサッと猫呼が調査結果の紙の束を置く。

「はっや! 凄いわ、猫呼とピルラさんならやってくれると信じてたけど、二日でやっちゃうって凄すぎよ。ありがとう! 恩に着るわ」

 雪乃フルエレが色めき立って、調査を次々に読んでいく。

「皆も旧王国が崩壊してしまって目立ってする事が無くなってしまって……張り切ってやってしまったのよ」

 ピルラが立ちながら、テーブルに屈んで紙を見ながら言った。しかし急にフルエレの顔が曇った。

「あれ……さっきから良く見てるんだけど、アルベルトさんを前線送りにしようとした元軍人さん系の重臣の調査結果が無いんだけど?」

 言いながら紙の束をぺらぺらして裏表を見る。

「それが……その人の調査も入念に行ったんだけど、悪い所が見つからないのよ。とにかく昔から妻と子供が大好きなマイホームパパで、仕事が終わると仲間からの誘いは全て断り家に一直線に帰り、当然不倫だとかの女の気配は一切無し。さらに仕事は旧王国時代から謹厳実直で、元軍人上がりという事で軍隊からの信望も厚く、そして寄付や社会奉仕活動も真剣に取り組んでて、極めつけに最近長女に孫が生まれて、今は孫と遊ぶのが一番の良きお爺さんなの……つまり非の打ち所が無い人物なのよ」

 フルエレは絶句した。てっきり腹黒い悪だくみばかりの人物と、たかを括っていたからだ。

「……何よそれ…………どうしてそんな人があんな意地悪そうな顔して、私が大切に思っているアルベルトさんを最前線送りにしようとするの!? 酷いわよ!!」

 フルエレは泣き声で頭を抱えた。しかしフルエレは自分自身が旧王国を亡ぼし、占領する為にリュフミュランから文字通り一番目立つ魔ローダーで、大手を振ってずかずかと乗り込んで来て、旧王国系の人々から、非常に恨みを買っている事を完全に理解出来ていなかった。

「さ、さあ……どうしてかしらね? その人物の対策についてはさらに今後考えましょ! でもその他の連中からの意地悪はピタリと止むはずよ! じゃ、私とピルラは他の仕事があるからね! フルエレ元気出してね、私は貴方の味方よ!」
「うん……ありがとう猫呼、ピルラさん。またお願いするわ」

 フルエレが力なく言うと、ピルラは一礼し、猫呼は手を振って部屋を出て行った。先程からシャルは皆の会話を、手持ち無沙汰の状態で足をプラプラさせながら聞いていた。

「なんで? どうしてよ……アイツをなんとか失脚させないと一番ダメなのに、どうしてなのよ……」

 猫呼が去った後もフルエレは頭を抱えてブツブツ言っていた。

「なあ女王さま、そんなにヤなヤツだったらさ、俺に任せてくれよ?」
「へ? 何の事よ」
「俺の魔法特殊能力、ギルティ・ハンドだけどさ、ちょっと見てて」

 シャルはそう言うと、先程の書類の一枚をぺらっと掴むと、近くにあった小さな金庫を開けずに、にゅ~~~とギルティ・ハンドの能力で収納した。

「何……? どういう事よ」
「ほら、見ただろ? 俺の能力は隙間があれば中から物を取り出せるだけじゃ無くて、同じ様にどんな狭い隙間でも隙間があれば物をしまう事だって出来るんだぜ!」
「だから……何?」
「あーもー分かんないかな? 俺の能力があれば、失脚させたい相手の証拠を完全に捏造出来るって訳さ!」

 のほほんとしたフルエレは良い人過ぎて、一瞬何を言っているのか分からなかったが……

「だめよっ! そんな事しちゃだめ、私がそんな事許さないわ!」
「ちぇっ! 何でだよ、折角女王さまの役に立ちたいと思ったのに!」

 シャルは口を尖らせて、後頭部で両手を組んでつまらなさそうな顔をする。

「ありがとうねシャル、私の事を思って言ってくれたのね、でもそういう事はダメよ!」
「は~~~~い」
「……その能力は誰と誰が知っているの?」
「え? そうだなあ猫呼様と、ピルラとスカウトしてくれた直接の上司だけかな」
「そう……その直接の上司さんて今は?」
「ああ、女王様が乗り込んで来た戦いの時に、竜を召喚して食い殺されたよ!! てへへ」
「そう……そうなのね……そ、その能力の事は、絶対に誰にも言っちゃだめよ! 必殺技は秘密にしておく物だからね……」
「は~~~い!」

 フルエレはしばらく黙り込んだ。

「あ、あのさあ女王様……お願いが一つあるんだけど……」

 シャルは少し赤面して周囲をキョロキョロ見てから言った。

「何ー? 何なのよ。それと女王さまは止めてよ。フルエレで良いのよ」
「あ、じゃあフルエレ……いっぺんだけで良いんだけど、膝枕して欲しいんだ」
「え? 急ね……どうしたのよ一体」

