不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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異界の玉座と吸血蛾の女王

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 灰褐色の大地は草木一本生えず、土は絶えず吹きすさぶ風によって砂塵となり、昼に夜に目まぐるしく変わる天候は渇き切った川の跡しか残していなかった。
 何者も生きられない場所。
 誰もが苦しみ絶望するために存在する地。
 その不毛の大陸にポツンと置かれた玉座があった。
 ひび割れた古い木造の玉座は巨大で、人間なら優に十人は座れそうだ。
 そこに、一人の女が退屈そうに座っていた。
 紅色の薄衣うすぎぬの下は豊満な身体が露わになっている。
 歳は二十にも四十にも、見る者が見れば八十にも見える。
 彼女はあまりに永く生きているので、本人でさえ年月を数えてはいなかった。
 女の背には四枚の翅が折りたたまれており、艶やかな黒髪の中から二本の触覚が伸びている。
 触覚の先には黒く丸い梵天ぼんてんが付いていて、それが頭を動かすとふわふわと揺れた。
 何もない大地に置かれた玉座の周りは穏やかだった。
 強風も寒気も夜の闇でさえ女を避けた。
 彼女は遠くで化け物たちが戦う音を聴いていた。
 質の悪いなまくらな剣や槍がぶつかり合う音。
 気味の悪い獣めいた咆哮。
 それらはこの地を跋扈ばっこする下位の者たちだ。
 やつらはいつまでも飽きずに戦っているが、決着がつくことはなかったので、それは延々と続けられていた。
 同じく、玉座に腰かけて女王は昼と夜を何千回も何万回も過ごしていた。
 退屈で食べたり飲んだり、眠ったり、時には下位の者や中位、上位に至るまで殺してみたりしたが、この地に彼女を楽しませるものはなかった。
 まれに余所よそから訪れる者はいた。
 それは同じ異界の別の地からやって来た者から、まったく別の世界から迷い込んだ者だ。
 前者はほとんどが上位の者だった。
 驚いたことに、彼らのおよそ半数は善なる心の持ち主で、あとは中立や悪しき者で、女王に戦いを挑むこともあった。
 女王は誰にも負けなかった。
 少しの退屈しのぎになっただけだ。
 そして、別の世界からの来訪者は総じて弱かった。
 何がと問われればすべてにおいてだ。
 彼らは形は様々だったが、脆弱ぜいじゃくで非力で放っておいても死ぬほどだった。
 ただ、そんな彼らは女王を大いに楽しませた。
 彼らは女王の知らないことを話し、見たことのない物を見せてくれた。
 彼らの一人が魔術を使って時空に穴を開けたとき、女王は初めてわらった。


 吸血蛾の女王シャドウベイルモスケイルは、誰かが自分を呼んでいることに気づいた。
 異界のいつもの玉座に座り、汚らしい手下の一人が短い手を擦り合わせてびへつらっている時だった。
 彼女の聡明な頭の片隅に、仄かに明かりがともったようだった。

「誰かーーー」

 彼女が鈴のような声を発したので、ギイギイ騒いでいた手下は口を閉ざした。
 手下は彼女の子でもある。
 彼女には子が数え切れないほどいた。
 その中でもさかしいこの手下は、女王の言葉を待った。

「ああ・・・・・・」

 女王はその呼び声が遥か遠くからだと知り、少し興味を惹かれた。
 随分前に種を蒔いた場所に、最近また実がつき始めている。
 そのとき、別の手下が這いずりながら近づいて来た。
 まだ姿は幼虫だが、一端いっぱしの働きをする。

「我らが女王陛下、お気づきでしょうか。あれはわたくしが入り込んでいる世界の者です」
「確かにそうだった」

 記憶の端に彼女は覚えていた。

「他に四匹がいたはず」
「その通りでございます。新たな種が芽吹きました。まだ幼いため刈り取りは少ないですが、立派な養分として育てるため、我らが五芒星として働いております」
「前の二つは失敗だったな」

 前回の刈り取りがうまくいかなかったことを問われて手下の顔色が悪くなる。

「申し訳ございません。今度こそ必ずや成し遂げて見せましょう」

 女王は言葉もなく片手を振り、幼虫を追い払った。
 来たとき同様、ずりずりと手下が這いずり去って行く。
 女王は何も期待などしなかった。
 ただ、今ほんの一瞬脳裏に浮かんだ真紅の髪の少女はとても肉質が良さそうだと思った。
 しかし、あの種から刈り取れるのは食用の肉ではなく魔力だったはず。
 何にせよ、もっと時空に大きな穴を開ける必要がある。
 この退屈な場所から遊侠に向かうためにはーーー。
 さっきの手下が戻って来てまたギイギイ言い始めたので、女王は細い腕を伸ばして捉え、首をへし折った。
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