23 / 71
3.聖霊神殿へ
成長の証跡
しおりを挟む
共闘して「襲い来るもの」を撃退したソルシエとダレンは、すぐさまたった1人でもう1匹と戦っていたクリークの加勢に向かった。
って言っても、本当に1人きりでレイドハンドを食い止めていた訳じゃあ無いけどな。
如何にクリークのレベルが以前よりも上がったとはいえ、まだまだ奴1人ではレイドハンドを単独で相手取るには荷が勝ちすぎる。
実際は、ソルシエよりも更に広範囲の注意を払っていたイルマが的確にクリークのフォローをしていたんだ。
レイドハンドの意識が向かない遠方より、的確に最低限の回復魔法や防御魔法を繰り出していた。
この辺りに「パーティ・コントロール」の技術は、やはりイルマが一番上達している。
そしてそのお陰でやられずに済んだクリークは、無事にダレンたちの援護を得る事が出来ていたんだ。
「クリークッ、一旦下がりなさいっ! ダレンッ、下がったクリークの代わりに前衛っ!」
「おうよっ!」
「は……はいっ!」
ソルシエの指示に、クリークとダレンが応じて前衛を入れ替わる。
大きなダメージを負ってはいないが、1人で敵を引き付けていた疲労は大きなものだろう。
ここでダレンと入れ替わるのは、指示としては妥当なものだな。
「大いなる神の恩寵により、漲る力を呼び起こしたまえ。……体力向上」
そして肩で息をしているクリークに駆け寄ったイルマは、すぐさま彼に魔法を掛けた。それは、治癒ではなく体力回復の魔法だ。
戦闘を継続させる上で最も重要なのは、戦い続ける体力を持続させる事かも知れない。
どれほど傷を癒しても、剣を振るう力を失ってしまっては戦えないからな。イルマはそれを良く分かっている。
「サンキューッ! イルマッ!」
イルマの回復魔法を受けて、クリークはすぐにも前線復帰を果たし……はしなかった。
イルマやソルシエの前に踊り出してはいるが、問答無用で敵に切り掛かるような馬鹿な真似は流石に自重したみたいだな。
今レイドハンドの正面に立ち塞がり戦っているのは、クリークではなくダレンだ。
ここでクリークが乱入しては、戦闘が混乱してしまう。
クリークもまた、いくつかの戦いを経てそれが分かっているみたいだった。
「ダレンッ! クリークッ!」
そしてタイミングを見計らって、ソルシエが2人の名を呼んだ。それに2人は無言で応じ動きを見せる。
随分とパーティとして機能してきているんだろう、細かい指示を省いても2人には何をどうするか理解出来ている様だった。
……まぁ、いつでもどんな場合でもって訳にはいかないだろうけどな。
「我が前に在る敵を貫け! 土魔法」
2人が攻守交代を行うに合わせて、ソルシエがレイドハンドに向けて魔法を放った。
今回彼女が使った土魔法は、小さな石で鋭利なネイルを作り出し敵に浴びせかけるものだ。
だがそれは、先ほどの「氷柱魔法」に比べれば威力も数量も遥かに及ばない。
当然と言おうか、ソルシエの攻撃魔法はレイドハンドには大したダメージを与えていないようだった。
しかしこれは……言うまでもなく牽制だ。
「とりゃああぁっ!」
「ギシャアッ!?」
入れ替わりの隙をつかれない様にソルシエが魔法で牽制し、そして交代したクリークがレイドハンドへと斬り掛かる。
少し大振りで隙が多い感があるが、それもさっきの「土魔法」により敵に突かれると言う事も無かった。
クリーク渾身の一撃は、見事にレイドハンドの左腕を切り落とす事に成功する。
もっとも、これで勝負ありと言う訳でもない。
体力で言えば怪物の方が高く、腕の1本や足の1本を斬られた程度では怯まないだろう。
実際レイドハンドも、まだまだ闘争心は萎えていないのが分かった。
「せぇいっ!」
「ゴボォッ!」
それは彼らも十分に把握している事だったんだろう。
クリークが片腕を切り落としたレイドハンド目がけて、その陰から踊るように飛び出したダレンが渾身の一撃を怪物に食らわせる!
