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9章 天術士
#62 この人は、ずっと前から
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翌日。レンは暇潰しに訓練所で活動した後、一休みをしようと"吸憩所"へ行った。いわゆるハコを吸う場所である。
吸憩所には、まばらにしか人が居なかったが、見知った顔が1人いることに気付いた。金髪のその青年は顔を上げると、少し気まずそうな顔をして小さく声をかけてきた。
「レン、だよな。ここで会うのは初めてだな……」
「ああ、そうだね、ルーク」
レンは少し間を空けて、ルークの隣に腰かけた。ルークと2人だけで会話をしたことは無かった。ツバサと仲が良い印象だけがあった。ルークは煙を吐き出すと、こちらを見ずに聞いた。
「昨日だか、レン図書館に来てたよな?」
「行ったよ」
「あの紐で縛られた本、借りれたってまじ?」
「アルルがね。それにアルル、古代魔法語も読めたし」
「……一体何者なんだあの少女は……じゃなくて、あの本さ、本来なら持ち出し禁止なんだよ。だから上の人にバレる前に早急にお返し願いたい」
「そう言われてもアルル、今日は留守にしててさ」
「うぇえ?!まじで?!」
今まで聞いたこともないくらいにルークは声を上げた。一瞬周りの人がこちらの方に注目した。ルークは声のボリュームを下げてレンに尋ねた。
「レン、彼女の彼氏だろ。合鍵とか持ってないのか」
「……持ってないです、すみません」
「まあ、もうしょうがないよ。すぐに返してって伝えてもらえる?」
「うん、もちろん。本当申し訳ない」
沈黙が流れる。レンはずっとルークのことをどこか不思議な人だと思っていた。ツバサがやけに振り回していて、気に入っていたイメージがあった。 初めて知り合ったのは、確か狩人事件だったが、ちゃんと関わったのはリッチェルがアースに誘拐された一件の時だ。その時から優秀な影術士だということはわかっていた。同時に、彼はただ者ではないとも思った。
「あのさ」
一瞬、ルークは沈黙が耐えられない人間なのか、とレンは思った。しかし、話題を探し出したような口ぶりではなかった。
「今更なんだけど、あの時リッチェルを助けてくれて、ありがとう。アースで魔術ぶっぱなして怪我したせいで、ちゃんと御礼言えてなかったと思ってさ」
「いいや、とんでもないよ。リッチェルを助けるために皆でアースに行ったんだし、当然だよ」
「あの時な、リッチェルは誘拐された後何をされたか、ショックで記憶が無いって言ってたけど。実は一つだけ覚えてることがあって、僕にだけ教えてくれたんだ」
「……」
「悪魔を見た、って」
思わず手に力が入り、レンの持っていたハコがぐしゃっと潰れた。気づいたらルークがこちらをじっと見ていた。鳥肌が立った。ルークから魔力は感じない。彼はこちらを見たまま言った。
「その話を聞く前から、祈祷師によってリッチェルはちゃんと検査をしてもらっていた。何にも異常は無かったし、"僕が予想していたような"魔術的攻撃も受けていなかった。何より、レンが無事に助けてくれたことが最終的な結果だ。だから、レンには感謝してる」
「…ルーク、君は」
「あんたはツバサと違ってそこまで馬鹿じゃないだろ。レンは確かにチームオセロの一員で、優れた闇術士だ。ただそれだけ」
そこでルークは少し微笑んだ。この人は、ずっと前から全て知っているのだ。でも、知っているということを表面上では認めていない。認めてしまえば、何か行動を起こさないといけない人だから。そうだとしたら、どうして?どうしてそこまでチームオセロに執着する?その答えは割と直ぐに分かった。
「チームオセロって言えばさ、もうアルルと勝手に家出するとかやめた方がいいと思うぞ」
「な、なんで急にその話を……」
「2人が居なかった時、ツバサまじで寂しがってたんだぞ。カフェテリアに僕とリッチェルまで呼び出されて、僕にチームに入ってくれとか言ってきて」
