59 / 68
終章 ゴーレムの王子は光の妖精の夢を見る
荒野を越えて
しおりを挟む
ホームで待っていたマクガーニは、俺をまっすぐに見つめると目を眇め、トップハットのつばを摘まんで軽く持ち上げた。
「ようこそ、遠路を。……リジー・オーランド卿?」
げっ……と硬直する俺の代わりに、ロベルトが如才なく挨拶する。……ロベルトの面の皮の厚さにはもう、尊敬しかない。
「わざわざのお出迎えありがとうございます! さっそくリンドホルム城に案内願えますか、マクガーニ閣下」
マクガーニはぎろりと俺とロベルトを睨みつけると、ポーターを指図して、リンドホルム伯家の馬車へと案内する。俺は内心、気が気じゃないのに、ロベルトときたら涼しい顔だ。
「……なんでも、リジー・オーランド卿は以前、こちらに厄介になったことがあるそうじゃないか」
馬車の座席についてから、マクガーニが皮肉たっぷりに言う。
ちなみに、普段なら俺は上席である正面向きの席に座るが、おしのびの今はマクガーニに上席を譲り、滅多に座らない後ろ向きの席に座っている。……けっこう、新鮮だ。
「ええ、まあその……おばあ様……レディ・ウルスラの親族なので……」
マクガーニが眉を顰め、深いため息をついた。
「どういうことなのですかな。アルバート殿下。もっと詳しく説明していただかないと。話を合わせることもできぬ」
ガツン、とステッキを馬車の床に打ち付け、マクガーニが俺を睨み付ける。俺はロベルトをちらりと見てから、言った。
「俺の乳母が、レディ・ウルスラの親族で……つまり、マックス・アシュバートンの以前の許婚だった」
マクガーニは白髪混じりの眉を顰め、俺をじっと見つめた。
「乳母ね……なるほど」
「俺は王妃……母上と関係がよくなくて体調を崩した時、父上は乳母の親族であるマックスを呼び出し、俺を預けた」
俺の説明は真相の半分も語っていないけれど、マクガーニはただ、沈黙して聞いていた。――鋭敏な彼は、裏の事情にほぼ、気づいただろう。十二年前の、俺が王宮から引き離された一件と、そして三年前のシャルローの事件、現在の王妃の境遇。
……マックスの許婚が俺の乳母だという事実。
沈黙を貫くマクガーニに耐えきれなくて、俺が口を開いた。
「俺が十四歳の時で、その時、俺は七歳だったエルシーに会った」
「……十四歳なら、今の顔を見てわかる者もいるでしょうな」
俺は頷いた。
「ジョンソンは、俺の正体に気づいている」
――おそらくは、秘められた事情にも。
「他の者も気づくかもしれません。正体を知られたらどう、なさるのです?」
マクガーニの問いに、俺は肩を竦めた。
「俺はローズの息子のリジー・オーランド、という触れ込みで城に滞在していた。俺の正体を知っているのは、マックスとおばあ様だけだった。ジョンソンはアルバートと名乗って会ったから、俺の正体に気づいたけれど、リジー・オーランドとして城に戻れば正体はバレない」
「……だが、危険なことを。どこかで正体が知られれば――」
「どうしてもおばあ様の葬儀には出たかった。それに、エルシーにビルツホルンに着いてきてもらうなら、俺自身の口から説明するべきだと思ったんだ。だから――」
俺が必死にマクガーニに説明すれば、マクガーニが試すような目で俺を見た。
「正体を隠して王都を離れることで、従者にかかる負担と、身元がバレた時のリスクは考えなかったのですか?」
「いや、それは、俺たちも承知の上で……」
口を挟むロベルトを俺は手で制し、はっきりとマクガーニの目を見て言った。
「その時の責任は俺が全部引き受ける。俺の我儘だとはわかっているけれど、どうしても来たかったんだ。俺はマックスとこの城とエルシーと守ると約束したから……」
俺はじっとマクガーニの青い目を見つめていると、マクガーニがふっと息を吐いて力を抜いた。
「……まったく……万一、こんな場所で事故にでもあったら、殿下の配下どころか、わしのクビも飛びかねん」
「すまない……その、安全には気を付ける」
「当たり前です。それに……」