完全に不意を突かれたレイドハンドは、たたらを踏んで後退し大きな隙を晒す事になった!
更に入れ替わるように、クリークが追撃を掛ける!
これで相手が人間なら、確実に相手の戦闘力を奪える状況だったろう。
敵は体勢を崩しているんだし、こちらの連携は流れる様にスムーズだったんだしな。
「防げ、御盾よ! 神の加護をこの場に顕現し給え! 聖銅の御盾!」
そこにイルマが淀みなく紡ぐ詠唱が響き、それと同時に魔法で出現させた防壁に物質が接触する独特の異音が周囲に響き渡った!
体勢を大きく崩されながらも、レイドハンドはその伸縮自在の舌でダレンに攻撃を仕掛けていた!
それに先んじてイルマは、魔法の盾を作り出して怪物の最後の足掻きを防いで見せたんだ!
恐らくだがこのメンバーの中で最も集中しレイドハンドを侮っていないのは、きっとこのイルマだろうな。
怪物の特徴も良く調べているし、そうでなければ最後の攻撃を防ぐなんて出来なかったかも知れないな。
「……へぇ」
レイドハンドの不意を突いた攻撃にも狙われたダレンは勿論、攻撃態勢に移っていたクリークさえ驚き動きを鈍らせるようなことは無かった。
それどころか、まるでイルマがこの怪物の一撃を防いでくれると疑っていないかのような行動だったんだ。
これには俺も、思わず関心の声を漏らしていた。
余程の信頼関係でも無ければこんな事は出来ないし、相手を完全に信じるなんて一朝一夕で出来るわけ無いからな。
そしてその結果が、戦いの終結へと直結していた。
レイドハンドの最後の一撃に気を取られなかったクリークは、そのまま流れる様に攻撃態勢に入っており。
「はぁっ!」
「ほぅ……」
横に一閃、怪物の喉元を薙ぐと、返す刀でそのまま胸に剣を突き刺したんだ。
……クリークの奴、やるじゃないか。二連撃とはな。
彼の見せた剣閃は、スキルで得た攻撃方法じゃない。自分で試行錯誤して編み出した技なんだろうな。
技術はまだまだ未熟で、首への攻撃も浅く切りつけただけでそれだけでは致命傷に至っていない。胸への刺突攻撃も、完全に急所を捉えているとは言い難かった。
でもどうやらそれでレイドハンドは生命活動を停止したようで、その場でグシャリと崩れ落ちてピクリとも動かなくなったんだ。これで勝負ありだな。
しばらく警戒を解かなかったクリークたちだが、怪物が動く素振りを見せない事を確認してフッと力を抜き臨戦態勢を解いた。
「……っしゃぁっ!」
「やりましたね!」
「ふっふぅんっ! どんなもんよっ!」
クリークが雄たけびを上げ、ダレンがそれに喜びの声で応え、ソルシエが誰に向けてか勝ち誇ったような威勢の良い台詞を吐いていた。
まぁ、それも分からない話じゃあ無いな。
この戦闘は、満足に浸るだけの戦いではあったんだから。
「……先生。……どうでしたか?」
そんな中で、イルマはおずおずと俺に近づいて来るとそう問うて来た。
「……ああ。最後まで、見事な戦闘だったよ」
俺がそう答えた事で初めて、彼女は満面の笑みを浮かべて頷き返して来たんだ。
最後までってのは、イルマが俺に声を掛けてくるまでの間を指している事が彼女にも分かったんだろう。
彼女はクリークたちが戦闘態勢を解いた後も警戒を怠らず、暫くは周囲の警戒に徹していた。
怪物どもは、どこで息をひそめて隠れているか分かったもんじゃあ無いからな。
今現在戦っている魔物だけが危険じゃあない。
もしかすると他の魔物も参戦してくるかも知れないし、倒したと思った怪物も死んだふりをしているだけかも知れない。
いつまでも全員で警戒する必要はないが、誰かが慎重であっても良い。
イルマはそれをよく心得ており、だから俺はそこまで賞賛してやったんだ。
まだまだ未熟な部分は当然あるだろうけど、これなら先に進んでも問題ない。
集まって来るクリークたちを見ながら、俺は合格を言い渡そうと決定していた。
