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ラウリア王国編
眼差し
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秋だというのにこの国はあいかわらず蒸し暑い。僕達はラウリア王国南部の港から転々と移動し、現在王国の東部に位置するアムゼジの街にいる。
まだスパイス巡りの旅は始まったばかりだが、この街で拠点を借りた。
短期の滞在なので割高になったがそれでもここを借りたのは兄さんの誕生日があるからだ。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
去年はミヅホの宿で兄さんの誕生日を迎えた。兄さんは喜んでくれたが、なんだか味気ない気がして強引に拠点を借りてしまった。
いつもは兄さんが拠点の話を進めるからなんだか不思議な気持ちだ。
兄さんも同じ気持ちだったようで不動産屋のカウンターでクスクス笑いあった。
店員さんからは不審な目を向けられたがしばらく笑いが止まらなかった。
拠点を借りてやることといったら、もちろん料理だ。無限収納のおかげでバリエーションがずいぶん増えた。
洋食和食関係なくとにかく兄さんの好物をたくさん作った。
「美味かった。いつもありがとう」
「どういたしまして」
「てっきりルカが最近作ってるカレーというやつが出てくると思ってた」
「あれはまだ試作の段階だから。納得がいく味になってから兄さんに食べてほしいな」
「一口だけでもだめか?あの匂いは刺激が強い」
「匂いだけはいいんだよね。味に深みがないから食べても美味しくないよ」
「ルカの美味しくないは信用できない」
「わかった。もう少しだけ時間をちょうだい。試作品の中から出来がよかったのを出すから」
「わかった。楽しみにしてる」
兄さんがそんなにカレーを食べたいと思っていたとは驚いた。
たしかに匂いは前世のカレーに近づいてきたからなぁ。悪いことをしてしまった。魔法で匂いが広がらないようにしてたけど、誤魔化せなかったか。
でもまさか美味しくないって言葉に、信用できないと返されるとは思わなかった。僕の舌もずいぶん肥えたようだ。
食卓に並んでいた料理はきれいになくなった。さすがに作りすぎてしまった。お腹がいっぱいで動きたくない。後片付けもそこそこに、ソファのような長椅子に腰掛ける。
奮発して条件のいい借家にしたから家具が豪華だ。兄さんとふたり長椅子に並んで腰掛けてもまだスペースに余裕がある。
僕は横に座っている兄さんに身体を向けて用意していたプレゼントを渡した。
「はい、25歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう。ネックレスか?」
「うん。似合うかなって」
「ルカがつけてくれないか」
「いいよ」
まさか僕がつけることになるとは思わなかった。緊張で手が震えて時間がかかったが、なんとかつけることができた。
「できた。似合ってるよ」
「そうか……銀に紫の石がついてるな」
「趣味じゃなかった?」
「まさか。一番好きな組み合わせだ」
兄さんは嬉しそうに微笑むと不意に僕の髪へ手を伸ばした。
「このかんざしも金にすればよかった」
その顔は本当に悔しそうで、本心から言っていることが伝わってくる。
兄さんの指がそっと僕の髪に触れる。そしてかんざしを抜き取ろうと、おもむろに手を動かした。
兄さんの指がうなじに触れて、思わず体がビクリと跳ねる。同時にかんざしが抜かれて髪が首元を覆った。
「次にミヅホへ行くことがあれば買いなおそう」
「そのかんざしお気に入りなんだけど。それに外ではつけないのに、何本も持つのはもったいないよ」
「俺がそうしたいんだ。好きにさせてほしい」
「わかった」
顔が上げられない。この部屋が薄暗くてよかった。もしも今が昼だったら、この部屋が明るかったら。どんな言い訳も通用しないくらい顔が真っ赤なことがバレてしまうから。
「ルカ」
兄さんの指が僕の頬を撫でる。それだけで何をして欲しいかわかるくらいには、僕達は長い時間を共にしてきた。
ドキドキと早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように一息吐いて顔を上げる。
すると兄さんが僕の前髪をかきあげて左瞼に唇を落とした。
その目があまりにも慈愛に満ちていたから、僕は以前から気になっていたことを聞くことにした。
「兄さんたまにそこにキスするよね」
「これは俺の誓いだ」
「誓い?」
「俺達は一生の相棒で、死んでも一緒だ」
「死んでも?」
「そうだ」
「いいね、すごくいい」
来世でどこか違う世界に生きることになっても兄さんは一緒にいてくれるだろう。根拠もないのにそう思えるくらい、兄さんは真剣な顔をしていた。
「もう寝るか」
「そうだね」