マクガーニはゴホン、と咳払いしてから、ニヤリと笑った。
「もし、殿下自ら来なかったら、わしはエルスペス嬢には別の縁談を薦めるつもりでした。謝罪と告白を部下に任せるような男に、友人の大事な娘を任せられませんのでね」
俺が目を瞠る横で、ロベルトがぶぶっと吹き出し、それからマクガーニと二人、腹を抱えて笑い出した。
どうやら俺は完全に、マクガーニの掌の上で踊っていたらしい。そう思うと少しだけ憮然とした。
馬車は荒野を突っ切って走っていく。昔、マックスと城に向かった時は、もっと遅い時刻で、周囲は暗かった。今、秋のどんよりとした曇天の下、枝のねじれた灌木がところどころに聳え、枯れた草が吹き抜ける風にそよぐ。窓を開ければ、あの時と同じ、ビュービューとした風の音と、ざわざわと草が風になびく音がした。
前方に聳える古城。――リンドホルム城。
あそこに、エルシーがいる。俺はもう一度戻ってきた。……荒野を越えて――。
「もしかして、あそこ? もろお城じゃん! すげぇ! エルシーたんって正真正銘のお姫様だったんだ……!」
俺が窓に張り付くようにして見ている、城に気づいたロベルトが、背後から覗き込んで声を上げた。
「この近辺では一番の古城だよ。リンドホルム伯爵は建国以来の家だからね」
「すっげぇえええ!」
「しかし、おぬしは本当に王子の秘書官なのかね? もう少し言葉遣いを改めたまえ」
「へえ、すんません」
背後で繰り広げらる会話も、俺はほとんど聞いていなかった。
その間にも城はどんどん近づき、やがて城の正門が見えてくる。馬車に気づいた門番が、内側からゆっくりと門を開いていく。
門の向こうに、紅く色づいた楓並木が見えてきて、俺の興奮は最高潮に高まる。
とにかく一刻も早くエルシーに会いたかった。冷たく拒絶されるかもしれないが、おばあ様の葬儀に出たいと言うのを、追い出したりはしないだろう。それに、リジーのことも説明しなければならない。
これが最後のチャンスかもしれない。みっともなく足に縋り付いてでも絶対に――。
俺が両手をぐっと握り締めていると、ロベルトが横から言った。
「もしかして……エルシーたんの足に縋り付いて頼めばきっと……とかみっともないこと考えてないっすよね?」
「う……」
図星を指された俺は、反論もできなかった。
城館の正面玄関の、車寄せに馬車が停まる。扉が開いて、執事が現れる。……十二年前より老けて、多少太っているが、間違いなくアーチャーだ。その背後にジョンソンの姿。邸は昔のままのようだ。
「……マクガーニ、まず、エルシーに会いたい。伯爵への挨拶は夕食時で構わないだろう? 捕まると長そうな気がする」
俺が車内で早口に言えば、マクガーニが頷く。
「まず、エルスペス嬢を呼び出してもらいましょう。……これからは殿下ではなく、リジー・オーランドと呼びますから」
「ああ、頼んだ」
まずマクガーニが馬車から降り、出迎えたアーチャーに何か尋ねる。アーチャーが頷いて、庭の方を指さした。エルシーは庭にいるのだろう。俺は逸る気持ちを押さえ、ロベルトに続いて最後に馬車から降りた。
「こちらがアルバート殿下が派遣された代理人で、ロベルト・リーンとリジー・オーランドだ。部屋の用意を頼む」
マクガーニが俺をアーチャーに紹介すると、アーチャーがぎょっとしたように目を見開く。
「……リジー……坊ちゃま?」
「ああ、以前は世話になった。今は第三王子殿下の秘書官をしているんだ」
俺が軽く帽子を持ち上げる。おしのびとは言え、それなりのパリッとした服装をしているから、俺がそこそこの身分なのはアーチャーなら一目でわかるだろう。
「とにかくエルスペス嬢に会いたい。それと……庭の売買の件で――」
「そうそう、アルバート殿下がここの庭が売りに出ているのに興味を持って! ついでに見てこいって言われているんですよ」
ロベルトが後を受けて、にこやかに言う。
「お庭の……でございますか」
マクガーニも上手く話をあわせてくれる。