って言っても、本当に1人きりでレイドハンドを食い止めていた訳じゃあ無いけどな。
如何にクリークのレベルが以前よりも上がったとはいえ、まだまだ奴1人ではレイドハンドを単独で相手取るには荷が勝ちすぎる。
実際は、ソルシエよりも更に広範囲の注意を払っていたイルマが的確にクリークのフォローをしていたんだ。
レイドハンドの意識が向かない遠方より、的確に最低限の回復魔法や防御魔法を繰り出していた。
この辺りに「パーティ・コントロール」の技術は、やはりイルマが一番上達している。
そしてそのお陰でやられずに済んだクリークは、無事にダレンたちの援護を得る事が出来ていたんだ。
「クリークッ、一旦下がりなさいっ! ダレンッ、下がったクリークの代わりに前衛っ!」
「おうよっ!」
「は……はいっ!」
ソルシエの指示に、クリークとダレンが応じて前衛を入れ替わる。
大きなダメージを負ってはいないが、1人で敵を引き付けていた疲労は大きなものだろう。
ここでダレンと入れ替わるのは、指示としては妥当なものだな。
「大いなる神の恩寵により、漲る力を呼び起こしたまえ。……体力向上」
そして肩で息をしているクリークに駆け寄ったイルマは、すぐさま彼に魔法を掛けた。それは、治癒ではなく体力回復の魔法だ。
戦闘を継続させる上で最も重要なのは、戦い続ける体力を持続させる事かも知れない。
どれほど傷を癒しても、剣を振るう力を失ってしまっては戦えないからな。イルマはそれを良く分かっている。
「サンキューッ! イルマッ!」
イルマの回復魔法を受けて、クリークはすぐにも前線復帰を果たし……はしなかった。
イルマやソルシエの前に踊り出してはいるが、問答無用で敵に切り掛かるような馬鹿な真似は流石に自重したみたいだな。
今レイドハンドの正面に立ち塞がり戦っているのは、クリークではなくダレンだ。
ここでクリークが乱入しては、戦闘が混乱してしまう。
クリークもまた、いくつかの戦いを経てそれが分かっているみたいだった。
「ダレンッ! クリークッ!」
そしてタイミングを見計らって、ソルシエが2人の名を呼んだ。それに2人は無言で応じ動きを見せる。
随分とパーティとして機能してきているんだろう、細かい指示を省いても2人には何をどうするか理解出来ている様だった。
……まぁ、いつでもどんな場合でもって訳にはいかないだろうけどな。
「我が前に在る敵を貫け! 土魔法」
2人が攻守交代を行うに合わせて、ソルシエがレイドハンドに向けて魔法を放った。
今回彼女が使った土魔法は、小さな石で鋭利なネイルを作り出し敵に浴びせかけるものだ。
だがそれは、先ほどの「氷柱魔法」に比べれば威力も数量も遥かに及ばない。
当然と言おうか、ソルシエの攻撃魔法はレイドハンドには大したダメージを与えていないようだった。
しかしこれは……言うまでもなく牽制だ。
「とりゃああぁっ!」
「ギシャアッ!?」
入れ替わりの隙をつかれない様にソルシエが魔法で牽制し、そして交代したクリークがレイドハンドへと斬り掛かる。
少し大振りで隙が多い感があるが、それもさっきの「土魔法」により敵に突かれると言う事も無かった。
クリーク渾身の一撃は、見事にレイドハンドの左腕を切り落とす事に成功する。
もっとも、これで勝負ありと言う訳でもない。
体力で言えば怪物の方が高く、腕の1本や足の1本を斬られた程度では怯まないだろう。
実際レイドハンドも、まだまだ闘争心は萎えていないのが分かった。
「せぇいっ!」
「ゴボォッ!」
それは彼らも十分に把握している事だったんだろう。
クリークが片腕を切り落としたレイドハンド目がけて、その陰から踊るように飛び出したダレンが渾身の一撃を怪物に食らわせる!
完全に不意を突かれたレイドハンドは、たたらを踏んで後退し大きな隙を晒す事になった!
