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4巻【一】

2 思い出の形

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 昨日、家に帰ってくると、文化祭の動画が山宮基一もといとの共有のアカウントにあげられていた。朔也は自分が投稿しようと思っていた画像探しは後回しにし、ベッドに寝転がりながら早速それを再生した。

『大学付属才穎さいえい高校二年B組。文化祭でロミオとジュリエットの演劇を披露することになり、クラスはその準備で活気に満ち溢れていた』

 普段よりも明るいトーンのゆっくりとした山宮の声に目を瞑る。すると、楽しかった文化祭のさまざまな場面が目蓋の裏に蘇った。山宮の声はすごい。茶髪でくせっ毛の自分とは真逆の、マッシュルームツーブロックに切られたストレートの黒髪に白いマスクの印象が強い山宮。制服も白いシャツと黒いズボンで統一されているのに、山宮の声はいろんな色を連れてくる。朔也は全ての動画を再生して山宮の声を聞きながら、二人でやりたいことを書いているノートをぱらぱらと眺めた。

 山宮が二人で普通のことがしたいと言って始めたノートは、膨大な量になっていた。ノートの貸し借りの項目から始まり、その殆どに達成したチェックの印がついている。ノート、画像、声と思い出の形がさまざまになり、特に山宮の声はいろんな感情を思い起こさせる。山宮との約束通り『花火大会に行く』にアンダーラインを引いた朔也は、ふふっと笑いながらページを捲り、寝る直前まで繰り返し動画を聞いた。
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