「エルスペス嬢もいるならば、まずは庭に参ろう。すまんが、我々の荷物だけ、部屋に運んでおいてもらえるかな」
「承知いたしました」
アーチャーは俺をじろじろ見ながら、それでも何も言わず、従僕に命じて荷物を運ばせる。
俺はマクガーニを急かすように、ローズの庭へと急いだ。
「……なんか、微妙にさびれてないっすか?」
「庭師の手が足りないようだ。財政難ではな……」
管理の手が行き届かず、ついに手放すことにした、庭の一角。間違いなく、ローズの庭のあたりだ。俺はまっすぐ散歩道に続く森を抜けていくと、かすかな悲鳴が聞こえた。
ハッとして足を速める。黒い服を着た女が男に腕を掴まれ、もがいていた。背後は鉄条網が張り巡らされて、それ以上逃げられない。
俺とロベルトが同時に駆け出し、マクガーニが一喝した。
「何をしている!」
「エルシー!」
声に驚いた男の手が緩み、エルシーが離れた隙に、俺は男とエルシーの間に割り込み、エルシーを背中に庇った。ロベルトが素早い動きで男を後ろ手にひねり上げる。
「いでえ、何だよ、てめぇら!」
「ロベルトさん? それに――」
エルシーが絶句して息を飲む気配を背中に感じていると、ロベルトがいつもの調子で軽く挨拶をする。
「どうもぉ、エルスペス嬢。このロベルト・リーンとリジー・オーランドが、殿下の代理人でーす!」
俺が肩越しにちらりと振り返れば、喪服に身を包んだエルシーがブルーグレーの瞳を見開き、唖然とした表情で俺を見上げていた。
「ようこそ、遠路を。……リジー・オーランド卿?」
げっ……と硬直する俺の代わりに、ロベルトが如才なく挨拶する。……ロベルトの面の皮の厚さにはもう、尊敬しかない。
「わざわざのお出迎えありがとうございます! さっそくリンドホルム城に案内願えますか、マクガーニ閣下」
マクガーニはぎろりと俺とロベルトを睨みつけると、ポーターを指図して、リンドホルム伯家の馬車へと案内する。俺は内心、気が気じゃないのに、ロベルトときたら涼しい顔だ。
「……なんでも、リジー・オーランド卿は以前、こちらに厄介になったことがあるそうじゃないか」
馬車の座席についてから、マクガーニが皮肉たっぷりに言う。
ちなみに、普段なら俺は上席である正面向きの席に座るが、おしのびの今はマクガーニに上席を譲り、滅多に座らない後ろ向きの席に座っている。……けっこう、新鮮だ。
「ええ、まあその……おばあ様……レディ・ウルスラの親族なので……」
マクガーニが眉を顰め、深いため息をついた。
「どういうことなのですかな。アルバート殿下。もっと詳しく説明していただかないと。話を合わせることもできぬ」
ガツン、とステッキを馬車の床に打ち付け、マクガーニが俺を睨み付ける。俺はロベルトをちらりと見てから、言った。
「俺の乳母が、レディ・ウルスラの親族で……つまり、マックス・アシュバートンの以前の許婚だった」
マクガーニは白髪混じりの眉を顰め、俺をじっと見つめた。
「乳母ね……なるほど」
「俺は王妃……母上と関係がよくなくて体調を崩した時、父上は乳母の親族であるマックスを呼び出し、俺を預けた」
俺の説明は真相の半分も語っていないけれど、マクガーニはただ、沈黙して聞いていた。――鋭敏な彼は、裏の事情にほぼ、気づいただろう。十二年前の、俺が王宮から引き離された一件と、そして三年前のシャルローの事件、現在の王妃の境遇。
……マックスの許婚が俺の乳母だという事実。
沈黙を貫くマクガーニに耐えきれなくて、俺が口を開いた。
「俺が十四歳の時で、その時、俺は七歳だったエルシーに会った」
「……十四歳なら、今の顔を見てわかる者もいるでしょうな」
俺は頷いた。
「ジョンソンは、俺の正体に気づいている」
――おそらくは、秘められた事情にも。
「他の者も気づくかもしれません。正体を知られたらどう、なさるのです?」
マクガーニの問いに、俺は肩を竦めた。
「俺はローズの息子のリジー・オーランド、という触れ込みで城に滞在していた。俺の正体を知っているのは、マックスとおばあ様だけだった。ジョンソンはアルバートと名乗って会ったから、俺の正体に気づいたけれど、リジー・オーランドとして城に戻れば正体はバレない」