更に入れ替わるように、クリークが追撃を掛ける!
これで相手が人間なら、確実に相手の戦闘力を奪える状況だったろう。
敵は体勢を崩しているんだし、こちらの連携は流れる様にスムーズだったんだしな。
「防げ、御盾よ! 神の加護をこの場に顕現し給え! 聖銅の御盾!」
そこにイルマが淀みなく紡ぐ詠唱が響き、それと同時に魔法で出現させた防壁に物質が接触する独特の異音が周囲に響き渡った!
体勢を大きく崩されながらも、レイドハンドはその伸縮自在の舌でダレンに攻撃を仕掛けていた!
それに先んじてイルマは、魔法の盾を作り出して怪物の最後の足掻きを防いで見せたんだ!
恐らくだがこのメンバーの中で最も集中しレイドハンドを侮っていないのは、きっとこのイルマだろうな。
怪物の特徴も良く調べているし、そうでなければ最後の攻撃を防ぐなんて出来なかったかも知れないな。
「……へぇ」
レイドハンドの不意を突いた攻撃にも狙われたダレンは勿論、攻撃態勢に移っていたクリークさえ驚き動きを鈍らせるようなことは無かった。
それどころか、まるでイルマがこの怪物の一撃を防いでくれると疑っていないかのような行動だったんだ。
これには俺も、思わず関心の声を漏らしていた。
余程の信頼関係でも無ければこんな事は出来ないし、相手を完全に信じるなんて一朝一夕で出来るわけ無いからな。
そしてその結果が、戦いの終結へと直結していた。
レイドハンドの最後の一撃に気を取られなかったクリークは、そのまま流れる様に攻撃態勢に入っており。
「はぁっ!」
「ほぅ……」
横に一閃、怪物の喉元を薙ぐと、返す刀でそのまま胸に剣を突き刺したんだ。
……クリークの奴、やるじゃないか。二連撃とはな。
彼の見せた剣閃は、スキルで得た攻撃方法じゃない。自分で試行錯誤して編み出した技なんだろうな。
技術はまだまだ未熟で、首への攻撃も浅く切りつけただけでそれだけでは致命傷に至っていない。胸への刺突攻撃も、完全に急所を捉えているとは言い難かった。
でもどうやらそれでレイドハンドは生命活動を停止したようで、その場でグシャリと崩れ落ちてピクリとも動かなくなったんだ。これで勝負ありだな。
しばらく警戒を解かなかったクリークたちだが、怪物が動く素振りを見せない事を確認してフッと力を抜き臨戦態勢を解いた。
「……っしゃぁっ!」
「やりましたね!」
「ふっふぅんっ! どんなもんよっ!」
クリークが雄たけびを上げ、ダレンがそれに喜びの声で応え、ソルシエが誰に向けてか勝ち誇ったような威勢の良い台詞を吐いていた。
まぁ、それも分からない話じゃあ無いな。
この戦闘は、満足に浸るだけの戦いではあったんだから。
「……先生。……どうでしたか?」
そんな中で、イルマはおずおずと俺に近づいて来るとそう問うて来た。
「……ああ。最後まで、見事な戦闘だったよ」
俺がそう答えた事で初めて、彼女は満面の笑みを浮かべて頷き返して来たんだ。
最後までってのは、イルマが俺に声を掛けてくるまでの間を指している事が彼女にも分かったんだろう。
彼女はクリークたちが戦闘態勢を解いた後も警戒を怠らず、暫くは周囲の警戒に徹していた。
怪物どもは、どこで息をひそめて隠れているか分かったもんじゃあ無いからな。
今現在戦っている魔物だけが危険じゃあない。
もしかすると他の魔物も参戦してくるかも知れないし、倒したと思った怪物も死んだふりをしているだけかも知れない。
いつまでも全員で警戒する必要はないが、誰かが慎重であっても良い。
イルマはそれをよく心得ており、だから俺はそこまで賞賛してやったんだ。
まだまだ未熟な部分は当然あるだろうけど、これなら先に進んでも問題ない。
集まって来るクリークたちを見ながら、俺は合格を言い渡そうと決定していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる