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千秋 琉星
陽向の推理
しおりを挟む陽向の指先は、琉星くんの頭を指していた。
端正な顔立ちによく似合う、オシャレな髪型だ。スポーツマンにしてはやや前髪が長めだろうか。その格好いい髪を指し、陽向は言った。
「お前、シャンプーの後、絶対トリートメントしてるだろ!」
「……はあ?」
琉星くんは長めの前髪からチラリと見え隠れする眉を顰めた。
「キスされる前、すごくいい匂いがしたから、一瞬女子の髪の匂いかと思った。でも、ひょっとしたらと思ったんだ。もしも犯人が俺たちバスケ部員の中にいたんだとしたら……? それは、部員の中で誰よりも身だしなみに気を使っている、お前だ!」
……私は呆れてものが言えなかった。
琉星くんも呆れたのか、深いため息をつく。
「いい匂いがしたからって何だ。髪の手入れくらい、誰だってしてるだろ」
「いや、そんなことはない。俺なんか、シャンプーとリンスを一回で済ませられるリンスインシャンプーしか使ったことないぞ! 男はそれが普通なんだよ! でも、前に琉星んちに泊まりに行った時、風呂場にシャンプーとコンディショナーとトリートメントが別々にあったの思い出してさ。あの時めちゃくちゃ戸惑ったんだからな? これ全部使うの……? どうやんの? って、わけがわかんなくて、風呂場から助けを呼ぼうとしたんだぞ」
「アホか。お前んちがリンスインだかなんだか知らねーけど、お前んちの洗髪事情を基準に考えるな」
そういえば、陽向のお母さんは「安いから」という理由でスーパーのプライベートブランドのリンスインシャンプーをまとめ買いしているって、うちのお母さんと話していたような気がする。男子はシャンプーのメーカーも適当でいいから助かるわ、とかなんとか。
多分陽向はお母さんに「男の子ならそれが普通よ」と洗脳されているんだと思う……。
「ったく。そんな理由で俺を犯人扱いすんじゃねーよ。お前にキスしたいと思ったことなんて一度もねえわ」
琉星くんは迷惑そうな顔をした。すると。
「分かってるよ。でもさ──事故だったとしたらどうだ?」
陽向が急に賢そうなことを言ったので、私はちょっとびっくりした。
「事故?」
「そうだ。お前は俺にキスする理由も願望もなかった。でも、昨日のお前は何だか集中力がなかった。うっかり何かにつまずいて、着地しようとしたベンチに俺が寝ていたとしたら?」
あっ! と声が出そうになった。
事故か。
それは考えていなかった。
事故だとしたら、男同士でキスもあり得るか。
やるじゃん、陽向!
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