「ツバサめんどくさいからな、俺が言える立場じゃないけど」
「おっしゃる通りめんどい。だけどあいつ、僕の弟に何か似てるんだよね。こう、振り回してくる感じとか」
「弟って言うけどルーク何歳なの?」
「僕は21」
「そうだったんだ。俺よりも2つ上だ」
「ちょうど弟とツバサは同じ歳で。生きてたらあんな感じだったのかなって」
「そっか……」
ルークが2本目のハコに火をつけた時、吸憩所の透明な扉がノックされた。ふと出口の方を向くと、ベティが手を振っていた。レンが自分を指さすと、ベティは大袈裟に頷いた。
「ルーク、じゃあ、また」
黙ってルークは片手を上げた。レンはベティと話しながら歩いていった。ハコを吸わないとやっていられない。つくづくルークはそう思った。
違いに暇人だったベティとレンは依頼書が貼り出されているボードの場所に向かいながら話していた。
「レンがルークと一緒に居るなんて、珍しいわね」
「たまたま遭遇しただけだけどね。……そろそろ仕事もしないとな」
「それね……でもツバサが帰ってきてから決めるのが良いかしらね」
「ツバサどっか行ってるのか?」
「うん。何かお父さんの事で何たらって。アスカと一緒にイイナ村まで」
「イイナ村?!なかなか遠出だな……」
「今日はアルルと一緒じゃなかったの?」
「ああ。何か留守みたいで。宿舎は訪ねたんだけど」
「そう……そういえば歴史書は読んだの?昨日は行けなくてごめんね」
「歴史書はやっぱり古代魔法語で書かれていてね、紐で縛られた禁書みたいなやつでさ。アルルが何かその封印解くわ古代魔法語は読めるわで……今はアルルが持ってるけど。まあ大まかな内容はアルルが話してくれた通りだった。ナターシャの絵も見させてもらった」
「私もその本見てみたい。レン、合鍵とか持ってないの?」
「さっきもそれルークに聞かれた。持ってないよー」
ベティは残念そうな顔をした。その後も、2人はアルルあてにチリフの呼び出しをしてみたが応答は無かった。何か急用があるのかもしれない、という結論になり2人は訓練所を後にした。
吸憩所には、まばらにしか人が居なかったが、見知った顔が1人いることに気付いた。金髪のその青年は顔を上げると、少し気まずそうな顔をして小さく声をかけてきた。
「レン、だよな。ここで会うのは初めてだな……」
「ああ、そうだね、ルーク」
レンは少し間を空けて、ルークの隣に腰かけた。ルークと2人だけで会話をしたことは無かった。ツバサと仲が良い印象だけがあった。ルークは煙を吐き出すと、こちらを見ずに聞いた。
「昨日だか、レン図書館に来てたよな?」
「行ったよ」
「あの紐で縛られた本、借りれたってまじ?」
「アルルがね。それにアルル、古代魔法語も読めたし」
「……一体何者なんだあの少女は……じゃなくて、あの本さ、本来なら持ち出し禁止なんだよ。だから上の人にバレる前に早急にお返し願いたい」
「そう言われてもアルル、今日は留守にしててさ」
「うぇえ?!まじで?!」
今まで聞いたこともないくらいにルークは声を上げた。一瞬周りの人がこちらの方に注目した。ルークは声のボリュームを下げてレンに尋ねた。
「レン、彼女の彼氏だろ。合鍵とか持ってないのか」
「……持ってないです、すみません」
「まあ、もうしょうがないよ。すぐに返してって伝えてもらえる?」
「うん、もちろん。本当申し訳ない」
沈黙が流れる。レンはずっとルークのことをどこか不思議な人だと思っていた。ツバサがやけに振り回していて、気に入っていたイメージがあった。 初めて知り合ったのは、確か狩人事件だったが、ちゃんと関わったのはリッチェルがアースに誘拐された一件の時だ。その時から優秀な影術士だということはわかっていた。同時に、彼はただ者ではないとも思った。
「あのさ」
一瞬、ルークは沈黙が耐えられない人間なのか、とレンは思った。しかし、話題を探し出したような口ぶりではなかった。
「今更なんだけど、あの時リッチェルを助けてくれて、ありがとう。アースで魔術ぶっぱなして怪我したせいで、ちゃんと御礼言えてなかったと思ってさ」
「いいや、とんでもないよ。リッチェルを助けるために皆でアースに行ったんだし、当然だよ」
「あの時な、リッチェルは誘拐された後何をされたか、ショックで記憶が無いって言ってたけど。実は一つだけ覚えてることがあって、僕にだけ教えてくれたんだ」
「……」
「悪魔を見た、って」
思わず手に力が入り、レンの持っていたハコがぐしゃっと潰れた。気づいたらルークがこちらをじっと見ていた。鳥肌が立った。ルークから魔力は感じない。彼はこちらを見たまま言った。
「その話を聞く前から、祈祷師によってリッチェルはちゃんと検査をしてもらっていた。何にも異常は無かったし、"僕が予想していたような"魔術的攻撃も受けていなかった。何より、レンが無事に助けてくれたことが最終的な結果だ。だから、レンには感謝してる」
「…ルーク、君は」
「あんたはツバサと違ってそこまで馬鹿じゃないだろ。レンは確かにチームオセロの一員で、優れた闇術士だ。ただそれだけ」
そこでルークは少し微笑んだ。この人は、ずっと前から全て知っているのだ。でも、知っているということを表面上では認めていない。認めてしまえば、何か行動を起こさないといけない人だから。そうだとしたら、どうして?どうしてそこまでチームオセロに執着する?その答えは割と直ぐに分かった。
「チームオセロって言えばさ、もうアルルと勝手に家出するとかやめた方がいいと思うぞ」
「な、なんで急にその話を……」
「2人が居なかった時、ツバサまじで寂しがってたんだぞ。カフェテリアに僕とリッチェルまで呼び出されて、僕にチームに入ってくれとか言ってきて」
「ツバサめんどくさいからな、俺が言える立場じゃないけど」
「おっしゃる通りめんどい。だけどあいつ、僕の弟に何か似てるんだよね。こう、振り回してくる感じとか」
「弟って言うけどルーク何歳なの?」
「僕は21」
「そうだったんだ。俺よりも2つ上だ」
「ちょうど弟とツバサは同じ歳で。生きてたらあんな感じだったのかなって」
「そっか……」
ルークが2本目のハコに火をつけた時、吸憩所の透明な扉がノックされた。ふと出口の方を向くと、ベティが手を振っていた。レンが自分を指さすと、ベティは大袈裟に頷いた。
「ルーク、じゃあ、また」
黙ってルークは片手を上げた。レンはベティと話しながら歩いていった。ハコを吸わないとやっていられない。つくづくルークはそう思った。
違いに暇人だったベティとレンは依頼書が貼り出されているボードの場所に向かいながら話していた。
「レンがルークと一緒に居るなんて、珍しいわね」
「たまたま遭遇しただけだけどね。……そろそろ仕事もしないとな」
「それね……でもツバサが帰ってきてから決めるのが良いかしらね」
「ツバサどっか行ってるのか?」
「うん。何かお父さんの事で何たらって。アスカと一緒にイイナ村まで」
「イイナ村?!なかなか遠出だな……」
「今日はアルルと一緒じゃなかったの?」
「ああ。何か留守みたいで。宿舎は訪ねたんだけど」
「そう……そういえば歴史書は読んだの?昨日は行けなくてごめんね」
「歴史書はやっぱり古代魔法語で書かれていてね、紐で縛られた禁書みたいなやつでさ。アルルが何かその封印解くわ古代魔法語は読めるわで……今はアルルが持ってるけど。まあ大まかな内容はアルルが話してくれた通りだった。ナターシャの絵も見させてもらった」
「私もその本見てみたい。レン、合鍵とか持ってないの?」
「さっきもそれルークに聞かれた。持ってないよー」
ベティは残念そうな顔をした。その後も、2人はアルルあてにチリフの呼び出しをしてみたが応答は無かった。何か急用があるのかもしれない、という結論になり2人は訓練所を後にした。
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