ふたり同時にソファから立ち上がって寝室に向かう。
もしもあの時兄さんが慈愛の眼差しで僕を見てなかったら、前に一度だけ見せたギラギラした目だったら。
僕は兄さんに何を言ったのだろう。
絶対に答えが出ないのについ考えてしまった。これ以上考えると、兄さんの顔をまともに見ることが出来なくなりそうだ。
俯くと頬に髪がかかって、兄さんにかんざしを取られたことを思い出す。だめだ。何をしても兄さんを意識してしまう。
髪をはらいのけるため軽く頭をひと振りし、ついでに思考を無理やり止めた。
まだスパイス巡りの旅は始まったばかりだが、この街で拠点を借りた。
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「ありがとう」
去年はミヅホの宿で兄さんの誕生日を迎えた。兄さんは喜んでくれたが、なんだか味気ない気がして強引に拠点を借りてしまった。
いつもは兄さんが拠点の話を進めるからなんだか不思議な気持ちだ。
兄さんも同じ気持ちだったようで不動産屋のカウンターでクスクス笑いあった。
店員さんからは不審な目を向けられたがしばらく笑いが止まらなかった。
拠点を借りてやることといったら、もちろん料理だ。無限収納のおかげでバリエーションがずいぶん増えた。
洋食和食関係なくとにかく兄さんの好物をたくさん作った。
「美味かった。いつもありがとう」
「どういたしまして」
「てっきりルカが最近作ってるカレーというやつが出てくると思ってた」
「あれはまだ試作の段階だから。納得がいく味になってから兄さんに食べてほしいな」
「一口だけでもだめか?あの匂いは刺激が強い」
「匂いだけはいいんだよね。味に深みがないから食べても美味しくないよ」
「ルカの美味しくないは信用できない」
「わかった。もう少しだけ時間をちょうだい。試作品の中から出来がよかったのを出すから」
「わかった。楽しみにしてる」
兄さんがそんなにカレーを食べたいと思っていたとは驚いた。
たしかに匂いは前世のカレーに近づいてきたからなぁ。悪いことをしてしまった。魔法で匂いが広がらないようにしてたけど、誤魔化せなかったか。
でもまさか美味しくないって言葉に、信用できないと返されるとは思わなかった。僕の舌もずいぶん肥えたようだ。
食卓に並んでいた料理はきれいになくなった。さすがに作りすぎてしまった。お腹がいっぱいで動きたくない。後片付けもそこそこに、ソファのような長椅子に腰掛ける。
奮発して条件のいい借家にしたから家具が豪華だ。兄さんとふたり長椅子に並んで腰掛けてもまだスペースに余裕がある。
僕は横に座っている兄さんに身体を向けて用意していたプレゼントを渡した。
「はい、25歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう。ネックレスか?」
「うん。似合うかなって」
「ルカがつけてくれないか」
「いいよ」
まさか僕がつけることになるとは思わなかった。緊張で手が震えて時間がかかったが、なんとかつけることができた。
「できた。似合ってるよ」
「そうか……銀に紫の石がついてるな」
「趣味じゃなかった?」
「まさか。一番好きな組み合わせだ」
兄さんは嬉しそうに微笑むと不意に僕の髪へ手を伸ばした。
「このかんざしも金にすればよかった」
その顔は本当に悔しそうで、本心から言っていることが伝わってくる。
兄さんの指がそっと僕の髪に触れる。そしてかんざしを抜き取ろうと、おもむろに手を動かした。
兄さんの指がうなじに触れて、思わず体がビクリと跳ねる。同時にかんざしが抜かれて髪が首元を覆った。
「次にミヅホへ行くことがあれば買いなおそう」
「そのかんざしお気に入りなんだけど。それに外ではつけないのに、何本も持つのはもったいないよ」
「俺がそうしたいんだ。好きにさせてほしい」
「わかった」
顔が上げられない。この部屋が薄暗くてよかった。もしも今が昼だったら、この部屋が明るかったら。どんな言い訳も通用しないくらい顔が真っ赤なことがバレてしまうから。
「ルカ」
兄さんの指が僕の頬を撫でる。それだけで何をして欲しいかわかるくらいには、僕達は長い時間を共にしてきた。
ドキドキと早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように一息吐いて顔を上げる。
すると兄さんが僕の前髪をかきあげて左瞼に唇を落とした。
その目があまりにも慈愛に満ちていたから、僕は以前から気になっていたことを聞くことにした。
「兄さんたまにそこにキスするよね」
「これは俺の誓いだ」
「誓い?」
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「死んでも?」
「そうだ」
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