「……だが、危険なことを。どこかで正体が知られれば――」
「どうしてもおばあ様の葬儀には出たかった。それに、エルシーにビルツホルンに着いてきてもらうなら、俺自身の口から説明するべきだと思ったんだ。だから――」
俺が必死にマクガーニに説明すれば、マクガーニが試すような目で俺を見た。
「正体を隠して王都を離れることで、従者にかかる負担と、身元がバレた時のリスクは考えなかったのですか?」
「いや、それは、俺たちも承知の上で……」
口を挟むロベルトを俺は手で制し、はっきりとマクガーニの目を見て言った。
「その時の責任は俺が全部引き受ける。俺の我儘だとはわかっているけれど、どうしても来たかったんだ。俺はマックスとこの城とエルシーと守ると約束したから……」
俺はじっとマクガーニの青い目を見つめていると、マクガーニがふっと息を吐いて力を抜いた。
「……まったく……万一、こんな場所で事故にでもあったら、殿下の配下どころか、わしのクビも飛びかねん」
「すまない……その、安全には気を付ける」
「当たり前です。それに……」
マクガーニはゴホン、と咳払いしてから、ニヤリと笑った。
「もし、殿下自ら来なかったら、わしはエルスペス嬢には別の縁談を薦めるつもりでした。謝罪と告白を部下に任せるような男に、友人の大事な娘を任せられませんのでね」
俺が目を瞠る横で、ロベルトがぶぶっと吹き出し、それからマクガーニと二人、腹を抱えて笑い出した。
どうやら俺は完全に、マクガーニの掌の上で踊っていたらしい。そう思うと少しだけ憮然とした。
馬車は荒野を突っ切って走っていく。昔、マックスと城に向かった時は、もっと遅い時刻で、周囲は暗かった。今、秋のどんよりとした曇天の下、枝のねじれた灌木がところどころに聳え、枯れた草が吹き抜ける風にそよぐ。窓を開ければ、あの時と同じ、ビュービューとした風の音と、ざわざわと草が風になびく音がした。
前方に聳える古城。――リンドホルム城。
あそこに、エルシーがいる。俺はもう一度戻ってきた。……荒野を越えて――。
「もしかして、あそこ? もろお城じゃん! すげぇ! エルシーたんって正真正銘のお姫様だったんだ……!」
俺が窓に張り付くようにして見ている、城に気づいたロベルトが、背後から覗き込んで声を上げた。
「この近辺では一番の古城だよ。リンドホルム伯爵は建国以来の家だからね」
「すっげぇえええ!」
「しかし、おぬしは本当に王子の秘書官なのかね? もう少し言葉遣いを改めたまえ」
「へえ、すんません」
背後で繰り広げらる会話も、俺はほとんど聞いていなかった。
その間にも城はどんどん近づき、やがて城の正門が見えてくる。馬車に気づいた門番が、内側からゆっくりと門を開いていく。
門の向こうに、紅く色づいた楓並木が見えてきて、俺の興奮は最高潮に高まる。
とにかく一刻も早くエルシーに会いたかった。冷たく拒絶されるかもしれないが、おばあ様の葬儀に出たいと言うのを、追い出したりはしないだろう。それに、リジーのことも説明しなければならない。
これが最後のチャンスかもしれない。みっともなく足に縋り付いてでも絶対に――。
俺が両手をぐっと握り締めていると、ロベルトが横から言った。
「もしかして……エルシーたんの足に縋り付いて頼めばきっと……とかみっともないこと考えてないっすよね?」
「う……」
図星を指された俺は、反論もできなかった。
城館の正面玄関の、車寄せに馬車が停まる。扉が開いて、執事が現れる。……十二年前より老けて、多少太っているが、間違いなくアーチャーだ。その背後にジョンソンの姿。邸は昔のままのようだ。
「……マクガーニ、まず、エルシーに会いたい。伯爵への挨拶は夕食時で構わないだろう? 捕まると長そうな気がする」
俺が車内で早口に言えば、マクガーニが頷く。
「まず、エルスペス嬢を呼び出してもらいましょう。……これからは殿下ではなく、リジー・オーランドと呼びますから」
