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3.聖霊神殿へ
トラウマとの対峙
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この「シュロス城」は、不思議と不死系の怪物を引き寄せる。
しかし集まって来る生ける屍はどれも低位でレベルも低く、だからこそギルドはここを買い取り管理し、新人冒険者たちの登竜門として開放して来たのだ。
だがだからと言ってここは、安全かと言われればそんなことは無い。
ここに挑む新人の何割かは命を落とすし、必ずしも弱い魔物ばかりが集まって来ると言う訳でもない。
……中でも。
「おおぉいっ! 連れて来たぞぉっ!」
俺が城の最奥やら隠し部屋で見つけた怪物を、クリークたちの元へと連れて帰って来た。
その怪物とは……言うまでもなく「吸血動物種」、その下位種である「襲い来るもの」だ。
最初にこの城へと訪れたクリークたちは、この怪物の出現に恐れ慄き、その結果イルマの命が危うく失われる羽目に陥った。
何とかその最悪は回避出来た訳だけど、そのせいでしばらくの間、このブラッドサッカーに対してこいつらは苦手意識があったようだった。
それも何とか克服し、彼らの話ではこの「レイドハンド」も倒した……って話だけど、俺はこの目でその戦いぶりを見るまで信じられなかったんだ。こいつ等には、一度うまい具合に出し抜かれてるからな。
「な……何やってるんだよ、あんたはぁっ!?」
「ちょ……何考えてるのよ、あんたっ!?」
そんな俺の姿を見たクリークとソルシエが、顔を青くして叫び出していた。
まぁ……それもそうかも知れないなぁ。
なんせ俺が連れて来た「レイドハンド」は、2匹いたんだからな。
1体でも苦戦した記憶があるんだ。2体ともなれば、クリークとソルシエが批難するのも分からない話じゃあ無い。
「お前ら、もうこの魔物を1度倒してるんだろ? だったらお前らのレベルも考えれば、1体が2体でも大した事ないだろ」
そんな彼らに、俺は事も無げにそう伝えたんだが。
「せ……先生っ! 受けてますっ! 攻撃、受けてますっ!」
「先生っ! 分かりましたから、とりあえず回避か防御をして下さいっ!」
クリークたちと話をする俺に向けて、彼等よりも更に顔を蒼白にしたイルマとダレンが殆ど悲鳴に近い言葉を投げ掛けてくる。
ああ……そういう事か。
さっきから俺の連れて来た2匹のレイドハンドが、俺に向けて様々な攻撃を仕掛けていたんだ。
鋭い爪で切り付け、特異な伸びる下で突き刺し、凶悪な牙で噛みつこうとしていた。それを俺は、全くの無防備で全て受けきっていたんだ。
彼女達が叫び声を上げるのもまぁ、仕方のない事かも知れない。
しかし、案ずる事は何一つない。
なんせ、今の俺とここの魔物どもじゃあレベルが違い過ぎるからな。
こいつ等の攻撃で俺がダメージを負う事なんてまず……無い。
「んん? ああ、俺の事は気にしなくても……いてっ!」
とは言え、時にはチクリと刺されたような攻撃を受ける事もある。所謂「痛恨の一撃」ってやつだ。
それでも俺にとってそれは、虫に刺された程度の弱いものだったんだが。
「せ……先生っ!?」
「くそっ! 行くぞ、ダレンッ!」
俺の発した「痛い」と言う言葉に真っ先に反応したのは、何とソルシエだった。
そしてそれに続いて、クリークが形相を変えて飛び出してくる。
「ちょ、お前ら。まずは陣形を整えてだな……」
今のところブラッドサッカー共は、俺を攻撃対象と見定めている。
多少クリークたちが騒いでも、全く気にした様子はない。
それでも。
「ギッキュ―――ッ!」
攻撃を受ければ、その限りじゃあない。
俺の制止の声を全て聞き終わる前に、クリークは1匹のレイドハンドへと斬りかかっていたんだ!
「ちょっと、あんたっ! 早く退避しないさいなっ!」
クリークへと援護射撃を仕掛けながら、ソルシエが俺へ向けて叫ぶ。
気のせいかその声音には、どこか切羽詰まったものが感じられた。
しかもそれは、この2人だけじゃあなかった。
「先生っ! 早く私たちの後ろへっ!」
「先生っ! 早くっ!」
血相を変えて駆けて来たイルマに手を引かれて後方へと押しやられ、代わりに前衛へと走り出したダレンも焦りを浮かべていた。
そんな4人の姿は、さっきまでどこか縮こまっていた姿なって微塵も感じさせないものだった。
うん……。逞しい姿……なんだけどな。
何だかさっきの俺って、どこか「庇われていた」様に感じるんだが……気のせいか?
未だにレベル1つとっても、俺はクリークたちよりも遥かに高い。
戦闘経験はいうに及ばず、技や駆け引きも圧倒的に俺の方が上だ。
それでもさっきみたいに、若者に庇護されるとなんか……年を感じるじゃないか!
いやまぁ、きっと彼らは俺の身を案じてくれたんだろうけどね。
なんだかんだと言っていても、それだけ慕ってくれてるって証拠なんだから、ここは微笑ましく見守るのが良いんだが……何だか釈然としない。
そんな俺の考えはさておき、クリークたちの戦闘が開始されたんだ。
俺にとってはどうって事のない怪物でも、今のクリークたちにとっては難敵だ。
個々のレベルで言えば、それぞれ僅かに上回っている。
そして彼等4人が力を合わせて敵に向かう「パーティレベル」は、レイドハンド1体よりも大きく優っているだろう。
しかし敵が2体となれば、その力関係も変わって来るんだ。
「こ……んちくっしょうっ!」
「クリーク、無理しないでっ! イルマッ!」
「はいっ!」
「だああぁぁっ!」
俺に纏わりついていたブラッドサッカー共は、今やクリークたちを敵とみなして襲い掛かっていた。
そしてクリークたちも、体勢を立て直して立ち向かっていた。
後方から冷静に見て、クリークたちの戦術は未熟ながらも理に適っている。
盾を持つクリークがレイドハンド1体を相手取り引き付け、その間にダレンとソルシエでもう1体を倒す、所謂「各個撃破」だ。
クリーク1人だけでこのレイドハンドと相対しても、少しの間なら持ち堪える事が出来るだろう。
その間に残りの3人がもう1体を倒す事が出来れば、この作戦も成功したと言える……んだが。
今の彼らの技量では、流石に「希少種」でもある「ブラッドサッカーのレイドハンド」を2体同時に相手するには、少し早過ぎたかも知れない。
戦闘が始まって直後、4人の立ち回りを遠巻きに眺めて俺はそんな考えを浮かべていた。
ただまぁ、これも少し早計だったかも知れないな・
……いや、ただの過保護かぁ?
「こおおっ!」
ダレン渾身の痛打がレイドハンドの腹部にさく裂し、中空に浮いた怪物の身体がくの字に折れ曲がる。
のっぺりとした顔面でその面容は伺い知れないが、恐らくは苦悶の表情を浮かべているに違いない。
「我が前に立ち塞がる敵を駆逐せよ! ……氷柱魔法!」
そして宙に浮いた状態で動きの取れないレイドハンドに対して、ソルシエが冷静に魔法を仕掛けたんだ。
これ以上ないと言うタイミングで、今彼女が行使出来る中でも強力な魔法を使用した。
「グギョッ!?」
放たれた無数の氷弾は、狙い違わずにレイドハンドに突き刺さる!