 フルエレがびっくりして聞き返す。

「お、おれ……もともと孤児だから、お母さんとか良く分からなくてさ、一回で良いから膝枕するのが夢だったんだ……だめーかな?」

 フルエレは唐突なシャルの要求に驚いたが、目を見て悪意は無さそうと思った。

「んーーーじゃあ一回だけだよ? もし砂緒に見られたら殺されちゃうから秘密だからね」
「誰だよソイツ。まあいいや、じゃ、じゃあ行くね?」

 シャルは恥ずかしそうにもじもじして、フルエレの座る、スカートに包まれた太もももを見ながら、ソファーの横に移動して来た。フルエレは相手は年下の男の子なのに、内心ドキドキしていた。

「うん、どうぞー?」

 フルエレがそう言うと、シャルは遠慮なくズケズケとフルエレのスカートの上に頭を寝かせ膝枕をした。

「凄い……フルエレの膝の上、温かくてお母さんの香りがするよ。てかお母さんの香りってどんなか知らないけどさ」
「あらあら、シャルは甘えんぼさんね~~~」

 言われてフルエレはシャルの頭をそっと撫でてみた。

「嬉しい……そうだフルエレ、俺をフルエレとアルベルトさんの養子にしてくれよ!」
「ちょっと養子って、年下でも貴方と私ってそれ程の年の差じゃないでしょう!」

 言いながらも優しく頭を撫でてやった。

「安心してよ! 俺ごはんはちょっとしか食べないから食費も安く付くし、フルエレとアルベルトさんがラブラブの時は、外に出てほっつき歩くから邪魔もしないよ!」
「へ、変な気を回すのは止めなさい! ごはんもちゃんと食べさせてあげるわよ!」
「え? じゃあ養子の件承諾なんだね?」
「違うわよもう!! 気が早すぎよっ! け、けけけ結婚だなんて、もぅ!」
「デヘヘーー」

 等と和やかに会話していると、シャルがそーっと手を伸ばし、スカートに包まれたフルエレの大胆をさすり始めた。それは少年の憧れによる物というより、中年セクハラ親父の卑猥なタッチに近い動きだった。

「こーーーらーーー! それは何か違うと思うの、止めなさい!」
「うわ、いてっ、イテテ。はいはいごめんごめん」

 フルエレは急いでシャルの頭を強引に引き剥がした。年下の男の子だと甘く見ていたが、少年のスケベ心を侮ってはいけないと思った。と思ったら、安易に膝枕などしてしまって、急に男として意識して恥ずかしさが出て来て赤面した。

「はいはい、私もう部屋に帰るからシャルは今日はお役御免よ、自室に戻りなさい」
「は~~い!」

 シャルは冒険者ギルド内にある、定宿にしている個室の仮眠室に戻って行った。フルエレは最初自室に泊めてやろうかと考えていたが、一緒にしなくて良かったと思った。そしてフルエレはシャルを見ていると、昔の自分と砂緒とのやり取りが浮かんできて面白くもあった。

「砂緒……今頃何してるのかしら?」


 ―次の日の朝。
 チリンチリーーン
やたら上機嫌のアルベルトが、手に自転車のハンドルを握って現れた。路面念車の待ち合わせに来たフルエレは一体何事か分からなくて、一瞬ポカーーンとした。

「見てくれフルエレくん! これ、最新の魔法アシスト付き自転車なんだよ!」
「え? 魔法アシスト付き自転車??」
「そう、魔法アシスト付き自転車! フルエレくんの大切な魔輪を砂緒君が持って行ってしまっただろう、だからそれの代わりさ!」
「え、もしかしてプレゼント!? 凄いわっ! ありがとう!」 

 フルエレは目を星にして、両手を合わせて喜ぶ。

「え? い、いや、ちょっと違うんだけど……いや、まあ欲しいなら上げるけど……」

 しどろもどろになるアルベルト。

「あ、違うんですか!? まあ私ったら厚かましい、図々しくて恥ずかしいわ、顔から火が出そう」

 言葉通り本当に赤面して俯くフルエレ。

「あのフルエレ君、もし嫌だったら嫌とはっきり言って欲しいんだが」
「はい?」
「今日は路面念車に乗らずに、これで二人乗りして登城しないかな? いや、本当に嫌だったら良いんだよ、正直に言ってね」

 フルエレに続き、アルベルトまで赤面していた。

「つまり私が後ろに?」
「そう!」
「横向きにね……僕の腰に手を回して」

 ちなみに日本では法律違反だ。

「こ、こうかしら?」

 言われた通り、フルエレは横向きにスカートを畳んで荷台に座ると、器用に金具に足を掛けて座った。ただアルベルトさんの腰にまわした手に力を入れる事が出来ず、ふわっと手を添えるだけだった。

「落ちちゃうと危ないから、強く掴んだ方が……」
「はいっ!!」

 言われてフルエレは強く抱きしめた。アルベルトが軽くこぎ自転車が走り出すと、フルエレは流れる景色を見て何故かとても幸せに感じたが、この幸せが壊れて欲しく無いと、とても怖くもなった。
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