「ああ、頼んだ」
まずマクガーニが馬車から降り、出迎えたアーチャーに何か尋ねる。アーチャーが頷いて、庭の方を指さした。エルシーは庭にいるのだろう。俺は逸る気持ちを押さえ、ロベルトに続いて最後に馬車から降りた。
「こちらがアルバート殿下が派遣された代理人で、ロベルト・リーンとリジー・オーランドだ。部屋の用意を頼む」
マクガーニが俺をアーチャーに紹介すると、アーチャーがぎょっとしたように目を見開く。
「……リジー……坊ちゃま?」
「ああ、以前は世話になった。今は第三王子殿下の秘書官をしているんだ」
俺が軽く帽子を持ち上げる。おしのびとは言え、それなりのパリッとした服装をしているから、俺がそこそこの身分なのはアーチャーなら一目でわかるだろう。
「とにかくエルスペス嬢に会いたい。それと……庭の売買の件で――」
「そうそう、アルバート殿下がここの庭が売りに出ているのに興味を持って! ついでに見てこいって言われているんですよ」
ロベルトが後を受けて、にこやかに言う。
「お庭の……でございますか」
マクガーニも上手く話をあわせてくれる。
「エルスペス嬢もいるならば、まずは庭に参ろう。すまんが、我々の荷物だけ、部屋に運んでおいてもらえるかな」
「承知いたしました」
アーチャーは俺をじろじろ見ながら、それでも何も言わず、従僕に命じて荷物を運ばせる。
俺はマクガーニを急かすように、ローズの庭へと急いだ。
「……なんか、微妙にさびれてないっすか?」
「庭師の手が足りないようだ。財政難ではな……」
管理の手が行き届かず、ついに手放すことにした、庭の一角。間違いなく、ローズの庭のあたりだ。俺はまっすぐ散歩道に続く森を抜けていくと、かすかな悲鳴が聞こえた。
ハッとして足を速める。黒い服を着た女が男に腕を掴まれ、もがいていた。背後は鉄条網が張り巡らされて、それ以上逃げられない。
俺とロベルトが同時に駆け出し、マクガーニが一喝した。
「何をしている!」
「エルシー!」
声に驚いた男の手が緩み、エルシーが離れた隙に、俺は男とエルシーの間に割り込み、エルシーを背中に庇った。ロベルトが素早い動きで男を後ろ手にひねり上げる。
「いでえ、何だよ、てめぇら!」
「ロベルトさん? それに――」
エルシーが絶句して息を飲む気配を背中に感じていると、ロベルトがいつもの調子で軽く挨拶をする。
「どうもぉ、エルスペス嬢。このロベルト・リーンとリジー・オーランドが、殿下の代理人でーす!」
俺が肩越しにちらりと振り返れば、喪服に身を包んだエルシーがブルーグレーの瞳を見開き、唖然とした表情で俺を見上げていた。
10
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ
浅葱
ファンタジー
猫を助けようとして車に轢かれたことでベタに異世界転移することになってしまった俺。
転移先の世界には、先々月トラックに轢かれて亡くなったと思っていた恋人がいるらしい。
恋人と再び出会いハッピーライフを送る為、俺は炒飯を作ることにした。
見た目三毛猫の猫神(紙)が付き添ってくれます。
安定のハッピーエンド仕様です。
不定期更新です。
表紙の写真はフリー素材集(写真AC・伊兵衛様)からお借りしました。
白紙にする約束だった婚約を破棄されました
あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。
その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。
破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。
恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。
長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる