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III プレ女王国連合の成立

雪乃フルエレの幸せと焦り 2 新ニナルティナ・ユッマランド合同軍事演習の提案

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 雪乃フルエレがアルベルトさんの魔法アシスト付き自転車の後ろに乗せられて、うきうきした気持ちは、彼女の予感通りやはり一瞬で消え去る事になる。

「ご苦労さまで~す」
「ご苦労さまです!」

 入り口の警備員は、まさか今IDを見せながら、にこやかに挨拶して入場した少女がまさか同盟女王とは気付かなかっただろう。なにしろ同盟女王の雪乃フルエレと、喫茶猫呼のウエイトレスの雪乃フルエレが同一人物だと知る人は少ない。フルエレは喫茶猫呼のウェイトレス兼アルベルトの秘書スタッフとして入場し、新同盟女王仮宮の中で同盟女王に変装する。

「あ、どうも」

 その仮宮に移動する最中、アルベルトと別れる直前、その当のアルベルトがフルエレが忌み嫌う元軍人系の重臣にペコリと挨拶をする。

「ちょっと……どういう事ですか? どうしてあんなヤツに頭を下げるの?」
「何を言うんだフルエレ君、彼は我々の偉大な先輩である人だよ、その人に挨拶するのは当然じゃないか、最近のフルエレ君は変だよ、どうしたんだい?」
「…………いえ、出過ぎた事を言いました、ごめんなさい」

 当然と言えば当然だった。アルベルトも現役の新ニナルティナ軍人なのだから、関係性があると言えばあるはずだった。しかし自分が大嫌いなあの男とアルベルトさんが、親し気に挨拶を交わした事が衝撃的だったのは事実だった。そして二人はそれぞれの控室に別れた。


 ―第Ⅹ-2回重臣会議。フルエレが同盟女王として臨席し始めて、二回目の重臣会議が始まった。遅れてヴェール付の被り物をしたフルエレが、しずしずとゆっくり入場する。板に付いて来たレナードが一礼する。

「一同、同盟女王陛下に礼。よし、重臣会議を始める。女王、今回もご指導お願い致します」
「ええ、よろしくね……」
「あーーー今回も開始早々、情報機関からの衝撃的なニュースがあるぞ、家臣共は心して聞け」

 情報関係の官僚が入室して女王に向けて一礼する。

「情報機関からの緊急情報をご報告致します。つい先日、中部小国群最南西に位置する『海と山とに挟まれた小さき王国』という無名の小国が、メドース・リガリァの侵攻を受けたそうですが……」
「何ですって!? 結界はどうなったの??」
「?」
「どうしたフルエレくん?」

 突然立ち上がった同盟女王に対して皆がポカーンとなる。すぐハッとした顔をして座り直すフルエレ。

「申し訳無い。続けて下さい」
「ハッ、侵攻を受けたそうですが、何故かその時颯爽と現れた我が国の旗機魔ローダー日蝕白蛇輪が、敵をばったばったと打ち倒し、あっさりと壊滅させて撃退したそうです!!」
「おおおーーー!!」
「何故?」
「正義の味方ですかな?」
(砂緒、セレネ……何故そこに?)

 俯いて考え込むフルエレを見てアルベルトが声を掛ける。

「女王陛下、どうかなされましたか? お体調は大丈夫ですか?」
「ありがとう……大丈夫よ……」

 フルエレはヴェール越しに、にこっと笑った。

「という事だそうだ。これに関して皆の忌憚の無い意見を聞きたい」

 と、レナード公が言った直後、同盟女王のフルエレからアルベルトに向けて軽く手を挙げて、発言をしたいと意思表示した。

「どうぞ、同盟女王からお話があるぞ、心して聞け!」
「ははっ」
「皆も聞いた様に、メドース・リガリァの侵攻は我々の想像以上のスピードで進んでいる様です。これについては我が国も決して手をこまねいて良いとは思っていません。いずれちゃんと対処をしたいと思っています。だが今は! 今は我が国は引き続き復興に尽くすという方針は不変です。よってすぐさま干渉する事はありません。良いですね、それが私の意志です」
「フルエレくん……」

 フルエレは立ち上がると、意図的に必死に低いドスの効いた声を演じて、皆に言い聞かせた。猫呼とピルラの工作が効いたのか、議場はシーンと水を打った様に静かになった。

「あーだそうだ、俺もそんな感じで行く事にする」

 レナード公が何時もの様にいい加減な追随をした。

「よいでしょうか?」
(来た……チッ何を言う気よ?)

 先程アルベルトが挨拶をした、彼をやたら前線に行かせようとする、元軍人系の重臣が意見を言う様だ。

「先程の女王のお話し、家臣という事になるのですかな? 家臣ならば従うよりほかありません。しかし何も出来る事は戦争への直接介入だけではありませんぞ! 例えば列国同盟の中で真っ先に侵攻を受けたユッマランドへ我が国の魔戦車部隊を派遣し、そこでユッマランドの魔ローダーと合同軍事演習を実行するのはどうでしょうかな? メドース・リガリァ国境寸前で合同軍事演習を行う事で、我が同盟はユッマランドを見捨てる事は決して無い、同盟の結束は強固だと敵にはっきりと示すのです」
「なんですって!?」

 フルエレが件の重臣をヴェールの中でキッと睨む。

「さらにその合同軍事演習には、不死身のアルベルト殿に是非に直々に指揮を執って頂きたいと思っております。我が国新ニナルティナの有力者であるアルベルト殿が参陣すれば、ユッマランドも心強い事この上無いでしょうな」

 重臣は不敵な笑みを浮かべた。

(コイツ……わざわざアルベルトさんが挨拶までしてやってるのに……またそんな事を!!)
「ちょっと待ちなさい! 何を勝手な事を言っているのかしら? そんな敵の鼻先で合同軍事演習なんて開始したら、それこそ敵を挑発して戦争の呼び水にも成りかねないわ! 私は合同軍事演習とやらにも絶対に反対します!!」

 フルエレは必死に反論した。

「挑発ですと……? ほほう……では北部海峡列国同盟締結式にメドース・リガリァのテロ攻撃を受けた事は挑発では無いのですかな? そもそもユッマランドは侵略の被害を受けたのですぞ! それをこちらが挑発するとは片腹痛い言い様ですな。いや、表現は女王に失礼した」

 正論だった。

「くっ……いいえ! 締結式に現れたのは正体不明の破壊工作員であって、メドース・リガリァかどうかは不明なはずです! 捕虜の子供もまだ一向に口を割りません! 軽々に敵を定めて、間違いであったらどうするのですか??」

「間違いであったらどうするのですかと……なにやら女王のご発言を聞いておりますと、敵がメドース・リガリァであったら都合が悪い様ですな。なにかと敵を擁護しているような。我々軍人はあらゆる事態に対処するのが常識でして、敵はメドース・リガリァ、それがいつ侵攻して来ても対処出来る様にとするのが適切だと信じております。ましてや我が新ニナルティナに同盟女王がいらっしゃれば、我が国が率先して同盟加盟国を守る姿勢を示さなくてどうなさるのですか? でなければ早々に同盟は瓦解されますぞ」
「うるさいわよ!!」

 バーーーーーン!!!
重臣の巧みな正論に圧倒されたフルエレは、あろう事か机を思い切り叩いて声を荒げた。この時点で女王は少しヒステリックな所があると、皆に完全にバレてしまった。

「えー、コホン。女王に意見する時は最大限敬え、ライスよ言葉が過ぎるぞ」
「はは、これは申し訳ありませぬ。女王陛下に深くお詫びします」

 重臣は慇懃に深々と頭を下げた。

「どうだアルベルト、君が最終的に決定すれば良いんじゃないか、意見を言いたまえ」

 レナードとしてはアルベルトはフルエレの意見に沿うと思ったから、丸く収めるつもりでアルベルトに振ったのだった。フルエレも瞬時にそう理解した。彼女は目を輝かせてアルベルトを見た。

(ありがとうレナードさん! これでアルベルトさんが私の意見を採用してくれれば……)

「僕としては……決して女王陛下に逆らうつもりは毛頭無いのだけど、論としてはライス殿の主張の方が今は適切だと思います。女王陛下の仰る様に決してメドース・リガリァを刺激して、無用な戦争を開始する事は良くないです、それは重々承知して行動します。しかしユッマランドと合同軍事演習を行う事は、それだけで戦争抑止に繋がると私は思うのです」
「どうして!?」

 フルエレは愕然とした。普段優しいアルベルトさんなら我が意に沿う発言をしてくれると思ったのに、正論かどうかよりも、アルベルトさんが重臣側に沿う主張をした事が悲しかった。

「うっうっうっ……どうして私の言う事を聞いてくれないの!?」
「ど、どうしたんだね? 大丈夫かい?」

 うろたえたアルベルトが必死にフルエレをなだめる。威厳あるはずの同盟女王が重要な会議の場で突然明らかに泣き始めたのだ。会議場は異様な空気に包まれた。ヒステリックになったり泣き始めたり、フルエレの女王適正を皆が疑ったが、脅しの件もあり誰も何も言わない。

「女王のご体調は如何なのですかな?」
「女王は激務の為に体調が優れぬのだ! この場は閉会とする! 議論は先に持ち越す!!」

 レナードが慌ててお開きにした。

「ははっ!!」

 皆は何事も無かったかの様に、席から立ち上がり頭を下げた。


 閉会後、皆が帰りガランとした会議場に、フルエレとレナード公とアルベルトの三人だけが残った。

「どうしたんだい? いつものフルエレくんらしくも無い」
「いつもの私って何ですか? どうしてアルベルトさんは意見を聞いてくれなかったの?」
「それは……あちらの方が正しいと思ったから……」
「ま! 落ち着けお二人さん! ユッマランドの壊れた魔ローダーが治ったかどうかすら分らん内に、二人が揉める話でも無いだろう! 派手に壊れたらしいし、今度使いの者を送ろう! 話はそれからだ! そうだアルベルト、お前腕でも折れ! 俺が折ってやろうか?」

 レナード公が二人の関係が壊れない様に、必死に笑いで誤魔化した。いいヤツだった。しかしフルエレとアルベルトは黙ったままだった……
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