声ではない声を上げて、そのまま床に投げ出されたレイドハンドはピクリとも反応しなかった。どうやら、的確に急所を突いたみたいだ。
ソルシエの魔法の攻撃力も大したものだけど、これはダレンのファインプレイだな。
動きの取れない空中に浮かす攻撃を仕掛けた事で、ソルシエの攻撃の命中率が格段に上がったんだ。
「ダレン! すぐにクリークに援護を! ……イルマ?」
「……はい!」
でも成長したと感じるのは、その後の行動を見ての事だった。
自分の魔法で敵を仕留めたってのに、それにソルシエが関心を抱いている様子はない。
以前だったらまだ戦っているクリークなんて放っておいて、敵を倒したことを自慢していただろう。
しかし今はどうだ? すぐにダレンへの指示、そしてイルマへの確認と、しっかり司令塔の役目を果たしているじゃないか。
魔法使いである彼女には、以前パーティへの指示役を課したんだが、今はちゃんとそれを意識した振る舞いが出来ている。
そんな俺の目の前で、クリークたちは残る1体の駆逐に取り掛かったんだ。
しかし集まって来る生ける屍はどれも低位でレベルも低く、だからこそギルドはここを買い取り管理し、新人冒険者たちの登竜門として開放して来たのだ。
だがだからと言ってここは、安全かと言われればそんなことは無い。
ここに挑む新人の何割かは命を落とすし、必ずしも弱い魔物ばかりが集まって来ると言う訳でもない。
……中でも。
「おおぉいっ! 連れて来たぞぉっ!」
俺が城の最奥やら隠し部屋で見つけた怪物を、クリークたちの元へと連れて帰って来た。
その怪物とは……言うまでもなく「吸血動物種」、その下位種である「襲い来るもの」だ。
最初にこの城へと訪れたクリークたちは、この怪物の出現に恐れ慄き、その結果イルマの命が危うく失われる羽目に陥った。
何とかその最悪は回避出来た訳だけど、そのせいでしばらくの間、このブラッドサッカーに対してこいつらは苦手意識があったようだった。
それも何とか克服し、彼らの話ではこの「レイドハンド」も倒した……って話だけど、俺はこの目でその戦いぶりを見るまで信じられなかったんだ。こいつ等には、一度うまい具合に出し抜かれてるからな。
「な……何やってるんだよ、あんたはぁっ!?」
「ちょ……何考えてるのよ、あんたっ!?」
そんな俺の姿を見たクリークとソルシエが、顔を青くして叫び出していた。
まぁ……それもそうかも知れないなぁ。
なんせ俺が連れて来た「レイドハンド」は、2匹いたんだからな。
1体でも苦戦した記憶があるんだ。2体ともなれば、クリークとソルシエが批難するのも分からない話じゃあ無い。
「お前ら、もうこの魔物を1度倒してるんだろ? だったらお前らのレベルも考えれば、1体が2体でも大した事ないだろ」
そんな彼らに、俺は事も無げにそう伝えたんだが。
「せ……先生っ! 受けてますっ! 攻撃、受けてますっ!」
「先生っ! 分かりましたから、とりあえず回避か防御をして下さいっ!」
クリークたちと話をする俺に向けて、彼等よりも更に顔を蒼白にしたイルマとダレンが殆ど悲鳴に近い言葉を投げ掛けてくる。
ああ……そういう事か。
さっきから俺の連れて来た2匹のレイドハンドが、俺に向けて様々な攻撃を仕掛けていたんだ。
鋭い爪で切り付け、特異な伸びる下で突き刺し、凶悪な牙で噛みつこうとしていた。それを俺は、全くの無防備で全て受けきっていたんだ。
彼女達が叫び声を上げるのもまぁ、仕方のない事かも知れない。
しかし、案ずる事は何一つない。
なんせ、今の俺とここの魔物どもじゃあレベルが違い過ぎるからな。
こいつ等の攻撃で俺がダメージを負う事なんてまず……無い。
「んん? ああ、俺の事は気にしなくても……いてっ!」
とは言え、時にはチクリと刺されたような攻撃を受ける事もある。所謂「痛恨の一撃」ってやつだ。
それでも俺にとってそれは、虫に刺された程度の弱いものだったんだが。
「せ……先生っ!?」
「くそっ! 行くぞ、ダレンッ!」
俺の発した「痛い」と言う言葉に真っ先に反応したのは、何とソルシエだった。
そしてそれに続いて、クリークが形相を変えて飛び出してくる。
「ちょ、お前ら。まずは陣形を整えてだな……」
今のところブラッドサッカー共は、俺を攻撃対象と見定めている。
多少クリークたちが騒いでも、全く気にした様子はない。
それでも。
「ギッキュ―――ッ!」
攻撃を受ければ、その限りじゃあない。
俺の制止の声を全て聞き終わる前に、クリークは1匹のレイドハンドへと斬りかかっていたんだ!
「ちょっと、あんたっ! 早く退避しないさいなっ!」
クリークへと援護射撃を仕掛けながら、ソルシエが俺へ向けて叫ぶ。
気のせいかその声音には、どこか切羽詰まったものが感じられた。
しかもそれは、この2人だけじゃあなかった。
「先生っ! 早く私たちの後ろへっ!」
「先生っ! 早くっ!」
血相を変えて駆けて来たイルマに手を引かれて後方へと押しやられ、代わりに前衛へと走り出したダレンも焦りを浮かべていた。
そんな4人の姿は、さっきまでどこか縮こまっていた姿なって微塵も感じさせないものだった。
うん……。逞しい姿……なんだけどな。
何だかさっきの俺って、どこか「庇われていた」様に感じるんだが……気のせいか?
未だにレベル1つとっても、俺はクリークたちよりも遥かに高い。
戦闘経験はいうに及ばず、技や駆け引きも圧倒的に俺の方が上だ。
それでもさっきみたいに、若者に庇護されるとなんか……年を感じるじゃないか!
いやまぁ、きっと彼らは俺の身を案じてくれたんだろうけどね。
なんだかんだと言っていても、それだけ慕ってくれてるって証拠なんだから、ここは微笑ましく見守るのが良いんだが……何だか釈然としない。
そんな俺の考えはさておき、クリークたちの戦闘が開始されたんだ。
俺にとってはどうって事のない怪物でも、今のクリークたちにとっては難敵だ。
個々のレベルで言えば、それぞれ僅かに上回っている。
そして彼等4人が力を合わせて敵に向かう「パーティレベル」は、レイドハンド1体よりも大きく優っているだろう。
しかし敵が2体となれば、その力関係も変わって来るんだ。
「こ……んちくっしょうっ!」
「クリーク、無理しないでっ! イルマッ!」
「はいっ!」
「だああぁぁっ!」
俺に纏わりついていたブラッドサッカー共は、今やクリークたちを敵とみなして襲い掛かっていた。
そしてクリークたちも、体勢を立て直して立ち向かっていた。
後方から冷静に見て、クリークたちの戦術は未熟ながらも理に適っている。
盾を持つクリークがレイドハンド1体を相手取り引き付け、その間にダレンとソルシエでもう1体を倒す、所謂「各個撃破」だ。
クリーク1人だけでこのレイドハンドと相対しても、少しの間なら持ち堪える事が出来るだろう。
その間に残りの3人がもう1体を倒す事が出来れば、この作戦も成功したと言える……んだが。
今の彼らの技量では、流石に「希少種」でもある「ブラッドサッカーのレイドハンド」を2体同時に相手するには、少し早過ぎたかも知れない。
戦闘が始まって直後、4人の立ち回りを遠巻きに眺めて俺はそんな考えを浮かべていた。
ただまぁ、これも少し早計だったかも知れないな・
……いや、ただの過保護かぁ?
「こおおっ!」
ダレン渾身の痛打がレイドハンドの腹部にさく裂し、中空に浮いた怪物の身体がくの字に折れ曲がる。
のっぺりとした顔面でその面容は伺い知れないが、恐らくは苦悶の表情を浮かべているに違いない。
「我が前に立ち塞がる敵を駆逐せよ! ……氷柱魔法!」
そして宙に浮いた状態で動きの取れないレイドハンドに対して、ソルシエが冷静に魔法を仕掛けたんだ。
これ以上ないと言うタイミングで、今彼女が行使出来る中でも強力な魔法を使用した。
「グギョッ!?」
放たれた無数の氷弾は、狙い違わずにレイドハンドに突き刺さる!
声ではない声を上げて、そのまま床に投げ出されたレイドハンドはピクリとも反応しなかった。どうやら、的確に急所を突いたみたいだ。
ソルシエの魔法の攻撃力も大したものだけど、これはダレンのファインプレイだな。
動きの取れない空中に浮かす攻撃を仕掛けた事で、ソルシエの攻撃の命中率が格段に上がったんだ。
「ダレン! すぐにクリークに援護を! ……イルマ?」
「……はい!」
でも成長したと感じるのは、その後の行動を見ての事だった。
自分の魔法で敵を仕留めたってのに、それにソルシエが関心を抱いている様子はない。
以前だったらまだ戦っているクリークなんて放っておいて、敵を倒したことを自慢していただろう。
しかし今はどうだ? すぐにダレンへの指示、そしてイルマへの確認と、しっかり司令塔の役目を果たしているじゃないか。
魔法使いである彼女には、以前パーティへの指示役を課したんだが、今はちゃんとそれを意識した振る舞いが出来ている。
そんな俺の目の前で、クリークたちは残る1体の駆逐に取り掛かったんだ。
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